Volume 06, No.3 Pages 198 - 201
3. その他のビームライン/OTHER BEAMLINES
量子構造物性ビームラインBL22XU建設計画の概要
New JAERI Beamline BL22XU to be Completed in 2001
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター Synchrotron Radiation Research Center, JAERI Kansai Research Establishment
Download PDF (154.87 KB) Download PDF (154.87 KB)
1.はじめに
平成12年度11月の補正予算によって、新たに原研ビームライン1本の建設が認められ、平成13年度末の完成を目指して整備を進めることになった。
現在SPring-8にある原研ビームラインとしては、BL23SU(重元素科学)、BL14B1(材料科学Ⅰ)、BL11XU(材料科学Ⅱ)の3本が利用運転を行っている。これらは原研所内での広範囲な放射光利用分野をカバーするために、それぞれ主要なエネルギー領域において相補的な役割分担をしている。新たに建設される4本目もこの方針の延長にある。表1に新設ビームラインを含む原研ビームライン4本の研究内容・特徴の相違点をまとめた。
表1 原研ビームラインの整備計画
今回のビームライン建設の主な目的をまとめると次の2点になる。
① アクチノイドやランタノイド系を対象とした共鳴磁気散乱あるいは磁気吸収実験の実施
② 既存の原研ビームラインにおけるビームタイム不足の緩和
前者に係るビームライン仕様として、例えばウランUのM5吸収端のエネルギーが約3.5keVであるなど、比較的Be窓による吸収が大きいエネルギー領域までカバーする必要がある。加えてUなどの国際規制物質や超ウラン元素を研究対象とするために、それらの使用が許される特定のエリア、すなわちRI棟にビームラインを導入する必要がある。このことは今回の建設計画が既存のBL23SUに続いて、SPring-8における非密封放射性物質の放射光研究を実施するためのRI棟およびビームライン整備の一環となることを意味する。
後者については、現状の3本のビームラインそれぞれが複数の研究テーマのもとに運用され、複数の実験ハッチや装置を研究者ごとに交替で使っている事情がある。このうちBL11XUの高温高圧発生装置を新ビームラインに移設することで、高圧実験に関するビームタイムの増加と、一方のBL11XUにおける核共鳴散乱実験や非弾性散乱実験、表面回折実験の強化をねらいとする。
RI棟に放射光を引き込むことと光源としてアンジュレータを選択することで、新ビームラインはBL22XUとなる(RI棟に建設可能な未計画ビームラインとして残るのは、偏向電磁石光源のBL22B2のみ)。目的①に従って(予算要求の通り易さも意識しているが)、ビームライン名称は「量子構造物性ビームライン」とした。
2.ビームラインの概要
2-1.挿入光源と基幹チャンネル
前章に記した目的①では比較的長波長の硬X線が必要とされるのに対して、目的②の観点からは高い透過能やより高いQでの回折測定が必要となる反面、バックグラウンドの遮蔽や検出器の特性などによる実験の行い易さを考慮して、50〜70keVのX線が要求される。
両者を一次光で取り出せるアンジュレータとして理化学研究所・北村英男主任からご提案いただいた真空封止型リボルバー式アンジュレータが最も魅力的であったが、何分年度後半の補正予算では詳細を詰める時間があまりに少なく、今回は採用を見送った。最終的には標準的な真空封止X線アンジュレータ(磁石周期長38mm、磁場周期数118)に決定した。一次光で3〜10数keVを、11〜15次光で50〜70keVを利用する。
この挿入光源の最大total power(gap=9mm)は約12.6kWと計算される。これは標準的なX線アンジュレータ用基幹チャンネルで十分対応できる。ただし後で述べる理由から、標準的な基幹チャンネル機器構成から実験ホール側の機器の一部(端部排気真空槽やBe窓真空槽など)は削除する。
2-2.輸送ラインの概略と遮蔽ハッチ
単色X線を得るために3〜70keVを1台の二結晶分光器、1組の結晶面でカバーするのは製作上困難であるし、得策ではない。考えられる方法は複数台の分光器を用意するか、結晶面を真空中で切り換えるかのいずれかだが、我々は前者を選択した。平板のSi111結晶を用いてできるだけX線強度を高くすることと、液体窒素冷却の採用に伴ってその振動対策を行う際に面切換機構のない方がいろいろな可能性を検討できると考えたからである。
