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Volume 16, No.2 Pages 141 - 143

4.SPring-8 通信/SPring-8 Communications

利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告5 -産業利用分科会-
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair - Industrial Application –

鈴木 謙爾 SUZUKI Kenji

(財)特殊無機材料研究所 Advanced Institute of Materials Science

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 2009B期から2010A期まで、利用研究課題選定委員会産業利用分科会は、主査:鈴木謙爾、委員:松井純爾、堀江一之、梅咲則正のメンバーにより運営されました。任期を終えるに当たり、この2年間にわたる活動ならびに気付いた問題点を要約して報告します。

 

 

(1)今期間の産業利用分科会における課題審査・選定は、従来からの基本的スタンスを継承して行われました。その要点は、次の通りです。

 

①課題審査・選定の基準は、その課題の科学・技術分野における先端性ならびに貢献度が基礎となることは当然ですが、特に研究成果の産業技術基盤ならびに社会経済への寄与度を大きいウエイトをもって評価しました。

 

②課題申請に際しては、領域指定されている「重点産業利用課題」あるいは「一般課題(産業利用分科)」のいずれかの枠を選択する二つの入口方式になっています。いずれの入口を選択しても、産・官・学界からの申請に対して、全くハンディキャップは設定されていません。ただし、「重点産業利用課題」領域を選択した場合、第二希望として「一般課題(産業利用分科)」領域での審査も可である旨を指定することができます。

 

③「一般課題(産業利用分科)」枠への申請では、半年毎のA期とB期の年2回の申請チャンスがありますが、「重点産業利用課題」領域に申請する場合は、四半期毎のAI、AII、BI、BII期の年4回の機会が設けられています。「重点産業利用課題」領域の年4回の応募・申請は、産業界から高い支持が表明されており、今後も継続して運用すべき定着した方式であると考えています。

 

④「重点産業利用課題」枠で利用申請ができるビームラインは、12本の一般共用ビームラインおよび重点産業利用に特化された3本の専用ビームラインが用意されています。AI期およびBI期において、「重点産業利用課題」枠に配分される共用ビームラインのシフト数はかなり限定されています。ちなみに、これらの12本のビームラインの利用可能装置ならびに産業利用枠シフト数は、(BL02B2(粉末回折、12シフト)、BL20B2(イメージング、12シフト)、BL20XU(イメージング、15シフト)、BL25SU(固体分光、18シフト)、BL27SU(光化学、12シフト)、BL28B2(白色X線回折、9シフト)、BL37XU(分光、6シフト)、BL40B2(構造生物学、24シフト)、BL40XU(高輝度ビーム、18シフト)、BL43IR(赤外物性、12シフト)、BL47XU(光電子分光、マイクロCT、18シフト)、BL17SU(理研、12シフト)です。「重点産業利用課題」枠に特化された3本のビームラインは、BL14B2(XAFS、120シフト)、BL19B2(粉末回折、イメージング、極小角散乱、蛍光X線分析、多軸回折装置、120シフト)、BL46XU(高エネルギーXPS、薄膜X線回折、多軸回折装置、120シフト)であり、AI、AII、BI、BIIのいずれの期でも利用申請ができます。

 

 

(2)次に、今期間における課題の応募ならびに採択の状況について説明します。

 

①表1に、「重点産業利用課題」ならびに「一般課題(産業利用分科)」の2009B期から2011A期までの2年間の応募数、採択数そして採択率をまとめて示します。全体としての傾向は、2007B〜2009Aの2年間のそれを継承しており、特に目新しい変化は認められません。いずれの期においても、II期の応募数はかなり少なく、I期の60%程度に落ち込んでいます。それにもかかわらず、II期の採択率は低下しており、採択の門戸が狭くなっています。例えば、2010BII期の採択率は2010BI期の約半分にまで絞られており、極めて厳しい競争になっています。これは、II期の応募が産業利用分野のみであり、さらに利用可能ビームラインが3本に限定されているので、産業界のみならず官・学界からも申請が殺到することに起因していると考えられます。

 

②「一般課題(産業利用分科)」の応募ならびに採択の状況は、この2年間も従来の傾向を踏襲しており、特筆すべき変化は見当たりません。応募数は「重点産業利用課題」の30%程度ですが、採択率は60%前後を保持しており、「重点産業利用課題」にくらべて特に不利になっているとは思われません。

 

③ここで注目していただきたいのは、産業界からの応募が重点産業利用領域に集中するのは当然ですが、はたして官・学界から産業利用分野に対してどの程度の課題申請が行われているか、という問題です。2010B期を例にとれば、応募課題数も採択課題数も約1/3が官・学界からの応募・申請になっています。

 

④産業利用分科の課題採択が、他の5分科に比べて困難かあるいは容易であるかを調べてみました。2010B期の統計では、産・官・学を網羅する産業利用分科の応募課題数の割合は19%、採択率は20%となっていますが、その内産業界からの応募課題の割合は13%、採択率は15%です。いずれも採択率が応募率よりも高くなっており、産業利用関係の健闘振りが分かります。

