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Volume 06, No.2 Pages 132 - 134

6. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS

SPring-8利用者懇談会から
From the President of the SPring-8 Users Society

松井 純爾 MATSUI Junji

SPring-8利用者懇談会 会長 姫路工業大学 理学部 Faculty of Science, Himeji Institute of Technology

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 「次世代大型X線光源研究会」が1988年5月初めに発足してからおよそ13年、「SPring-8利用者懇談会」に改組されてから9年になる。SPring-8建設計画の当初から、利用推進の旗頭として頑張って来られた菊田前会長の後を受けて、全く期せずして重職を引き継ぐことになってから約3年になろうとしている。10本の共用ビームラインの完成と調整を待って、1997年10月に高輝度放射光の供用を開始したが、この頃には利用懇会員数は既に1100名前後の大所帯となっていた。1997年度の利用懇総会における前会長の所信表明として、研究課題別サブグループ(SG)をビームライン建設後も存続させ、その利用の推進とハード、ソフト両面の高度化を推進することを求めておられる。また、SPring-8アニュアルレポートへの報告と、SPring-8シンポジウムのJASRIとの共催、主要委員会への委員候補者の推薦などを訴えつつ、JASRIへの移籍を前に会長職を辞された訳である。小職がその重責を引き継いでからしばらくは、前会長の方針を受けて、既設SG活動の活発化を中心に、以下のような重点施策を打ち出した[1]
1)第二期ビームライン建設計画推進への協力
 JASRIが所管するビームライン検討委員会において、引き続き3本の共用ビームラインと4本の専用ビームラインの建設が、諮問委員会に進言された背景には、利用ビームラインが「相乗り型」のまま残っており、当該ビームライン利用者の満足度が必ずしも高くないことが挙げられる。これらの新規ビームラインの技術的提言をSGにお願いしたい。
2)利用環境整備
 利用業務部門の活動が軌道に乗る中で、ユーティリティ整備と厚生施設の改善、マシンタイム配分と運用への提言をまとめたい。
3)長直線部利用計画の具体化
 30m長直線部の利用については「光源研究会」発足の当初からワークショップが開かれるなど第三世代放射光光源に特徴付けられた課題であった。SRI ’97のアドホック会議で長直線部利用ワークショップが開かれ、これの利用促進のために早急にSGを立ち上げることを目標にした。
4)共用ビームラインの民間利用率アップ
 企業からのビームライン利用の課題提出率が低いことは、就任当初からことさら気になる状況にあった。民間の会員比率が20%強である実体を考慮すると、企業に対して「敷居が高い」障害をどう除去するかについての検討が必要である。
 以上の利用懇側の活動方針に対して、施設側ではビームラインの供用開始後、いわば試行的状況でその利用が展開したが、1998年12月に開催された第2回SPring-8シンポジウムが開かれる頃には、共用ビームラインの立ち上げが進んで、SG活動も「建設・立ち上げ」フェーズから「ビーム利用技術の蓄積と成果の確保」のフェーズに移行しつつあった。会員数は1250名に達する勢いの中で、当利用懇の体質も活動もまた若干の変化を余儀なくされつつあった。そこで、第2回SPring-8シンポジウムでの挨拶の中で、以下のように方針の若干の見直しをさせて頂いた訳である[2]
1)SG体制の見直しと新SGの発足
