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Volume 06, No.3 Pages 186 - 188

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

放射光研究所の組織変更について
Reorganization of the structure in the JASRI’s Synchrotron Radiation Research Laboratory

菊田 惺志 KIKUTA Seishi

(財)高輝度光科学研究センター 理事 放射光研究所副所長 JASRI, Deputy Director

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 SPring-8は1997年10月に供用を開始して以来、この3月で3年半経過した。その間蓄積リングはスケジュールに従って1998年5月にビーム電流100mAを蓄積するとともに、設計値を上まわる性能を早々に達成していった。2000年夏期長期運転停止期間にリングの4箇所に30m長直線部を設けるための電磁石の大がかりな配置換えが行われたが、そのビーム性能は改造前とほとんど同じ水準に達している。一方、ビームライン(BL)に関しては、当初共用BL10本で始まったが、その後BLの増設が続き、昨年度までに共用BL20本(R&D BL3本を含む)、専用BL7本、原研・理研BL6本、加速器診断BL1本の合計34本が稼動している。現在調整中、建設中あるいは建設が確定したBLは、共用BL5本、専用BL2本、原研・理研BL5本、加速器診断BL1本の合計13本であって、本年度も多数のBLの建設が進められる。これらが完成すると全部で47本に達し、設置可能なBLの総数62本の約3/4を占める。このような状況から、SPring-8はBLの建設フェーズから本格的な利用フェーズに推移してきたと認識される。
 上述のように、多数のビームラインの増設・立ち上げのおかげで広い放射光利用研究分野のかなりの領域をカバーできるようになりつつある。一方で、利用分野の拡大に伴う利用者数の増加や利用者のより多いビームタイムの要請に応ずるためには加速器の運転時間を増やす必要がある。しかし、それらに対応して大幅に人員を増やすことは実現性に乏しいと考えられる。そこで、これからの本格的な利用フェーズにおいて限られた数のスタッフによって利用支援を着実に行っていくための方策が昨年の秋頃からJASRI放射光研究所内で議論され、その組織の変更案が検討された。従来の放射光研究所の組織は、1996年1月から1年以上にわたる研究所基本問題懇談会における基本的な枠組みの検討結果をもとにつくられたもので、加速器部門、ビームライン部門、実験部門、利用促進部門と施設管理部門の5部門からなっていた。
 本年4月から放射光研究所は文末に示すような新しい組織に変更された。その骨子は次のとおりである。従来の5部門のうち、大幅に変更されたのは利用系のビームライン部門、実験部門と利用促進部門の3部門であって、ビームライン・技術部門、利用研究促進Ⅰ部門と利用研究促進Ⅱ部門に編成替えされた。施設管理部門の組織は従来どおりである(部門長は瀬崎勝二氏)。
 今回の改組でもっとも重要なポイントはグループ体制を確立させることであった。部門内の業務をグループに区分けし、グループをユニットとして業務を遂行する形がとられる。グループは数個のチームからなり、グループリーダー/チームリーダーの統率のもとで活動する。
 加速器部門は従来どおりの4つのグループ、運転・軌道解析グループ、線型加速器グループ、リング加速器グループと制御グループから編成されており、今回それらのもとにチームが組織された(部門長は熊谷教孝氏)。
 ビームライン・技術部門は従来のビームライン部門と利用促進部門の中の基幹的設備の整備に関わる光源・基幹チャンネルグループ、光学系・輸送チャンネルグループ、制御グループと共通技術に関わる共通技術開発グループ、共通技術支援グループから構成されている(部門長は副所長が兼務しているが、実務的に石川哲也氏に部門長代理をお願いしている)。
 利用研究促進Ⅰ部門と利用研究促進Ⅱ部門は、従来の利用促進部門に属する共用ビームラインの支援に関わるグループと実験部門のすべてのグループをまとめたもので、それぞれ材料科学と生命・環境科学に関連する共用ビームラインを利用に供する部門である。利用研究促進Ⅰ部門には、構造物性Ⅰグループ(極端条件下の構造、動的構造変化、構造ゆらぎ)、構造物性Ⅱグループ(表面構造、X線非弾性散乱)、分光物性Ⅰグループ(XAFS、磁性)と分 光物性Ⅱグループ(軟X線分光、赤外分光)が属する(部門長は壽榮松宏仁氏)。利用研究促進Ⅱ部門には構造生物グループ(蛋白質結晶構造解析)、生物・医学グループ(小角散乱、医学診断)と顕微・分析グループ(イメージング、微量元素分析)が属する(部門長は植木龍夫氏)。
 利用研究促進ⅠとⅡの両部門にはさらにそれぞれ産業応用・利用支援ⅠとⅡのグループが設けられた。これは前年度に導入されたコーディネーター制度を効果的に運用するためのもので、材料科学分野(コーディネーターは古宮聰氏と梅咲則正氏)と生命・環境科学分野(コーディネーターは中前勝彦氏)の専門分野別に産業応用・利用支援の強化が図られる。
 SPring-8は世界最高性能の加速器、光源および多彩な最高レベルの実験装置群をもっており、JASRIのスタッフはこれらの施設・機器の運転・保守整備・高度化を行うとともに、供用促進・利用支援に携わっている。さらに施設の基盤整備も進めている。一方、将来にわたってSPring-8を第一級の施設として維持・発展させるためには、インハウス・スタッフによる開発研究が必須のものである。これらの業務がいずれに重点を置いて遂行されるかは各部門/グループの役割によって異なる。
 従来の利用促進部門と実験部門は上述の業務のうち供用促進・利用支援と開発研究にそれぞれ重点を置いていた。今回限られた数のスタッフでビームライン担当の役目を果たすために実験部門を利用研究促進Ⅰ、Ⅱ両部門にマージさせて実験部門のスタッフにもその業務に携わってもらうことになった。そのうえで各グループが複数のビームライン/実験ステーションを受け持つことになった。こうすることにより利用支援の業務を融通性をもたせて着実に実施できると考えられる。
 開発研究についてもグループを研究ユニットとして機能させることとしている。将来を見据えた放射光高度利用技術の開発研究プロジェクトをSPring-8のサイトにある原研、理研とJASRIが連携して昨年度から実施している。これは従来の限界を超えた性能をもつ機器の開発(Instrumentation)と新しい研究手法の開拓(Methodology)を行うものである。各グループはこの研究資金や外部の競争的研究資金を獲得して開発研究を進めることになる。その際R&Dビームラインが有効に活用されるであろう。また外部機関の研究チームとの研究協力、共同研究を積極的に行うことも望まれる。
 アドホックな客員グループとして加速器部門に高度放射光利用技術開発グループが設けられた。ここでは極短バンチビーム生成の開発研究プロジェクトを実施し、その展開にあわせて利用系からも加わりその利用研究をめざす。また利用研究促進Ⅰ部門の客員グループの物性理論グループでは、X線による励起と緩和に関連した現象を励起状態を含めた電子状態の計算から研究し、実験と対比させる計画である。
 新組織にはまた、研究所の横断的な業務を統括して行うとともに、事務局との連携を強化するために、所長室が設けられた。所長室には「計画調整」、「研究事務」と「産業利用」の3つのグループが属する。計画調整グループは従来の所長付計画管理グループとビームライン部門の計画調整グループがまとまったもので、全体の事業計画に合わせた運転スケジュールおよびビームラインなどに関する建設工程の調整・管理の業務を行う。研究事務グループでは、研究所が関わる部門長会議・グループリーダー会議などおよび高度利用技術研究開発委員会・R&Dビームライン委員会などの事務局業務と研究所予算などの立案に関わる事務局業務が行われ、産業利用グループでは、コーディネーターとの連携による産業利用促進に関わる企画・立案が行われる(室長は副所長が兼務)。
 政府の行政改革により発足した総合科学技術会議において本年3月30日付で科学技術計画が決定された。それによると、科学技術の戦略的重点化項目として「基礎研究の推進」、「国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化」と「急速に発展し得る領域への対応」が挙げられている。2番目の項目については、ライフサイエンス分野、情報通信分野、環境分野とナノテクノロジー・材料分野の4分野に特に重点を置くとしている。放射光科学はここに挙げられたすべての項目の研究に密接に関わっている。SPring-8の本格的な利用フェーズに対応できるように編成されたJASRI放射光研究所の新組織のもとで、将来的に利用系スタッフの増強を図りつつ、国内外の利用者とともに21世紀初頭に期待されている科学技術の発展に大きく貢献するように努めたい。



