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Volume 08, No.2 Page 60

所長の目線
Director’s Eye

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 副理事長、放射光研究所長 JASRI Vice President, Director of JASRI Research Sector

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 国の評価ワーキンググループから、SPring-8も戦略性をもち課題の重点化が必要である、との提言を受けたことは前に書いた。それを受けて、重点化の具体的な議論が、いま諮問委員会で行われているところである。

 この議論の中で、個人研究の重要性には常に注意が払われている。形だけを見ると、重点化によって一部の一般応募の時間枠が削り取られるのであるから、そのバランスには慎重な配慮が必要である。現在、共同利用ビームラインの一般利用枠は、留保分20%を除いた80%が割り当てられているが、いまJASRIが提案しているのは、今後は重点化の枠をも含めて留保分を最大、全共同利用時間の50%を超えない範囲で確保する、という案である。本当に何パーセントが適当かは少しやってみないとわからない。ここに50%と言ったのは、最低限、半分は一般公募枠として確保する、という決意と受け取っていただきたい。重点化によって、一般利用枠が減るとはいうが、実際には重点化の時間枠を利用する人々の大部分は現在の利用者である。したがって、時間を一般枠から重点化枠に移すと、同時にかなりの利用者も一緒に移動すると思われる。

 共用の促進に関する基本的な方針(平成6年、内閣総理大臣)の中に、利用者本位や機会均等などが強調されている。これまで重点化などが行われなかったのは、この解釈の仕方のためなのでもあろうか。しかし、国の評価ワーキンググループは、促進に関する法律と上記基本的な方針を基準として評価をするとうたっているのであるから、十分承知の上で重点化を提言しているのである。なお、国の評価は「研究開発をめぐる諸情勢の変化に柔軟に対応しつつ、常に活発な研究開発が実施されるよう」(大網的方針、平成13年)との目的で行われるものである。

 一般利用枠は、科学の研究に最も重要な個人の発想を生かす場所であるから非常に大切である、というのは皆の共通の認識である。しかし、その主張にもかかわらず、現実には、上坪前所長の指摘のように、未来を見据えた冒険的な課題が少なかった、と言うことは事実であろう。課題審査が大変なのか、利用者がそのような提案をしないのかはよく分からないが、とにかくこの種類の課題をもっと強化しないと、個人の発想の重要性と言う言葉はむなしく響く。重点化されたプロジェクトにおいても、個人研究と同質の学術研究は行われる。実は、冒険的な研究も、重点化枠でやったらどうか、と言う気配がかすかに感じられる。しかし、そうしてしまったら、個人の発想を大切にする故の一般枠、という主張は根拠を失ってしまう。ぜひ、一般枠の中で冒険的な研究に挑戦して、その存在意義を強く示していただきたい。

 一言付け加えるが、未来を開くような成果がこれまで無かったと言っているのではない。良い成果はあってそれが順調に発展しつつあることは認識している積りであり、それを社会に対して積極的に紹介しようと考えているところである。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794