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Volume 07, No.5 Pages 272 - 273

所長の目線
Director’s Eye

吉良 爽 KIRA Akira

(財)  高輝度光科学研究センター 副理事長、放射光研究所長 JASRI Vice President, Director of JASRI Research Sector

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 昨年から今年にかけて、国の評価委員会によるSPring-8の評価が行われました。その評価を実際に行ったワーキンググループの中間答申がまもなく公表されますが、要点は「SPring-8は現在までに十分な成果を上げ、利用者の間にその存在が定着してきたものと評価できる」が、「これまでの建設、整備、利用者拡大に重点をおいてきた時期から『本格的利用期』に至ったものと考え、より優れた、より多くの成果を上げることに力点を移して行くべきである」ということです。主な論点として挙げられているのは、
1)利用研究への戦略的な観点の導入
2)新たな利用者の参画や産業利用促進のための支援の充実
3)施設建設・整備期から本格的利用期に応じた組織改革を行うべき
などです。このうち最初の、施設の能力を最大限に活用し成果を上げるために「戦略性」、「重点化」の観点を導入すべき、との提言は、単にJASRIだけでなく、むしろ利用者全体に対する問題提起であると思います。

 SPring-8のビームラインを利用形態で分類すると、共同利用、専用、原研・理研の3種類があります。専用および原研・理研のビームラインの多くは、特定の目的に使われているという意味で、SPring-8の戦略部分を担っていると言えます。ただ、中間答申は、必ずしもこの部分が弱いということを指摘しているのではなく、これらと比べて、また外国の施設に比べて、SPring-8の共同利用の部分の成果の出方が不十分なのではないか、という議論に立脚しています。そして、「戦略的な研究推進とパワーユーザーの活用」や「成果を重視した課題選定により優れた成果をあげる」などの提言がされています。言い換えると、利用者の全く自由な利用だけでは、共同利用のアカウンタビリティーを維持できないのではないか、と言う問題提起であろうと思われます。さらに、JASRIは戦略的な動きにおいて主体性を発揮するべきである、との指摘があります。

 JASRIは上の提言を重く受け止めて、可能なことから実行に移すことにして、7月に行われた諮問委員会に、まず課題選定の見直しと時間配分の重点化についての審議を依頼しました。これは、決してすべての課題や利用時間を重点化、プロジェクト化すると言うような話ではなく、例えば、それを実際行うとしたらどの程度の割合にするべきか、と言うような議論です。これは、利用に関する方針の大きな変更になり、現在の利用者の利益ないしは既得権に影響する可能性があります。それ故に、諮問委員会で十分に審議をしていただいた結果を踏まえて、とりあえずJASRIの責任で出来ることを実行したいと考えています。とりあえず、と言ったのは、JASRIがその役に適するかと言う議論も起きうることを想定してのことです。私は、JASRIがそれにふさわしいように育つのが、現実的な解だろうという気がします。中間答申の中で、JASRIが戦略的な主体性をもて、としているのも、その様な希望を込めてのことだろうと思います。

 答申では、もっと一般化して、「広範な研究分野を俯瞰しつつ研究をリードできる体制の構築」という提言をしています。上に述べた第一歩から出発して、JASRIがこの役を果たしうるまでに成長することを私は願っています。JASRIは利用者のよき奴隷たれ、それ以上のことはするな、と言うような論も利用者も含めて外部にあることは、知らないわけではありませんが、本当にそれで良いのかを、JASRIも利用者も共に考えてみる時期に来ていると思います。

 SPring-8の施設が世界一であり、優れた性能を持つことは中間答申においても認められています。しかし、その施設の将来の展開は、今やそこから出る成果に懸かっています。世間を説得できる成果を見せることが、世界に誇る装置を発展させるための、今の状況下での境界条件です。科学者の認めるあるいは主張する良い成果が、必ずしもそれに該当しないのが難しいところです。

 中間答申のもう一つの重要な論点は、かねてからの問題である支援の強化にあります。JASRIの評判を不当に悪くしている支援の問題については、機会を改めて議論したいと思いますが、これは、もっぱらJASRIが対応すべきものと考えています。今回は、JASRIと利用者、特に従来からの利用者、の両方が考えて対処すべき問題を取り上げました。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794