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Volume 07, No.6 Pages 370 - 373

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

平成14年度播磨国際フォーラム報告
The 7th Harima International Forum

福永 俊晴 FUKUNAGA Toshiharu[1]、梅咲 則正 UMESAKI Norimasa[2]

[1]京都大学 原子炉実験所 中性子科学部門 Neutron Research Division, Research Reactor Institute、[2](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用研究促進部門Ⅰ JASRI Materials Science Division

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 兵庫県とSPring-8の共催になる平成14年度播磨国際フォーラムが2002年9月3日(火)から9月6日(金)までSPring-8で開催された。今回のフォーラムは “STRUCTURE AND PROPERTIES OF DISORDERED MATERIALS” −ランダム系物質の構造と物性−を学術テーマとして、9月3日から6日午前中までSPring-8普及棟で、また一般講演会は9月6日午後から姫路工業大学工学部の書写キャンパスで学生、教職員を対象に開催された。この播磨国際フォーラムは、平成14年3月に播磨国際フォーラム組織委員会(熊谷信昭委員長)においてその開催が承認された。兵庫県とJASRIが等分の費用負担で毎年1回(ただし、生命科学分野と物質科学分野に分けて別日程で)開催されるもので、播磨カンフェランスの学術テーマは前述組織委員会で選定された。
 本年の物質科学分野におけるテーマは、アモルファス、ガラス、溶液、高温状態での融体等の周期的な規則構造を形成せず、構造秩序の乱れた物質で、ランダム系物質と呼ばれている。ランダム系物質は、結晶とは異なり構造秩序が乱れているために、現在まで構造と物性との明確な関係が解明されず、物質科学の分野でも未踏の部分が数多く残されている。近年、SPring-8を始めとする強力な放射光施設やILL(フランス)あるいはISIS(英国)等の中性子線源施設の出現により構造解析の実験的手法の画期的な進歩や計算機を用いた物質シミュレーションが格段の進歩を遂げている今、今回のフォーラム主題である“Structure and Properties of Disordered Materials”は、まさに時期を得たテーマであった。
 実行委員会には、福永委員長、梅咲幹事と海外から英国Reading大学J.J.Thomson Physical laboratoryのAdrian.C.Wright教授にもアドバイザーとして参加して頂きました。また、フォーラム準備スタッフとして、JASRIから企画調査部の安部 公三子氏と利用業務部所長室の當眞 一裕氏、そして兵庫県産業労働部科学・情報局産業技術室の落合正晴、中島由賀の両氏に参加して頂きました。さらに、神戸大学工学部の梶並昭彦氏と立命館大学SRセンターの半田克己氏には、外部協力者として、準備・運営に参加して頂きました。カンフェランスの日時、スケジュール、国内外招聘後援者の選定そしてフォーラム運営などは、数回の実行委員会を経て開催日程やフォーラムスケジュールが決まりました。
 第7回播磨国際フォーラムの主要企画である播磨国際カンフェランスには、海外から8名(米1名、英3名、仏1名、伊1名、ギリシャ1名、ロシア1名)を含め全体で50名余りの参加者があり、闊達でしかも友好的な雰囲気の中で2.5日間の会議が続けられた。なお、9月3日(火)の初日は、会議のレジストレーションと夕方からのウエルカムレセプションが開催され、写真1に示すように、和やかな雰囲気の中で交流が進められた。海外招待者全員は、初日のレジストレーションに間に合い、ウエルカムレセプションに参加されました。写真2には、9月4日(水)の午後のセッションの合間に撮影したカンフェランスの記念写真を示します。 
 
 
 
写真1 ウエルカムレセプションでの談笑 
 
 
 
写真2 第7回播磨国際フォーラムのカンフェランス写真 
 
 播磨国際カンフェランスのオーラルプレゼンテーションは海外招待者の発表を含め22件、ポスターセッションでの発表が19件であった。オーラルプレゼンテーションでの海外招待者は1人50分(質疑応答を含む)、そして国内招待者は1人30分のプレゼンテーション時間が割り当てられて、落ち着いた発表と活発な議論をすることが出来て、実りの多い時間を過ごすことができました。プログラムの内容は、表1の通りです。オーラルセッションでの発表されました主な研究内容と最近のトピックスについて簡単に報告します。 
 
表1 第7回播磨国際フォーラムプログラム 
 

 
 
1.X線・中性子線を用いた構造解析
 英Reading大学J.J.Thomson Physical laboratoryのAdrian.C.Wright教授が“Neutron Scattering Studies of Network Glasses”のテーマでイントロダクトリートークを行った。ILLリアクターソースとISISパルス中性子源を用いたガラスネットワーク構造を持つランダム系物質の中性子回折による構造解析と非弾性散乱の最近の成果について報告で、特にホウ酸塩ガラスとカルコゲナイトガラスの構造について、詳細な説明を行った。中距離構造の解明のために、高分解能で高精度の相関関数T(r)の導出とモデリングの重要性が指摘された。伊Trento大学物理学科のGiuseppe Dalba教授によるEXAFSによる結晶ならびに非晶質物質の局所構造についての講演があり、超イオン伝導ガラスにおける非調和項の温度依存性に関する精密なEXAFS構造解析の報告が有った。仏Orlean大学のM.-L.Saboungi教授から、不活性ガスを用いたレビテーション法により浮遊した酸化物をレーザー加熱に溶融させた超高温融体試料のAPS放射光を用いた非弾性散乱スペクトルの測定というチャレンジナブルな試みが報告されて注目を浴びた。その他に、京都大学の田村教授による超臨界液体の静的・動的構造、新潟大学の三沢教授によるプロパノール溶液の中性子小角散乱によるメソスケール構造、原研の鈴谷氏による酸化物ガラスの高エネルギーX線構造解析、そして原研の片山氏による圧力誘起による液体やガラスの構造変化についての報告があった。

