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Volume 08, No.1 Pages 34 - 39

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

加速器アライメント国際会議(IWAA2002)を開催して
Host Report of the 7th International Workshop on Accelerator Alignment

松井 佐久夫  MATSUI Sakuo

(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門 JASRI Accelerator Division

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はじめに
 2002年11月11日(月)〜14日(木)第7回加速器アライメント国際会議(IWAA2002)が、JASRI支援のもと、SPring-8普及棟で開かれた。
 この会議はPACとか、EPACという加速器の全分野を扱う大きな国際会議とは異なり、分野は限られるが、出席すれば世界の加速器のアライメント関連事項が鳥瞰でき、技術交流もできる、アライメントに携わる者には便利で貴重な会議である。ほぼ2年毎にヨーロッパ、アメリカ、日本を回り、7年前にはKEKで開かれ、この時から次に日本に回ってきた時にはSPring-8で開くことになっていた。
 世界中の大きな加速器の施設にOrganizing Committeeの委員(CERN、DESY、ESRF、SLAC、Fermilab、APS、KEK)がいて、開催期間中に委員会を開き、次回の場所、時期等議論し、実際の開催は担当の委員がIWAAの定款に従い運営する。
 第6回は1999年ESRFで開かれ、次はSPring-8とアナウンスし、2000年の暮れから準備を始めた。
 順番で回ってきた国際会議ではあるが目標として、1)加速器の新参者のSPring-8を専門家たちに見てもらい完成度の高さを知ってもらう、2)アジアの中でのSPring-8の位置付けを考えること。加速器の専門家集団としてこれだけの人数を擁しているところは多くはない。Supportするほど我々に余裕はないという議論もあるが、できるだけのことはしたい、機会をとらえ海外のいろいろなところとの関係をつくることも求められている、と考えた。
 実際には、Internationalな委員会の他に、プログラム、その他の検討を行う実行委員会(KEKから前回の経験のある二人遠藤氏、菅原氏、そして粒子線医療センターから板野氏、ニュースバルから安東氏、SPring-8から伊達氏、深見氏、張氏、松井で構成)と実務を担当する所内委員会(2002年:當眞、小林、高祖、中山、井垣、水野、出羽、伊達、深見、妻木、武部、張、松井、2001年の時は坂川、松本、森崎が加わる)で対応することにした。
 1年遅れて開催したが、今回の発表は口頭43件、ポスター24件で、参加者は、当日受付10人含め、国外46人(27)、国内41人(18)、準備事務局7人計94人という規模であった。(()放射光関係施設以外のところからの参加者数)


延期した2001年開催
 2001年秋の開催に向け、調査国際課の松本(亘)氏のところでデータベースなどを扱ってもらっていた。予算は参加費と財団からの負担金で組み、準備もすすんでいた。当初9.11テロの影響はあまり深刻には考えていなかったが、いざ委員にたずねると参加者の不安は予想以上に強く、強行すべしとの意見は少数で多くは延期を主張した。日本と欧米との感覚の差は大きかった。開催までちょうど1ヶ月だったのでキャンセルしても被害は少ない、強行すると参加者が減るかもしれない、そして最も恐れたのは参加者の一人でもトラブルに巻き込まれることであった。このワークショップでは、実際には参加は委員を除けば本人の自由であるが、形式としてはInvitation Letterを出すわけで、招待できる状態か否かは開催する側の判断にゆだねられている。既に各人に口頭発表かポスターかの通知もし、プログラムも発表していたが、延期することにした。この議論はOrganizing Committeeの中でメールを使って行なった。このようなときには電子メールは便利である。中には(準備していたのに)がっかりしたという声もあったが、妻が喜んだ、というメールもあった。延期の通知への返事からみるかぎり、全体としては延期やむなしと理解されたようであった。延期により個人的に損害を被った人にはIWAAの繰り越し金から払い戻したが、多くなくて幸いであった。ただし大きな研究所での損害については勘弁していただいた。
 延期を決めた当時は状況の好転の見通しはつかなく、2002年春以降という表現を使った。当時延期とか中止にした国際会議も多かったと聞いている。


