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Volume 16, No.2 Pages 151 - 154

4.SPring-8 通信/SPring-8 Communications

2009B期 採択長期利用課題中間評価について
Interim Review Results of 2009B Long-term Proposals

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRI

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 2009B期に長期利用課題として採択となった5件の課題の中間評価実施結果を報告いたします。長期利用課題の中間評価は、実験開始から1年半が経過した課題の実験責任者が成果報告を行い、長期利用分科会が、対象課題の3年目の実験を実施するかどうかの判断を行うものです。以下に対象課題の評価結果、評価コメントおよび成果リストを示します。

 

-課題1-
課題名 XMCD study of capped ZnO Nanoparticles: The quest of the origin of magnetism
実験責任者(所属) Jesus Chaboy(CSIC-Universidad de Zaragoza)
採択時の課題番号 2009B0024
利用ビームライン BL39XU
評価結果 3年目を実施する

 

〔評価コメント〕

  Of particular importance in the suggested application is to uncover the structural origin of the ferromagneticlike behavior in ZnO nanoparticles capped with organic molecules. This application has been conducting a systematic Zn K-edge XMCD studies at SPring-8. The obtained experimental results seemed to present some importance for understanding of magnetism in ZnO. The obtained information turns feedback into synthesizing of new functional materials. In the review, the suggested close relation between interfaces and magnetism is judged to be crucial in order to understand the origin of the magnetism. This long-term project, therefore, is strongly recommended to proceed based on the suggested research plan for another half period.

 

〔成果リスト〕

[1] J. Chaboy, R. Boada, C. Piquer, M. A. Laguna-Marco, N. Carmona, J. Llopis, M. Garcia-Hernandez, M. L. Ruiz-Gonzalez, J. Gonzalez-Calbet, J. F. Fernandez and M. A. Garcia: “Evidence of intrinsic magnetism in capped ZnO nanoparticles” Physical Review B 82 (2010) 064411.

[2] C. Guglieri and J. Chaboy: “Characterization of the ZnO-ZnS interface in THIOL-capped ZnO nanoparticles exhibiting anomalous magnetic properties” The Journal of Physical Chemistry C 114 (2010) 19629-19634.

 

 

-課題2-
課題名 膜輸送体作動機構の結晶学的解明
実験責任者(所属) 豊島 近(東京大学)
採択時の課題番号 2009B0025
利用ビームライン BL41XU
評価結果 3年目を実施する

 

〔評価コメント〕

 本長期利用課題は、X線結晶学的手法による細胞膜輸送体作動機構の解明を目指している。

 申請者は、4つの課題について研究計画を提出し、それぞれについて大きな進展をもたらした。(1)Ca2+-ATPaseについては、反応サイクルの重要なステップであるが、まだ構造解明されていなかったE1状態(Ca2+高親和状態であるが、Ca2+非結合型)の3.2 Å分解能の構造決定に成功し、Ca2+結合による活性化シグナルの構造基盤を確立した。また、E2状態の構造解析にも成功し、SO42-や阻害剤(thapsigargin)の結合位置の詳細を明らかにした。さらに、ATPアナログであるTrinitrophenyl(TNP)結合型の解析を行い、E2P状態でのTNP-AMPの蛍光の理由を2.6 Å分解能の結晶構造を元に説明できることを論文発表した。(2)Na+ K+-ATPaseについては、E2・2K+Pi状態の結晶構造解析に成功し、結合している2個のK+の親和性が異なることを時間分解結晶解析法で明らかにした。現在、この2個のK+の親和性の違いの生理的意義を調査中である。また、課題であるE1〜P・3Na+・ADP状態の結晶化では、既に6 Å分解能の結晶の調製に成功している。(3)植物液胞膜のH+-PPaseについては、3.5〜5.0 Å分解能の結晶を得た後、脱水和法により結晶の回折分解能を2.0 Å分解能まで向上させ構造解析に成功した。これより、分子の全体構造と基質結合部近辺のMg2+イオンの同定が可能となった。本研究で得られた立体構造に基づいて、本酵素の特異的阻害剤(薬剤)などの開発に向けての研究が大きく進展すると期待できる。(4)膜タンパク質結晶中の脂質二重膜のX線回折法による可視化についても進展が見られた。当初、脂質は、酵素の構造変化に伴って2次元的に流動すると思われたが、解析を進めた結果、3次元的にダイナミックに構造変化を起こしていることを突きとめている。これは、膜タンパク質酵素と脂質二重膜が、ともに構造変化を伴って機能する可能性を初めて可視化したものと言える。

 以上のように、本課題においては長期利用課題申請時の計画通りに研究が進んでいる。本研究により、細胞内で非常に重要な役割を演じる膜輸送システムの全容解明は着実に進展している。これは、同分野の研究において世界のトップを走るものであり、今後のさらなる発展が期待できる。

 

〔成果リスト〕

[1] C. Toyoshima, S. Yonekura, J. Tsueda and S. Iwasawa: “ Trinitrophenyl-derivatives Bind Differently from Parent Adenine Nucleotides to Ca2+-ATPase in the Absence of Ca2+Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108 (2011) 1833-1838.

