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Volume 06, No.5 Pages 403 - 406

6. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS

赤くじら、姫路を往く
Red Whale, Guiding Around Himeji

山下 明子

財団法人高輝度光科学研究センター

利用研究促進部門Ⅱ

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姫路。

 1万年前から人が住むという温暖な姫路平野。その中央に位置する蝶の形のローカル都市。古ければ良いというものではないけれど、例えばSPring-8のように計画的に整備・開発された新しい都市とは違い、長年かけてじわじわと水がにじむように拓かれてきた土地独自の味わいがある町。

 そんな姫路に生まれそだったジモティ(地元民)の私の元に、日帰りで友人が訪ねてくれたとしましょう。季節は日差しも弱くなってそろそろ秋風の立つころ。春なら三の丸広場の桜、夏なら花火と祭り、秋なら書写山の紅葉で決まりだけど、今は一年の内でもちょっと味気ない時期です。私はせめて彼らに観光バスルートとは違った姫路を見せてあげたい。さて、どうしよう?


JR姫路駅

 朝9時、姫路駅中央改札前ロータリーで友人を拾います。駅の正面には飛び出す人形のオルゴール時計が設置され、相変わらず毎時ジャストに鳴り出しては道行く人を驚かせています。そのまま愛車・赤クジラ(見たまま)でGO!北に向かうと正面に見える国宝・姫路城の白壁と青い空のコントラストが美しい。


姫路城

 姫路と言えば姫路城。姫路城といえば世界文化遺産。羽を広げた白鷺に例えられる戦国時代の名城です。が、しかし。姫路城は外から眺めるのが一番なので、ジモティはうかうか天守閣に登ったりしません。まずは車窓から全体を鑑賞。城の東からアプローチすると、学校、図書館、資料館、博物館の集まる並木道がいい感じ。レンガ造りの美術館を左折すると城の裏手に入ります。左手には綺麗な反り(忍者返し)をみせる古い掘り割り。抹茶のような緑の水に原始林の葉陰が映えます。右手は遊歩道と花壇の続く公園。その終点間際に半円形の妙な建物が見えてきました。これは姫路城の塩櫓のひさしをイメージした扇観亭(せんかんてい)。別名「1億円トイレ」。休憩所と噴水を併せると2億円のバリューセットだそうな。全然お得じゃない気がするけど(納税者談)。




国宝姫路城



城の内堀


1億円トイレ

 なんて太っ腹でどんぶり勘定なお値段でしょう。便座は黄金?いえいえ、これは有名建築家・黒川紀章氏の設計による姫路市政のたわごと、じゃなくて、栄光ある世界遺産にふさわしい夢の御不浄なのです。あれは8年前の3月吉日。冷暖房完備・空調完璧・自動ドアまでついた御影石(でしょうか)の超豪華な公衆トイレがお目見えしました。市長は意気揚々、市民は目がテンテン。てっきり「ふるさと一億円」が当たったのかと思っていたら、全額、市の予算というから笑っちゃいますね。とにかく一見の価値がある姫路の財産には違いありません。興味のある方は是非一億円のひとときをお試しください。ただし、午後6時以降は施錠されるのでご注意あれ。


好古園

 姫路城を背にする「姫路城西御屋敷跡庭園」を歩いてみましょうか。滝や池に囲まれた回遊式庭園を始め、花の庭、竹の庭、茶の庭など9つの庭が白壁で仕切られています。これが全て発掘調査で確認された遺構を生かして復元されたというのだから驚き。友人達の印象は「ガーデニング・フリークのご隠居が作らせたテーマパーク」だとか。失礼なヤツらだ…。とはいえ、風雅な庭をながめつつ茶室で一服いただくのは格別ですね。日本に生まれてよかった。



