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Volume 08, No.5 Pages 371 - 374

4. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS

播磨の刀工
Japanese Swordsmith in Harima

髙見 千晴 TAKAMI Chiharu

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ Materials Science Division, JASRI

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 上月町に名刀作りに励む刀工がいる。高見國一(本名 一良)である。

 高校卒業後、奈良県東吉野村の刀工、河内國平氏に入門し、七年半を過ごした。

 修行は厳しかった。初めの二年は仕事場の草取りや雑用をする毎日だった。三年目でやっと、親方の補助を許された。側にいることで親方の姿から多くのことを学べるようになった。朝五時には起床し午後七時頃まで働き、夜は銘の練習。一日一字と決め、鉄板に毎晩同じ字を何度も刻んだ。小学一年生の漢字帳から始め、修行を終える頃には、すべての漢字を刻めるようになっていた。入門五年目で文化庁の研修終了試験に合格し、六年目の春、処女作「太刀名残雪」を完成させた。刀が出来上がった時の感動は、今もはっきり憶えている。嬉しくて嬉しくて刀を抱いて寝たいくらいだったと言う。


 1999年5月故郷へ戻り、鍛刀場を設けた。刀工名は親方から「國」の一字をもらい 見國一となった。いよいよ刀工としての新しい人生が始まった。作刀におけるすべてのことは親方から学んだ。厳しい修行に耐え切れず親方の元を去って行った弟子達がいる中で、七年半と言う長い年月に耐え抜いた自分にも自信があった。

 だが、いざ独立してみると親方の元では難なく出来たことが上手く行かない。刀が作れない。そんな毎日が続いた。作刀の工程で最も重要と言われる「焼き入れ」が上手く行かないのだ。毎日焼き入れをした。今度こそ上手く行くと願いながら。しかし結果はいつも同じだった。土置きには湿度や温度が影響するため、適した時間を選び夜中に土置きし、明け方に焼き入れすることもあった。


 毎年5月に開催される新作刀コンクール。日本中の刀工がこのコンクールにかけている。全作品が順位付けされるとても厳しいものだ。独立して一年目のコンクールの結果は入選だった。自分の努力が実らず、悔しい思いをした瞬間だった。だが、納得の行く結果でもあった。作品には自分らしさがないことに気付いた。

 独立してからの一年間は、親方の作風をそのまま受け継ぎ、教えのとおり刀を作ることが良い作品に結び付くと思っていた。だが、親方の刀をただ真似るだけでは、國一オリジナルの刀を作り出すことが出来ないと実感した。

 独立して一年が経ち、ようやく自分が目指す作風が頭の中に描けるようになった。

 「一文字」。鎌倉中期から末期に栄えた一文字と呼ばれる大きな流派である。刀の銘文に「一」の字が切られていることから、その名が付いた。姿は豪壮味に溢れ、刃文は大丁子・重花丁子、蛙子丁子、袋丁子などが入り乱れ、艶やかな美しさをたたえており、備前伝の日本刀においては最も豪華絢爛と言われている流派である。


 目指すものが決まった。それからの日々は、ひたすら一文字の研究に没頭した。押形を部屋中に貼り巡らし、生活の中でいつも一文字の刀が視界に入るようにした。独立直後は苦しんだ焼き入れも、練習の成果あってか、少し良くなって来た。

 そして、2002年、独立してから三度目の挑戦となるコンクールがやって来た。コンクールには備前伝重花丁子乱れ「太刀 春霞」を出品した。作品は、仕上げなどには親方から譲り受けた丁寧さを活かし、かつ刃文には存分に自分らしさを表現した。結果は見事、優秀賞であった。二十歳代での受賞は快挙である。やっと自分の刀を認めてもらえた。熱い思いが込み上げた。


 2003年8月。夏は刀作りには最も苦しい季節。熱との戦い。汗と炭にまみれ真っ黒になりながら作刀に励んでいる。

 今年の目標は、刃文の構成にさらに磨きをかけること。そして、2004年には特賞を取ること。今年のコンクールは惜しくも努力賞であった。自信があった出来であるのにもかかわらず、結果は去年を超えることが出来なかった。審査員すべての心を打つ作品でなければ、高得点は得られない。特賞を取ることの難しさを痛感した。


 刀工を志し、はや十二年が過ぎた。手や足首には無数のやけどの跡が残る。努力の勲章と言えよう。

 「備前伝を極めるのが自分の夢。「生涯の一振」が出来るのはいつになるか分からない。でも、いつか心から満足出来る刀を作りたい。そして自分の刀が名刀として後世に伝わり一人でも多くの人の心を魅了して行きたい。」と語る。

 


太刀 銘  高見國一作  長さ 七七・七㎝ 平成十二年春霞 



刀工

 全国で約250名と言われている。重要無形文化財保持者(人間国宝)は2名。無鑑査は人間国宝を含め15名。無鑑査の認定を受けるには、新作刀コンクールでの成績が重視される。人間国宝は無鑑査の中から選ばれる。

