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Volume 07, No.1 Pages 34 -37

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

加速器におけるビーム軌道の安定化研究会報告
Report on “Workshop on Beam Stabilization”

高雄 勝 TAKAO Masaru

(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門 JASRI Accelerator Division

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 SPring-8加速器部門は高輝度放射光施設を預かる者の責務として、常にSPring-8の最高性能を引き出すべく部門を挙げて加速器の安定化に努力してきた。軌道がドリフトすると聞いては鎮める方法を算段し、ビームの揺れ、飛びを見つけては元を絶つため血眼になってやって来た。利用者がより良い成果が上げられるよう日夜ビーム安定化に励んで来たのだが、本年からなお一層軌道安定化を推進すべくプロジェクトチームが立ち上がった。実りの秋を迎え一通りの方向性も見え始めたので、それまでの成果と併せて世に問うためここSPring-8で研究会を開くこととなった。プログラムは以下に示す通りで、主な加速器施設から同じ問題に取り組む加速器研究者に集まって頂き活発な情報交換が行われた。

プログラム(平成13年10月15日〜16日)
[1]SPring-8蓄積リングにおけるビーム軌道安定化プロジェクト(田中 均、SPring-8)
[2]原研自由電子レーザーにおける電子バンチ間隔の安定性と光共振器長の高精度測定(西森信行、原研)
[3]SPring-8リニアックのエネルギー安定化(花木博文、SPring-8)
[4]KEKB入射器におけるビーム安定性の諸問題(諏訪田 剛、KEK)
[5]ATF-DRビームおよび取り出したビームの安定度(早野仁司、KEK)
[6]SPring-8線型加速器に於けるシングルショットBPMシステム(柳田謙一、SPring-8)
[7]エネルギー圧縮システムによるビーム安定化(安積隆夫、SPring-8)
[8]電磁石の強制振動によるビーム軌道変動−SPring-8蓄積リング−(中里俊晴、SPring-8)
[9]SR収納部床、Q電磁石振動測定結果(松井 佐久夫、SPring-8)
[10]SPring-8蓄積リングのビーム振動と磁石振動の測定(妻木孝治、SPring-8)
[11]地中温度の変化が及ぼすマシン周長への影響について(伊達 伸、SPring-8)
[12]SR電磁石電源の安定度の改善(武部英樹、SPring-8)
[13]Plan for monitoring the elevation variations of the tunnel floor(張 超、SPring-8)
[14]KEKBにおける閉軌道補正の現状(手島昌己、KEK)
[15]RCNPサイクロトロンの超高品質ビーム−その実践と新しい非線形軌道理論−(佐藤健次、RCNP)
[16]PFでのディジタルフィードバックシステム(帯名 崇、KEK/PF)
[17]UVSORにおける軌道変動(加藤政博、分子研)
[18]HIMACでのビーム安定化の現状(金澤光隆、放医研)
[19]ブラウン運動的地盤変動と動的アライメント(竹田 繁、KEK)
[20]SPring-8蓄積リングCOD測定用BPM信号処理回路高性能化(佐々木 茂樹、SPring-8)
[21]高速可変偏光アンジュレーター駆動による軌道変動(中谷 健、SPring-8)
[22]SPring-8 における放射光ビーム高速診断システム(青柳秀樹、SPring-8)
[23]SPring-8蓄積リングにおけるコヒーレントなシンクロトロン振動の抑制(大島 隆、SPring-8)
[24]SPring-8蓄積リングにおける冷却水温度変動のビーム軌道に対する影響(熊谷桂子、理研)


