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Volume 08, No.4 Pages 262 - 265

5. 告知板/ANNOUNCEMENTS

「SPring-8施設公開」〜その目で見よう!世界一のSPring-8!!〜
Report of the SPring-8 OPEN HOUSE 2003

SPring-8施設公開実行委員会事務局

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 4月18日の「発明の日」を含む月曜日から日曜日までの1週間は「科学技術週間」です。今年の科学技術週間は「ふしぎがいっぱい ゆめいっぱい みんなかがくで あそぼうよ」を標語として、全国各地で科学技術に関するさまざまな催しが行われました。SPring-8では、今年も科学技術週間に協賛して4月26日に施設公開を行いました。SPring-8の施設公開は今年度で11回を数え、回を重ねるごとに来場者数を伸ばしています。


 施設公開前日の夜は暴風雨に見舞われ、設営していたテントが倒れたり(写真1)、立て看板が飛んでいってしまう状況となり、準備のために残っていたスタッフで会場の安全確保のためにテントを畳み回らねばならないほどでした。そんな不安と心配の中で迎えた当日は、朝からまさに嘘のような晴天に恵まれてすばらしい行楽日和となり、昨年度(2545人)を大きく上回る2866人の予想以上の来場者が途切れることなくSPring-8を訪れました。

 また、SPring-8公開と日を同じくして開催された播磨科学公園都市内のイベント「西播磨フロンティア祭スプリングフェア2003」では、SPring-8だけではなく、姫路工業大学や、昨年夏に開設された西播磨総合庁舎など、12の施設が公開されました。このスプリングフェアでは施設公開以外にも芝生広場でのキャラクターショーや光都ふれあいウォークなどが行われ、フェア全体では6000人以上の参加者を迎え、26日、29日そして5月3日と続いていくスプリングフェアのにぎやかな幕開けとなりました。




写真1 倒壊したテント



 今回のSPring-8施設公開では、放射光普及棟、中央制御室、蓄積リング棟実験ホール、マシン収納部、線型加速器、長尺ビームライン、兵庫県の中型放射光施設ニュースバルの施設公開のほか、日本原子力研究所独自の研究を推進するための研究棟である「放射光物性研究棟」が初めて公開されました。そして、施設の公開以外にも小中学生を対象にした科学実験、実演、工作教室や、SPring-8の研究者による3テーマの科学講演会などの種々のイベントが実施されました。また、JASRI茶道部による野点、華道部の生け花展示、地元団体による特産品や軽食の模擬店出店などの来場者の憩いのスペースも例年以上に用意されました。

 ここでは施設公開の内容の一部について写真を交えて紹介しますが、内容があまりにも多彩なために、残念ながら限られた紙面では全てを紹介できないことをお赦しください。


 今回、来場者の受付場所とした放射光普及棟は、公開以外の平日および休日にも一般に公開されている唯一の施設です。ここでは、常設している機器の展示に加えて、理化学研究所播磨研究所副所長・飯塚哲太郎氏による「21世紀の生命科学」、日本原子力研究所放射光科学研究センター次長・水木純一郎氏による「物質が創るナノの世界-生活の中の物質科学-」、さらに(財)高輝度光科学研究センター加速器部門長・熊谷教孝氏の「加速器のはなし」の3つのSPring-8ならではの講演会が開催されました。この講演会には、一般の来場者に混じって、新入生の研修として参加した大阪大学理学部の学生が熱心に聞き入る姿が見られました。施設公開の来場者の中にも講演会が目的の方が多数みられ「施設公開以外の日にも講演会を行ってほしい」などの積極的な意見をいただきました。展示室ではSPring-8全般の説明と加速空胴のカットモデルや偏向電磁石の模型などが展示されており、これから各施設へ見学に向かう来場者が基礎知識を身につける格好の場所です。対応するスタッフも少しでも深く理解してもらえるように展示模型を使ってわかり易い説明を心掛けていました。特に、自分でハンドルを操作して波を作り出し電子を模した球を転がしていくことで、高周波によって電子を加速する様子を分かりやすく説明した加速器の波乗りモデル(写真2)は、感覚的に加速の仕組みが理解できるため、説明者側にも来場者側にも大好評でした。

 中央制御室では、SPring-8全体を見守る制御システムを分かりやすく説明したパネル展示の他に、光ファイバーを用いた通信の実演やITVシステムの実演、さらにデジタルビデオを利用したプリクラまで、イベントが所狭しと展開されており、大人から子供まで楽しんでいました(写真3)。




写真2 加速器の波乗りモデル




写真3 中央制御室



 来場者がSPring-8の施設公開に来た理由として「普段見られない所が見られるから」が多数挙げられていました。見たいところとしては、ビームライン、リング棟内、機器などが挙げられていて、蓄積リング棟実験ホールに対する来場者の興味の高さがうかがえました。その蓄積リング棟は5分の1周以上にあたるA2扉からD3扉までの範囲が公開され、日本原子力研究所のパネル展示に始まり、理化学研究所のパネル・実演コーナーまで、ビームラインの公開はもちろん、実験ホールでは多数の実験・実演・工作教室が開かれました。