2002年 準備
 年あけて、時期の議論を始めたが、いろいろな都合から結局丸1年遅れることになり、実際には再立ち上げになってしまった。
会議対応 財団の会議担当事務局の部署も企画調査部から所長室に変わった。今後SPring-8で開かなければならない会議を考えればそれに特化した部署は必要だと思う。今回の場合でも、8月にIWPがあり、その経験を大橋(治)さんに教えていただいたように、ビザの書類(調査国際課丸尾さんのところ)、データベース、SPring-8へのアクセス、開催時の諸々など国際会議の場合、似たような作業、問題も多い。開催する側の主な人は慣れていない場合が多いと思う。その分慣れた人にお願いできれば負担はかなり減る。今回もそのようにしていただいた。
財団サポート 財団が国際会議へのサポートにどのような考え方を持っているのか、が重要である。これにより負担の具体的な内容も変わってくるからである。今回、会計を参加費による部分と財団負担の部分の2本立てとしたが、実際に使い始めると予想以上に会計上の制約があることがはっきりしてきた、というより当初の予想が甘かったというべきかもしれない。
所内委員会(13名)を開き、ここで具体的な内容は議論し決定した。案内用パンフ(休日に着いても食堂でのカードの購入等一通りのことが書いてある「How to survive in SPring-8」)や登録・宿泊・参加費など事務的な部分をデータベースを含め所長室で、その他種々の事項を加速器部門の委員が担当した。人数は多いように見えるが 実際には少ないと感じるほど種々の作業があった。開催中は時計係やマイク係を別に人を頼んだので助かった部分も大きい。食事についてはミールチケットを販売することにした。ここで問題を複雑にしているのがここの二重価格である。開催期間中の12日朝食から14日昼食まではチケットを購入すれば半額であるが、期間前の11日昼食までと閉会直後の14日の夕食からは自分でプリペイドカードを買って全額払ってもらうことになった。

開催前
 相生駅の構内、陸橋にはバス停への矢印を掲示した。また、停留所には漢字で「公園都市」と書いた。SPring-8行きは読めるが、バスには番号はなく、同じ所から「榊」行きも出るので漢字での区別が必要であった。公園都市まで来てもらえば迎えの車を待機させているからである。国際会議のたびにこのような掲示をしなくてもいいようにしてほしいものである。10日(日)、11日(月)で公園都市から十数人をSPring-8まで財団の車エスティマで運んだ。日曜日に来た人が予想外に多く、会期が3日間であればスタートを火曜日にし、金曜日に閉会としたほうが良かったかも知れない。

11日(月)
 午後から普及棟で受付を始めた。鞄(プログラム、参加者リスト、アブストラクト集、見学案内、お茶会案内、アンケート用紙、ベストポスター賞投票用紙、SPring-8パンフ、ノート、観光案内)を渡し、ミールチケットを販売した。その後、会議場内でコンピュータによる発表の準備を各自行った。同僚の一人が後ろのほうから見ずらいとか細かくチェックをしている人もいた。今回、アメリカの委員の要望も有り、自分のコンピュータを持ってくるのではなく、メールでパワーポイントのファイルを送ってもらっておき、それをネットワーク経由で使った。ファイル持参の人は、CD、フロッピー、USBメモリ、小型HDなどを使っていた。これを発表用のコンピュータのHDにコピーしておき、それを開いて使うことにした。英語版のパワーポイントを使った。中にはフリーズするファイルもあったが、武部氏をはじめOA班のサポートのおかげで大部分の発表については文字化けなど問題はなかった。
 交通機関のチケットとか観光その他についての対応は12日まで来ていただいた旅行社の人にお願いでき我々の負担はなくてすんだ。
Welcome Party 夕方、立食形式で食堂を1/3ほど仕切って使った。  

 
 
 
 