好古園


播磨屋本舗

 姫路城をぐるりと回ったら2号線に出ます。そのまま東進してちょっと入り組んだ小道にあるのが私の大好きな「はりま焼」煎餅の店。せまい路地に観光バスまで入って来るのだからご近所づきあいも大変でしょう。やっぱり盆暮れには「いつもご迷惑を」と煎餅配るのかなぁ(よけいなお世話です)。店は竹やぶに囲まれた閑静な茅葺きの日本家屋ですが、掃き清められた通路と涼しそうな打ち水に日本の心を感じます。この店を攻める最大ポイントは「朝一の壊れ(こわれ)」。製造過程で割れてしまった煎餅のお徳用大袋の入荷を狙うのが事情通。今でこそ格式高いご贈答用のお煎餅様ですが、昔はどこのスーパーにも大袋入りがポテチと並んで売られてたんですよね。バブルに便乗して大衆性に背を向けたのだろうか。消費者としてはちょっと複雑。



播磨屋の煎餅


ナダギク

 そもそも姫路には「海」「町」「山」という3つの顔があるのだけど、その「町」エリアはJR線路によってどこかの半島のごとく南北に分断されています。その南北をつなぐのが将軍橋と朝日橋。そういえば大昔に噂を聞いた「姫路駅高架計画」はどうなったんだろう。さて、その橋を渡って南下したら灘菊酒造株式会社、通称「ナダギク」へ。ここは酒蔵を改造して見学・食事・買い物ができる観光スポット。百年以上前の酒蔵というのは、藁を混ぜ込んだ土壁(もう作れる職人がいないらしい)も抱えきれない太い柱もテカりのでた黒い床板も、全てが時間と手入れのタマモノなのです。そんな酒蔵を改装した食堂では、粕漬けをかじりつつ食前酒を飲み、とろろと麦飯、酒粕の小鍋などお酒のすすむメニューが売り。みごとな自給自足ぶりに杜氏の男前な心意気を感じませんか。季節によって酒粕の製造工程を見学したり、できたて原酒の量り売りがあったり、おみやげコーナーの品揃えまで少しずつ違うので、何度訪ねてもそれなりに目新しいのが嬉しい。個人的におすすめの酒は…ふふん、内緒。おみやげコーナーで名物おじさんに試飲させてもらったら分かると思いますよ。ヒントは“トロリと甘くて強烈”な一品。


手柄界隈

 さてこの手柄という土地は、手柄山を中心に様々な施設(もっぱらスポーツ系)が集まったエリア。スケートリンク、スポーツセンター、競技場、野球場etc.以前は図書館もあったけど、体育会系が台頭して文化系施設は北へ追いやられたようです。これも一種の民族紛争か。野球場ではたまにプロのウェスタンリーグ(2軍の対戦)があったり、スポーツセンターに力士が招かれたりということもありますが、私のお気に入りは、特別展といえば食虫植物かセントポーリアしかやらないのか、と聞きたくなる植物園です。

 植物園では、暑くて湿度が高くて酸素が濃い(当社比)サボテン温室で深呼吸をしてみましょう。ちょっとだけ砂漠のサソリや鷹になった気分が味わえます。建物の反対側は熱帯性植物のコーナーになっていて、起伏のあるくねくねした通路を、バナナやキウィの固い実を見つけたりシュロの葉をよけたりしながら見学できます。気分は熱帯雨林のおサルさん。それにしても、ここの果物はなぜいつも固いのだろう。美味しそうに熟した実というのを見たことがない。愚痴る私に「それってマーフィーの法則だよ」「なにを期待してるんだ」と突っ込む友人の足下には、黒い猫がつかず離れずスルリスルリと纏わり付いて来ます。首輪はついてないけどここの飼い猫なのかな。いつの頃からかよく見かけるのだけど。

 植物園の道向かいにある手柄山児童公園の測道は頂上の展望スペースに続いている(姫路市内を遠くまで見渡せます)。この道は紅葉樹が多く植えられているので、晩秋に必ず何度かはドライブしてみるコース。途中に戦没慰霊塔やら、目つきの悪いカメ達に占拠され気味の水族館。頂上にはなぜか「緑の相談室」と、花盛りの期間がきわめて短いバラ園がある。なぜこんな場所に「緑の相談室」なのか。スペースの使い道に困ったとしか思えない建物だけど、よくトイレ休憩に使わせてもらっているので結構お役立ちではある。(窓口のお姉さんにはご内聞に)


