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Volume 08, No.6 Pages 397 - 400

2. ビームライン/BEAMLINES

ベンダーによる偏向電磁石ビームラインのサジタル集光
Synchrotron X-ray focusing by crystal bender

米田 安宏 YONEDA Yasuhiro[1]、松本 徳真 MATSUMOTO Norimasa[1]、古川 行人 FURUKAWA Yukito[2]、石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya[3]

[1]日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター Synchrotron Radiation Research Center, Kansai Research Establishment, JAERI、[2](財)高輝度光科学研究センター ビームライン・技術部門 Beamline Division, JASRI、[3]理化学研究所 播磨研究所 Harima Institute, RIKEN

Abstract
The performance of sagittal focusing for hard X-rays with a cylindrical bent crystal at the SPring-8 is described. The bending mechanism is designed for the SPring-8 standard bending-magnet beamlines. Two-dimensional focusing is achievable by combining sagittal horizontal focusing and vertical focusing mirror. The results underline that the two-dimensional focusing was achieved in the wide energy range by using an adjustable-inclined double crystal monochromator.
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1.はじめに
 偏向電磁石ビームラインは横方向の発散が縦方向に比べて非常に大きい。SPring-8の偏向電磁石ビームラインの横方向の発散は1.5mradで、これは光源から1m離れるとビームが1.5㎜に広がることを意味している。例えばBL14B1では回折計が発光点から55m離れたところに設置されているが、この位置ではビームは82.5㎜に広がってしまっている。このビームラインで使用している標準的なビームサイズが1㎜であるから、スリットによってビームを成形してしまうとこのビームラインに導入されているX線ビームの1/82.5しか使っていないことになる。そこで広がったビームを集光し、実効的なビーム強度を増大するために偏向電磁石ビームラインでは集光素子が必須である。現在、SPring-8偏向電磁石ビームラインで最もポピュラーな横方向の集光素子はベンドシリンドリカルミラーである。しかし、ミラーの全反射条件を満たさない高エネルギー側の集光ができないことやアパーチャが小さいためにビームの多くをロスしてしまうなど、実験によってはベンドシリンドリカルミラーが不向きな場合もある。そこでBL14B1では分光器の第2結晶に弯曲結晶を用いて横方向の集光を行なう手法を採用し、結晶弯曲機構(ベンダー)と結晶の開発を行なってきた。ベンダーに要求されている条件は以下の通りで、非常に厳しい。

1.SPring-8標準分光器の第2結晶としてインストールするため、ベンダーはコンパクトなものでなければならない。
2.ベンダー使用時でも分光器の定位置出射を可能にするため、ベンダーによって弯曲結晶の曲率を変えてもビームの出射位置が変わってはならない。
3.偏向電磁石ビームラインのcritical energyが28.9keVであるため、広範囲のエネルギーに対応させなければならない。

 こうした条件をクリアしたベンダーは1998年にBL14B1にインストールされた [1] 。幾何学的配置によって定位置出射が可能になったベンダー [2] にアンチクラシカルベンドを避けるためのリブ付き結晶の組み合わせによって、flux densityは15倍となり、実用レベルに達したベンダーはBL14B1に次いでBL02B1、BL12B2にもインストールされた [3,4] 。  
 しかし、ベンダー用の結晶として、3㎜ピッチのリブ付き結晶を用いているため、集光サイズが3㎜に制限されてしまっている。フォーカスサイズをさらに小さくしflux densityのゲインをかせぎたいというユーザーの声に応えるために、2002年10月より新しいデザインの結晶のR&Dを行なってきたので、現状を報告する。


2.サジタルフォーカスベンダー
 ベンダーは先述したように、SPring-8標準分光器の結晶面を切替える機構に対応するためにコンパクトな設計にしてある(図1)。SPring-8の偏向電磁石ビームラインのほとんどの分光器は発光点からの距離が40m以内に設置してあるので、分光器位置でのビームの広がりは60㎜以内である。従ってこのようなコンパクトなベンダーでも、分光器位置では全てのビームを結晶で受けることができる。このベンダーに2㎜厚の結晶をセットして円筒状に曲げ込んでビームを集光する。


 
 
図1 結晶弯曲機構 
 
 ベンダーにセットする結晶は、従来の3㎜ピッチのリブのピッチを狭めるか、あるいはフラット結晶を使うことが考えられる。リブのピッチを狭める場合、結晶に入れる切れ込みの数が増えるために、受光ビームのロスが大きくなり、flux densityの大幅なゲインが見込めない。そこで、フラット結晶を用いた集光にトライすることにした。
 フラットな結晶をそのままベンダーで曲げ込んでも、アンチクラシカルベンディングのために、良好な集光ビームが得られない。
 そこでKushnirら [5,6] の文献を参考にして、図2のようなベンダー用結晶を新たに作製した。
 この結晶を用いてもアンチクラシカルベンドは生じてしまうが、理想的な円筒部分を多く残すように結晶の縦横比を決めている。結晶はフラット配置の時、Si 311反射が使えるように加工した。



