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Volume 07, No.1 Pages 43 - 46

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

ICALEPCS 2001会議報告
Report on ICALEPCS 2001

田中 良太郎 TANAKA Ryotaro

(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門 JASRI Accelerator Division

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はじめに
 「思ったほど張りつめた緊張感はないな」というのがアメリカ西海岸での空港警備の第一印象だった。今回の会議報告を書くに当たって、9月11日にアメリカで起こった同時多発テロ事件について触れないわけにはいかないだろう。
 加速器、大規模実験の制御システムについての国際会議であるICALEPCSとは、International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systemsの略で、会議は2年に一回ヨーロッパ、アメリカ、アジアの3地域の持ち回りで開催される。今回の会議は11月27日から30日までアメリカ合衆国サンノゼ市で開催されたが、これは2年前のイタリア・トリエステでの会議期間中にブラジル開催かそれともアメリカ開催かと、随分もめにもめたあげくに、一票差でアメリカに決定されたものだった。まさか、会議の直前になってアメリカを舞台として世界を巻き込むようなテロ事件が起こるとは誰も予想はできなかった。
 テロ事件以来、しばらくは飛行機には乗りたくないという心理が世界中に広がる中、ICALEPCSもこれに無関心ではいられなくなった。会議開催を2ヶ月後に控えて、出席率を心配したのか各国のISAC委員あてに会議の開催、延期、中止について、どうすべきか米国から打診が来たからである。SPring-8でも出席予定者を中心にどうしたものか討論し、議論の結果に基づいて筆者は一票を投じた。結局は開催派、延期派と分かれたものの(中止派は0票)、開催するなら出席しても良いという延期派の付帯意見もあり、なんとか開催にこぎ着けることができた。 
 
 
 
会議開催中のISAC委員投票で、次回のICALEPCS03は2003年10月に韓国のPALで開催に決まった。 
 

会議開催
 さて、トラブルもなく無事アメリカに入国し、会議が始まった。春にアブストラクトを締め切ったころに予想された300人を優に越える出席者は結局280人になっていた。これは主にCERNからの出席者が40人程度減ったためであり、理由は旅費の予算減あるいは飛行機がいやだからとの理由らしく、どっちの理由が本当かは自由に決めてくれとのことだった。いずれにしても参加24ヶ国、口頭講演82件、ポスター発表218件であり、口頭講演数はトリエステの54件を越えている。しかも、会議開催期間が前回よりは1日短いはずだけれど。その代わり、朝は8時半から夕方6時過ぎまで口頭講演で中身が十分に詰まった構成になってしまった。このせいでポスターセッションの時間が不足して実質的にパラレルになってしまい、十分に見る時間がとれなかったのは今後の反省として残った。
 さて発表の分野だが、今回は以前よりもGemini、LIGO、VLT/ESO、ALMAといった望遠鏡や干渉計関連、それとNIF、NSTX/PPPLなどの核融合関係が増えていた。会議の報告に移りたいが、この報告は筆者の主観によるところがあり得るし、また全てを網羅できないので、投稿論文など、より生の情報に接したい方にはICALEPCS01のホームページを直接アクセスすることをお薦めします。
http : //icalepcs2001.slac.stanford.edu 
 