会議風景


12日(火)
 9時前延期の経過報告も含めたOpeningのあいさつの後、SPring-8は初めての参加者が多いので、まず吉良所長にSPring-8の紹介をしていただいた。
 最初のセッションは施設報告で、はじめにSPring-8の加速器の現状と、ビームの安定化の精力的な改善の試みを田中(均)氏に報告してもらった。さらにDESYから長さ33kmのTESLA(Tera Electron Volt Energy Superconducting Linear Accelerator)のプランが示された。共同研究をしているOxfordからの参加者も含めると7人も参加しており、リニアコライダー計画にかける意気込みが伝わってくる。X線FELの計画も付属している。
 さらに同じく放射光施設のSLSや協力協定を結んでいるタイの放射光施設からの報告もあった。APSからはトップアップ運転とレーザートラッカーのコントロール部を無線でつなぐ改良について報告された。SLACやCERNはそれぞれが抱えている大きな実験や計画の話PEPⅡ、SPEAR、LCLS(Linac Coherent Light Source)、NLC、LHCがらみの話がされた。半地下に設置したために重量のバランスが悪く沈んだライナックの話、中国でも遠い蘭州の研究所(IMP)の重イオンの加速器で、クーラーリングを建設している話など。
ポスターセッション 普及棟大講堂の後ろ1/3を使い、仕切り板一枚を外し、会議場とポスター会場が行き来できるようにしておいた。朝の9時から5時まで口頭発表を聞き,さらに5時から6時半までポスターというスケジュールで、多少きついかなとは思ったが、しかし、みな熱心に話を聞き議論していた。
お茶会 12日の夜には、お気楽お茶倶楽部有志の協力を得て、希望者30名に限られたがお茶会を開き、また一味ちがった交流の場を持ち、喜ばれた。  

 
 
 
ポスターセッション風景

13日(水)
 午後3時前までアライメントの道具、ソフトウエアのセッションだった。新しく、距離を+ミクロンオーダーで測定する、レーザーの周波数掃引法干渉計の開発とかCERNから730km南のイタリアにニュートリノを向けるためのGPSとジオイドの話。またこのワークショップではCMS(Compact Muon Solenoid 17m×20m)、ATLAS  detector(5階建ビル相当)など高エネルギー実験に使う大きな検出器のアライメントも扱っており、大きい割に要求精度が高い、強い放射線、重量による変形など考慮してアライメント方法が開発されていた。
 3時から見学に移り、6時過ぎ 食堂からバスでバンケット会場に向かった。
見学 事前にSPring-8(リナック、シンクロ、蓄積リング)コースと県立粒子線医療センター+SPring-8蓄積リングコースのどちらかを選択してもらっていた。17〜18名を一つの班にし、引率者2名で、蓄積リングでは中央制御室、RF、電磁石、アライメント、ID、実験ホールに説明の人を配置した。アライメントのところでは測量機器、レーザーとCCDカメラシステムその他実際にアライメントに使っている道具をトンネル内で見てもらった。
バンケット  姫路のホテルで、アトラクションは別井さん(理研)による日本舞踊“蓬莱”と相生の藝能集団「野華」による和太鼓で日本の伝統文化鑑賞の後、参加者にも太鼓をたたかせてもらい、盛り上がったバンケットとなった。   
 
 
 
Banquet風景1 

 
 
Banquet風景2


14日(木)
 最終日。議論が多かったのは、何百mもつながっている水面の高さをミクロンの精度で測定するセンサーHLS(Hydro Levelling System 連通管)のセッションで、SPring-8の張氏も時間応答の実験と計算の結果を報告した。あちこちで開発したものが出そろってきて 長期の安定度などに質問が多くでていた。招待講演として地震研究所の新谷氏にレーザーを使う重力波検出器TAMA300のミラーの除振という点からの話をしていただいた。将来計画のセッションはリニアコライダー計画のアライメント方法が議論されたが、これもDESYのTESLA計画の話が多かった。おやっと思ったのはCERNのリニアコライダー計画CLIC(Compact Linear Collider:片一方のLinacが14kmもあるが)に使うHLSの話の中での、ジオイド面の上下方向のLocalな変動が意外と大きく200mでrms値8mmという数値である。数百mの距離で「比較的」手軽に得られる直線(上下方向)としてHLSを考えていたが、その水面はジオイド面を映したものなので、山や谷、また密度の差が大きいと地球の大きな曲率からのずれが大きくなる。連通管の精度の向上とともにLocalな変動が測定可能な範囲に入ってきたと感じた。
 5時頃までのOral Sessionの後、ベストポスタ−賞の発表と表賞、これは参加者の投票でDESYの「リニアコライダーの測量システムの開発」が選ばれた。CERNのMayoud氏のまとめの話、次回2年後開催されるBNL(ブルックヘブン)のF.Karl氏の紹介、そして上坪前放射光研究所長の、精密化してきている加速器においてアライメントというものが重要になってきているという話で最後閉めていただいた。
 このような会議の開催は、実に多くの人の協力で成り立っていることを実感した。それ故にアンケートでは参加者の良かったとの評価につながったのだろう。苦労の甲斐があったと感じた。良かったところは良かったと表現しておくのも大切だ。 
 