2.構造シミュレーション
 英ISIS-RALのR.L.McGreevy教授による“Monte Caro Methods for Modeling the Structure of Disordered Materials”というテーマで、逆モンテカルロ法に関する原理から酸化物ガラスの中距離構造への適用と物性との関連についての講演があった。逆モンテカルロ法の考案者らしく、分かり易い解説に感心した。特に、最近の逆モンテカルロシミュレーションの進歩として、時間のスケールを導入して、中性子やX線の非弾性スペクトルを再現して、構造と対応させたデモンストレーションがあった。大阪大学の田中敏宏氏から、熱力学的構造モデルとデーターベースを基礎として、液体金属や溶融塩の表面張力などの物性値予測に関する報告があった。その他、ロシアInstitute of Silicate ChmistryのVedishcheva氏の熱力学モデルによるホウ酸ガラス構造の研究や米Alfred Univ.のA.Cormack教授のMDシミュレーションによる酸化物ガラスの詳細な構造シミュレーションの報告があった。

3.分光学的実験手法
 ギリシャTheoretical and Physical Chemistry InstituteのE.I.Kamitos氏から、赤外分光法による振動スペクトルによるアルカリならびにアルカリ土類ホウ酸ガラスの構造についての報告があった。アルカリならびにアルカリ土類酸化物添加に伴うホウ酸塩ガラスのBO3ユニットからBO4ユニットへの構造変化は、両者によって全く異なる配位挙動を取ることが報告された。

4.応用研究
 産総研関西センターの西井 順治氏から光デバイス作製のための光と熱に敏感な酸化物ガラス材料の話があった。光敏感なGe-SiO2ガラス薄膜をプラズマCVDで作製して、レーザー照射により、Crマスクパターンを通して波長変換デバイスの作製に成功した。また、旭硝子の伊藤節郎氏から、生体材料に用いるケイ酸塩ガラスの機械的強度をMDシミュレーションから求めた研究成果も報告された。

5.その他
 カンファレンス開催中の9月4日(水)午後のセッションの途中でSPring-8サイトツアーを行い、SPring-8の施設見学を行った。このサイトツアーでは、神戸大学の梶並氏と原研の鈴谷賢太郎氏に協力を頂きました。また、見学しました各ビームライン担当者に説明をして頂きました。この日の夕方、ディナーで和食を楽しんだ後、SPring-8茶道部のご協力でお茶会を開催して、伝統文化に触れて頂いた。9月5日(木)夕刻からのバンケットでのレセプションには、来賓として、鈴木 胖姫路工業大学学長、菊田惺志JASRI放射光研究所副所長、仏Orlean大学のM.-L.Saboungi教授(写真3参照)、英Reading大学J.J.Thomson Physical laboratoryのA.C.Wright教授からそれぞれご挨拶を頂い後、バーベキューで大いに盛り上がりました。 
 
 
 
写真3 バンケットで挨拶をするMarie-Lousie Saboungi教授


6.一般講演会
 9月6日(金)播磨カンフェランスが終了後、午後3時から姫路工業大学工学部3422講義室で英Reading大学J.J.Thomson Physical laboratoryのA.C.Wright教授による“How much do we really KNOW about the structure of amorphous solids?”の一般講演がありました。参加者は、姫路工業大学工学部の教職員の先生方と大学院生や学部生諸君であった。Wright先生から、ランダム系物質のイントロダクションから、どのようにしたら構造を調べることができるか、さらに構造から物性を考えるかの内容を明瞭で分かり易い英語で説明をして頂いた。講演後、活発な質疑応答があり、当初予定をしていた講演時間を過ぎる熱心さであった。

謝 辞
 電子メール等による招待講演者との調整などの殆どの事務作業は梅咲幹事が担当し、福永委員長と連絡を取りながら、利用業務部所長室の當眞 一裕氏とJASRI企画調査部の安部 公三子さんとの共同作業で進めました。特に、安部さんの献身的な助力には感謝します。また、JASRI企画調査部の北嶋課長、坂川氏には、随所で助言を頂きました。海外招待者の相生駅でのピックアップ、播磨国際フォーラム会場係り、ポスターセッションやバンケットのバーベキューは、神戸大学の梶並氏と立命館大学SRセンターの半田氏に担当して頂き、神戸大学、立命館大学や京都大学の学生諸君を指導して、実務的な労働力を提供してもらい、本フォーラムのスムースな運営に多大なる協力をして頂きました。播磨カンフェランス後に姫路工業大学書写キャンパスで開催しました一般講演会をアレンジして頂きました応用化学科の矢澤哲夫教授には、感謝します。



福永 俊晴 FKUNAGA  Toshiharu
京都大学 原子炉実験所 中性子科学部門 教授
〒590-0494 大阪府泉南熊取町野田1010-1
TEL:0724-51-2474 FAX:0724-51-2635
e-mail:tfuku@rri.kyoto-u.ac.jp


梅咲 則正 UMESAKI  Norimasa
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ 主席研究員
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0834 FAX:0791-58-2752
e-mail:umesaki@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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