Volume 06, No.4 Pages 260 - 265
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
SPring-8共同利用で実施された研究課題について
The Experiments at the Public Beamlines of SPring-8 Since the 1st to 6th the Research Period
1.はじめに
SPring-8は平成9年10月に供用が開始され、これまで3年半にわたって共同利用が実施されている。本誌が発行される時には、すでに第7回共同利用期間2001Aが終了しているが、ここでは第1回利用期間である1997Bから2000Bまでの6回の共同利用において実施された利用研究について、利用課題の分類や利用期間ごとの推移・変遷をまとめた。利用者各位にとっての今後の課題申請や利用の際の参考となれば幸いである。なお、本誌ではこれまでも、利用研究課題の採択が終わった段階で申請課題の審査結果及び採択状況をお知らせしてきた。また、各利用期間の終了後には課題ごとの情報として課題番号、課題名、実施責任者及び所属機関、利用ビームライン名、シフト数などを本誌に掲載するとともに、成果非専有課題については利用期間終了後に利用者から提出いただいた報告書をExperiment Reportとしてまとめ、発行している。あわせてご覧いただきたい。
2.共同利用の経緯と実施された課題数及び利用者数
平成9年10月にSPring-8の供用が開始され、第1回目の共同利用として同年10月から翌平成10年3月まで1997B共同利用が実施された。その後、順調に施設が稼働し、平成13年1月までに6回にわたる共同利用が実施された。
これまでの共同利用の実施状況と平成13年、14年における計画を図1に示す。図1には利用期間や課題選定の時期を示すとともに、実施された利用期間に対しては共用ビームライン1本あたりの共同利用に供されたシフト数、実施された課題数、利用者の延べ数を書き入れている。今後の計画については、現時点では予定であるので、SPring-8のホームページや本誌によって最新の情報を確認いただきたい。
共同利用期間は、当初は年度を前半と後半に分ける形で実施されたが、課題選定の時期が年度末となり、大学関係者にとって多忙な時期に当たることから課題の申請及び審査に影響があるとの判断で、平成11年から夏期長期運転停止期間を挟む暦年での前後半年ずつにすることとした。
図1 SPring-8共同利用の経緯及び計画
表1 共同利用及び専用施設利用の推移
図2 共同利用及び専用施設利用における課題数と利用者数の推移
図3 各公募時における応募課題数と採択課題数
表1は、これまでの6回にわたる共同利用期間とその利用時間及びその期間における課題数と利用者数を示したものである。それをグラフにしたものが、図2である。表1及び図2では参考として専用ビームラインの利用の結果をあわせて示している。第6回の利用期間までに、共同利用では1,591課題が実施されている。また、利用者数は9,962名である。ここでの利用者数は各利用期間での延べ数である。例えば、ある利用期間において2回実験を行った場合は2名と数えている。専用施設の利用を加えると、供用開始以来これまでに12,000名の利用者によって1,800を超える課題が実施された。この共同利用1,591件には、後で述べる成果専有利用及び特定利用を含んでいる。
表1に示した各利用期間の利用時間または図1中の利用期間の長さを見ると明らかなように、第3回の利用から前半と後半の利用時間に時間の差が出ている。利用課題数及び利用者数は、全体として回数を重ねるごとに増加しているが、増加の程度は利用時間の長さの影響を受けている。一方、図3には各課題選定における応募と採択課題の比較を示している。応募数は、例えば第4回利用期間あるいは第6回利用期間のように、利用時間の短い年後半の利用期間(B期)の公募時において、その前後の期間の応募数に比べて多くなっている。すなわち、年後半の利用期間B期では、A期に比べて利用時間が短い上に応募数が多いという状況が続いている。このような事情による影響を少しでも緩和しようと、後半の利用期間に次年の第1サイクルを加え、A期及びB期の利用時間の差を少なくする試みを行っているが、この利用時間のアンバランスはまだ完全には解消されていない。また、応募数のアンバランスについては、利用者にこのような現状であることを理解いただき利用の応募をしていただくようお願いする。
