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Volume 16, No.2 Pages 135 - 136

4.SPring-8 通信/SPring-8 Communications

利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告2 -散乱・回折分科会-
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair - Diffraction and Scattering –

川合 眞紀 KAWAI Maki

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo

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 散乱・回折分科は、さらにD1:構造物性(単結晶、粉末結晶、表面界面、構造相転移)、D2:高圧(高圧物性、地球科学)、D3:材料イメージング(トポグラフィー、CT)、D4:非弾性X線散乱(コンプトン散乱、核共鳴散乱、高分解能X線散乱)、D5:小角・広角散乱(高分子)の5つの分科に分かれている。

 本分科会は研究分野が多岐にわたるため、以下各分科の審査員に分科概要を分筆いただいた。

 

 D1分科では、構造物性に関わる申請を扱っており、関係するビームラインの種類、課題申請数ともに膨大である。手法としては回折散乱を広い範囲にわたって応用した課題を対象としており、必然的にカバーするビームライン数も多い。優れた成果を得るためには適切なビームラインを利用することも大事であり、SPring-8の性能を十分に生かす測定には必然的に高い評点が付いている。高度な測定技術や測定環境を要する課題は、事前にビームライン担当者との綿密な打ち合わせが必須である。近年では、海外からの申請課題数も増加している。事前に十分な打ち合わせができるよう、引き続き配慮いただく必要があるだろう。

 

 D2分科は、高温高圧(BL04B1)および高圧構造物性(BL10XU)のビームラインで行われる課題を中心に審査を行っている。BL04B1では主に大容量高圧プレスを使った地球科学分野の実験が行われており、高圧下で密度測定と超音波速度測定を行うことで弾性定数を決定し正確な圧力―体積関係を求めるなど、新しい測定手法を利用した課題がふえている。BL10XUでは、ダイヤモンドアンビルセルにレーザー加熱を組み合わせることで高温高圧実験が、冷凍機を組み合わせることで低温高圧実験が行われている。最近では持ち込み機器による複合測定系(ラマン散乱、ブリルアン散乱)が新たに加わり、高圧下の物性同時測定もできるようになった。これにともない、採択される課題も多重環境や同時測定を使うものが中心となり、それ以外の申請が採択されにくくなっている。もちろん学問的に卓越した課題であれば、単一の測定実験でも採択できるのだが、そこまでのポテンシャルを示す申請は残念ながら少なかった。ビームライン担当者やユーザーの努力で測定装置が進化し、様々な実験ができるようになったのはうれしいことだが、それによって多重環境と同時測定を使う課題のみが優先されてよいのか、今後検討すべき問題と思えた。なお、どちらのビームラインも、重点利用課題と優先課題がビームタイムの4割に近づく傾向にあり、一般課題の採択率は他の分科にくらべ相対的に低い。地球・惑星科学分野では、分光やイメージングといった回折実験以外のテーマでD2分科の審査を希望するものが多くなっている。D2分科は回折を本来のカテゴリーとしているが、サイエンスの方向性からすれば、こうした課題も本分科で審査していくことに問題はないと考えられる。

 

 D3分科(材料イメージング(トポグラフィー、CT))では、BL28B2にトポグラフィー、BL20B2、BL20XU、BL47XUに位相コントラストや結像光学を含むマイクロCTなどのX線イメージングおよびX線光学系開発がある。このうち、BL47XUは光電子分光と共用であり、競争率が高くなっている。したがって、BL47XUでは不採択であるものの、BL20XUで救われる課題が散見された。課題申請に際してビームライン担当との打ち合わせが励行されており、ビームラインの選定や実験の実現可能性に関する不備は少数であった。申請者は理工学の幅広い分野におよび、また欧米やオセアニアなどからの申請も多い。また産官問わず新規参入のユーザーも多く見られた。これらが研究水準の観点で公平に審査されることに最も神経を使った。おそらく、高輝度放射光を用いたイメージング実験を行う必要性があるか、光学顕微鏡や電子顕微鏡など他の手法では代替できないのかが採択の一つのポイントと言える。今後もイメージング技術の新しい応用を期待したい。

 

 D4分科では非弾性散乱をキーワードとする課題を審査している。関係するビームラインは、BL08W、BL09XU、BL35XUで、それぞれコンプトン散乱法、核共鳴散乱法、高分解能非弾性X線散乱法を得意とするビームラインである。高エネルギーX線を必要とするコンプトン散乱法のBL08Wは世界的に見てもユニークで海外からの申請が約半分を占めている。しかし、申請グループがかなり固定化しているのが気になるところではある。核共鳴散乱法も第三世代放射光源によって発展してきた手法でありそれを利用した新しい計測方法の開発も申請されているがこのビームラインも申請グループが固定化されつつある。情報発信を活発にすることによって新規ユーザー開拓を期待したい。一方で新しく発見された鉄系超伝導体の格子振動や磁性に関する課題がいち早く申請されていた。これは小さな単結晶でフォノン分散関係が観測可能なBL35XUにおいても鉄系超伝導体の研究が申請されているが、ここ2年間の申請はむしろ液体やランダム系における格子振動の観測に関する申請が目立ってきている。BL35XUへの申請傾向として、D4分科だけでなく構造物性のD1分科からの申請が約半分を占めている。これはD4分科が手法、D1分科が研究対象を切り口としたものであることを考えると納得がいくが、異なる審査委員による異なる審査基準で評価されるため最終調整のための両分科による議論が必要になってくることが懸念される。

 

 D5分科では高分子とソフトマター関連の申請を扱っている。BL40B2やBL45XU、BL40XUを用いた小角、広角X線散乱実験が多い。実験内容は高分子固体、高分子溶液、生体系物質を対象とした構造・形態観察が主である。高分子・ソフトマターの科学・産業展開を反映して、2010年度から産学協同の専用ビームラインであるBL03XU(Frontier Softmaterial Beamline:FSBL)が建設され稼働開始した。2009年度まで、BL40B2の採択率が全BL平均よりも約10%低いという問題があったが、FSBL稼働により採択率がほぼ平均並みになったので少し改善されたようである。しかし、中堅や若手研究者の採択率とシフト数が(強大な研究グループに比べて)低い、レフリーの中に他のレフリーに比べて不当に低い評価をつける場合がある、という問題があった。よって課題審査委員会で検討されてきた評価の公平性を確立するための改善実施は重要である。

 

 分筆いただいた、竹村謙一、戸田裕之、水木純一郎、彦坂正道の各氏に感謝いたします。

 

 

川合 眞紀 KAWAI Maki

独立行政法人理化学研究所

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東京大学大学院 新領域創成科学研究科

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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