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Volume 16, No.2 Page 66

理事長室から -SPring8は大震災被災施設を支援-
Message from President - SPring-8 Helps the Photon Factory –

白川 哲久 SHIRAKAWA Tetsuhisa

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 のっけから私事に亘ることで恐縮ですが、最初にJASRIに勤務していた今から16年前の平成7年1月、私は神戸の兵庫区で阪神・淡路大震災の震度7を経験しました。幸いなことに、当時住んでいた単身赴任者用のマンションは築後間もない新しい建物で耐震設計もしっかりしていたためか、周囲の木造家屋が軒並み全壊した中で比較的軽度の損傷で済み、私自身も怪我一つせず無事に生き延びました(当時、ポートアイランドにあったJASRIの事務所は使用不能となり、それを奇貨として事務所を播磨科学公園都市に移転したのでした)。


 その時の体験から、今般の東日本大震災の被災者の方々のご苦難は如何ばかりかと、他人事とは思えず心からお見舞い申し上げます。まして今回は、大地震に加えて史上最大級の大津波と、これまた歴史に残る福島第一原子力発電所の事故が重なり、阪神・淡路の時とは比べ物にならないほどのご労苦がおありのこととお察し申し上げます。


 幸いにも、ここSPring-8では施設もスタッフも全く被害なく、この4月から2011A期のユーザー運転を開始し、いつもどおりの利用研究が行われています。


 そのような中で、3月末に文部科学省量子放射線研究推進室主催で「量子ビーム施設の連携・協力に関する連絡会議」が開催されました。ここでは、例年各施設間の連携・協力のあり方等が話し合われるのですが、今年はまず東日本大震災による各施設の被災状況が詳しく報告され、それをもとに被災施設をいかに支援して行くかが大きな議題となりました。特につくばのPFと東海村のJPARCは被災の程度が大きく、施設の復旧と並んで各施設で予定されていた利用研究課題への支援が緊急の課題であることが出席者間で共有され、SPring-8を始めとする被災していない施設は被災施設に対して可能な限りの支援を検討するよう要請がありました。これを受けてSPring-8では、大車輪で部内の検討を行い、まず4月1日付けで「緊急声明文」をホームページに掲載して「量子ビーム施設震災優先枠」を設定し、被災施設で実施困難となった利用研究課題を緊急的に支援する措置を講ずる方針を明らかにし、直ちにKEKのPF側と具体策の協議に入りました。JASRIは理化学研究所のご協力を得て、2011A期の運転計画の見直しと緊急用留保時間の見直しを行い、26本ある共用ビームラインについて一本あたり約250時間のユーザータイムを確保、これをもとにPFで採択済みの実験課題の中から(SPring-8での課題審査を経て)選定された課題にビームタイムを割り振り、既にこの連休明けから一部のテーマについてPFのユーザーによるSPring-8での利用実験が開始されています。今回はこの措置により、2011A期分としてPF側から希望のあったほとんど全ての利用研究課題がSPring-8で実施される見込みですが、今後のPFの施設復旧スケジュール如何によっては、2011B期においても支援を継続することも検討中です。


 SPring-8としては、幸いにも今回被災を免れた放射光の基幹施設として、上記の支援策が最大限有効に活用され、我が国の放射光利用研究の進展に滞りが生ずることの無いようご協力させていただき、翻ってそれが我が国の震災復興の一助になることを心から願っております。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794