Volume 06, No.5 Pages 336 - 338
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
2001B利用研究課題の審査を終えて
Report of the Proposal Review Committee in the 8th Public Use Term 2001B
(財)高輝度光科学研究センター SPring-8利用研究課題選定委員会、姫路工業大学 理学部 Faculty of Science, Himeji Institute of Technology
1.はじめに
SPring-8の供用開始後3年が過ぎて、その利用は本格的な利用フェーズに入っていますが、利用研究課題選定委員会(PRC)の活動も本年4月から第4期に入りまして、ますますその任務の重要性が増してきました。そのような状況の中で、当委員会の主査を村田先生から引き継ぐことになり、責任の重大さに身の引き締まる思いがします。第1、2期のSPring-8立ち上げ時期には、太田俊明先生(現諮問委員会委員長、東大・理)が課題選定のあり方を含めて委員会運営の基礎固めをされました。第3期の村田隆紀先生(現諮問委員会委員、京都教育大学長)は、ビームラインの増加に伴う一般課題申請方法や審査過程の改善、加えて特定利用研究課題の導入など、SPring-8発展期の中で多くの改革をなさいました。この辺のことは先生自ら回顧されておられる[1]通り、まさに利用フェーズの初期におけるご苦労が伺われます。
さて、課題申請の数が500件を越えて、いよいよSPring-8の利用展開は充実すべき時期に入ってきました。一方この先、従来のペースでビームラインが新設されることがないであろうことは、今日の国の予算状況を見る中で容易に推察されることです。また、主として初期に供用に呈されたビームラインを対象として、ビームラインそのものや内部に設置された測定装置の高度化を検討するなど、機構における予算執行の内容も少しずつ変革せざるを得ない環境にあります。SPring-8の特長を生かした斬新な研究成果の創出がますます期待される背景の中で、課題選定作業は慎重かつ厳正に進められねばなりません。
2.今期の課題募集と審査
今回、第8回共同利用期間として課題選定を行った対象期間は、2001年第7~10サイクルおよび2002年第1サイクルとしたことから、ビームライン調整やJASRIが留保する20%を除いて、共用ビームラインで配分できるシフト数は190シフトとなりました。なお今回から、BL13XU(表面界面構造解析)、BL20XU(医学・イメージングⅡ)、BL35XU(高分解能非弾性散乱)の3本の共用ビームラインが新規にビームタイム配分され、これにR&Dビームラインの30%や原研・理研から提供されるビームタイムを加えて合計約4,000シフトの利用可能なビームタイムとなりました。一般課題の公募は5月29日に締め切られましたが、619件(成果専有課題4件、特定利用課題4件を含む)と過去最大の応募があり、前回の502件を大幅に上回りました。これに対し457件(選定率74%)を選定した旨をJASRIに報告しました。ここ数年、1年の前半の共同利用期間(A期)では応募が少なく、後半(B期)では増加する傾向が続いていますが、A期とB期の連続する2回の公募状況の合計をみると、応募数、選定数は昨年それぞれ1,006および606であったのに対して、本年は1,121および866と、ともに順調に増加の一途をたどっています。今回の課題採択に際して、利用研究課題選定委員会で留意した点は、1課題に十分な実験時間を確保するために、選定された課題の要求シフト数に対する配分シフト数の比率(シフト充足率)をできるだけ大きく取る方針で選定審査が行われました。今回、平均のシフト充足率は74%であり、応募数が少なかった2001A期を除いて、これまでの公募で最も高いシフト充足率となりました。
ビームラインごとに眺めてみると、選定課題数の多かったビームラインは、BL40B2(構造生物学Ⅱ)およびBL41XU(構造生物学Ⅰ)の38件、BL20B2(医学・イメージングⅠ)およびBL02B2(粉末結晶構造解析)の32件でした。これらのビームラインでは当然ながら1課題あたりの配分シフト数は少なくなります。選定率が低かったのは、BL02B1(結晶構造解析)の41%に次いで、BL39XU(磁性材料)の49%、BL09XU(核共鳴散乱)の55%と続いています。中でもシフト充足率の低かったビームラインは、BL20B2の49%、BL02B2の54%などです。
今回の選定において特に特徴的だった点は、上記のシフト充足率のアップに加えて、以下のような項目です。
(1)分科会数とメンバーの増加