図2 SPring-8ベンダー用unribbed結晶


3.unribbed結晶のインストールとテスト
 ベンダーの調整はまず、311反射を使って、10keV(θ= 22.246°)で行った。図3は結晶を曲げ込んで曲率を小さくしていった時のビームプロファイルをポラロイドフィルムで撮影したものである。曲率が小さくなるにつれて、ビームが集光していくのがわかる。



図3 集光ビームのプロファイル(BL14B1 実験ハッチ ミラーなし)

 ここで、ミラーを挿入し(4mrad)、後置ミラーによる縦集光を行なった。この時のビームプロファイルを図4に示す。横方向はベンダーによって、縦方向はミラーによってサブミリ集光されている。
 fine focusが得られた時のΔθ1 ロッキングカーブのプロファイルを図5に示す。非対称成分が少なく、均等に結晶が曲がっていることがわかる。イントリンシックな幅が、2.3arcsecであるが、倍に広がっている。このエネルギーでは、第一結晶に入射ビームが直入射するため、第一結晶の熱歪みを考慮する必要があるが、結晶を曲げ込む際のロッキングカーブ幅の広がりは少なく抑えられている。



図4 10keV fine focusの時のビームプロファイル



図5 Δθ1 rocking curve profile

全ての調整終了後、ダイナミカルベンドモードで金属箔の吸収端測定を行なった。ベンダーの最適な曲率半径はエネルギーによって異なる。良好な集光条件を吸収端測定中も保持するために、全ての測定点においてベンダーの曲率半径を最適化することをダイナミカルベンドモードという。金属箔はZn(K吸収端=9.663keV)とTi(K吸収端=4.965keV)を用いた。Znは311反射を、Tiは面切替えを行なって111反射を使って測定した。測定結果を図6に示す。比較のためにBL01B1で通常の平板結晶を使った測定結果も示してある。どちらも同じ測定結果となっていることから、ダイナミカルベンドモードによるエネルギーレゾリューションの劣化などは起こっていないことがわかる。

(a)

(b)

図6 (a)Si 311反射を用いて行なったZnフォイルの吸収端測定。(b)Si 111 反射を用いて行なったTiフォイルの吸収端測定。比較のためにベンダーを使わずにBL01B1で測定した結果を実線で示してある。  
 

 ベンダーはベントシリンドリカルミラーでは集光出来ないような高エネルギー領域においてもビーム集光が可能である。図7は57keVにおいて、ビーム幅を0.4㎜まで集光させたときのスリットスキャンで得られたプロファイルである。



図7 57keV fine focusの時のビームプロファイル

 このように、新しくデザインした結晶を使うことによって、横方向のビームサイズをサブミリ集光できるようになった。BL14B1では、Si 111反射と311反射を使って5〜60keVまでの集光に成功している。また、高エネルギーX線をサンプル直前でスリットで成形するとバックグラウンドが増大するため、ベンダー集光は単に実効ビーム強度を増やすだけでなく、S/N比を上げることにも有効である。
 2003年の9月にBL19B2にもベンダーがインストールされたが、このベンダーはver.4である。結晶のみならず、弯曲機構も1998年に初期タイプのベンダーがインストールされて以来、ほぼ、年に1回の割合で改良バージョンが製作されている。これは、BL02B1やBL12B2などのビームラインから多くのフィードバックがあったためで、これらのビームライン担当者やユーザーの方々に感謝の意を表します。


参考文献
[1]Y.Yoneda, N.Matsumoto, Y.Furukawa and T.Ishikawa:SPring-8 Annual Report 1998 (1998) 183.
[2]Y.Furukawa and T.Ishikawa:SPring-8 Annual Report 1995 (1995) 191.
[3]Y.Yoneda, N.Matsumoto, Y.Furukawa and T.Ishikawa:J.Synchrotron Rad.8(2001)18-21.
[4]Y.Yoneda, N.Matsumoto, Y.Furukawa and T.Ishikawa:Nucl. Instrum.Methods A467-468(2001)370-372.
[5]V.I.Kushnir, J.P.Quintana and P.Georgopoulos:Nucl.Inst.and Methods A328(1993)588-591.
[6]J.P.Quintana, V.I.Kushnir and G.Rosenbaum:Nucl.Inst. and Methods A362(1995)592-594.


米田 安宏 YONEDA  Yasuhiro
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2637 FAX:0791-58-2740
e-mail:yoneda@spring8.or.jp

松本 徳真 MATSUMOTO  Norimasa
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2637 FAX:0791-58-2740
e-mail:matsu@spring8.or.jp

古川 行人 FURUKAWA  Yukito
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所
ビームライン・技術部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2726 FAX:0791-58-0830
e-mail:furukawa@spring8.or.jp

石川 哲也 ISHIKAWA  Tetsuya
理化学研究所 播磨研究所
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2805 FAX:0791-58-2810
e-mail:ishikawa@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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