集光方法としては高圧実験などで高エネルギーX線を用いる場合はベリリウム屈折レンズ、磁気散乱・吸収実験などで低エネルギーX線を用いる場合は高調波除去の目的と合わせて全反射ミラーを用いる。全反射ミラーの集光点はRI棟内の光源から約115mの地点と設定した。実質的にミラーが設置できるのは蓄積リング棟実験ホールの光源から50〜85mの間であるが、レイトレースの結果ではできるだけ後方にミラーを持ってきたほうが集光に適している。これはミラーの曲率が小さいと反射面スロープエラーの影響が顕著になるためと考えられる。
以上から遮蔽ハッチとしては光学ハッチ、高圧実験のための実験ハッチ1、ミラーチェンバーを入れた実験ハッチ2(本来ならミラーハッチと呼びたいが、当面混乱を避けるためこの名称を用いる)、RI棟実験ホールでの磁気実験用の実験ハッチ3の4つを製作することになる。光学ハッチ内の最下流にベリリウム屈折レンズを置くが、その集光点となる実験ハッチ1は屈折レンズの焦点距離をできるだけ長く取れるように、光学ハッチと分離して、実験ハッチ2と連結させて実験ホールの後方に設置する。光学ハッチと実験ハッチ1の間、実験ハッチ2と3の間は鉛を巻いたシールド真空配管でつながれる。特に実験ハッチ2と3の間では一部屋外に機器を設置する必要があり、シールド真空配管や真空ポンプを風雨から保護するための措置も必要になる。
主要機器の配置案を図1に示す。
図1 BL22XUの主要機器の配置
2-3.二結晶分光器
2台用意する二結晶分光器のうち、低エネルギー用(3〜37keV)のものは従来の標準型二結晶分光器に準じたもので、第一結晶と第二結晶が共通の回転軸により回転し、低位置出射はカム等を用いたリンク機構で実現される。ただしブラック角の範囲を3°〜42°と特に高角側に拡大している点で特別仕様となる。
高エネルギー用(35〜70keV)では第一結晶と第二結晶の主軸回転が独立しており、定位置出射させるために第一結晶回転機構全体を並進ステージに載せる。ブラック角の範囲は1.6°〜3.2°で、二結晶間の垂直方向のオフセットは標準型結晶分光器と同じく30mmとする。このため第一結晶の並進距離はかなり長くなり、真空槽全体の大きさは1.5m程度になる見通しである。
2-4.全反射ミラー
全反射ミラーはM0、M1、M2、M3の4枚を用意する。M0はミラー使用時には必ず光軸上に挿入され、M0による入射・反射角の調整によってM1〜M3の選択が決まる(図2)。
図2 BL22XUのミラーシステムの概念
M0は平面ミラーで、長手方向の機械曲げによって縦集光を行う。反射コート材はNi及びRhを塗り分ける。その選択切換のために光軸に垂直で水平方向の並進機構を用意する。M1〜M3は横集光を行うためのサジタルミラーである。各ミラーの仕様を表2に示す。
表2 BL22XUのミラーの仕様
ミラーを真空中に保持して位置・角度調整を行うためのチェンバーを3台製作する。このうち第一チェンバーにはM0とM1の2枚のミラーを収納する。
2-5.真空排気系その他
光学ハッチ内の機器やミラーチェンバーは基本的にターボ分子ポンプによって真空排気を行う。ただしシールド真空配管や実験ハッチ1内の連結管部分などはスクロールポンプや油回転ポンプで対応する。3keV以上のエネルギーであればある程度低真空度領域があってもX線の減衰はほとんど無視できるからである。
しかしX線ビームライン標準のBe窓を使用すると低エネルギー領域での減衰は必ずしも無視できない。先に述べたようにBL22XUでは基幹チャンネルの実験ホール側標準排気真空槽を排して差動排気システムを置き、水冷Be窓なしでも基幹チャンネル超高真空を維持できるようにする。一方で非密封放射性試料を扱うことも考慮し、差動排気部下流や大気中への放射光ビーム取り出し口には可動式Be窓を取り付けて、Be窓を用いても実験に不都合のない状況では(特にX線エネルギーの高いとき)原則的に真空隔壁としてこれを挿入できるようにする。
その他に各部で真空破断が生じた場合に上流部の真空保護や放射性試料の拡散を防ぐ方法として高速バルブと音響遅延管を全体で3箇所に用意する。
3.実験ステーションと研究内容
3-1.蓄積リング棟実験ハッチ1において