 主な発表について簡単に紹介を試みるが、ドキュメントがWeb[註]上に公開されているので詳細はそちらを参照して頂きたい。先ずSPring-8の田中がプロジェクトリーダーとしてSPring-8の軌道安定化戦略とこれまでの取り組み、今後のスコープについて報告した[1]。SPring-8では「臭いにおいは元から絶たなきゃダメ!」を合い言葉に徹底的に振動源を除去することから軌道安定化に取り組んできた。詳細に軌道変動を観測し振動源を同定し、それを取り除く手だてが加えられた。例えば、コミッショニング当初マシン立ち上げ後数日にわたって鉛直方向軌道が全体的に沈下する現象が見られた。観測の結果、架台中央部に位置する4極電磁石が持ち上げられ磁場中心がビーム軌道からずれることによって発生する偏向力であることが分かった。通電開始により電磁石を載せている架台が暖められ反り返ることによって、架台中央部にある4極電磁石が持ち上げられていたのである。現在は、サイクル間のマシン停止時も電磁石通電を続けることにより熱平衡状態を保持してこの軌道変動をなくしている。また、SPring-8蓄積リング利用開始頃から主に水平方向に見られた冷却水温変動に相関した軌道変動は、冷却水温安定度を+/-1度から0.3度にすることにより低減を図った。冷却水温変動のビーム軌道への影響に関しては、そのメカニズム解析も加えて別途詳しく報告された[24]。このような振動要因退治でも残った変動に対しては、窮余の一策として定周期で自動軌道フィードバックを行うことにより現在の安定度を達成している。ただし、フィードバックは使い方を誤ると悪い方向へ転がる危険があり、軌道が正しく測定できることと、軌道補正用電磁石が正確に設定できることが前提となる。前者に関して、SPring-8蓄積リングのBPM(ビーム位置モニター)は再現性数μmを達成している。測定速度は全周取るのに十数秒を要しているが、高速化(100SPS)高精度化(サブミクロン)を目指した次期BPMのR&Dの現状についての発表が現行機の性能評価と共に佐々木によってなされた[20]。避けがたい軌道変動要因に潮汐力などによる蓄積リング周長伸縮がある。電子ビームの周回時間はRF周波数によって厳密に決められているので、周長が変化したとき電子ビームはエネルギーを変え軌道を変えてでも周回時間を保とうとする。通常、挿入光源が配置される直線部は分散がなく、エネルギーが異なっても同じ軌道を通ることになるが、昨年の30m長直線部導入後分散の非線形性が大きくなり、無分散部でも潮汐に相関した軌道変動が観測されるようになった。この対処として、それまで試験的に用いられていたRF周波数によるエネルギーフィードバックをユーザー利用時間には常用することとなった。ここまでは、比較的遅い軌道変動に関するものであるが、早い変動に関しても報告があった。99年秋オプティクス変更後目立ってきた10Hz以下の振動が、4極電磁石電源の安定化により劇的に改善されたことがビーム振動のスペクトルにより示された。この改善点については[12]で詳しく述べられた。電磁石振動がもたらす10Hzから100Hzのビーム位置振動に関しては、蓄積リング4極電磁石および収納部床振動分布[9][10]、電磁石強制振動の応答[8]など個別に詳しく報告された。これらについては、まだ解析の段階で今後の改善が待たれる。また、分散部にあるBPMでは2kHz近辺にシンクロトロン振動によるエネルギー変動に伴うと思われるビーム位置振動が観測され、これを抑制するためシンセサイザーにフィードバックが用いられている。シンセサイザーの評価からフィードバックの処方など詳しくは[23]を参照されたい。
 蓄積リングの安定運転には、入射器の安定化が欠かせない。進境著しいSPring-8線型加速器の安定化についても複数発表があり、総括が線型グループリーダーの花木によりなされた[3]。ここでも、運転開始当初冷却水などの環境温度に相関したエネルギー変動が見られ、シンクロトロン電流値安定化に対して悪影響を与えていた。これも冷却水温、空調を安定化することによりかなり改善された。さらに昨年夏からECS(エネルギー補償システム、線型加速器終端部に設けられた分散を持ったシケインでエネルギー差を時間差に変換し、その後にある加速管の加速電圧ゼロクロスにビームを乗せることによりエネルギー差を補償するもの[7])を導入して一段とエネルギー安定化が図られた。また、線型加速器の軌道安定化のためのシングルショットビーム位置モニターの開発現状についても発表があった[6]。
 外部の活動に目を転じると、先ず同じ大型放射光施設のPFの軌道フィードバックシステムの現状報告があった[16]。フィードバック周波数50Hzを目標に開発が進められてきており、スペックとしてデータ取得1ms以下、精度10μm以下、処理時間1ms以下、補正電磁石応答100Hzを目指してきた。これを実現するため演算回路としてDSPを採用している。垂直軌道補正に関して65台のビーム位置モニターと28台の硅素鋼板電磁石を用いてフィードバックを行い、1Hz以下の振動に関しては十分な抑制効果が得られている。現在ユーザー運転中は0.3Hz以下の周波領域では垂直軌道は安定に保たれている。現状システムのバンド幅はシンクロトロン振動除去のために入れたローパスフィルターによって制限されており、シンクロトロン振動を抑制した暁にはシステムの最適化により50Hzまで行きたいとのことであった。また、水平軌道はRF周波数をフィードバックすることにより行われている。PFでは、エネルギー変動要因は潮汐よりも外気温変動に伴う建屋の変形が利いているようであった。