 当時まであった36のSGは、ビームラインの「計画・立案」がその任務の大半であり、実際に約半分の20程度のSGが共用ビームラインの建設に関与し、建設後の立ち上げ・調整に参加した。しかしこの頃になると、建設、計画が進捗中の共用、専用ビームラインを除いて残るビームライン本数が20本程度であること、当時「相乗り」ビームラインからの分離・独立を目指すものを含めて、その特定利用目的のために新規にビームラインが割り当てられるとは限らないこと、予算の進展が従来ペースでは展開しないであろうことなど、建設計画の全体背景に変化が見られる中で、一つのSGが一本のビームラインに特化して利用する図式を改める必要があると考えられるようになった。しかしシンポジウムに先立って、会長の試案で、既存のSG世話人にSGの見直しに関するアンケート調査を行ったところ、本格的な利用が十分に行われていないこの時点でのドラスチックな変革を望まない意見が大勢を占めたことから、当面のSG見直しは一部SGの解散のみに留めた。その一方で、新ビームラインの計画に合わせて新SG提案を急いでいただき、「ランダム系物質高エネルギー散乱」、「表面電子物性」、「精密構造物性」、「コヒーレントX線光学」、「コヒーレント軟X線」の5つのSGを順次に運営委員会で審議決定頂いた。
2)幹事の増員
 会員数の飛躍的増加と本格的利用フェーズへの突入に即して、利用幹事2名、行事幹事1名ではすべての行事計画を処理できないことが懸念されるに及んで、それぞれの幹事を1名ずつ増員することをお願いし、運営委員会で認めて頂いた。
3)主要専門委員会への委員候補者推薦
 施設側の専門委員会である「利用課題選定委員会」、「ビームライン検討委員会」、「専用施設検討委員会」などの委員候補者は、それぞれ当利用懇からも推薦を依頼されている。利用懇の最高議決機関である運営委員会委員に人選をお願いし、それぞれ施設側所望の人数を推挙した。
4)SG世話人の役割見直し
 SG世話人は、文字通り各SGの代表として、SG会員諸氏の意見集約とビームライン建設の責任者的任務を負っておられる。しかし、世話人が申請する「ビームの評価・改良と高度化」の趣旨と課題の採択結果とが申請者側から見て必ずしもマッチしないことから、世話人のフラストレーションが高まる危険性がある。然るに、世話人は「代表者」としての顔が見え易いことから、施設側からの報告依頼などが多く、世話人の権限と義務などについての疑義が生じ易い現行の「研究課題選定制度」に対する反論を含めて様々な意見があがった。当利用懇としてはまず、会員である課題申請者に、SG世話人のあり方についてのアンケート調査などを行ってみることが検討された。
 供用開始後2年が経過した1999年秋の第3回SPring-8シンポジウムが開催されるころになると、競争相手であるESRFやAPSなどから発行されるアクティビティレポートには、先駆的な成果が次々と報じられ始め、わが国研究陣にはいささか焦りも感じられようという状況になってきた。つまり、放射光の利用フェーズは完全に三極の競争時代へと入り、後発のSPring-8としては「追いつけ」から「追い越せ」への研究展開が求められる状態になった。多彩なビームラインマップが描かれる一方で、予算的な背景から、ビームラインの新設には慎重にならざるを得ない環境となってきた。その裏返しとして、既設のビームラインの改造を視野に入れた高度化を進めることで、よりスマートで効率の良い結果の創出が意識されるようになって、これに属するSGの体制見直しはここでも必須要件となってきた訳である。
 上記の環境変化の中で当利用懇各SGの活動状況を見ると、その活動の活発さにSG間で大きな差があって、3年もの間全く活動を停止したSGも少なくないことが判明した。その理由の一つにビームライン建設の目標達成の見通しが立たなくなってやむを得ず停滞したということもある。また、世話人の交代が容易に行われないことによることもあろう。当利用懇の活動資源は、現在「ビームライン利用技術の高度化」のタイトルでの委託費であり、施設側からすればこれにかなった活動があらわにあって欲しいと希望しているにも拘わらず、2000年に入ってからも上記の傾向は変わらず、会計的にも現在のSG依存の様相と、全体の予算執行上見通しが立ち難くなっている現状は好ましくない。そこで、小職が就任以来ずっと意識してきたSG体制の見直しができるよう、会則の一部を変えることが検討され始めた。主として3人の利用幹事諸氏に一年弱をかけてご苦労願った結果、2000年5月幹事会にて利用幹事からの細則改定提案がなされ、さらにその後詳細案が検討されて、2001年1月の放射光学会年会・合同シンポジウムの折にようやく細則改定案を運営委員会に提案できるようになり、ご承認いただいた訳である。