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Volume 16, No.2 Pages 128 - 130

4.SPring-8 通信/SPring-8 Communications

利用研究課題審査委員会を終えて
Proposal Review Committee (PRC) Report by PRC Chair

松下 正 MATSUSHITA Tadashi

SPring-8利用研究課題審査委員会委員長 高エネルギー加速器研究機構 Photon Factory, KEK

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1.はじめに

 平成21年4月から23年3月まで、利用研究課題審査委員会の委員長を務めさせていただきました。それまで、SPring-8の利用経験もなかったのですが、委員、施設スタッフの皆様のご協力を得て無事に2年間のdutyを終えほっとしていると同時に、それらの関係者の皆様方に感謝いたします。私個人のそれまでの経験は、KEK-PFでの全国大学共同利用実験の課題審査に限られておりました。当初は同じ放射光利用実験の課題審査なので、それほど異なることもないと予想していましたが、SPring-8固有の事柄もあり、新鮮な体験をすることができたと思います。

 1年に2回の審査委員会があり、各回に900ぐらいの課題の応募があり、平均で60〜70%の課題に、ビームタイムが割り振られています。SPring-8の利用が始まってすでに十数年が経過しており、審査委員会・分科会での審査の作業の過程が確立されているという印象をもち、審査の手続き・内容については、ほぼそれまでの方式に従うことにさせていただきました。

 そのような中でも審査委員会において、多少の議論のありました事柄についてだけ報告いたします。

 

 

2.利用研究課題の研究成果の公表について

 利用研究課題の研究成果を学術雑誌に公表することは、SPring-8発足以来利用者に求められていたことですが、かなりのビームタイムを利用した後でも成果を論文として学術雑誌に発表していない(あるいは発表しても、その事実をJASRIに連絡しない)例が、それまでにも多いようで、そのような課題の代表者が新たな利用研究課題を提案したときには、ある方式(非公式には壽栄松の式というのだと伺いましたが)[1][1] 壽栄松の式
詳しくは、下記参考文献をご覧ください。
にもとづいて、課題審査の評点から減点することになっていました。

 最初の委員会(平成21年5月)で、施設側からこの基準を見直したいとの提案があり、これについての議論が行われました。減点の基準をより厳しくすべきという立場からや、挑戦的でなかなか成果が出にくいが成果がでればそのインパクトが大きいという課題をどのように奨励するか、などいろいろな観点からの意見が交換されたと記憶しています。その後、委員会としては、「論文を書いて発表をするのは利用者であるが、施設の運営に責任を持ち、発表論文数が少ない場合の批判の矢面に立つのは施設であるので、この問題について施設としてどうしたいかの提案をいただき、それを尊重する」ということにいたしました。平成22年1月に施設よりの提案があり、発表論文の少ない課題の採点については、現行の方式[2][2] 現行の方式(2010Bから適用した方式)
詳しくは、下記参考文献をご覧ください。
がとられています。この結果、それまでの課題での論文等の発表がないとして減点され、およびその結果不採択となったのは、2010Aで減点対象21課題、不採択10課題、2010Bで減点対象9課題、不採択6課題、2011Aで減点対象5課題、不採択4課題でした。

 同様の問題は、選定委員会でも議論され、その問題について特別に議論するワーキンググループが組織され、一定の結論を得ていることは既報[3][3] 成果公開の促進に関する選定委員会からの提言
詳しくは、下記参考文献をご覧ください。
の通りです。

 

 

3.課題審査の過程における分科会の役割

 課題審査委員会には親委員会の下に6つの分科会があり、レフェリーのコメントにもとづいて実質的な評価は分科会で行わざるを得ないというのが実情といってよいと思います。課題提案者ができるだけわかり易く課題申請書を書くことは提案者本人のみならず放射光利用研究者コミュニティーの一員として放射光研究を盛り上げるためにも重要なことですが、レフェリー、課題審査委員会メンバーおよび施設が見識のある公平な評価を行うことは、さらに重要と思います。複数のレフェリーの評価、コメントがばらついた場合にその内容を適切に吟味したうえで一定の結論を導くという点では、分科会の役割は重要と思われます。今後、このような機能をさらに強化することが、利用課題審査委員会での課題評価に対する利用者の信頼を増すのに役立つであろうと感じました。

