Volume 07, No.2 Pages 98 - 99
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第15回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムの報告
Report of the Joint Symposium on the 15th Annual Meeting of Japan Synchrotron Radiation Society and Synchrotron Radiation Science
1月11日から1月13日にかけて、第15回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムが東京大学・物性研究所(以下、物性研)にて開催された。会場は、数年前より移転が進められている真新しい柏キャンパス内にあり、すぐ目の前には、Jリーグ・柏レイソルのホームグラウンドがある柏の葉公園が広がっている。特別講演等が行われた六階建ての本館は、一階から五階までが2棟に分かれ、その間は大きな吹き抜けになっている構造で、一見すると大学の建物とは思えないような洒落た建物であった。シンポジウム期間中は3月上旬並の陽気だったそうで、空っ風と寒さを覚悟して厚着をして会場に向かった筆者には拍子抜けであったが、雪が降って寒い思いをした昨年の広島でのシンポジウムを思い出すと快適であった。シンポジウムはこれまで(PF、UVSOR、物性研、SPring-8)の持ち回りでこれまで行われており、昨年はこの持ち回りからはずれて広島で開催されたが、今年は従来通り物性研での開催である。ちなみに、来年のシンポジウムはSPring-8の順番である。
今年は、2件の特別講演、4つ企画講演、13件の施設報告、63件の口頭発表ならびに、238件のポスター発表があった。また、企業展示は39件であった。今回は関東で開催されたこともあってか、参加者数は556人で過去最高だったそうである。プログラムは、初日が各利用者懇談会・将来計画検討特別委員会報告・総会に割り当てられ、発表・講演等は2日目から3日目にかけて催された。初日は当日の昼過ぎまでこちらでの作業が長引いたため、残念ながら参加することができなかった。2日目以降について、内容がやや偏るかもしれないが、筆者が興味深かった企画講演を中心にシンポジウムを振り返ってみたい。
2日目・3日目両日の午前最初のセッションにて企画講演が行われた。初日は、「ポストゲノム時代のX線結晶構造解析」、「時間・位置同時分解検出法の応用と将来」と題した企画講演が並行して開催され、後者の講演会場に足を運んだ。セッションでは4件の講演があり、それぞれ内容は、位置・時間敏感型検出器を組み込んだ軟X線発光分光器によるポンプープローブ実験(理研・大浦正樹氏)、位置・時間敏感型検出器を電子・イオンの検出器に組み込んだ飛行時間型質量分析器を用いた、分子イオン解離過程のイメージング測定と分子の空間配向を規定した光電子回折測定(産総研・斉藤則生氏)PF-ARのシングルバンチ運転を利用した時分割XAFS実験計画の紹介(物構研・野村昌治氏)、レーザー励起・X線プローブによる時間分解X線回折実験とその応用(理研・田中義人氏)であった。講演は朝早くからの開始であったにもかかわらず会場は満員であり、時間・空間分解技術に対する関心の高さが伺われた。筆者が直接関係している軟X線分野の講演も2件あった(前者2件の講演)。いずれも、従来は単純な信号検出機能しか持たない検出器を使用していた測定装置に位置敏感型検出器を用いることにより、情報量の飛躍的な増加と測定精度の向上が達成されていた。位置敏感型検出器そのものは特に新しい測定装置ではない。それ故、今後は軟X線の分野でも、位置敏感型検出器を標準的な検出器として様々な測定装置で使いこなせる必要があると思われる。
午前の後半のセッションと午後の前半に6つの口頭発表セッションがもうけられ、午後の後半はポスターセッションであった。細かい話は省略するが、ポスター会場では、ポスターボードが複数の場所に少しずつ点在していたため、お目当てのポスターの掲示場所を探すのに手間取り、多少の不便を感じた。200件を越える大量のポスター発表を2回のポスターセッションでさばくため、実行委員の方が限られたスペースを有効に使おうと苦心されたものと推察される。
夕方からは、特別講演としてZ.N.Shen氏による「Electronic Structure of Cuprate Superconductors - Results from Synchrotron Based Photoemission Experiments」ならびに福山秀敏氏による「物質科学の夢と放射光への期待」と題した講演が行われた。直前のポスター講演にて発表を行っていたことから会場入りが遅れてしまったところ、会場は満員で立ち見の人が会場から溢れるほどの盛況ぶりであった。
これまでは、学会に出席しても講演が終わるとさっさと会場を後にして、町へ飲みに行くのが習慣であったのだが、今回は事前に本原稿の執筆を引き受けていたこともあり、懇親会なるものに初めて出席した。懇親会は、物性研の食堂にて行われた。会場では、4種類の地ビールとワインが振る舞われ、参加者に大変好評であった。途中でシャンパンを抜いたり若手奨励賞の表彰があったりといろいろと企画があったが、今となっては美味しいビールとワインがあったことしか印象に残っていない。来年のシンポジウムでも、まずは美味しい酒を準備することが参加者を満足させるためには重要な要素となるようである、ということが初めて懇親会に出席した感想である。
最終日も朝は企画講演から始まった。「放射光源における最先端技術」、「ナノテクノロジーへの放射光利用」と題した企画講演が、やはり並行して開催され、後者の方へ足を運んだ。3件の講演があったが、内容は、反射型縮小光学系を用いた極端紫外線露光装置による加工技術の紹介(姫工大・木下博雄氏)、X線マイクロビームを利用した電子デバイスの分析評価の実験例(NEC基礎研・久保佳実氏)、MCD光電子顕微鏡によるナノスケール磁性体の磁区観察(東京大・小野寛太氏)についてそれぞれ講演があった。久保氏が講演されるときに付け加えられた「放射光を利用した分析評価が生産にフィードバックされた稀少な例」という一言が印象深く残っている。いずれの研究例も、放射光が「絞られている」ことが技術的に重要な要素となっている。このことはSPring-8が最も得意とする分野の一つであり、今後もこの分野の利用環境の充実は重要となると思われる。
その後、5つのオーラルセッションとポスターセッションが、順次夕方まで行われた。最後のオーラルセッションを全て聴講すると、予定していた帰りのバスに乗り損ねてしまった。シンポジウムが休日の開催であったこともあり、会場から最寄りの柏駅まで向かうためのバスの便が少なく、結局相乗りでタクシーに乗り駅まで向かうことになった。慌ただしく会場を後にして、家に着いたときにはすでに日が変わっていた。
以上、大雑把な報告ですが、シンポジウムの雰囲気が伝われば幸いです。
為則 雄祐 TAMENORI Yusuke
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