1日目
 SLAC所長のウエルカム・アドレスに続いて、いつものようにStatus reportから始まった。このセッションでは、核融合ではカリフォルニア大NIF、プリンストン大プラズマ研NSTX、加速器ではBNLのRHIC、PSIのSwiss Light Source、宇宙関係ではGemini、LIGO、VLT/ESOからの発表、これに加えて昨年ドイツで開かれたワークショップPCaPAC2000の会議報告等があった。SPring-8と同じ放射光施設であるSLS/PSIは現在4ビームラインで供用運転中であり、蓄積電流値が一定となるように数秒ごとに電子ビームを入射するTop-upで運転している。SLSの制御ソフトウエアはEPICS、CDEV、CORBAベースであり、運転用ワークステーションにはLinux、データベースサーバーにはOracle/Linuxと、EPICSを主体とする制御系としては今日の一般的な構成になっている。EPICSのフラットなネーミングスキームが機器情報(configuration)をデータベース化するに当たって問題になっていた。EPICSについては終わりの方で少しコメントしたい。機器制御系はVME64X、PowerPCで行っている。インターフェイスの多くはホットスワップ対応とのこと。SLSの立ち上げは順調だったと聞いているが、上手くできた理由としては「標準化する、H/Wを自作しない、Field busを用いない。また、I/O系、ソフトウエアを大規模に作成しない、ツールを多用する。GPIBはできるだけ使わない」などを挙げていた。これらの方針はSPring-8制御系建設当時のものにも大方当てはまり、方法論として順当との印象を受ける。制御系の障害によるダウンタイムは年間2時間以下と報告していた。
 午後は市販標準システムの導入と、プロジェクト管理についての報告があった。D0はTevatron/ FNALに設置された検出器で、低速制御用にEPICSを導入していた。EPICSを採用したのは「研究所から共通なシステムを使用するようにと依頼されたからだ」と述べていた。C++、C、Pythonで書かれたclient/server分散型のアラームのEvent reporting systemは無くてはならないものらしい。Oracleをデータベース管理系として用い、EPICSが使用するファイル、機器の物理的な位置情報、Pythonスクリプトなどを管理していた。Pythonはオブジェクト指向で迅速な開発が可能であり、EPICSはユーザーサポートがあり、大型システムに向いているとの評価をしていた。
 一方、H1はHERA/DESYの検出器であり、制御系の設計からすでに10年が経ち、メンテナンスが大変になってきたとのこと。当時の製作担当者はもういないそうである。そこで、改造すべきか、新規製作かで悩んだ末、省力化と少人数化が見込めるようにSCADAシステムを導入することになったそうである。SCADA toolを用いて迅速な開発ができたと評価していた。Oracleをデバイスのconfiguration管理に用いている。一般的には、担当者も入れ替わった古いシステムをできるだけ少人数で再構築するには、新規性よりも総じて入手しやすい実績のあるシステムを使いたいようである。
 さて、プロジェクト管理については中性子施設のSNSの話がおもしろかった。SNSはLBL、LANL、Jefferson Lab、BNL、Oak Ridge、ANLの6研究所共同で建設中であり、制御系を共同で構築するに当たって「management is challenging」と述べていた。なぜ、6研究所合同なのかは詮索するには面白いが、実際どうなっているかを見ることにしよう。研究所ごとに文化が違い、管理ツールも違い、情報がまともに伝わらないと嘆いていた。ケーブル設計、ラックの設計でさえミス・コミュニケーションでまともにできていないとのこと。どこの研究所が、どこまでできたのかスケジュールがよく分からないし、二重にやっていることもある。共通規約名称はまるで言語が違うようだし、早く決めすぎたせいで頻繁に変更になり、必要以上に出張を強いられているとのこと。講演者のD. Guard/LANLの個性もあり、話は実に面白かった(共感を持って笑えた)。そういえばSPring-8も理研・原研の共同チームで建設したことを思い出した。苦労話は今後の参考にしよう。

2日目
 少し時差がとれてきた感じだが変な時間に眠くなってしまう。さて、午前の部は制御システムの入れ替え、再構築の報告であり、古くなってきた制御システムの入れ替えの報告が行われた。皆それぞれに問題(足かせ)を抱えており、我々もいつかは同じ思いをするのかなと思いつつ聞いた。
 SLACの制御システムはSLC、PEP-Ⅱと20年来実務をこなしてきたが、Alpha CPU、VMSを始めとした制御装置の将来性を考えると、さすがに近い将来に問題となることから移行するに至ったようである。NLC制御も視野に入れてR&Dをするようである。VMS独自の機能に強く依存したソフトウエアをEPICSとCORBAベースのPCを用いた分散制御型に移行し、Oracleをデータベース管理系に使用する予定。Oracleは流行っているな。ミドルウエアはORBで統一し、アプリケーションからOracleへのアクセスはJava CORBA、JDBCを通して行うように目下プロトタイピング中とのことだが、この点、応答性能はどうであろうか?また、Oracleに対してXML/XSLTを用いてグラフィカルなアクセスを行うようだが、どうなるものか今後の結果を聞いてみたい気がした。システムの移行は徐々にやっていくそうである。CAMACは何時無くなるのかな?
 ところで、VMSといえばGSIもOpenVMSとPASCALの制御系をLinux、Windowsに移行し、アプリケーションはC言語で、ミドルウエアはCORBAに移行しようとしていた。リアルタイム制御で一世を風靡したVMSも制御の世界からいよいよ姿を消していくのか。
 次のセッションはリアルタイムOSとLinuxを使ったシステムの報告。Linuxは運転用コンソールとしてはすでに各所で使用されており実績も報告されている。一方、VME CPUなどの機器制御用OSとして考えたとき、標準的なLinuxはプリエンプティブではないので、アプリケーションがkernelに対してシステムコールを行うと、割り込み等に対して応答性が予測可能でなくなるというリアルタイム性能上の問題がある。そこで、Linuxのメリットを維持しつつこれをリアルタイム拡張しようという動きが出てくる。制御の世界でもRT-Linuxが既に使用されているが、リアルタイム・アプリケーションそのものをkernel空間で動かすために、プロセス管理、メモリー管理の点で安全で使い易いとはいえない。そこで、リアルタイム・アプリケーションをユーザー空間で実行可能とするためにLinuxをマイクロカーネル化する、プリエンプティブ性を拡張するようなインターフェイスを追加するもの等々が現れた。このセッションではRT-Linuxの他にRTMES、RTAI、また、L4マイクロカーネル化したL4-Linuxなどの「リアルタイム系Linux」について、Latency、Context switchingなどについて性能評価し良好な結果を報告していた。後にWebで調べてみると、このほかにも多数の「リアルタイム系Linux」プロジェクトがあることが分かった。実績を積み、定評を得て残るのはどれだろうか?良かったら使ってみようかな。 
 
