Volume 08, No.4 Pages 243 - 245
4. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS
利用者懇談会からIII
From the President of the SPring-8 Users Society III
SPring-8利用者懇談会 会長 名古屋大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering,Nagoya University
本年4月より再度SPring-8利用者懇談会の会長の重職を引き継ぐ事になりましたが、今後、2年間に予想されるSPring-8の変化を考えると、今期も無事努めることが出来るのか、不安に思う気持ちが大きい。SPring-8利用者懇談会会員、施設側関係者、その他SPring-8に関係する多くの方々の、ご支援なくしては何事も乗り切れないことは確実です。関係各位のご支援を切にお願いする次第です。特に、能力があるわけでもないのに、会長をお引き受けしたのは、SPring-8の発展を願う気持ちでは、誰にも負けないとは言いませんが、人並み以上であるとの自負からです。SPring-8の発展と言う観点からであれば、全てのご意見、助言など大歓迎です。理化学研究所の独立行政法人化、日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構との統合化などの計画を考えると、2年後のSPring-8の姿は、現在のものと大きく変わっていても全く不思議ではありません。そのような激動の時期に、SPring-8およびSPring-8利用者懇談会の発展に多少なりとも貢献出来れば幸いですが、現実には不安のほうが大きい。くれぐれも協調・協力・支援をお願いする次第です。
会長になる前は、会長としてSPring-8利用者懇談会の年間行事を順調に消化することが主要な任務だと思っていました。これは、非常に重要な任務には違わないが、これ以外にも重要な任務が存在することを、平成13、14年度の2年間会長を努めて、多少は会長が行うべきことを理解出来たつもりでいます。一言で言えば、SPring-8の利用者の代表的意見を懇談会の会長として、施設側・放射光関係の団体などに対して述べることと言えると思います。意見を求められる事柄は多岐に渡っており、SPring-8の運営に対するユーザーの意見であったり、運転モードに対する意見であったりする。委員の推薦も一つの意見表明だとすると、これも重要な任務です。幹事の方、運営委員の方の助けを借りているのですが、自分なりに色々な事柄の情報を持っていて、適切な意見を持つようにする必要があると感じています。しかし、これがそれ程簡単な事ではありません。何しろ、SPring-8利用者懇談会は多くのユーザーが居るし、SPring-8は大きな施設であるし、放射光関連団体は多様であるし、到底一人の力では全てに適切に対応することが出来ないように感じています。その結果、SPring-8利用者懇談会の意見として述べたことが、偏ったものになってしまうことがいつも気になっています。今後、SPring-8シンポジウムなどで、SPring-8の関係者とはお目にかかる機会も数多くあるので、是非、色々なことをお聞かせ願いたい。自分に近い分野のことは分かっても、分野が異なると情報不足になってしまう。良かれと思って述べた意見が、見当違いでは関係者に大変申し訳ない。もう一つ申し訳ないことは、意見は求められるのであるが、必ずしもその意見が認められ実現するとは限らないことです。色々情報を集めて、最善と思う意見を述べることは出来るが、SPring-8利用者懇談会だけで処理できる問題でなければ、当然のことであるが私に決定権はない。色々ご意見を伺っても、多くのことは実現できないと言うことになってしまいかねない。私としては、これは致し方のないことで、ご勘弁を願いたい。Betterを目指したり、Less worseを目指したり、するしかないことをご理解ください。SPring-8利用者懇談会の問題であるならば、出来るだけ善処はしたいと思っております。
次に、SPring-8の全てのユーザーに申し述べたいことがあります。多少、話が長くなるかもしれませんが、読んで下さい。私は日本原子力研究所の3号炉と呼ばれる研究用原子炉で中性子回折に関する研究により学位を授与されました。放射光と中性子の研究での共通点は、ともに大型の実験施設を使用することです。中性子回折実験で成果を挙げれば、論文中に必ず使用した装置の名前を書きました。その装置は、世界に1台しかない固有の装置であると思っているからです。その延長で、私は放射光での実験により論文を書くときも、必ず使用した装置(若しくはビームラインの番号)を書きます。ましてや、世界最大のSPring-8での実験では、装置の名前を書かずに論文を書くなどということは、全く考えても見ませんでした。SPring-8のユーザーに、そのような人がいるなどと言うことも想像していませんでした。最近になって、ある分野のSPring-8のユーザーには、使用したビームラインあるいは装置名を書かないことが普通であることを知りました。どうも装置の名前を書かないことは、その分野の習慣であるらしい。Acknowledgementにも何も書いてなく、論文のどこを見てもSPring-8を使用したことがわからない論文があるそうです。私の率直な感想を述べさせていただくと、「これは、大変に困る。」ということです。是非、SPring-8で挙げた成果であることがわかるようにしてもらわないと困ります。装置名を書く習慣のない分野の考え方は、多分、どの装置でやっても同一の実験条件で行えば同じ結果になるはずであるから、装置名を書く必要がないと考えているのではないかと想像します。あるいは、歴史的理由でもともとその分野では特に装置名を書く習慣がないと言うことなのかもしれない。しかし、SPring-8のような巨大な施設を使用した実験では、事情が大変異なります。しかも、基礎科学・技術の分野でも評価が重要な時代になってきました。評価の基準は、結局はどれだけ成果を挙げたかにあると思っています。そして、最もわかりやすい成果の一つが、どれだけ論文を公表したかということに対して異論を挟む人は少ないと思います。SPring-8利用者懇談会の存在理由は、放射光のただ単なるユーザーの集まりと言うことにあるのではなく、SPring-8を利用し成果を挙げることの出来る優秀なユーザーの集合体であることであると思っています。それが、どのような成果を挙げたかがトレースできなければ、証明のしようがなくなってしまいます。これは、困ります。その意味では、少なくともSPring-8での研究は、Big Scienceだと思っています。ユーザー全員が、この考えに立つことが出来れば、SPring-8ならびにSPring-8利用者懇談会の体質強化になるとも思っています。今期の会長期間中には、このことを会員の皆様に是非ご理解いただきたいと思っています。
