ページトップへ戻る

Volume 07, No.5 Pages 314 -317

3. 専用ビームライン/CONTRACT BEAMLINE

創薬産業ビームライン(BL32B2)の完成
Completion of Pharmaceutical Industry Beamline (BL32B2)

岬 真太郎 MISAKI Shintaro、田中 政行 TANAKA Masayuki

蛋白質構造解析コンソーシアム Pharmaceutical Consortium for Protein Structure

Abstract
The construction of the exclusive beam-line (Pharmaceutical Industry Beam-line), BL32B2, of The Pharmaceutical Consortium for Protein Structure Analysis (PCProt), composed of 22 pharmaceutical companies affiliating with the Japan Pharmaceutical Manufacturers Association (JPMA), has been completed on May 16th, 2002, without any delay. In this report, process of the construction, activity of PCProt and the schedule of the operation is described. Normal operation, so called users mode, of the Pharmaceutical Industry Beam-line would be started since this autumn.
Download PDF (85.66 KB)


1.はじめに
 日本製薬工業協会加盟の製薬会社(22社)で設立された蛋白質構造解析コンソーシアム(PCProt: Pharmaceutical Consortium for Protein Structure 以下、蛋白コンソと略す)によるビームライン計画について、昨年、SPring-8利用者情報(Vol.6 No.3)にて報告した。その後、建設は順調に進み、現在、創薬産業ビームラインでは今秋からの利用に向けた準備が進められている。今回の報告では、ビームライン完成までの経緯と蛋白コンソの活動、ならびに、今後の利用計画を中心に報告する。


2.建設
 創薬産業ビームラインの建設は、蛋白コンソからスプリングエイトサービス(SES)への発注により実施された。表1は建設日程を示したものであるが、全ての工事はほぼ予定通り進められ、最終的に2002年5月16日の放射線の漏洩検査に合格し実質的に無事建設を完了した(写真1、2、3)。

表1 創薬産業ビームラインの工事工程表







写真1




写真2




写真3



3.コンソーシアムの活動
事務局開設(2001年7月11日)
 創薬産業ビームラインの建設関係ならびに利用準備を円滑に進めるために、現地事務局(小椋康博事務局長、他事務員1名)を開設した。

BL責任者赴任(2001年9月1日)
 専用ビームラインにおいて、重要な役割を担うビームライン責任者として、実務経験を有する勝矢良雄氏を迎えた。

タンパク質構造解析・プロテオーム研究に関する欧州調査(2001年9月10日〜9月17日)
 創薬産業ビームラインを有効に利用するための情報を得る目的で、欧州放射光施設ESRF(グルノーブル)、プロテオーム関連施設(ジュネーブ)、ポストゲノム研究関連施設(ハイデルベルグ)、カロリンスカ研究所(ストックホルム)、タンパク質構造解析—分子設計関連ベンチャー(ケンブリッジ)を訪問し多くの有用な情報を得ることが出来た。なお、本調査は蛋白コンソ、日本製薬工業協会-研究開発委員会、ならびに、宇宙開発事業団の合同で実施された。調査の詳細に関しては、平成13年11月発行のタンパク質構造解析・プロテオーム関連欧州調査報告書(日本製薬工業協会-研究開発委員会、蛋白質構造解析コンソーシアム、宇宙開発事業団合同発行)を参照のこと。

宇宙開発事業団との公式意見交換(2001年12月20日)
 これまでの実験から、宇宙環境を利用したタンパク質の結晶化では良質のタンパク質結晶が得られる可能性が高いことが示されており、実用面で注目を集めている。蛋白コンソのメンバーも、この宇宙環境を利用したタンパク質の結晶化を実施する機会を得ることを目的とし、宇宙開発事業団との協力関係を構築(研究協力協定書の締結)するための意見交換会を行った。

蛋白質構造解析コンソーシアム・ホームページの開設(2002年2月8日)
 蛋白コンソの創薬に対する取り組み方を始め、その活動内容を、一般の方々にも広く知って頂く目的でホームページ(http://www.pcprot.gr.jp/)を開設した。

理化学研究所との共同研究契約の締結(2002年7月9日)
 蛋白コンソに参加している各社の構造解析能力の向上を目的として、理化学研究所と共同研究契約を締結した。具体的には、細菌由来のタンパク質をターゲットとしたX線結晶構造解析を共同で遂行することで、相互の解析技術の向上を図る事を目的とするものであり、同時に、得られた解析結果を共有・公開し、タンパク質の構造解析データの充実に資するというものである。ちなみに、得られた解析結果は、現在、日本が取り組んでいるタンパク3000プロジェクトの成果の一部としてカウントされる性質のものであり、本共同研究契約は、民間企業の集合体である蛋白コンソの官への協力姿勢を具体的に示している。


