Volume 06, No.2 Pages 127 - 128
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第4回放射光アジアフォーラムの報告
The 4th Asian Forum on Synchrotron Radiation
これまでの放射光アジアフォーラムを振り返ってみると、第1回がアジア諸国との交流を深めることをめざして日本放射光学会によって1994年5月に神戸で催された。第2回は1995年10月に韓国の慶州で、Pohang Light Sourceの開業にあわせて催され、第3回は1997年8月に供用開始間近かのSPring-8のサイトでSRI ’97のサテライト・ミーティングとして催されている。
このたびの第4回放射光アジアフォーラムは1月15、16日の2日間、広島大学理学部を会場にして高輝度光科学研究センター、日本放射光学会と広島大学の共催で開かれ、外国人18名と日本人28名の合計46名(8つの国と地域)が出席した。このフォーラムを開催することができたのは科学技術国際交流センター(JISTEC)の財政的支援のおかげである。
アジア地域における放射光施設は、稼動しているものに建設中、計画中のものも含めると、地域的にロシアのシベリアも範疇に入れて、9つの国と地域にある。それらは20施設に及ぶが、今回のアジアフォーラムにはインドを除く19の施設の現状報告がおこなわれた。なお、ここではわが国の施設は共同利用のものをとりあげている。稼動中および建設中の施設の講演はつぎのとおりであった。このうち最近稼動を始めたのは、SPring-8のサイトにあるNew SUBARUである。建設が進んでいるのは、タイのSiam計画とシンガポールのHelios 2である。
Beijing SR Facility (China, 2.2GeV) : Hu Tiandou
Hefei Light Source (China, 0.8GeV) : Xinyi Zhang
Pohang Light Source (Korea, 2.0〜2.5GeV) : Moohyun Yoon
VEPP-3, VEPP-4M (Russia, 2.0GeV, 6.0GeV) : Gennady N Kulipanov
Singapore Synchrotron Light Source (Singapore, 0.7GeV) : Herbert O Moser
Taiwan Light Source (Taiwan, 1.5GeV) : King-Long Tsang
Siam Photon Laboratory (Thailand, 1.0GeV) : Weerapong Pairsuwan
Photon Factory, AR (2.5GeV, 6.5GeV) : Tadashi Matsushita
UVSOR (0.75GeV) : Masao Kamada
Ritsumeikan SR Light Source (0.575GeV) : Kazuo Kojima
SPring-8 (8.0GeV) : Hiromichi Kamitsubo
HiSOR (0.7GeV) : Masaki Taniguchi
NewSUBARU (1.5GeV) : Ainosuke Ando
さらに国際協力にもとづくビームライン設置の状況についてつぎの報告があった。
Australia Beamline at Photon Factory : Garry Foran
Taiwan Beamline at SPring-8 : Yong Q Cai
建設計画中のものについては、つぎの計画がポスター発表された。中国のShanghai計画とオーストラリアのBoomerang計画が煮詰まりつつあり、日本では東大、東北大と名大の計画の精微化が進む一方、佐賀県の計画が具体化している。
Boomerang Project (Australia, 3.0GeV) : John William Boldeman
Shanghai SR Facility Project (China, 3.5GeV) : Xu Hongjie
University of Tokyo Project (1.6GeV) : Yukihide Kamiya
Tohoku University Project (1.8GeV) : Shigeru Sato
Nagoya University Project (1.0GeV) : Yoshikazu Takeda
Saga Prefecture Project (1.4GeV) : Takio Tomimasu
すでにアジア地域で多数の放射光施設が稼動しているので、今回のフォーラムでは施設報告のセッションとともに、各施設の放射光を利用した研究についてもそれぞれ特徴のあるものを紹介するセッションが設けられた。そこでは例えば巨大磁気抵抗効果を生ずる多層膜や光第2高調波発生を増大させる超格子などの構造と特性の関連、爆薬中の炭素が爆発時にダイヤモンド微粒子に成長する過程の高時間分解測定、粉末回折データの最大エントロピー法/リートベルト法による解析で得られる精密電子密度分布、蛍光X線分析法による極微量元素の検出限界の押し下げ、などをはじめ、つぎのような講演があった。
Present status and future prospect of SR science in Australia : J.W.Boldeman (Australian Nuclear Science and Technology Organaization), X-probes of microstructures of multilayer : Zhenhong Mai (Inst. of Physics, Chinese Academy of Science), Grazing incidence X-ray technique in EXAFS for probing the nano-structure characters in surface and interface : Jay Min Lee (PAL, Korea), Measurement of time and spectral characteristics of semiconductor detectors with SR from VEPP-2M in the energy range of 0.25〜1.25 keV : A.D.Nikolenko (Inst. of Nuclear Physics, Novosibirsk), SR “in situ” investigation of explosion with nanosecond time resolution : B.P.Tolochko (Inst. of Solid State Chem. and Mechanochem., Novosibirsk), Half-metallic electronic structure of transition metal oxides : Di-Jing Huang (SRRC, Taiwan), Accurate structure analysis by using powder diffraction : M.Sakata (Nagoya Univ.), Trace element analysis by X-ray fluorescence analysis : S.Hayakawa (Hiroshima Univ.)
最後の討論とまとめは日本放射光学会長の太田俊明氏(東大理)によっておこなわれた。アジアフォーラムの第0回ともいうべき会合が1990年にHiSORを計画中の広島大学で開かれたが、当時と比べるとアジア地域の放射光施設の数が増え、今回そのほとんどの施設についての最新の情報交換および興味深い放射光利用研究や機器開発の紹介がおこなわれ、所期の目的が達せられたと述べたうえで、今後、施設間で共通の課題に協力して取り組んでいくことの重要性を指摘した。それを受けていくつかの施設関係者からコメントがあり、各施設の置かれている状況によって若干異なるが、インフラ整備の推進、熟練研究者・技術者の育成、利用支援の充実、講習会・スクールの開催、利用者層の拡大、産業利用の促進、広報活動の重要性など共通の認識が示された。またアジア結晶学会の立場で会長の大橋裕二氏(東工大理)は、アジア結晶学会には17の国と地域の研究者が参加して3年ごとに会議が開催されているが、X線利用の研究が主流で、特に蛋白質結晶の構造解析では放射光利用が極めて強い関心事になっているので、アジアの放射光コミュニティと緊密に連携していきたいとのコメントがあった。
過密なスケジュールの中で、HiSORとSPring-8の見学もおこなわれた。さらに今回のフォーラムではアジア地域で稼動中の施設にあるビームラインの仕様をまとめた「Asian Beamline Handbook」が作成された。これは前回のフォーラムのときに企画され、今回各施設の協力のもとで八木直人氏(JASRI)によって編集されたものである。このハンドブックには各ビームラインの研究目的や光学系の配置図を含む詳細な記述があるので、放射光施設の関係者および放射光ユーザーにとって役立つと思われる。
アジア地域の放射光施設は建設中と計画中のものを含めて世界のそれの1/3ぐらいを占めており、放射光科学が進展しつつある主要な地域のひとつになりつつあると実感された。放射光科学の効率的・効果的な発展のためには、今後ともアジア地域の放射光施設間の緊密な協力関係の維持・発展が望まれる。
The 4th Asian Forum on Synchrotron Radiation Jan. 14-16, 2001 Hiroshima University, Japan
菊田 惺志 KIKUTA Seishi
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