その骨子は、実行委員会に関わる細則に、従来は単に「利用課題別にSGを組織する」というくだりを、「共用ビームラインの建設提案、高度化への協力を主体とするSG」と「特定ビームラインに属さず、一定の研究分野の発展を目的にした研究会」とに再構成すると改め、それぞれ期限(2年)を設けてグループ化の再登録をする、という条項を盛ることである。これによって、ビームラインに対する責任についてSGと研究会とで異なる役割を持たせることができ、また権利を明確にすることについて運営上配慮することとされた。要は利用懇の単位活動をこまめに見直すことで、実のあるSG、研究会活動を目指そうということである。その一環として、各SG、研究会に次年度の活動計画を懇談会に提出していただくことにした。一昨年に承認された「脳機能研究会」と本年1月の運営委員会で新たに認めて頂いた「構造物性研究会」は、上記の研究会構想に合致すべきものであろう(3年前に認可された「理論SG」もどちらかといえば研究会といえる)。新SGとしては「共鳴散乱構造物性SG」と「X線発光解析SG」がスタートしている。
 一方、先に述べた「共用ビームラインの利用課題募集方式」についてのアンケート調査が運営幹事によってなされた。本調査の対象者は、実験責任者でかつ当利用懇会員に限ったが、(a)現行の課題採択制度を概ね肯定するもの約31%、(b)修正を条件に現行制度を良しとするもの約41%、(c)現行制度に反対するもの約17%、(d)その他11%であった。この回答について物質系と生命系に分けてみると、(a):(b):(c)が物質系で1.0:1.1:0.6であるのに比して生命系では1.0:4.0:0.5と、やや修正を求める比率が生命系で高いことが分かった(集計は事務局佐久間さんのご協力による)。いずれにしても(c)の反対を唱える意見が少ない結果となったことは少し予想外であったといえる。これ以外に(d)の「その他」には実に様々な意見が寄せられており、利用者の問題意識の広さに驚かされた。この中から、有用な意見を拾い上げて施設側への提案としたら如何かと思わせるものも数多くあり、今後の検討課題として配慮すべきである。
 特定のビームラインにおける混雑緩和や、建設提案内容に相当な理由がある場合を除いて、新規ビームラインの建設が容易には進まなくなった中で、施設側の方針により、課題採択基準を採択率より1課題に対するマシンタイム充足率に重点を移すことになった。その結果、建設・立ち上げ課題についての実験が十分にできなかったと感じるグループには少なからぬ不満がくすぶってきたことも事実である。ビームタイムの集中利用による早期の成果を期待する、いわゆる「特定利用制度」が発足したが、その採択競争は厳しく、利用者側からはさらなる充足率の向上が期待されている。
 放射光の産業利用が望まれて久しい。監督官庁からのそれへの要望もここにきて顕著と聞いている。小職の出身母体が企業であることから、わが国産業の振興に放射光利用が期待されている度合いが極めて大きいことを実感している。幸いにも施設側においては今年度より「コーディネータ制度」を発足させ、放射光経験の浅い産業界にも門戸を広げた利用推進体制ができつつあることは嬉しい限りである。先にも触れたように当利用懇の産業界会員比率が産業界申請比率より高いことを鑑みると、今後もっと積極的に産業利用が展開されるべきで、そのためのSG作りを急ぎたいと考えている。
 前任会長の任期残1年と正規の任期2年を加えて、小職の任期がまもなく切れようとしているが、当初考えていたことの幾つかの課題は残念ながら果たせなかった。しかし、SPring-8施設側の利用モードが変わる中で、実行単位であるSG活動の闊達化にいささかでも寄与できそうな体制作りができたことは喜ばしい。ここに至る会員諸氏のご協力に対して感謝の念で一杯である。

[1]SPring-8利用者情報Vol.3 No.4(1998)38.
[2]SPring-8利用者情報Vol.4 No.1(1999)35.


松井 純爾 MATSUI  Junji
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