 今回公開されたビームラインは、BL04B1、BL47XU、BL45XUの3本でした。そのうちBL04B1では、高圧地球科学実験ステーションの高圧発生装置「SPEED-1500」を主体に、圧力関連の展示を行いました。研究員から「SPEED-1500」の説明を受けて、その能力や利用研究にはかなりの人が興味を持ったようで(写真4)、実験ホールで公開されていたダイヤモンドアンビルを用いた圧力実験「冷蔵庫の外で氷をつくる」や、高温高圧下で合成した人工ダイヤモンドの展示は年齢に関係なく来場者の興味を引きつけました。




写真4 BL04B1の公開



 加速器部門では、昨年度の公開で大好評を博した光ファイバー工作の他に、今年度は光通信工作教室を実験ホール内で開催しました。工作への参加は予約制にしましたが、早々に希望者があふれてしまうほどの人気でした。この光通信工作は制作者入魂の一品で、内容は高度ですが工作そのものは小学生でも楽しめるように、ハンダなどを使わずにネジ止めと紙工作だけで組み立てられるような工夫がされており、家族ぐるみで工作に取り組む風景が見られました(写真5)。このキットは光の性質などを理解する上で大変効果的な内容と思われましたが、工作を完成させることが一仕事で、その後で光通信の原理などの説明の時間を取ることが難しかったといった反省も聞かれました。それでも完成した通信セットを試した来場者からは、「本当に聞こえる!!」と驚きと感動の声があがっていました。




写真5 光通信工作



 その他に工作教室として、利用研究促進部門Iと加速器部門の合同チームによる、モノクロメーターの説明から始まる分光器の工作教室「CDで虹を見よう」が開かれました(写真6)。不要なCDや割り箸などの身近な物を使って可視光の分光器を作るという点が来場者に親しみを感じさせたようで、途中で材料が無くなって調達に走り回ったほどの大勢の方が工作を楽しみました。また、種々の光源が準備してあり、工作が完成した後には自分で作成した分光器でそれぞれの光のスペクトルを観察してもらう試みも好評でした。




写真6 CDで虹を見よう



 BL47XU付近では、R&Dビームラインの公開と、そこで光学素子として用いられているゾーンプレートに関連した体験コーナーが設けられました。来場者がコンパスなどを使って書いた同心円をOHPシートに縮小コピーして作ったゾーンプレートで、レーザー集光することを体験するものです(写真7)。厚みがある普通のレンズとは全く違う、薄いシートに同心円を描いただけのもので光を集めることができることに、来場者は驚きの表情を見せていました。

 実験ホール公開場所の出口近くでは、ホログラムや多数のパネルを展示した理化学研究所のブースが作られ、多くの説明担当者が来場者の対応を行っていました。パネル展示の他には「酵素の働きを見てみよう」等の実演コーナーも設置され、酵素の働きによって目の前で試薬の色が変化する様子などに子供達は目を奪われていました(写真8)。




写真7 ゾーンプレートを作ってみよう




写真8 酵素の働きをみてみよう



 蓄積リング棟のマシン収納部では、独自の試みとして見学者をグループにしてツアー形式で案内する方法を採用していました。電子ビームの軌道を調整する装置や、放射光を発生させるための装置など重要な機器が連なって設置されている場所で、熱気のこもる中でしたが見学者の来場は終始とぎれることはありませんでした。収納部からの帰りのバス内では「説明がとても良かった」との満足の声があったそうです。


 今回初めての公開となった日本原子力研究所の放射光物性研究棟では、「STMでシリコン表面を見てみよう」、「メッキの実験」などの実演や、成果のパネル展示、原研紹介ビデオの放映など、建物1階の半分部分を使った公開でしたが、内容が盛りだくさんで充実したものとなっていました。「レーザー光の回折でわかる光の波動性」と題された実演(写真9)では、He-Neレーザーを用いた回折実験を行い、結晶の模型を見てもらうことで、SPring-8で行われている実験について来場者に分かりやすく説明していました。




写真9 レーザー光の回折でわかる光の波動性



 その他、姫路工大の中型放射光施設で、地元からの期待も高いニュースバル、SPring-8の特徴的な実験棟の一つであり、景色もすばらしいと評判の長尺ビームライン実験棟、昨年度から公開が始まり来場者から見たい所の一つとして挙がっていた線型加速器棟など、SPring-8の主要な施設の多くが公開されました。来場者は巡回バスを利用して思い思いの場所を見学していましたが、「施設の数やイベントが多くて全部に参加できなかった事が残念」とのコメントに代表されるようにSPring-8の1日を大変有意義に過ごしていただけたようでした。


 この度の施設公開では、早いものでは半年前から準備を始め、当日はSPring-8全所をあげて470名のスタッフで来場者の対応を行いました。それでも対応しきれないほど大勢の来場者にお越しいただき、特に説明や実演担当のスタッフからはうれしい悲鳴が聞こえてきたほどでした。当日に回収した来場者アンケートの結果を集計したところ、今回の施設公開の内容は難しいと感じた方は少なくありませんでした(43%)が、スタッフの営業努力の賜か「少し難しいところもありましたが、丁寧な説明をしていただき楽しく見学出来ました」などのコメントが多数寄せられました。また、「今までの知識を総動員してお聞きしました」など、来場者の科学に対する好奇心への良い刺激になったととれるコメントもあり、結果としてはアンケート回答者(1475人)の約70%(1007人)の方から次回も参加したいとの回答をいただきました。


 このような催しにより、一般の方の「科学技術・研究に対する理解や興味」を刺激できればと思いますが、今年度の施設公開ではまさにその一端を担えたのではないかと思っています。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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