3日目、4日目
 ここは気になった物だけを抜粋して報告しよう。分散コンピュータ環境、オブジェクト指向、Javaの発表。オブジェクト指向の分散環境では何をミドルウエアに選ぶかが焦点になってくるが、加速器も核融合も結局CORBAに落ち着いたという印象だった。アプリケーションがJavaで書かれている場合はJava/CORBAで決まりか。通信に要する時間計測結果などが報告されていた。Javaと言えば、ANKA、CERN PSからJava言語でのアプリケーション開発の報告があった。何でも「C++で書かれたプログラムは難解で、再利用が難しいのでJavaにした」とのこと。確か、C++はオブジェクト指向で再利用性が売り物だったはずなのに。でも分かるような気がした。アプリの開発はJBuilderを用いていた。
 Field busとネットワークの講演では、Field busに関して「EthernetそのものをField busだと思ってしまおう」という考え方が出てきた。これは今更ながらなるほどと思った。光/電気とケーブルの使い分けができ、TCP/IPプロトコルのネットワーク対応機器を接続すればお手軽に遠隔システムができてしまう。ポスター発表もいくつか見てみたが、PLCもシリアル接続ではなくEthernet接続が一般的だった。
 ここでSPring-8のネットワークに関する発表を行ったが、最終日の議長総括で「Nice measurement」と報告されていたことを付け加えておきたい。
 
 
おわりに

 とにかくEPICS関連の発表が多くなったなあと感じた。実際、議長の総括報告によると前回のトリエステでは30件程の発表が、今回は70数件と倍増していた。EPICSのデータ管理系はOracleにもう決まっているような印象を受ける。この組み合わせばかりだ(Sybaseはどうなった?)。これにJava/CORBAかCDEVをミドルウエアに採用すると標準制御システムの一丁できあがりという感じ。発想としては、広義のミドルウエアは実績のあるEPICSを使って、EPICSはチャネルアクセスゆえ、オブジェクト指向になっていない部分はソフトウエアのインターフェイスを用意してアプリケーションと整合させる。CDEVやJava CORBAはミドルウエアwrapperと考える。みんなが使っているから安心で、できるだけ省力化して共通な物を使おうという感じだ。自分たち独自の物を作ろうという機運は無くなってしまったのかな?SPring-8はEPICSでは無いのだけれども。Oracleをデータベース管理系に使おうというのもこの種の延長上にある感じがした。基本性能の計測データに基づいて決定したという報告はなかった。多様性に富んだ制御手法があった方が各種の要素技術開発も進むのではないかと個人的には思うのだが。何年後かのICALEPCSのセッションで「EPICS古くてどうしようか?」という講演が出てきたときに、どんな方向性を見いだすのだろうか?
 最後に自分たちの話を少しさせてもらうと、今回は3件の口頭講演と5件のポスター発表を行った。オーラルはPower Pointで作成し、渡航前に公開で発表練習会を行った(もちろん英語で)。ポスターも、論文の拡大コピーを貼るなどは論外として、事前にきちんと内覧会を開いて、お互いの間違いや、構成などについても批評し合った。このおかげか、制御グループの増田君が三日目の発表で「ベストポスター賞」を受賞することができた。手前味噌ながら、この場を借りて報告させていただくこととしよう。

 
 
「ベストポスター賞」を受賞した増田剛正君と受賞のポスター(2枚組)。 
 
田中 良太郎 TANAKA  Ryotaro
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0868 FAX:0791-58-0850
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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