今回の課題選定から、従来の5研究分野を次の10小分科に細分しました。すなわち、L1(生体高分子結晶構造解析)、L2(小角散乱、医学イメージング)、D1(結晶構造、構造物性)、D2(高温・高圧構造物性、地球惑星科学)、D3(共鳴散乱、非弾性散乱)、X(XAFS)、S1(軟X線・赤外吸収物性)、S2(蛍光X線、XMCD)、M(実験技術、材料創製)、I(産業利用)ですが、これらの小分科会にそれぞれ4~5名の審査委員が諮問委員会委員長から指名(本年4月18日)され、総勢45名で今回第8回の課題選定を行った訳です。各小分科会にはそれぞれ主査が指名されており、審査の最終日には小職とともに全体調整の任にあたりました。なお産業利用小分科会(I分科会)は、現在立ち上げ調整中のBL19B2ビームラインの供用開始を待って実質的な活動が始まることになっており、他の共用ビームライン利用の産業界からの課題審査は、一般の課題と同様に扱われることになっています。因みに今回の公募で、民間からは31件の応募があり、21件が選定されました(前回は応募30件に対して27件採択)。一見、今回の産業界からの選定率が低いように思われますが、申請の中身をよく見ると、実験責任者が大学またはJASRI職員などで、共同実験者に民間研究者が参加している共同研究課題が増加(17件応募、16件選定)しているなど、ここに来てJASRIの産業利用支援強化の効果が若干表れたものと考えます。
(2)生命科学分科におけるビームタイムの留保
SPring-8のビーム利用形態は研究分野ごとにそれぞれ特徴がありますが、各分野で大きな成果を挙げるには、それらの特徴にフィットした課題審査やビームタイム配分が展開されなければなりません。その一つの例として、生命科学分野では特に実験試料の特殊性から、試験的に作製した試料(蛋白結晶など)の初期的なチェックや、試料の作製時期にタイミングを合わせて測定できるようにするために、前回同様、BL41XU(構造生物学Ⅰ)とBL40B2(構造生物学Ⅱ)でビームタイムが事前に留保され、緊急課題に準じた取り扱いでの利用が可能になっています。今回はBL41XUで30シフト、BL40B2で29シフトがこのために留保され、各サイクルに均等に割り振って申請を受け付けることになりました。
3.特定利用研究の審査
特定の目的に沿ってビームタイムを長期(最大3年)に利用する特定利用制度が始まって、今期で1年半を迎えました。この制度によって、2000B期からスタートしている3課題については中間評価を行う時期にきており、諮問委員会でこれの実施要領を定めております。この先行課題に加えて、特定利用研究課題として今回は4件の応募があり、うち電子分光の分野で1件が条件付きで選定されました。選に漏れたうちの2件は、一般の利用課題申請数が多いビームラインを希望する研究課題であり、他の多くの一般利用課題を圧迫ないしは排除してまでこれらの申請を選定するには至らなかった、というのが不選定の理由になっており、必ずしも申請内容に対する評価が低いからとは限らない状況でありました。したがって今後も、混雑するビームラインでの特定利用申請の集中はあり得ることを考慮して、施設側あるいは本委員会でもその対策を考えなければならないと思います。
4.利用研究課題選定のあり方について
(1)「共用施設の利用研究課題選定に関する基本的考え方」の改訂
本年4月の諮問委員会で、JASRIから、独創的、開拓的研究の採択の拡大、および海外からの利用の平和目的の確保を意識した「共用施設の利用研究課題選定に関する基本的考え方」の改訂提案がなされ、了承されました。つまり、科学的先駆性とともにその研究があくまで平和利用を目的としたものでなければ、選定の対象にはなり得ないことを明示したことを意味します。しかし、今後も判断が難しい事態もあり得ることから、当委員会としても慎重な対応が要求されています。
(2)研究分野ごとに特徴のある課題選定
先に触れたように、今期から分科会は10に細分化されて、研究内容を詳細に検討、審査できるよう改善されました。今回は新しいメンバーで、慎重かつスピーディに審査が進められ、最終の全体調整でも大きな調整上の困難はなかったと記憶しています。しかし、生命科学分野の課題申請様式の一部を他の分野のそれとは別に設定して、この分野でよりきめの細かい審査ができるよう工夫されているように、研究分野ごとに特徴のある課題選定を行うことが今後ますます重要になると思われます。とくに産業利用の分科では、「科学的独創性」よりも時として「工業的インパクト」や「経済的効果」をより重要な審査基準とすべき場合もありましょう。この分野ではそのような審査がし易いよう申請様式を変更した方がよいかも知れません。このように、研究分野ごとに課題選定の審査様式や方法を変えることの是非とその内容について、今後各小分科会ごとに議論していただき、年度内に一応の結論を得た上で諮問委員会に報告することになりました。
5.終わりに
はじめに述べたように、本格的利用フェーズに入って研究課題の応募数と選定数は順調に増加しつつあります。一方、国内外の放射光施設でも、産業利用を含めその利用拡大を図ってさまざまな方策が立てられつつあります。これら施設間では協調とともに競合を余儀なくされる状況にありますが、SPring-8の利用は、課題審査項目のはじめにあるとおり、研究の科学的意義に加えて、SPring-8からの放射光の特長を生かした研究内容でなければなりません。今後のSPring-8利用発展の如何は、利用研究課題選定委員会の運営方法にも大いに関わることを意識して、上述のようにさまざまな観点からの改革を図りますが、それよりも、課題に応募する研究者自らの研究意欲に大きく依存することは否定できません。選定委員会メンバーを悩ますくらいに多くの素晴らしい研究課題の申請を是非とも期待しています。
参考文献
[1]村田隆紀:SPring-8利用者情報 Vol. 6 No. 1 (2001)21.
松井 純爾 MATSUI Junji
姫路工業大学 理学部物質科学科 教授
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