 

 

4.課題審査におけるレフェリーのコメントについて

 課題審査の結果を応募者に連絡するときに、これまで応募者へはレフェリーがどのようなコメントをしているかについては、基本的には具体的には知らされることはないというのがSPring-8での伝統と理解しています。このことについて2011年2月に行われた課題審査委員会で多少の議論がありましたので、簡単に紹介しておきたいと思います。

 一部の分科会あるいは委員からは、仮にその課題が不採択になった場合に、どのような理由によるものかを応募者に具体的に知らせることは、その後それを参考にして応募者がよりよい課題申請を再度行うことにつながる可能性がある、レフェリーの誤解にもとづく誤った評価がなされる可能性を減らせる、などのメリットがあると考えられるという意見がだされました。現在でも部分的にはレフェリーコメントが伝えられることもありますが、主には予め用意されているいくつかの定型文から一文を選んで添付するという方式が取られており、もっと積極的にレフェリーコメントを具体的に応募者に知らせることの可能性への言及がありました。

 これに対して、そのような変更を行う場合の、施設側での事務量の増大、レフェリー側の負担の増大などについて、懸念する意見もだされました。

 しばらく意見交換を行いましたが、大切な問題であるので、メリット、デメリット(現実的には、実際に実施する場合における各方面での負担)をさらに検討したうえで、2011年4月以降の委員会において、必要なら議論を行うということになりました。

 

 

5.おわりに

 2年間、課題審査委員会委員長を務めさせていただき、SPring-8での放射光利用研究の姿をおぼろげながら理解することができました。SPring-8での放射光利用が始まりすでに十数年が経過していますが、日本の放射光利用研究におけるSPring-8の重要性はますます増すと思いますので、施設、ユーザーをはじめ関連する皆様が益々ご健闘され、よりよい成果を生み出されることを願っております。

 

 

参考文献等

[1] 壽栄松の式

(1)評価値Mについて

M =(Nc/N)*P

Nc:各BLで1論文発表するのに必要なシフト数。

1998Aから2003Bまでの実施シフト数合計と1998年から2004年までに発表された論文数から設定。

N:実験責任者が使用したBL毎の合計シフト数

2009Aの対象は2005Aから2007Bまでの3年間の合計

P:研究成果の数。

2009Aの対象は1997年から2008年12月末までにJASRIに登録があったrefereed paperをカウントした。別刷り未到着のものも含む。

(2)評価方法

ビームラインごとに算出された1論文を発表するのに必要なシフト数の2倍以上を利用した実験責任者が論文発表0の場合は0.5点減点とし、標準発表数の2倍以上を発表している場合は、ビームラインごとに定めた点数を加点した。

すなわち、

N ≧ 2*Nc に以下を適用。ただし、産業利用分科は除く。

(A)M = 0 に対し、審査の評点に dV = −0.5 を加える(減点0.5点)。

(B)M ≧ 2 に対し、審査の評点に +dV を加える。dV値は表に示す。

 

[2] 現行の方式(2010Bから適用した方式)

BL毎に算出された1論文を発表するのに必要なシフト数を求め、4倍以上利用した実験責任者に対し、論文発表0の場合は0.5点減点した(産業利用分科を除く)。

評価に用いた値は、各BLで1論文発表するのに必要なシフト数については別表に示したものを、実験責任者が使用したシフト数に関しては、2010BではBL毎2005B〜2008Aの3年間の合計(成果専有、トライアルユースを除いた数)をそれぞれ用いた。

研究成果の数は、2010Bでは発行年がBL毎2006年〜2009年のものを2009年12月31日現在で集計した数を用いた。

 

[3] 成果公開の促進に関する選定委員会からの提言

http://www.spring8.or.jp/ja/about_us/selection_committee/recommendation/publication_promotion/

成果公開の促進に関する選定委員会からの提言、

SPring-8利用者情報 Vol.15 No.4 p.313

http://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=3249

 

 

松下 正 MATSUSHITA Tadashi

高エネルギー加速器研究機構

〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1

TEL:029-879-6106

e-mail:matsus@post.kek.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794