Volume 08, No.3 Pages 148 - 149
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
重点研究課題について
On the Priority Proposal at SPring-8
重点研究課題は、国の科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会研究評価部会SPring-8ワーキンググループが平成13年9月から約1年かけて実施した「大型放射光施設(SPring-8)に関する中間評価」においてまとめた現状評価と提言を受けて、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)がSPring-8におけるより一層の成果輩出を目指して利用研究への戦略的な観点の導入を図るものです。ここでは、JASRIによる重点化方策の概要を説明します。
(1)共用施設運用の基本方針
SPring-8は、世界最高性能の放射光施設であり、汎用性の高い先端施設であることから、利用研究課題の募集及び選定を、国内外のあらゆる利用者、全ての研究分野に対して、透明な手続きにより公平な提案機会が提供されるように従来通り配慮することとしています。これと同時に、施設の能力を最大限活用し成果を上げていくよう、より一層配慮することとしています。
(2)共用施設の利用
共用施設の利用は、あらゆる研究開発分野に対し、これまでどおり一般利用研究課題として公募により門戸を開放することを基本としますが、成果の拡大を積極的に図る観点から、重点研究課題枠として一定割合のビームタイムをJASRIが留保します。
(3)一般利用研究課題枠と重点研究課題枠との共用利用時間の配分(シフト枠配分調整)
一般利用研究課題枠と重点研究課題枠との共用利用時間の配分につきましては、公募による一般利用研究課題の配分を決定する前に、JASRIと諮問委員会に置かれる利用研究課題選定委員会(PRC)との間で調整するものとします。図1に一般利用研究課題と重点研究課題の利用時間枠の配分概念を示しますが、一般利用研究課題が50%以上となるように調整することが基本になります。なお、従来のJASRI留保枠は今後も必要ですので枠としては残ります。
(4)重点研究課題の種類
平成15年度以降、SPring-8の能力を最大限活用し成果を上げていくために利用課題の重点化を図りますが、重点研究課題は、当面以下の3種類に分けて実施します。
1)領域指定型:
卓越した成果の見込まれる分野や、産業応用等政策的に推進すべき分野をJASRIが指定し、その領域の範囲で課題を公募するものです。(以下、重点領域課題と称します)
2)利用者指定型:
SPring-8の特性を熟知し、今後も成果を上げる可能性が高いと評価され、JASRIが指定する利用者(以下「パワーユーザー(PU)」と称します)による実施課題です。PUには優れた成果を上げることと共に、一般利用者に対する支援も併せて期待します。(本枠組みの課題を、以下、PU課題と称します)
3)戦略型:
施設の技術的検討や新しい利用技術の開発等施設利用研究促進に資する課題で、機構が自らもしくは他機関と共同で実施するもの。(本枠組みの課題を、以下、戦略課題と称する)
図1 共用ビームラインにおける利用時間配分 概念図
(従来型の課題を、以下、一般課題と称する。また、長期利用型の課題を、以下、長期課題と称する。)
(5)課題実施の進め方
1)図2に定常運用での概要を示しますが、2003BSPring-8共用ビームライン利用研究課題の募集については、重点研究課題導入後最初の課題募集ですので、シフト枠配分調整等については暫定的なやり方となっています。
2)重点研究課題運用上の留意点を以下にまとめます。
a)重点研究の指定:
● 重点領域指定型は「重点領域推進委員会」で議論して、JASRI研究所長が指定します。平成15年4月23日に重点領域として以下の3領域が初めて指定されました。
①重点ナノテクノロジー支援領域:
本領域は、文部科学省「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」のSPring-8におけるナノテクノロジー研究課題を扱います。
②重点タンパク500領域:
本領域は、文部科学省「タンパク3000プロジェクト」におけるタンパク質の個別的解析プログラムに対応します。
③重点産業利用領域:
本領域は、SPring-8におけるトライアルユース課題を含む産業利用関係の課題を扱います。
● 利用者指定型は、「パワーユーザー選定委員会」で選定し、JASRI研究所長が指定します。
● 戦略型は、候補案件を事前にJASRI研究所長を中心にして検討し、戦略型にふさわしいと判断されたものをJASRI研究所長が指定します。
b)シフト枠配分調整
● 一般利用研究課題の公募前に、各ビームライン毎に一般利用研究課題と重点研究課題のシフト枠を決めるために、「シフト枠配分調整会議」を開催します。
● 課題選定時の細かいシフト調整は、必要に応じて長期利用分科会および一般利用課題選定の分科会後に行う予定です。
c)一般利用研究課題と重点研究課題の課題選定のタイミング
● 当面従来通り年2回の公募としますが、各期の募集で長期課題の募集が先ず締め切られ長期利用分科会で審査されます。
● 次に、一般課題と重点領域課題の募集が締め切られ、指定された重点領域毎の選定委員会で重点領域課題が先に審査され、それらの審査結果を一般課題の分科会に通知します。
● 一般課題の分科会は、重点領域課題の審査結果を考慮して審査します。これにより、一般利用研究課題と重点研究課題の間での重複選定を避けることが可能となります。
● PRCでの課題選定は、一般利用研究課題枠について基本的に従来と同じ流れで処理されます。重点研究課題枠の公募課題の選定結果は分科会に通知されていますので、両者を併せた公募課題全体を見ての判断が可能です。
図2 共用ビームラインの課題実施概念図