[2] C. Toyoshima: “Structural Biology of Ion Pumps (P-type ATPases)” 放射光 (Journal of the Japanese Society for Synchrotron Radiation Research) 24 (2011) 2-9.

 

 

-課題3-
課題名 次世代MISトランジスタ実現に向けた材料プロセスインテグレーション
〜金属/高誘電率絶縁膜/Geチャネルゲートスタック構造の硬X線光電子分光〜
実験責任者(所属) 宮崎 誠一(名古屋大学)
採択時の課題番号 2009B0026
利用ビームライン BL46XU
評価結果 3年目を実施する

 

〔評価コメント〕

 次世代高速半導体デバイスを構成するゲート金属/高誘電率膜/Ge基板構造における各界面の化学状態の把握は、将来のMISトランジスタを実現する上で重要な知見を与える。本課題は、いくつかの研究テーマにおいて遅れはみられるが、おおむね予定通りに研究目標を達していると判断される。よって、引き続き本課題を遂行すべきであると考えられる。

 ただし、申請者の要望する微小X線ビームによるHAXPES実験の実施については、中間評価では、技術的措置の検討と得られる成果の位置付けが十分とはいえず、対象となるビームラインの課題採択率が非常に低い状況にもかかわらずマシンタイムを配分すべきであるとは判断しがたい。よって、まずは、試料のデバイスピッチ、アスペクト比など立体構造に工夫を加えるなどして、現在使用しているビームラインでも測定できる可能性の限度を極めた上で、微小ビーム利用を再検討するべきである。その上で、微小ビーム利用の科学的・技術的必要性についても、その意義、期待される成果について明確なビジョンを提示した後、ビームライン担当者と技術的検討を行いマシンタイムの配分を受けて欲しい。

 

〔成果リスト〕

[1] J. Song, K. Kakushima, P. Ahmet, K. Tsutsui, N. Sugii, T. Hattori and H. Iwai: “Post metallization annealing study in La2O3/Ge MOS structure” Microelectronic Engineering 86 7-9 (2009) 1638-1641.

[2] A. Komatsu, K. Nasu, Y. Hoshi, T. Kurebayashi, K. Sawano, M. Myronov, H. Nohira and Y. Shiraki: “Study of HfO2/Si/Strained-Ge/SiGe Using Angle Resolved X-ray Photoelectron Spectroscopy” ECS Transactions 33 (3) (2010) 467-472.

[3] Y. Setsuhara, K. Cho, M. Shiratani, M. Sekine and M. Hori: “X-ray photoelectron spectroscopy for analysis of plasma-polymer interactions in Ar plasmas sustained via RF inductive coupling with low-inductance antenna units” Thin Solid Films 518 (2010) 3555-3560.

[4] K. Takenaka, K. Cho, Y. Setsuhara, M. Shiratani, M. Sekine and M. Hori: “Development of a Combinatorial Plasma Process Analyzer for Advanced R&D of Next Generation Nanodevice Fabrications” Ceramic Transactions 219 (2010) 279-284.

[5] Y. Setsuhara, K. Cho, K. Takenaka, M. Shiratani, M. Sekine and M. Hori: “Low-Damage Plasma Processing of Polymers for Development of Organic-Inorganic Flexible Devices” Surface and Coating Technology 205 (2010) S355-S359.

 

 

-課題4-
課題名 内包フラーレンの単結晶電子密度分布解析による分子軌道状態と分子内電荷移動の精密決定
実験責任者(所属) 北浦 良(名古屋大学)
採択時の課題番号 2009B0027
利用ビームライン BL02B1
評価結果 3年目を実施する

 

〔評価コメント〕

 本長期利用課題は、金属内包フラーレンの物質創成からデバイス応用開発に向けた材料開発研究を、金属の内包形態を系統的に制御しながら展開しようとする、長期的展望にたった研究の一環として提案されたものである。その中で、本課題は、材料開発研究の方針に沿って、高輝度放射光を用いた単結晶精密構造解析により、1)Li等の原子番号の小さな内包金属、2)金属カーバイド等のフラーレン構成原子であるカーボンを含む内包分子、3)フラーレンの一次元構造であるナノチューブの内包物質の構造規則性の3つの課題を系統的に明らかにする役割を担っている。これまで、金属内包フラーレンの構造は、SPring-8においては、粉末X線回折による電子密度解析により解明されてきた。しかし、本課題の研究対象となる内包物質は、フラーレンとの散乱能のコントラストがつきにくいため、高いデータ分解能を必要とする。よって、SPring-8の単結晶構造解析ビームラインでの長期的かつ系統的構造研究を必要とするものである。採択時には明確に提示されず懸案となっていた、研究背景およびロードマップが、中間評価では上記の通り明確に提示された。加えて、安定な単結晶試料作成法の開発が確立し、1)のLi内包フラーレンについては、興味深い研究成果が発表され、デバイス開発に向けた応用研究の基礎となる、内包原子の電場等の外場による制御のその場観察等、今後の展望としての重要な研究課題も追加提案され、今後の発展も期待される研究課題の進展も図られている。研究内容が、マシンタイムに比較して多すぎる感はあるが、それについては、研究の進展にあわせた選択が必要とされるであろう。以上のことから、本課題を長期利用課題として継続されることは、おおむね妥当と判断する。また、本評価に基づき、シフト数についても、各期のシフト数を適切に加増して割り当てることも併せて推奨する。