実験ハッチ1では主として、原研極限環境物性グループによる高圧実験が行われる。ハッチ内部の上流側には、現在BL11XUに設置されているマルチアンビル型高温高圧発生装置SMAP180を移設し、圧力12GPa、温度1200℃程度までの領域でX線回折実験や密度測定実験などを行う。標準型二結晶分光器に加えて高エネルギー用結晶分光器を使うことにより、液体や非晶質のX線回折実験においては広い波数範囲の測定が可能となり、実空間での分解能が高い構造データが得られると期待される。また密度測定でも、高エネルギーX線が使えると、より重い元素の測定が可能となる。
ハッチ内部の下流側には、ダイアモンドアンビルセル用回折計を設置する。本回折計は現在製作中であるが、粉末および単結晶X線回折実験を可能とする仕様となっている。特に検出器としてオンライン読取型イメージングプレートおよびCCDカメラを備えており、前者によって構造解析用粉末回折データの取得および単結晶振動写真の撮影等を行い、後者によって単結晶構造解析用データの取得、時分割測定等を行うことを予定している。また4K冷凍機を搭載することにより、高圧下低温実験も可能であり、この場合CCDカメラを使用することにより短時間に多くの温度点のデータを取得することができる。
3-2.RI棟実験ハッチ3において
実験ハッチ3では、主に3d遷移金属(Ti〜Cu)のK 吸収端、ランタノイド(Ce〜Yb)のL吸収端、アクチノイド(U)のM吸収端を用いた共鳴回折実験を計画している。従って、主に用いられるエネルギー範囲は3.5〜9keVということになる。実験装置としては、垂直振りの四軸回折計と水平振りの二軸回折計が設置される。
四軸回折計は標準的なEulerianクレイドルを用いたものである。幾つかの冷凍機が用意されており、2K〜室温までの測定が可能である。また偏光解析アナライザも使用できる。ここでは、軌道秩序、四重極転移、電荷秩序等の共鳴回折実験が行われる予定である。UのM端での実験ではHeパスの窓材による吸収も無視できないため、回折計全体をHe槽に入れる工夫も行う予定である。なおミラーによる集光が30keVまで行えるので、共鳴散乱でない実験、例えばDACを用いたUを含む試料の低温高圧実験等も可能である。
一方、二軸回折計では、超伝導マグネットを載せる事により、磁場下での回折実験を計画している。試料テーブルにはスイベル(χ)と回転ステージ(φ)が付いており、ある程度の試料の軸合わせが可能である。研究対象としては、磁場誘起の四重極秩序、構造相転移などが考えられる。また、超伝導マグネットは水平磁場を印加するタイプなので、ここではさらに磁気円二色性の実験が可能である。これに備えて水平偏光を円偏光に変換する移相子が実験ハッチ内に設置される。この移相子は、特にU のM端での使用を考慮して、全体を真空槽に入れるようにする。
4.おわりに
これから詳細設計、製作、現地作業と進み、平成14年3月末頃にはオフビームでの動作試験を完了したい。ハッチへの放射光導入や光学系の立ち上げ等は平成14年度に入ってからになるだろう。
本ビームラインの建設に関しまして、SPring-8関係者の方々やユーザーの皆様のご理解とご協力をいただけますよう、お願いいたします。
小西 啓之 KONISHI Hiroyuki
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2613 FAX:0791-58-2740
e-mail:konishi@spring8.or.jp
塩飽 秀啓 SHIWAKU Hideaki
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2615 FAX:0791-58-2740
e-mail:shiwaku@spring8.or.jp
稲見 俊哉 INAMI Toshiya
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2639 FAX:0791-58-2740
e-mail:inami@spring8.or.jp
片山 芳則 KATAYAMA Yoshinori
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2624 FAX:0791-58-2740
e-mail:katayama@spring8.or.jp
綿貫 徹 WATANUKI Tetsu
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2624 FAX:0791-58-2740
e-mail:wata@spring8.or.jp