 兵庫県には國一を含め、4名の刀工がいる。中町、篠山市、出石町にそれぞれ在住である。


新作刀コンクール

 毎年5月に、(財)日本美術刀剣保存協会主催により開催される。審査の結果、入選者を決定し、さらに優れたものについて特賞、優秀賞、努力賞が授与される。

 今年のコンクールでは、全国から114点の応募があり、1席の高松宮賞をはじめ7席までが特賞、8席から

 14席までが優秀賞、15席から23席までが努力賞であった。刀工にとって、コンクールで入賞することが第一の目標である。だが、長い作刀人生において、一度も入賞を果たすことなくその生涯を終える刀工も多い。


玉鋼

 日本刀の素材となるもの。毎年1月から2月にかけて、島根県仁多郡横田町にある「日刀保たたら」で作られる。




出しの様子 一回の操業で12トンの木炭と、10トンの砂鉄が使われる



 「たたら」とは日本古来の製鉄技術を言う。大正時代、大量生産に適さないことを理由にその火を消すことになったが、伝統技術を守るため、昭和52年に島根県横田町で「日刀保たたら」として復活した。

 三日間かけて炉を築いた後、三昼夜木炭と砂鉄を炉に交互に注ぎ続ける。四日目の朝、村下(「たらら」の長)の合図で、炉を壊し、けら出しへと移る。




日刀保玉鋼



けらの重量は約3トン。この中から玉鋼約2トン、その他、銑などが鋼造師の手によって選び出される。生産された玉鋼は全国の刀工に分与される。


鍛錬

 鋼を鍛えて不純物を叩き出し、炭素量を平均化させる工程である。

 赤めた鉄を打ち延ばしては半分に折り返し、また打ち延ばして半分に折り返す。刀にもよるが、十二回程度折り返して鍛錬する。この作業により、含まれている不純物が取り除かれ、適度の炭素を均一に含んだ鋼になる。鍛錬により杢目のような層ができ、研ぎ上がった際、美しい地鉄(じがね)の模様が浮かび上がる。




鍛錬の様子 ホドから舞い上がる鉄の華



 鍛錬の様子は、見ている側も身の引き締まる思いがする。

 鉄を鍛着させることを「鉄が沸く」と言う。火の温度は1300度にも及ぶ。鉄が沸き始めたとき、鉄の華がホドから少しずつパランパランと小さい音を立てながら、舞い上がって来る。しーんとした鍛刀場に鞴(ふいご)の音と鉄の華の音が響く。そして鉄の華がさらに美しく舞い始め、鞴を吹くペースも上がって来たその瞬間、ホドから真っ赤に沸いた鉄を取り出し、すばやく打つ。ホドから鉄を出すタイミングは自分の目で炎の色を見極め判断する。誰もが鉄の美しさに心奪われる瞬間である。


焼き入れ

 作刀において、極めて高度な技術と経験を要する重要な工程。刀の美しさを左右するとも言われる刃文を入れ、美しい反りと強靭さを与える。

 まず、刃文をイメージしながら、刀身に丁寧に焼刃(やきば)土(つち)を塗る。火に入れて赤めるため、落ちてしまわぬように各自工夫したものを作る。土が乾くのを待ち、いよいよ焼き入れである。

 焼き入れは最も集中力を要する。この一瞬で今までの仕事が成功するかどうかが決まるのだ。

 全体をむらなく赤めた刀身を冷水に一気につけ、冷却する。焼き入れによって薄く土を塗った部分にのみ焼きが入り刃文となって現れ、またこのとき自然に美しい反りが付く。

 焼き入れは秘伝の技であるため、人に見せることはない。




土置きを終えた刀身



刀工に関わる職人たち

 一本の刀が完成するのに、半年から一年かかると言われる。それは、刀が完成するまでに刀工を含め、4人の職人が関わるからだ。

 焼き入れが終わり、反りや曲がりを修正し、鍛治研ぎ(刀工自らが行う研ぎのこと)をした後、刀身は、はばき師、鞘師、そして研ぎ師へと回され、完成した刀が刀工の元へ戻って来る。

 そして、作刀において最後の工程である「銘切り」を終え、美しい一振の刀が出来上がる。


河内一門の刀工

 親方から独立し刀工になった弟子たちは現在5名。それぞれの土地で活躍中である。

 高見太郎國一(兵庫県)、清田次郎國悦(和歌山県)、藤田三郎國宗(愛媛県)、石田四郎國壽(群馬県)、宇戸五郎國之(福岡県)。刀工名は皆親方から「國」の一字を譲り受けている。



高見國一鍛刀場




〒679-5652 佐用郡上月町家内260

TEL:0791-52-1468

●随時見学可(月~土曜日)



高見 千晴 TAKAMI Chiharu

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門I

TEL:0791-52-2750 FAX :0791-58-0830

e-mail:chiharu@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794