4.創薬産業ビームライン完成式典
完成式—東京(2002年5月21日)
 蛋白コンソの第3回定例総会の後、記念講演会(1.理化学研究所横浜研究所研究推進部の内丸調査役「タンパク3000プロジェクトを見据えた理化学研究所の取組」、2.理化学研究所播磨研究所ハイスループットファクトリー長の宮野主任「タンパク質構造解析の実際」)を開催した。その後、創薬産業ビームラインの完成式を実施した(写真4)。来賓は、内閣府および文部科学省の大臣官房審議官をはじめ、文部科学省の課長、厚生労働省の研究企画官、宇宙開発事業団理事、理化学研究所横浜研究所長等錚々たるメンバーで、本コンソーシアムに対する官の大きな期待を直接感じとることが出来た。




写真4


完成披露式—SPring-8(2002年5月30日)
 現地での完成披露式は、創薬産業ビームラインのお披露目と現地の関係者の方々に感謝の意味を込めて開催した(写真5)。理化学研究所・播磨、ならびに、高輝度光科学研究センターの関係者の方々をはじめ、ビームラインの建設を請け負って頂いたスプリングエイトサービスの方々に参加して頂いた。また、遠方にも関わらず、宇宙開発事業団、厚生労働省の関係者の方々も参加して下さった。




写真5


5.創薬産業ビームライン利用計画
安全研修
 第7サイクルからのユーザー利用に向け、7月5日より、22社の実験責任者(37名)を対象とした安全研修を開始した。現在、10社の研修が終了した段階であるが、第7サイクルの前半には、全ての企業に対する安全研修が終了する予定である。

利用計画
 第7サイクルで実施する安全研修が終了次第、各ユーザーの本格利用がスタートする。今年度は、期中利用開始のため、1社当たりのユーザータイムは12シフトである(通常18シフト/年が基本)。利用に当たっては、コンソーシアム内の利用運用規則を策定すると共に、ホームページよりアクセスできる予約システムを構築した。


6.おわりに
 日本の製薬業界が世界屈指の放射光施設であるSPring-8に専用ビームラインを建設するという計画は、それまで国内の多くの製薬会社においてタンパク質X線構造解析の研究者が少人数で構造解析を任されてきた状況から考えても極めて困難であるように思われた。しかし、今日、ポストゲノムの分野で、世界的規模でタンパク質の立体構造情報が極めて有用であるとの認識が持たれるようになった。また、日本政府もゲノム解読での遅れを取り戻し、生命科学の分野で日本がイニシアティブをとれる環境整備に力を注ぐという政治的時代背景にも助けられ、今、創薬産業ビームラインが現実のものとなり完成を迎えた。創薬産業ビームラインの建設・利用を目的として設立された蛋白コンソはその設立の段階から今日に至るまで、その活動の中には多くのエピソードがあり、この分野に関係する人々にとっては、むしろ、それらの内容の方が興味深く面白いかもしれない。今後、それらのエピソードについてもお伝えすることが出来るチャンスがあると思われるので楽しみにしていて欲しい。

 創薬産業ビームラインは、理化学研究所・播磨、高輝度光科学研究センターをはじめ、各関係機関の多くの方々に御協力をいただき完成しました。皆様方の御協力に対して、心より感謝すると同時に、今後、蛋白コンソは大きな成果で皆様方の御期待に応えることをお約束いたします。





岬 真太郎 MISAKI  Shintaro
塩野義製薬株式会社
〒553-0002 大阪市福島区鷺洲5丁目12番4号
TEL:06-6458-5861 FAX:06-6458-0987
e-mail:shintaro.misaki@shionogi.co.jp

略歴
1989年4月 岡山大学大学院 自然研究科博士課程修了
1989年〜1992年 カンザス大学 化学教室 博士研究員
1992年3月〜1996年 姫路工業大学 理学部 生命科学科助手
1996年9月〜 塩野義製薬株式会社




田中 政行 TANAKA  Masayuki
エーザイ株式会社 分析研究所 構造解析室 室長 工学博士
〒300-2635 茨城県つくば市東光台5-1-3
TEL:0298-47-5652 FAX:0298-47-5771
e-mail:m8-tanaka@hhc.eisai.co.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794