 

表1 産業利用分科会における課題の応募ならびに採択

利用期 重点産業利用課題 一般課題(I分科)*
応募 採択 採択率(%) 応募 採択 採択率(%)
2009B期 I 126 82 65.1 33 17 51.5
  II 73 35 47.9
2010A期 I 97 68 70.1 35 21 60.0
  II 57 36 63.2
2010B期 I 97 78 80.4 31 21 67.7
  II 52 22 42.3
2011A期 I 106 73 68.9 35 26 74.3
  II      

*重点産業利用課題応募で一般課題採択課題を一般課題応募・採択数に含める

 (2010A:4課題、2010B:6課題、2011A:9課題)

 

 

(3)最後に、気付いた2、3の問題点を指摘しておきますので、ユーザーの立場からのご意見をお聞かせいただければ、有り難く思います。

 

①本委員会が審査・選定を担当している産業利用課題は、成果が非専有として扱われる課題です。このことは、産業利用課題の中で、産業基盤として共通する基礎的課題、あるいはチャレンジングな新規・新領域課題という性格が濃厚であり、次世代の技術開発の種になる課題であると考えられます。

 

②しかし、産業利用という観点から考えますと、製品開発に直結したり、特定の知的財産の確保につながる研究成果を専有したいという指向は避けられません。したがいまして、成果専有課題が増加することは、産業界の発展にとっては歓迎すべき事象です。しかし、成果専有課題が急増して、成果非専有課題の採択が圧迫されるような事態になれば、新規かつ共通的な基盤研究が弱体化し、結果的に産業利用が先細りになるという悪循環を生むことになりかねません。SPring-8の産業利用は、そろそろこの分岐点にさしかかっていると思われます。

 

③シフト数の配分についてコメントします。AI期およびBI期で審査される「重点産業利用課題」枠の12本のビームラインの中には、配分シフト数が10前後に絞られているものがいくつかあります。このようなビームラインでは、しばしば採択率が30%を割り、厳しい過当競争の場となっています。しかし、申請時に「一般課題可」の指定があれば、審査を重点利用枠から一般課題枠に移すことができますので、厳しい過当競争から逃れて採択される可能性が高くなります。近年、産業界では、SPring-8の利用経験が蓄積され、ユーザーの実力が著しく向上していますので、今や12本の共用ビームラインにおいて「重点産業利用課題」枠のシフト数を確保するメリットは無くなりつつあるように思われます。「一般課題」枠で他の5分科と同等の条件下で審査を受ける方が、かえって公平であるかもしれません。ユーザーからのご意見をお待ちしています。

 

④最後に、研究成果の公開についてコメントします。SPring-8は公共的存在としての世界トップ・レベルの研究施設です。課題の応募・採択から研究の実施を経て成果の公開・帰属まで、すべての過程において透明性を確保する責務を負っています。しかし、産業利用の特別な事情を考慮して、成果非専有課題であっても成果公開を延期できる制度が設けられています。この制度は、極めて効果的に機能しており、SPring-8の公益性と産業界の知財権確保のバランスを実現しています。しかし、成果非専有課題である限り、最終的には研究成果は公開されなければなりません。問題は、約30%を占める官・学界から採択されている産業利用分科の研究成果の公開が産業界に比べて低調である、という残念な事実です。「一般課題」枠の成果非専有課題では、学術論文として研究成果を公開することを怠ると、爾後の申請課題の審査においてペナルティー「DV」が科されます。「重点産業利用課題」枠では、たとえ官・学界から申請された課題であっても、このようなペナルティーは一切科されていません。透明性あるいは公平性の観点から、このことは看過されてもよろしいでしょうか?

 

⑤前期の産業利用分科会主査であった松井純爾氏が主査報告(SPring-8 Information Vol.14, No.2, May 2009, p.107)で指摘されていますように、今や20%の課題採択率にまで成長した産業界の研究成果が、実際の製品の開発・製造にどのように反映されているかを、具体的にフォローすることは、今後のSPring-8における産業利用を一段と高いレベルに持ち上げるためには、必要な作業であると考えられます。さらに、新しい課題の提案や新規ユーザーの参入も不可欠です。特に、新規ユーザーを獲得するためには、応募に際して、事前にビームライン担当者やコーディネーターに相談することを制度化すべきではないでしょうか?

 

 この2年間、ご多忙の中、多数の課題の審査・選定にご尽力いただきました審査委員ならびに利用業務部スタッフの皆様に衷心より感謝申し上げます。

 

 

鈴木 謙爾 SUZUKI Kenji

(財)特殊無機材料研究所

〒982-0252 仙台市太白区茂庭台2-6-8

TEL:022-281-0772

e-mail:k-suzuki@proof.ocn.ne.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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