この利用時間の短い利用期間に多くの応募が集まることは、課題採択率やシフト充足率(採択された課題についての、要求のあったシフト数と審査の結果配分されたシフト数の比)の低下につながっている。表2に、第3回利用期間(99A)からの課題採択時の課題採択率とシフト充足率の推移を示す。利用時間が短いにもかかわらず応募が多かった第4回(99B)及び第6回(00B)については、いずれも課題採択率はその前後に比較して低くなっている。今後の利用課題への応募に際しては、このような事情にも留意していただき、利用申請していただきたい。
表2 各利用期間における課題採択率とシフトを充足率
シフト充足率の確保については、諮問委員会においても提案課題をその利用期間の間に完結できるよう十分な利用時間を確保することが必要であると議論されている。これを受けて、課題審査に当たる利用研究課題選定委員会において、施設のビームライン担当者の意見を聞き実験の完結に必要なビームタイムを配分することに留意した審査を行っている。この結果として、今後はシフト充足率は増加するが、それとは逆に課題採択率が低下することも起こるものと予想される。
3.実施された利用研究課題
(1)ビームラインごとの状況
これまで実施された共同利用研究課題1,591件のビームラインごとの分類を、表3に示す。表3では課題合計が1,592件となっているが、これは第6回利用期間(00B)において、1件の特定利用課題が異なる2本のビームラインを使用したことによっている。
表3 ビームラインごとの実施課題の推移
第1回(97B)から第3回共同利用期間(99A)までは、10本の共用ビームラインに加えて、一部のR&Dビームライン及び原研・理研ビームラインを利用した。この当初10本の共用ビームラインはその後の利用期間においても順調に利用されている。このうち、特に利用が多いビームラインとしては、BL41XU(構造生物学Ⅰ)では268件が、またBL01B1(XAFS)では178件の課題が実施されている。なお、ビームラインの名称は供用が開始された当時のものから、計測装置の増設などによって利用内容がより的確に表されるように改訂されたものもある。また、第1回の課題採択の時に採択された課題の一部はビームラインの整備の都合で第2回の利用期間に実施されたものがある。
各ビームラインにおいてどのような利用研究が行われているかを示したのが表4である。研究分野の分類は課題選定委員会分科会の分科名にあわしている。この表から、BL01B1は名称のとおりXAFSの利用がほとんどであることがわかる。同様に、BL02B1、BL04B1は散乱/回折分野の利用を専用とするビームラインであり、BL41XUやBL40B2では生命科学の研究が専門的に行われている。それに対して、BL39XUは全分野でほぼ均等に利用されている。表4 ビームラインごとの実施課題の研究分野別分類
次に表5は、第3回利用期間(99A)から第6回利用期間(00B)に利用された課題のビームラインごとの平均シフト数を利用研究分野別に示したものである。第1回及び2回目の利用期間では立ち上げ課題が多かったことから、表5ではこの2回の利用期間に実施された課題を除いている。この表からは各研究分野においてどのような利用が行われているかが推定できる。例えば、生命科学分野で主として用いられるビームラインは前述のようにBL41XUとBL40B2であるが、このビームラインで利用された課題の平均利用シフト数は、各々3.4と5.5である。一方、XAFS分野を代表するBL01B1では5.7シフト、BL25SUの分光分野では12.1シフト、同様に散乱/回折分野ではBL02B1が10.7シフト、BL04B1が9.5シフトである。このように、この表から実験に必要な時間など研究分野ごとの利用の特徴が浮かんでくる。
表5 99Aから00B利用期間に利用された課題の平均シフト数
表6には、ビームラインごとに利用された平均シフト数の実施期間ごとの推移を示している。ビームラインごとの平均シフト数の推移を見ると、全体的な傾向として利用期間を経るごとに平均シフト数が減少している。表の1番目のビームラインから10番目のビームライン、すなわち当初10本のビームラインについては、99Aにおける場合に比べて、99Bで平均シフト数は大きく減少し、00A及び00Bになってほぼ一定となるビームラインが多い。これは、これらのビームラインで99Bまでは立ち上げ状態が続いていたが、00Aになって本格的な利用フェーズに入ったことを示しているものと思われる。同様な傾向が、時期は遅れるが、その後に供用が開始されたビームラインでも見られる。
表6 99Aから00Bまでに実施された課題の平均シフト数 各ビームラインごとの平均シフト数の推移
(2)所属機関別分類及び研究分野別分類の推移