JASRI放射光研究所の新組織
加速器部門
 運転・軌道解析グループ
   運転チーム
   軌道解析チーム
   ビーム物理チーム
   光診断チーム
 線型加速器グループ
   前段加速器チーム
   加速管チーム
   ビーム診断チーム
   高周波源チーム
 リング加速器グループ
   ビーム輸送チーム
   電磁石チーム
   高周波加速チーム
   真空チーム
   ビーム診断チーム
 制御グループ
   ネットワークチーム
   ソフトウェア設計チーム
   機器制御チーム
 高度放射光技術開発グループ(客員)

ビームライン・技術部門
 光源・基幹チャンネルグループ
   光源チーム
   基幹チャンネルチーム
 光学系・輸送チャンネルグループ
   光学系チーム
   輸送チャンネルチーム
 制御グループ
   ネットワークチーム
   ソフトウェア設計チーム
   機器制御チーム
 共通技術開発グループ
   検出器チーム
   放射線評価チーム
   専用施設チーム
 共通技術支援グループ
   周辺技術チーム
   情報ネットワークチーム

利用研究促進Ⅰ部門
 産業応用・利用支援Ⅰグループ
   産業応用・利用支援Ⅰチーム
 構造物性Ⅰグループ
   極限構造チーム
   動的構造チーム
 構造物性Ⅱグループ
   表面構造チーム
   非弾性散乱チーム
 分光物性Ⅰグループ
   XAFSチーム
 分光物性Ⅱグループ
   軟X線チーム
   赤外チーム
 物性理論グループ(客員)

利用研究促進Ⅱ部門
 産業応用・利用支援Ⅱグループ
   産業応用・利用支援Ⅱチーム
 構造生物グループ
   結晶構造解析チーム
 生物・医学グループ
   生物チーム
   医学チーム
 顕微・分析グループ
   顕微チーム
   分析チーム

施設管理部門
 計画管理課
 運転管理課
 施設管理課

所長室
 計画調整グループ
 産業利用グループ
 研究事務グループ



菊田 惺志 KIKUTA Seishi
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 副所長
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0877 FAX:0791-58-0878



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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