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Volume 08, No.6 Page 392

所長の目線
Director’s Eye

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 副理事長、放射光研究所長 Director General of Synchrotron Radiation Research Laboratory, Vice President of JASRI

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 これまでSPring-8に強く要望されていたことは、非熟練利用者の支援と試料の委託分析サービスである。前者についてはかなりのところまで実現されたが、後者についてはやっと昨年から取り組みが始まったという状況にある。

 これが遅れた理由は大雑把には次のようなところにある。この施設は、実験者自らが実験を行うためのものであり、第三者のための実験は、JASRI職員以外はしてはいけない、と言う法律解釈があった。すなわち、JASRI以外は受託分析を引き受けることができない、と言うことである。しかし、支援スタッフの不足に悩まされていたJASRIにはそれをやる余裕が無かった。時代とともに、上述の解釈が変わり、共用ビームラインにおいて第三者、例えば分析会社などが委託分析をしても良い、と言うことになり、昨年度からやっと試みが始まった。

 一方、設備が整備されてきて運用の経験が蓄積されてくるにつれ、ある種のルーチン的なことは、施設側で行った方がはるかに効率が良いという認識が生まれてきた。多少失礼を承知で言えば、一部のビームラインでは、必ずしも放射光実験に慣れていない利用者が入れ替わり立ち代りやってきて、初歩的な説明を聞き、何となくぎこちなく装置を動かしてデータを取り、それを見て担当者は、機械を壊されないかとはらはらしている、というような場面が結構あると聞いている。これならば、熟練したスタッフが実験を代行した方が、時間の節約になるし、機器の条件の維持等でも有利なことが多いのである。このように、初期の単純な人手不足の議論から、それを補う効率向上の議論として、委託分析が浮上してきたのである。

 委託分析を妨げてきたもう一つの理由として、日本の学界の、共同利用はすべて無料、という暗黙の常識があったのではなかろうか。金を払ってでも、必要なサービスを受けたい、と言う希望に対する議論は殆どされていなかった。現に産業からはしばしばそのような要望がなされていた。最低限の無料サービスはもちろん保存しておいて、それと並列に、有料のサービスを何種類か用意することを考える時期に来ている、いや、もっと早くそうするべきであった、と思う。

 APSやESRFは産業利用のための有料サービスを早くから心がけていて、現在は、試料を急送便で送ると、何日以内(たとえば8日)にデータを送り返す、と言うサービスを行っている。SPring-8においても、このようなサービスを議論する機が熟していると感じている。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794