 

〔成果リスト〕

[1] S. Aoyagi, E. Nishibori, H. Sawa, K. Sugimoto, M. Takata, Y. Miyata, R. Kitaura et al.: “A layered ionic crystal of polar Li@C60 superatoms” Nature Chemistry 2 (2010) 678-683.

 

 

-課題5-
課題名 放射光X線回折法およびスペクトロスコピーを併用した地球中心部の総合的解明
実験責任者(所属) 大谷 栄治(東北大学)
採択時の課題番号 2009B0028
利用ビームライン BL10XU
評価結果 3年目を実施する

 

〔評価コメント〕

 本課題は、地球中心部の高温・高圧状態を実験室において模擬的につくり出し、放射光X線回折法、スペクトロスコピーを併用して構造および物性を調べ、地震学で得られた密度と音速を説明する地球中心部の物質科学モデルの構築を目指すものである。2009B〜2010B期において、以下のような結果が得られている。

1)高温高圧X線回折実験およびブリルアン散乱測定による核物質・マントル物質の研究

核の条件においてFe系合金の300 GPa、4500 KまでのX線粉末回折を可能とし、安定相の決定、融解の判定を可能とした。また、X線回折とブリルアン散乱の同時測定法により下部マントル条件におけるケイ酸塩鉱物の音速と密度相関の測定を実施した。

2)圧力スケールの研究:NaCl-B2相のX線粉末回折実験およびブリルアン散乱測定

核の研究に不可欠な圧力スケールの確立を目指し、X線粉末回折法によりNaCl-B2の構造の状態方程式を304 GPaまで決定するとともに、X線回折とブリルアン散乱法により常温で120 GPaに至る下部マントル領域までの音速と密度の測定をおこない、圧力の絶対スケールを決定した。

3)メスバウアー分光の導入

この項目は本長期利用課題での最も主要なテーマである。2年目にBL10XUにおいて装置の導入と立上げが開始されたところであり、具体的な結果が得られるには至っていないが、競争的資金を獲得しつつ予定通りに装置の立上げと調整が進められている。続く2011A期において装置の立上げが完了し、高圧下でのマントル物質のデータが得られ始める予定になっている。今後、X線回折実験において相転移の解明されたFe系物質のスピン状態変化や磁気転移の詳細を明らかにする計画である。また、ブリルアン散乱により音速を計測することにより、音速に対するスピン転移の影響を明らかにし、地震波速度との対比により下部マントルにおけるスピン転移の影響を評価する予定になっている。

 以上のように、放射光X線回折法およびスペクトロスコピーを併用した下部マントルおよび核の物質の高温・高圧下での構造・物性データの取得と解析、新たな装置の導入と立上げがほぼ計画通りに進捗していること、さらには適時外部発表がなされている状況から、最終年には地球中心部の総合的解明に向けた重要な知見を得ることが大いに期待できる。

 なお、本中間評価は提出された長期利用課題中間評価用書類により書類審査された。

 

〔成果リスト〕

[1] E. Ohtani, D. Andrault, P. D. Asimow, L. Stixrude and Y. Wang: “Advances in high-pressure mineral physics: From the deep mantle to the core” Physics of the Earth and Planetary Interiors 174 1-4 (2009) 1-2.

[2] T. Sakai, E. Ohtani, H. Terasaki, M. Miyahara, M. Nishijima, N. Hirao, Y. Ohishi and N. Sata: “Fe-Mg partitioning between post-perovskite and ferropericlase in the lowermost mantle” Physics and Chemistry of Minerals 37 7 (2010) 487-496.

[3] H. Asanuma, E. Ohtani, T. Sakai, H. Terasaki, S. Kamada, T. Kondo and T. Kikegawa: “Melting of Iron-silicon alloy up to the core-mantle boundary pressure: implications to the thermal structure of the Earth's core” Physics and Chemistry of Minerals 37 6 (2010) 353-359.

[4] S. Kamada, H. Terasaki, E. Ohtani, T. Sakai, T. Kikegawa, Y. Ohishi, N. Hirao, N. Sata and T. Kondo: “Phase relationship of the Fe-FeS system in conditions up to the Earth’s outer core” Earth and Planetary Science Letters 294 (2010) 94-100.

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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