Volume 16, No.2 Page 146
4.SPring-8 通信/SPring-8 Communications
利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告7 -長期利用課題分科会-
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair - Long-term Proposal –
2009年度から2年間、長期利用課題分科会の主査をさせていただきました。長期利用課題は2000B期から導入され(当初は特定利用課題と呼ばれていました)、長期的で戦略的な観点から課題を提案し、最大で3年間のビームタイムを計画的に利用できます。すでに実績もあり定着してきております。課題選択の基準は、課題の科学的・社会的意義が高いことはもちろんですが、単発の課題申請では計画的に実行が困難であり、長期課題とすることで戦略性が有効に発揮できることが要求されます。もちろん、SPring-8で行う訳ですから、そこでしかできない実験であるとか、施設との連携も重要な観点となります。書面審査、それに続きますヒアリング(通常、30分の発表と30分の質疑)により審査は行われるのですが、それなりに厳しい審査を通過しなければならず、表には出ませんが不採択となる課題も出てきます。海外からの申請が多いのも特徴でしょう。わざわざ長期利用課題のヒアリングのためだけに来日される海外利用者がいることを考えると、利用者にとりましても魅力的な制度であると思えます。施設としても、申請、中間評価、事後評価時のヒアリングにおいて、申請者や実施者に最大限の便宜を図って下さっていて、特に海外からの利用者に対してはテレビ会議等でヒアリングを実施する場合もあります。また、審査過程で採択されても、計画の見直しや試料選定の見直し等のコメントがつくことも多く、1.5年間の課題実施の後に、書面および面接による中間評価を受けます。そこでは、どのような成果が上がっているのか、また採択時に長期利用課題評価委員から出されたコメントに対してどのように対処しているのか、後半の研究実施計画が妥当であるかなど厳しい評価がされます。そのため、事後評価においては多くの長期利用課題がすばらしい成果を挙げていることが明らかとなります。
私が今期の長期利用課題評価委員の方々と審査をし、この2年間で採択させていただいた新規課題は以下の通りです。Chaboy課題(2009B採択、BL39XU)、豊島課題(2009B採択、BL41XU)、宮崎課題(2009B採択、BL46XU)、北浦課題(2009B採択、BL02B1)、大谷課題(2009B採択、BL10XU)、山田課題(2010A採択、BL40XU)、Cramer課題、BL09XU)、水谷課題(2011A、BL20XU)、Zolensky課題、BL37XU)、吉本課題(2011A採択、BL19B2)です。この中にはすでに中間評価を終えている課題もありますが、それぞれすばらしい成果を挙げ、多くのインパクトの高い論文を書かれているように思います。
SPring-8のような大型施設は、ボトムアップ的な研究を支える一方、学術的、社会的な要請により多くのプロジェクト研究を支えております。長期利用課題はその中にあり、ちょうど中間的な役目を果たしていると感じます。すなわち、基本は個人研究者ベースなのですが、その研究を戦略的・計画的に行うために長期保証されたビームタイムを供給している訳です。研究者にとり非常に有効な制度であると感じています。
また、長期利用課題で行われる研究の質の高さを支えているのは、もちろん利用者の資質による訳ですが、新規採択時のみならず中間評価においても書面審査とヒアリングを丁寧に行なっていることであると感じます。そのため、委員の方々には多大なご努力をいただいております。また、研究分野によっては分科会委員以外の方にも審査をお願いすることがあります。
最後になりましたが、これら審査を非常にまじめに多大な労力をかけて行っていただいております方々のご協力に深く感謝いたします。
金谷 利治 KANAYA Toshiji
京都大学 化学研究所
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