 一方UVSORでは、ビーム位置モニターが更新され、軌道変動が系統的に取れるようになってきたとのことで、変動要因の特定、除去など軌道安定化に取り組み始めたところであった[17]。ところでUVSOR蓄積リングには自由電子レーザーが設置されているが、この出力を安定化する目的で、光パルスと電子ビームの同期を保つためRF周波数にフィードバックが用いられていた。これにより長時間にわたって出力が一定化しているとのことである。
 最新の高エネルギー加速器BファクトリーからはCOD補正の現状について発表があった[14]。Bファクトリーは旧トリスタントンネルに建設されたエネルギー非対称ダブルリング電子陽電子衝突リング加速器である。ご存じのようにSLAC PEP Ⅱと激しいルミノシティ競争を繰り広げているが、高ルミノシティを達成する上でも加速器の安定性は重要なファクターである。Bファクトリーは、周長約3kmの各リングに約450台のビーム位置モニターが設置されており、相対精度3μm、絶対精度66μm、サンプリング速度3秒を実現している。絶対精度に関しては、ビームを用いて4極電磁石中心に対するオフセットが測定され、COD補正精度が改善されていた。周長補正について、BファクトリーではRF周波数を変えると入射器のタイミングがずれるからとのことで、ふつう良くやられているRF周波数の変調ではなく、シケインを用い周長の方を変えることで対応していた。Bファクトリーは高蓄積電流(1A弱)であるため、高積分ルミノシティを維持するためには、入射器の安定度も欠かせない。これに関しての発表もあり[4]、種々のRFフィードバックは勿論、ビームエネルギーに加えてビーム位置までフィードバックを行っていた。一般にビーム位置のフィードバックが効果的と思われていなかったが、これを行うことによりビーム電流値が安定化したとのことである。
 またKEKでは、次期高エネルギー加速器の候補である線型衝突型加速器のR&Dとしてダンピングリングが建設され試験が続けられている[5]。ダンピングリングは線型加速器の前段でエミッタンスを減衰させるために設けられるリングで、これに対する線型衝突型加速器の要求はかなり厳しいものである。その中でもビーム取り出しは、ここでの変動がそのまま線型加速器のビーム軌道変動に繋がることから、その安定性は非常に厳しいものが要求される。そこで、取り出しキッカーをダブルにしてジッターが相殺するよう配置し、高安定度を実現する取り出しシステムを開発していた。
 さて、少し毛色が変わって原研で開発されている遠赤外自由電子レーザーからも発表があった[2]。この自由電子レーザーは、高効率を目指して低エネルギー線型加速器としては珍しくRFシステムに超伝導キャビティを採用していることが特徴である。開発当初、電子銃、RFフィードバックが安定せず発振に苦労したのであるが、これらの安定化に努めた結果自由電子レーザーとして世界最高(平均)出力を記録するに至った。このような高安定化を実現するとおもしろいもので、新しい現象が見えてきたのである。自由電子レーザーは電子ビームと光がアンジュレーター中で相互作用して発振に至るのであるが、原研自由電子レーザーのように光共振器を用いた場合、電子ビームと光の同期が大変重要である。電子はアンジュレーターの中を蛇行しながら進むので光より遅れることとなり、相互作用の効率を考えると光ビームを電子ビームより少し遅らせた方がゲインが上がると一般には思われていた。安定に発振するようになって精密にゲインのデチューニング曲線を取ってやると、驚いたことに完全同期したところでゲインが鋭く大きなピークを持っていることを発見した。この現象は、シミュレーションにそれまで無視されていた自発放射を取り入れることにより説明できるとのことであった。
 RCNPサイクロトロンからも安定化の結果新しい現象が見つかったとの報告があった[15]。リングサイクロトロンの磁場を高精度で測定する装置を開発し、これを安定化するため冷却系に手を入れた結果、400MeVの陽子ビームに対してエネルギー幅として80keVとかつてないエネルギー分解能を達成したとのことであった。長時間に亘ってこのような高安定を実現すると、偶に磁場が2ppmもずれるとエネルギー幅が300keVにも拡大する現象に遭遇するようになった。このような磁場の僅かな変化に対するエネルギー幅のジャンプ現象は通常の線型理論では最早説明できず、エネルギー偏差の2次の項を取り入れて初めて解釈できるとのことであった。
 発表を全て網羅したわけではないがまとめに一言。これまでの努力でSPring-8の軌道安定度は既に世界最高レベルに達しているとの自負はあるが、ここまでくるとこれ以上の安定度は加速器の趣味領域ではないかとの声も聞こえないではない。しかし、原研自由電子レーザー、RCNPサイクロトロンの例でも分かるように、安定化すればするほどそれまで見えなかった新しい現象が見えてくることが期待できる。これは利用実験についても言えることで、SPring-8の誇る安定度を存分に利用し新しい発見につなげてもらいたいものである。ところで、SPring-8の軌道安定度は国外からの注目も集めており、この研究会も国際的なものにして欲しいとの要望が寄せられている。我々としても、これに応えて加速器の軌道安定化のトップランナーとしての責任を果たしながら、より一層の安定度を追求していきたいと考えている。紙面も尽きてきたので、ユーザーさんの多大な成果を期待しつつ報告を終えることにする。

[註]http : //acc-web.spring8.or.jp/~oper/beam-stabilize-ws/program.html.



高雄 勝 TAKAO  Masaru
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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