さて松井元会長の記事[1]でも前回の私の記事[2]でもSPring-8利用者懇談会の動向に関して書きましたが、今回も最近の動向を書きたいと思います。まずは、会員数ですが、平成15年5月7日現在で1411名(内訳は、大学関係959名、研究所関係257名、企業関係182名、その他13名)となっております。1400名を越す会員を抱えるSPring-8利用者懇談会は、放射光関係では日本国内最大規模の団体です。この様な大きな組織体を運営する幹事会のメンバーは、会長再任に伴い若干の入れ替えがありました。新幹事の名前は、表1に掲げました。会員の数が多いだけに多種多様な考え方があるかと思います。放射光科学は、いわば、色々な学問的背景を持つ多民族国家のようなもので、カルチャーの違いに根ざした意見の相違があるのですが、相違を創意に変えるべく努力したいと思っております。出来るだけFlexibleに運営したいと思っておりますので、SPring-8利用者懇談会に関して、ご意見のある方は、会長若しくは幹事に是非お知らせ下さい。今回の交代は任期満了に伴うもので、基本的なSPring-8利用者懇談会の活動は、引き続き継承して行きたいと思っております。
表1 SPring-8利用者懇談会新幹事メンバー
会 長: 坂田 誠(名大)
庶務幹事: 沼子 千弥(徳島大)
鈴木 淳巨(名大)
会計幹事: 田村 剛三郎(京大)
行事幹事: 難波 孝夫(神戸大)
伊藤 正久(群馬大)
編集幹事: 渡辺 巌(大阪女子大)
鳥海 幸四郎(姫工大)
利用幹事: 黒岩 芳弘(岡山大)
篭島 靖(姫工大)
久保田 佳樹(大阪女子大)
運営幹事: 佐々木 聡(東工大)
雨宮 慶幸(東大)
2年前に、SG体制の見直しとBL-SG(ビームライン・サブグループ)とSPring-8利用研究会(単に、「研究会」と呼ぶ事もある。)と言う体制を発足させました。BL-SGと研究会は、2年毎に見直すことになっているので、現在、利用幹事を中心に見直し作業が進んで居りますが、円滑に見直し作業が完了するように各BL-SG・研究会のご協力をお願いします。この見直し作業は、SG活動あるいは研究会活動を全く行わない、いわゆる幽霊BL-SGあるいは研究会をなくすために行っていますが、これを機会に世話人の更新なども考えられているようです。見直し作業は、SPring-8利用者懇談会としては初めてのことで、改良したほうが良い点もあろうかと思うので、是非、ご意見をお伺いしたい。出来るだけ煩雑にならず効率的に行いたいと思っているので、お伺いしたご意見は、次回以降の見直し作業に反映させていきたいと思っております。3月31日時点で、35のBL-SG・研究会が更新の意思を表しております。残念ながら、若干のBL-SG・研究会が更新の手続きを取られないようですが、第3世代放射光にふさわしいBL-SG・研究会に対しては、新しい体制での再出発を期待したいところです。次のBL-SG・研究会見直しは2年後ですが、その間でも新しいBL-SG・研究会を立ち上げることは出来るので、新たにBL-SG・研究会を立ち上げるのには、2年間待つ必要はありません。
先に述べたように、私はかって研究用原子炉を利用して中性子回折の研究を行っていました。放射光による研究を始めたときに驚いたのは、放射光にはマシンスタディーの時間が確保されていることでした。色々加速器関係の人とも交わったりするうちに私が理解したことは、どうやら加速器とは生き物のようで、スタディーを深めることによってある程度、性質・性能を変えられると言うことです。原子炉では、この様なことは全く考えられません。何故この様なことを述べるかと言うと、SPring-8も私が2年後に会長を終えるときには、電流値が一定の運転が当たり前になる可能性が大であることを申し述べたかったからです(注1)。「原子炉はDCマシーンで、加速器はRFマシーンだ。」と言うことを、やっと学習したと思ったら、今度は放射光がDCマシーンのごとくに振舞うことが出来ると言うのである。加速器が生き物とは言え、それ程の変化が可能であるとは想像もしなかった。水中で生活していた生物が陸上で生活するようになったぐらいの驚きです。種の起源によると、強い物が生き延びるのではなくて、常に環境に適合する様に進化した生物種だけが生き延びることが出来るということのようです。昨年度、SPring-8は第3者評価を受けて、ユーザーの利用形態が今年度より一般課題だけでなく、重点領域指定、パワーユーザー指定、戦略型など一気に多様化しました。加速器はあたかも定常運転をすることになり、多種多様な利用形態が始まるという現況を前にして、一人のユーザーとして思うことは、SPring-8利用者に今求められているのは、意識変革を含めた新たな「適応」であるのかも知れないと言うことです。
(注1):この情報は、SPring-8ユーザーの代表として出席させていただいた「JASRI蓄積リング運転モード検討会」において得た情報である。この件に関しては、SPring-8利用者情報誌に専門家によるに詳しい記事がそのうちに掲載されるものと思う。ここでは、やがてSPring-8が、放射光の常識を一つ覆すことに対する個人的な驚きを伝えたいだけである。
[1]SPring-8利用者情報 4 1(1999)35.
[2]SPring-8利用者情報 6(2001)295.
坂田 誠 SAKATA Makoto
名古屋大学大学院 工学研究科 応用物理専攻
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