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Volume 08, No.2 Pages 75 - 76

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

−産業利用分科会−
– Industrial Application Division –

岡本 篤彦 OKAMOTO Tokuhiko

立命館大学 総合理工学研究機構 Ritsumeikan University, Research Organization of Science and Engineering, Synchrotron Radiation Center

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 産業利用ビームライン(BL19B2)は2000年に建設を開始し、2002年から共用ビームラインとして利用できるようになった[1]。現在、BL19B2設置の各装置類は順調に稼動しており、多くの企業研究者らによって優れた成果が公表されるようになった。これは、施設側の英断と光学系や各装置の設計、調整ならびにユーザーへの技術支援などにご努力いただいた各位に負うところが極めて大きい。

 本稿では、2001B~2002Bの期間にBL19B課題選定委員会で行った課題選定状況を主に、審査を通じて得た若干の感想等について述べてみたい。

 2001Bでは、応募された13件の課題の中から、XAFS、粉末X線回折、多軸X線回折の各装置の立上調整と性能把握に関する3件(施設側提案、産業界からの実験協力者を含む)、および成果が期待されると判断された5件(企業提案)の8件が先行実施された。この時の採択率は62%であった。

 2001年5月にはじめて放射光が導入されて以来順次整備され[1]、2001年度の補正予算によって2002年第2サイクルから初のトライアルユース(TU)が試みられた[2]。これは、産業界が抱える様々な問題に関して産官学が共同で放射光実験を行い、以って地域産業の活性化、新産業の創出、雇用機会の拡大などを支援するものである。特に、放射光の利用経験のない研究者にはスタッフが積極的に技術支援し、本格的な供用開始に先立ち利用の実を挙げてもらうのが狙いであった。課題選定は別途設定されたTU委員会で行われた(応募;35件、採択率;94%)が、TUの試みは大成功であった。

 2002Aでは、応募課題総数;68、採択率;63%[この内、通常応募件数;46、採択率;72%、留保タイム応募件数;22(内2件は成果占有)、採択率;50%]であった。一方、2002Bでは、応募課題総数;99(内5件は成果占有)、採択率;41%[この内、通常応募件数;52、(内2件は成果占有)、採択率;38%、留保タイム(1)応募件数;20(内1件は成果占有)、採択率;50%、留保タイム(2)応募件数;27(内2件は成果占有)、採択率;41%]であった。このように応募課題数は右肩上がりの傾向を示している。2002Aおよび2002Bの提案課題では、X線回折、XAFS、X線残留応力測定が大きな柱になっており、イメージング、蛍光X線分析の占める割合が小さい。BL19B2の第3ハッチは光源から約120m地点にあり、特別の光学系がなくても比較的良好なイメージング像が入手できるので、積極的な利用を推奨する。蛍光X線分析は他の特化したビームラインで行われるためか提案課題数はこれまで5件に達していない。

 一方、2002Aおよび2002Bでは、BL19B2に配分される共用ビームタイムを課題選定委員会産業利用分科会が留保し、合計3回課題募集した。留保タイムの設定は、その募集時に配分可能なシフト数が減少するというデメリットがある反面、応募の機会が増大するので材料開発や製造現場での問題の早期解決に役立つというメリットがある。即応体制という観点からは留保タイムの設定・活用がきめ細かい対応に繋がると思うが如何であろうか。

 課題審査に際しては、5名の選定委員がすべての応募課題に目を通し、慎重に5段階評価する。基本的には委員全員の合計評価点が高い課題から順に採択される。不思議なもので、委員の評価結果はほぼ同じである。不幸にして評価に違いが出た場合には全員で討議するが、その例は多くない。

 課題審査は諮問委員会運営要領第2条に則って行う。BL19B2ではその性質上、特に4項目ある科学技術的妥当性のうち、

③期待される研究成果の産業技術基盤としての重要性および発展性。

④研究課題の社会的意義、社会経済への寄与度。に重点が置かれる。審査委員会ではできるだけ多くの課題にビームタイムを配分しようとするが、大学のみによる基礎研究課題、産業界メンバーが少数含まれるが主導的でない(と思われる)課題などは低い評価となる。すなわち、産業界の問題解決に役立つ研究、地域活性化が期待される研究、雇用拡大に繋がる研究、産業界主導の産官学共同研究が重視される。課題提案に際して十分に配慮されることを勧める。また、放射光に頼らなくても実験室規模の測定が可能ではないかと思われる提案もある。予め実験室で測定したか、どんな結果が得られたか、そしてその結果なぜ放射光が必要となったかなども書いていただければ審査に役立つと思われる。

 稀に、BL19B2にはない機能・性能を要求する(例えば、白色光を利用したい、マイクロビームを利用したい、ミラーにコーティングされているのと同種の微量元素を蛍光XAFSで測りたいなど)課題や安全性についての記述がない課題などが見受けられる。事前にBL19B2について調査していただく、あるいはコーディネーターやビームライン担当者と十分な意見交換をしていただく必要があろう。

 産業界では可能な限り早期のデーター入手が望まれる。測定が半年先ではSPring-8を利用する嬉しさが半減する。先にも述べたように、この点に関して、施設側の理解の下で、留保タイムやTUを活用して少しでも即時対応できるように努めてきた。今後もこの方法が継続されると思われるので活用していただきたい。

 ところで、採択課題への配分シフトは、より多数の課題に測定の機会を与える(採択率を高くする)ために、要求シフトよりも減じて配分されることが多い。しかし、要求シフト数が正しく見積もられているなら、予定した実験は中途半端なものになるのではないだろうか。幸いにして?そのような不満を聞かないが、逆に言うと要求シフトの根拠はどこにあるのだろうか。できるだけ多くの課題を採択しようとすることが利用者側にとっては嬉しさを伴わない結果になっているのではないかと気になる。


参考文献
[1]岡島敏浩他、SPring-8利用者情報誌、Vol.6, No.5 (2001) 360.
[2]古宮聰他、SPring-8利用者情報誌、Vol.7, No.3 (2002) 169.



岡本 篤彦 OKAMOTO Tokuhiko
立命館大学 総合理工学研究機構
〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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