ページトップへ戻る

Volume 06, No.3 Pages 159 - 160

所長室から
From the Director’s Office

上坪 宏道 KAMITSUBO Hiromichi

(財)高輝度光科学研究センター 副会長 JASRI Vice President, Director of JASRI Research Sector

Download PDF (14.91 KB)

利用フェーズに入ったSPring-8

 この4月1日よりJASRI放射光研究所は新しい組織に衣替えして、利用段階に入ったSPring-8を支えていくことになった。新たに発足した平成13、14年度諮問委員会も、23名の委員のうち9名が新しく選任され、また、委員長に太田俊明東京大学教授が選出されて、利用フェーズに入ったSPring-8利用に関する重要事項を審議することになった。その下部委員会である利用研究課題選定委員会も改選を迎えたので、産業利用分科会を新しく発足させると共に、各分科会の委員数を増やして、増大する研究課題数に対応できるようにした。
 利用段階に入ったSPring-8の課題をあげると、ユーザー時間の大幅な増加、共同利用方式の多様化、創造的研究の推進及び光源・ビームラインの性能向上/高度化などである。これら課題への対応策についてはこの欄でも度々報告しており、既に実行に移されているものもあるが、ここでその概要をまとめておく。
 ユーザー時間の大幅増は2001A期から実施しており、2001Bと合わせると、2001年にはユーザー時間が4300時間を超す見通しである。しかし最終目標 (~5000時間) を達成するには、加速器運転要員/ビームライン担当者などの増員が必要で、今後の課題である。
 共同利用方式の多様化も始まっていて、既に構造生物学分野でサイクル毎に分科会留保枠ビームタイムを置き、その直前までに申請のあった実験課題を審査する仕組みを採用している。また、医学利用ビームラインでは、一定のビームタイムを「プロジェクト」枠として確保し独自に利用計画をたてているが、産業利用ビームラインについても同様の方式を検討している。さらに長期にわたる研究を実施する「特定利用制度」も実施されている。
 去る4月16日に開催された新諮問委員会では、分科会留保枠の運用や、特定グループが一定の時間枠を得て実施する「プロジェクト研究」なども考慮した共同利用方式の多様化が審議され、利用研究課題選定委員会で各研究分野の特長を整理し具体策を検討することになった。なお、JASRI放射光研究所の組織替えによって、今後は各グループが複数のビームラインをまとめて担当することになったので、利用研究課題選定委員会にもグループとして対応し、技術情報などを積極的に提供して共同利用の効率化に寄与することになった。
 創造的研究の推進に関しては、今後、利用研究課題選定委員会が独創的・開拓的研究の選定に留意した審査を行うことになった。失敗をいとわない試行的な研究課題の採択が必要になる場合も多く、また、施設者が協力してR&Dビームラインや施設者留保枠を利用する場合もあろう。このような観点を考慮に入れて研究課題の採択を行うことが諮問委員会で認められた。


第3者評価とピアレビュー

 SPring-8は共同利用開始から3年を過ぎたので、今年度に文部科学省科学技術・学術審議会による中間評価が実施されることになった。具体的な方針は、同審議会の下部委員会で審議の上決定される。
 一方、Vol.6,No.1で述べたように、JASRIは来年度から共同利用ビームラインの新設に加えて、既存ビームラインの増強・高度化を計画している。来年度予算に要求する案については既にビームライン検討委員会で審議を終えているが、これに関連して文科省、原研、理研は、「ビームライン新設計画や増強計画には、その事前評価に加えて既存施設の評価を行うことが必要である」としているので、諮問委員会は専門委員会を設置して、共用ビームラインと専用施設を対象にしたピアレビューを行うことにした。
 具体的実施方法は科学技術・学術審議会による第3者評価と重複を避けるため、その方針決定を受けて決める予定である。場合によっては第3者評価の科学的技術的資料になる評価になることも考えられるので、この実施にあたっては正確な資料の作成が不可欠である。ユーザーのご協力をお願いしたい。