 さて、1日でざっと回れるのはこれくらいかな。もちろん姫路城の中を散策して、お菊井戸をのぞいたり未発見のキリシタン瓦を探したり、天守閣で殿様気分にひたってみるのも良いでしょう。今はやりの安倍晴明に興味がある方は、そのライバル・蘆屋道満(あしやどうまん)が修行した法華山一乗寺でハイキング(陰陽師のくせに小坊主だったのか)、アウトドア志向なら弁慶が修行した書写山圓教寺でトレッキング、世界の名所・名跡を模した太陽公園でのピクニック(万里の長城はなかなかハードです)、野生派には姫路セントラルパークでライオン狩り(しないでください)、お疲れの方には自然観察の森で森林浴もお好みのまま。学術派には市立美術館、県立博物館をはじめ、姫路科学館(アトムの館)、星の子館、姫路文学館e.t.c. …聞かないでくださいね。行ったことないです。

 まだまだ紹介したいのですが、姫路というのは普段着でぶらぶらのんびり、時々思いがけず視界に入る白鷺の城を楽しみつつ回るのが一番だと思います。文化も商業も、中途半端に発展したまま取り残されているようなノンキ者のローカル都市。それが姫路の魅力なのですから。

 そうそう、腹が減っては戦はできぬ。最後にとっておきの情報をご披露しましょう。



姫路市立 手柄山温室植物園


ランチ

 姫路にはお得で美味しいランチを食べさせてくれる店が数多あります。口コミやタウン情報誌を駆使して日々探索の手を伸ばした成果をいくつかご紹介しましょう。

1)クレシェンヌ  手柄から西へまっすぐ。英賀保駅の近くにあるアットホームなフランス料理の店です。オープン当時からのお気に入りだけど、未だにランチしか食べたことがないという不良顧客。日曜は平日と違うランチメニュー(500円アップ)が加わって、シェフが腕を振るっています。

2)弥与作  英賀保駅沿いの道を南に下ったら左手にある寿司屋さん。平日でも混んでいて人気の程がわかります。定食にお寿司がついてくる「松」がおすすめ。男性でもかなり満足のいく量ですよ。

3)古寺  姫路駅前の神姫バス停留所裏手。お弁当がおすすめですが、量・品数・味付けがどれもほどよくさりげない。買い物に疲れたランチタイム、ちょっと一息つきに入りたい隠れ家的な店です。

4)勝三寿し  大手前通りから国道2号線西行きに入ってすぐ。別に昼でなくてもいいのですが、ここの鉄火巻きを知らなくては姫路市民としてモグリかも。

5)御座候  JR姫路駅地下改札左手。テイクアウトの回転焼きとは別の蕎麦屋ですのでご注意。石引蕎麦も美味しいけど、それより名物のわらび餅を食べて食べて!友人曰く、「今までわらび餅と信じて食べてたのはなんだったんだ…(スーパーのパック売りらしい)」

6)花銀  白銀町にあります。こぢんまり、というより茶室のように狭い店。ゆっくりくつろぐ店ではないけれど、お昼のお弁当に免じて通ってしまうのだ。本来は鍋料理の店みたいです。

7)ピッコロ  大型スーパー「サティ」内。とても大衆的なレストランですが、ここの海老のコースはクセになります。人なつっこいシェフを捕まえてワインや料理について語ると、通うのがどんどん楽しくなるでしょう。

…う~ん、きりがないですね。どれも1000円台の手頃なランチですので是非一度おためしください。

 というわけで、ジモティ的姫路案内はこれにて終了。最後にもう一度、ライトアップされた姫路城の周囲を回ります。なんだかんだ言って好きなんですよね、この城。好きだから案内も楽しいんだろうなと再認識。案内する方もされる方も、ニコニコ満足顔でお別れしたのでした。



山下 明子 YAMASHITA Akiko

(財)高輝度光科学研究センター放射光研究所利用研究促進部門Ⅱ

〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1

TEL:0791-58-0833 FAX:0791-58-0830

e-mail:akiko-y@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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