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Volume 08, No.4 Page 213

所長の目線
Director’s Eye

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 副理事長、放射光研究所長 Director General of Synchrotron Radiation Research Laboratory, Vice President of JASRI

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 この度、2003年度後半(2003B)の一般課題の申し込みを締め切ったところ、800件の応募があった。この数は、これまでより多少多めである。今回の募集は、旅費の不支給を募集時に明言した最初の回であった。旅費の打ち切りにより利用者が減るのではないかという心配は杞憂に終わった。私は、研究所員や一部の利用者から聞いたSPring-8の性能の格段の高さを信じて、旅費と天秤にかけてその性能に背を向けるような利用者が多いようでは将来見込みが無い、と割り切っていたが、それでも、私が信頼している幾人かの人が本気で心配しているのを見て内心穏やかではなかった。今回の結果は、利用者がSPring-8の価値を正しく評価し、多少の障害を乗り越えても利用しようと言う姿勢を示してくれたことと大変嬉しく受け止めている。

 最近、政治家や中央官庁の高官の視察の際によく話題に上るのが「SPring-8は利用代金を取っているのか」と言うことである。また、現在課金している成果専有利用の料金が適切であるかとか、成果公開の内容がA4一枚の報告だけで十分といえるか、と言う問題提起をされている。またJASRIの諮問委員会でも、世の中の流れを考えると課金について考えるべきではないか、と言う意見が出ている。このような流れを意識して、われわれも利用の対価について考え直し始めているところである。

 このような動きはJASRI幹部の言動に反映し、会合でそれを聞いた利用者が心配する、と言う場面もあったと聞く。まだ動きは始まったばかりである。長年大学で培われた無償利用の習慣が一朝一夕にして変わらないことは、関係官庁も認識している節があり、旅費の時のように急に方針が出てきて一年後に仕組みが変わる、などと言うことはまず無いと思う。おそらく、大学が法人化し、新しい枠組みの中で共同利用施設のあり方についての議論がなされるであろう。共同利用に課金するといっても、たとえば学術利用の場合には、その課金分は研究資金として政府が用意するような制度とあわせて検討されるべきことである。タンパク3000プロジェクトが運転費を負担しているのはそのような形の一例である。

 いま出来ることですぐに対応すべきことは、無償利用の担保が、60日以内に提出されるA4一枚の報告書だけでよいかと言う点の検討である。成果の社会への還元を担保として原則無償とし、その手続きとして報告書の提出を義務付けているわけであるが、それでは不十分ではないかと言う批判が出始めているのである。大部分の利用者は、その後に論文や特許などの形で広く成果を公表していると信じるが、JASRIとしては成果発表を正しく掌握して、その証拠をもって説明することが必要であることを痛感している。また、課題選定に際しても、成果が考慮されるような仕組みを組み込むことが必要であろう。その際、過去に例のない真の新規性を排除しない工夫はもちろん必要である。さらに、論文発表と言う成果発表の形が必ずしも適用できない産業利用などでは、何を基準とするかと言うことを改めて考える必要があるのではなかろうか。成果の掌握については、国による評価の時にも問題になったが、今度は、これが有償化の議論にまで関係してきそうである。

 世の中の流れから言うと、将来有償化が起きる可能性はかなりあると思う。それは、一般社会と研究者社会の力関係で決まる。有償化が行われるとしても、そこに合理的な方策や方針を盛り込む努力を放射光社会はするべきである。その際、内輪の論理だけを振り回していたのでは説得力に欠ける。己を律して姿勢を正して、外部に対する発言力を確保することが大切と思う。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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