軟X線領域FEL研究計画
 本誌Vol.5,No.4の本欄に理研に於けるFEL計画を紹介した。その後理研では、「高度干渉性放射光利用技術開発第II期計画」として軟X線領域FEL開発計画を予算要求し、平成13年度から5年間にわたる計画が認められた。
 高度干渉性放射光利用技術開発計画は、SPring-8で空間干渉性の高いX線を発生させ、それを用いて新しい研究領域を開拓する研究計画である。理研播磨研究所の北村研究室と石川研究室の計画として始まった第I期計画は、SPring-8に27メートル長のアンジュレータを設置することを目指した計画で、平成12年度に世界最高輝度X線を発生させて成功裏に終了した。近く利用実験を開始する予定であるが、この計画にはJASRIビームライン部門及び利用研究促進部門の研究者も参加しており、利用が始まれば共同利用にも供されることになっている。
 第II期計画は、軟X線領域とくに「水の窓」領域の軟X線FELを開発し利用する研究計画である。SPring-8キャンパスでコヒーレントX線を発生させ、それを利用して新しい研究領域を開拓することを目標にしているので、第I期計画と同様にSPring-8全体の計画として進めるのが望ましい。加速器系に関しては既に理研とJASRI加速器部門との間で技術的検討が始まっている。今後光源系や光学系の開発や利用研究計画の検討では、さらに幅広い研究者の協力を求めることになろう。なお、実用光源として利用する場合には加速器に対する要求が格段に厳しくなるので、現在予定されている予算総額でどこまで実施できるか、技術的検討を急がなければならない。また、この計画の達成には他の研究機関の共同研究が必要である。既に新しい高ピーク電流・短パルス電子銃や高電界線型加速器の開発では、高エネルギー加速器研究機構との共同研究が検討されている。
 原研関西研究所との協力は本計画の推進に重要な意義を持っている。原研・関西研のFEL研究グループは、長年にわたってエネルギー回収型超伝導リニアック駆動の赤外FELを開発しており、既に世界最高出力の発振に成功している。また、プラズマレーザーによる「水の窓」域X線レーザーの開発も進めているので、FEL開発及び高度干渉性X線の利用技術開発を含めた関西研とSPring-8の研究協力は、我が国のFEL/X線レーザーの実用化に向けての重要な第1歩になるであろう。
 これまで世界のX線FEL計画は、高エネルギー加速器計画の一部として進められてきた。また、これまで我が国のFEL研究は光源開発に重点を置いていて、その利用に関する研究開発はほとんど進められていない。これに対して本計画は、利用という観点から最適化したX線領域FELの開発を目指している点で、ユニークで新しい計画である。原研、理研、JASRI3者の密接な協力によるFEL研究は、干渉性X線研究の新しい時代を開くことができよう。
 なお、「水の窓」領域のコヒーレントX線は、生命科学やナノテクノロジーの研究開発で新しい研究手法を提供することが期待されている。


播磨フォーラムとGordon Research Conferences
 播磨フォーラムは兵庫県とSPring-8が共同主催する、少人数による討論を主体にした国際会議である。組織委員会で開催テーマとオーガナイザを決め、その後の運営は全てオーガナイザに任せる。オーガナイザはそのテーマで最先端の研究を行っている研究者を選んで招待し、参加者全員が三日間SPring-8の研究交流施設に泊まり込んで討論を主体にしたシンポジウムを開く。
 播磨フォーラムはこれまで4回開催されたが、参加者が最新の研究成果を発表して討論する会として高い評価を得ている。本年度は第5回と第6回が開催されるが、第5回はオーガナイザに姫路工業大学松井純爾教授がなり、「放射光利用X線イメージング技術の動向‐現状と将来‐」のテーマで7月に開催する。第6回は大阪大学蛋白質研究所の月原冨武教授がオーガナイザになって、「生体超分子の自律的構造構築」のテーマで10月末に開催することになっている。
 本年1月中旬に理研からの紹介でGordon Research Conferences (GRC) のProgram ManagerであるMs. Celli MiceliがSPring-8を来訪し、同コンファレンスを年2回ぐらいSPring-8で開催できないかとの相談を行った。検討の結果、7月初旬から8月中旬までの間はSPring-8の運転を止めるので研究交流施設や宿舎や放射光普及棟会議室の使用が可能である、その他の環境は同コンファレンスの主旨に良く合っている、原則としてSPring-8側に負担はかけないなどの点をGRCとSPring-8側が確認して、Ms.Miceliは帰国した。最近、GRCから理研に来年夏にコンファレンスを一つ開催したい旨の連絡があった。SPring-8側としては、原研、理研、JASRIの3者協議で承認を得た後で、JASRIが受け入れ窓口になって準備することになる。JASRIとしては来年のコンファレンスが最初のケースであり、できるだけ協力して会議を成功させたいと思っている。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794