 
 
集合写真

反省
 参加者のアンケート結果は後記のとおりで、細かい所の不十分点はあったにしても全体として 良かったのではないか。ただ、実質3日ではtalkだけで終わってしまい、フリーな討議の時間が十分とれなかったという問題はあったと思う。スケジュールがきついと、いろいろな交流の時間がとりにくくなるからである。


まとめ
参加者 ヨーロッパ CERN : 5  DESY : 5  Oxford : 3  ESRF : 2  PSI : 2  Diamond : 2  SOREIL, GSI, IHEP(ロシア), Cantabria(スペイン),  Metronom : 各1
アメリカ SLAC : 2  Fermilab : 1  APS : 2  BNL, Jeffersonlab, Spallation Neutron Source, Superconducting Cyclotron Lab : 各1
アジア 中国  IHEP : 3  NSRL : 2  Shandon U. : 2   Modern Physics Institute(蘭州): 1  PAL : 4
タイ : 1 
日本 KEK : 7  SPring-8 : 22  地震研 : 1  HIBMC : 1 放医研 : 1 東北大 : 1 会社 : 8
メーカー展示:1社(ニチメンマシナリー㈱の6軸レーザー測定システム)
口頭発表 2分準備、15分トーク、5分質問、討論で 組んだ。時間が足りなくなったケースは少なかった。 使ったPCは約88% Windows、5% Mac, 7% OHPだった。自前のPCの持ち込み者は3割以下。備え付けのプロジェクターがやや暗かったので、加速器所有のを用いた。
メール添付 普段は日本語版のソフトを使っており、添付で送ったりしたが、うまく読めない というトラブルが多かった。多数に送る場合は英語版でのチェックが必要。
Web 現在も下記のページで開いている。ここのPhoto and Movieをクリックするといろいろな場面の写真や音声付き動画を見ることができる。
http://www.SPring-8.or.jp/ENGLISH/conference/iwaa/

アンケート結果(有効回答31) 
 
1.What is your general opinion on the presentations?
 
 
 
2.What is your feeling about the presentations? 
 
 
 
3.General Organization      
 
 
 
4.Program arrangement 
 
 
 
5. Communication means from Aioi to SPring-8   
 
 
 
6. Registration fee (includes banquet fee or separated)
Registration feeの中にbanquet費用が含まれていたほうがいいか、分かれていたほうがいいか どちらがいいかの質問。

 
 
7.Personal remarks いくつかを紹介する。 
全般   
* Shuttle service was GOOD!
* Extremely well run workshop. Your staff was friendly and accommodating. You should be proud of yourselves. Thank you. 
*The banquet performers were outstanding. The presentations were interesting and informative. It is interesting to see the scale of various projects and the creativity in dealing with problems. The commonality of problems(funding, staffing, settlement issues) and the willingness share ideas is quite encouraging.
* Taxi  very  expensive!
プログラム
* And maybe it is better to arrange some time for us to discuss freely around the topics concerned with.
* Program too busy, better to add another day
* In the status reports from labs, I would like to see slightly more structured presentations
Answering
 - Facilities/ Accelerators at the lab
 - Size of Alignment group
 - Instruments used/ available to the group
 - New developments
* Morning session start time 8:40 fi 9:00 (move)
発表
* Encourage presenters to use large fonts so that people sitting in the dark can read and follow the presentation.  Suggestion-NONE  The conference is a success.

松井 佐久夫 MATSUI  Sakuo
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:matsui@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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