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Volume 16, No.2 Pages 144 - 145

4.SPring-8 通信/SPring-8 Communications

利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告6 -ナノテクノロジー分科会-
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair - Nanotechnology –

越川 孝範 KOSHIKAWA Takanori

大阪電気通信大学 エレクトロニクス基礎研究所 Fundamental Electronics Research Institution, Osaka Electro-Communication University

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 (財)高輝度光科学研究センター(JASRI)が運営するSPring-8では、2002年度から5年間、国家プロジェクトである「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」が実施され、対象課題に対する重点支援が行われた。その結果、Nature、Scienceに掲載された論文を含め、合計227報(2007.3.15集計)の原著論文が発表されるなど、多くの質の高い研究成果をあげるのに貢献してきた。ナノテクノロジー総合支援プロジェクトは、第2期科学技術基本計画においてナノテクノロジー・材料分野が重点分野として設定されたことを受けて実施された国家プロジェクトであるが、第3期科学技術基本計画においても同分野は引き続き重点領域として設定されており、SPring-8に対してもさらなる成果の創出と新たな研究領域の開拓が期待された。これらの状況を踏まえ、JASRIでは「重点ナノテクノロジー支援」をSPring-8運営上の施策として重点領域に指定し、2007年度以降においても具体的なイノベーション創出に資する支援を展開することとした。この「重点ナノテクノロジー支援」は、「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」を引き継いだプログラムであるが、新規の施策を追加することにより、利用者のさらなる利便性を図ったものである。主な新規施策としては、以下のものがあげられる。

 

1)「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」においては、放射光利用研究手法に基づくテーマ設定により重点支援を展開してきたが、「重点ナノテクノロジー支援」では、「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」における支援実績を踏まえ、5〜10年後の具体的なイノベーション創出に直結させることを目的として、ナノテクノロジー・材料分野の研究領域を支援テーマとして設定した。

 

2)支援テーマの設定に当たっては、既存の領域で、重点化により一層の成果拡大が見込まれる「重点領域」3テーマ(次世代磁気記録材料、エネルギー変換・貯蔵材料、ナノエレクトロニクス材料)と、全く新しい概念に基づく新規機能性材料研究開発やナノテクノロジー・材料分野の研究を強力に推進する新規利用技術に関する課題を実施する「先進新領域」4テーマ(新規ナノ粒子材料、新規ナノ薄膜機能材料、新規ナノ領域計測技術、新規ナノ融合領域)に区分して実施した。

 

3)放射光利用の新領域の開拓への対応として、新たに対象ビームラインとしてBL40B2を加え、これまで対応が遅れていたナノ高分子材料研究、ナノバイオ研究を推進する体制を整備した。

 

4)課題審査において、一般課題とは異なる審査委員、審査基準を採用することにより、「イノベーションの創成」、「新規ユーザー開拓」、「新研究領域の創出」に重点を置いた審査を実施。以下に、2009年度ならびに2010年度に行った審査の主な内容について報告する。

 

 審査に際しては一般課題と異なる審査委員、審査基準を採用することにより、より有効に本分野の新規申請が行いやすくなることを考慮した。表2は各期における応募数、採択数ならびに採択率を示している。2009年Bから2010年Bまではおおよそ70%を少し超える採択率であったが、2011年Aでは、応募件数ならびに採択率(62.7%)も減少している。これは採択数自身が減少したことを反映しているが、第一段階審査員から出てきた評価が高くなかったことが反映している。各分野の応募数、採択数ならびに採択率を表3に示す。分野による採択率に一部ばらつきがある。ナノ環境技術は25%という低率である。新規ナノ融合領域研究の54.5%ならびに新規ナノ領域計測技術の61.9%を除くと他は70%前後以上になっておりほぼ申請者の要求を満たしていると思われる。ナノ環境技術が25%という低率であるのは、ナノテクノロジーとの関係が明白でない環境技術に関する課題が多かったため、重点ナノテク支援として採択しなかったことが主な理由である。ビームライン別の応募数、採択数ならびに採択率を表4に示す。BL13XUの51.2%からBL17SUの100%までかなりばらついている。50%台の二本のビームライン(BL13XU、BL37XU)については競争が大きくかつ応募数も多いことを考えるとビームタイムの枠の増加等の処置を構じることが必要になることを示唆している。

 研究成果についてはNature Nanotechnology、Nature Materials、Physical Reviewを始めとして多くの論文が発表されている。

 

 

表1 使用するビームライン(各BLで20%程度のユーザータイムを利用)

BL02B2 粉末X線構造解析
BL13XU 表面界面構造解析
BL17SU 理研 物理化学 III (分光型光電子・低エネルギー電子顕微鏡)
BL25SU 軟X線固体分光
BL27SU 軟X線光科学
BL37XU 分光分析
BL39XU 磁性材料
BL40B2 小角X線散乱
BL47XU 光電子分光、マイクロCT

 

表2 重点ナノテクノロジー課題 2009B〜2011A期毎の採択率

応募数 採択数 採択率
2009B 60 44 73.3%
2010A 64 47 73.4%
2010B 68 48 70.6%
2011A 59 37 62.7%

 

表3 重点ナノテクノロジー課題 2009B〜2011A分野別採択率

分野 応募数 採択数 採択率
[NA1]新規ナノ粒子機能材料 15 12 80.0%
[NA2]新規ナノ薄膜機能材料 23 16 69.6%
[NA3]新規ナノ融合領域研究 11 6 54.5%
[NA4]新規ナノ領域計測技術 21 13 61.9%
[NF1]次世代磁気記録材料 31 23 74.2%
[NF2]エネルギー変換・貯蔵材料 47 37 78.7%
[NF3]ナノエレクトロニクス材料 68 48 70.6%
[NF4]ナノ医療・ナノバイオ技術 11 8 72.7%
[NF5]ナノ環境技術 8 2 25.0%
[NF6]先端ナノ計測技術 16 11 68.8%

 

表4 重点ナノテクノロジー課題 2009B〜2011A BL別採択率

BL番号 応募数 採択数 採択率
BL02B2 43 38 88.4%
BL13XU 43 22 51.2%
BL17SU 6 6 100.0%
BL25SU 29 18 62.1%
BL27SU 24 22 91.7%
BL37XU 39 22 56.4%
BL39XU 14 12 85.7%
BL40B2 20 13 65.0%
BL47XU 33 23 69.7%

 

ナノテクノロジー分科会

主査

  越川 孝範 大阪電気通信大学 教授

委員(50音順)

  木村  滋 高輝度光科学センター グループリーダー

  松井 真二 兵庫県立大学 教授

  松岡 秀樹 京都大学 教授

 

 

越川 孝範 KOSHIKAWA Takanori

大阪電気通信大学 エレクトロニクス基礎研究所

〒572-8530 大阪府寝屋川市初町18-8

TEL:072-824-1131

e-mail:kosikawa@isc.osakac.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794