図4に、実施課題1,591件の所属機関別及び研究分野別分類の推移を示している。この結果は、従来から報告している課題採択時の採択課題の推移と傾向は同じである。すなわち、所属機関別では国立大学が50%を超え、残りの公立大学から、民間、海外までほぼ同じ割合となっている。また、研究分野別では、特に最近の利用期間では、生命科学:散乱/回折:その他=1:1:1となっている。さらにその他の、XAFS、分光、実験技術等もほぼ同じ割合となっている。この傾向は第1回利用期間97Bを除いて、ほぼ同じように推移している。
図4 実施された課題の所属機関別分類(上)及び 研究分野別分類(下)
図5は全利用課題の機関と研究分野の相関を見たものである。大学では散乱/回折分野が相対的に多く、それに対して、例えば国立研究機関ではXAFSが多いというような結果になっている。
図5 97Bから00Bにおいて実施された利用研究課題の 機関別分類
図6には、これまで利用件数が多かった研究機関ごとの課題の研究分野を示している。利用が多かった機関としては、国立大学では大阪大学がずば抜けている。続いて、京都大学、東京大学と続く。公立大学では、地元である兵庫県立姫路工業大学の利用が多い。それらの各機関の利用の分野別分類をみると、例えば、大阪大学では生命科学分野の利用が比較的多くなっており、岡山大学及び姫路工業大学では散乱/回折分野の利用が他の分野の利用に比べて比較的多い。この結果は、各研究機関で行われている研究や所属する研究者の研究分野の分布が反映されているものと思われる。
図6 主な利用研究機関の利用分野
表7に利用課題の地域別利用数を示している。図から明らかなように、関西からの利用が圧倒的に多く、それに関東が続いて、後は全国に分布している。この表では、関西地方は、大阪府、京都府をはじめ、兵庫、奈良、和歌山、滋賀及び三重の各県としている。関西地方には、SPring-8の地元である姫路工業大学や、日本原子力研究所、理化学研究所があり、この結果を反映し、他の地区に比べて圧倒的に利用が多くなっている。さらに、関東や中部地方からの利用が多いのも、その地方で研究機関が多いことの反映であり、SPring-8の利用が全国的に広がっているものと考えている。
表7 SPring-8における利用課題の地域別利用数
(3)成果専有利用
ビーム使用料を支払う代わりに、成果を利用者が専有できるSPring-8の利用である成果専有利用は第4回利用期間(99B)から始まった。99B利用期間から00B利用期間までで、成果専有課題は18件実施されている。各利用期間の推移は、99B:5件、00A:5件、00B:8件となっている。分野別では、生命科学:7件、XAFS:5件となっており、その他の分野が6件あった。成果専有利用は、成果を利用者が専有できると言うことから、課題選定委員会における科学技術的妥当性の審査を行わないで、倫理性、安全性及び実験の可能性の審査のみで利用ができる。このような利用のあり方から、当初は利用の大部分は民間からのものであると考えていたが、これまでの実績では民間が12件で、公益法人などその他の機関からの利用が6件であった。成果専有利用に対する詳細については、SPring-8のホームページに掲載している成果専有利用の案内を参照いただきたい。
(4)SPring-8特定利用
第6回共同利用期間(00B)からSPring-8特定利用が始まった。この特定利用は、これまでの通常利用課題の有効期限が6ヶ月であったのに対して、3年以内の長期にわたって計画的かつ効率的にSPring-8を利用していただくことによってより顕著な成果をあげていただくことを目的とした利用制度である。このことから、この制度で利用される利用研究は、SPring-8の長期的な利用によって科学技術分野において傑出した成果を生みだす研究、新しい研究領域及び研究手法の開拓となる研究、産業基盤技術を著しく向上させる研究などの一層の展開を図ることが期待されている。
00B利用期間では、表8に示す3件の特定利用課題が実施された。このうち1件の課題が2本のビームラインを利用した。各特定利用課題の研究の概要については、本誌Vol.5、No.5(2000年9月号)p.315に掲載されている。また、この秋に開催されるSPring-8シンポジウムで、これら3件の特定利用課題についての実施状況及び経過が報告される予定となっている。
表8 00B利用期間から開始された特定利用課題
4.最後に
SPring-8は供用開始後3年半をすぎ、これまでの立ち上げフェーズから本格的な利用フェーズに入った。本稿は、その経緯をこれまで行われた利用研究課題の実施状況から眺めたものである。ここで示した利用研究課題の分類の仕方については少なからず雑駁な点もあり、データの解析や解釈について偏った面もあるかもしれないが、利用状況を総合的に紹介する初めての試みとしてその点はお許しいただきたいと考えている。
本稿が今度の利用者の利用、あるいは課題申請の一助になれば幸いである。