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Volume 06, No.2 Pages 123 - 124

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第14回日本放射光学会年会・放射光科学 合同シンポジウムの報告(その2)
Report of the Joint Symposium on the 14th Annual Meeting of Japan Synchrotron Radiation Society and Synchrotron Radiation Science (Part-2)

江場 宏美 EBA Hiromi

文部科学省(旧:科学技術庁)金属材料技術研究所 National Research Institute for Metals, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology

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 SPring-8歴はかれこれ3年になりますが、本シンポジウムへの参加は初めてでした。そんな立場から感じたことや、材料の分析手段として放射光を使っている者としての感想などを、やはり初めての訪問でした広島の印象も交えながら簡単に述べさせていただきます。

1.広島大学
 広島市中心は、林立するテナントビルの谷間を数珠つなぎになった路面電車が行き交い、その脇を自動車の列がすり抜けるというにぎやかさで、我々が車で通りかかったのがちょうど帰宅ラッシュ時間帯であったとは言え、その光景は一地方都市に抱いていた私の印象をすっかり変えた。路面電車の軌道敷内を突っ走るタクシーに驚き、道路上の信号機には初めて見る「赤い×印」などあって、赤は行ってはいけないという否定であるからして、それをさらに×印で否定している2重否定とも思える意味のわからない信号の要求していたところは未だ私には不明なのであるが、初めて来る土地での発見は楽しかった。
 広島大学は、かつてはこの広島市内に本部を置いていたそうであるが、広島市から東方へ30㎞ほどの東広島市西条に順次移転を行い、数年前に完了。広大な広大新キャンパスは広島湾に面した広島市内とはおよそ風情の異なる山中にあり、後述するように特定の気象条件ではなかなか手ごわそうなところなのであったが、しかし、そこはさすがに広島大学、すぐ近くにはにぎやかな商店街があり、外出しても昼ご飯に困るようなことは一向になく不便さは感じられなかった。

2.2日目
 会場の理学部は中央口から入ってわりとすぐのところにあり、広い構内で迷ったりすることなく、難なくたどり着くことができた。建物に入って正面の階段を上がると受付があって、その周辺には、常設展示として日本国内の放射光施設の現状が、各々ポスターにまとめられていた。それらのなかには、計画段階の放射光施設についてのものが数件あって、そんなにたくさん計画があるとは知らなかったので驚いた。今後、放射光利用研究・技術はそれほど特殊なものではなくなり、産業利用も広がっていくことであろう。新しい光源としてFELの開発も進んでいると聞いた。現在放射光施設を利用できることを、漠然と特権的に感じていたが、その特権が「特権」でなくなる日も近いかもしれない。今何ができるのか、改めて考えていかなければと思った。
 午後、3会場に分かれてのポスターセッションが行われた。ポスター会場は、反対側のパネルとの間のスペースが2mくらいあって、決して狭くはなかったが、オーラル発表のプログラムも途切れたピーク時にはポスター前の人だかりが膨れ上がって、少なくともX線回折・散乱の会場(教室)では、通路を実際通行できないほどになっていた。オーラル発表の時間とポスター発表のコア時間が完全に分けられていたことが、ポスター会場へ足を運ぶ人の数を増やしたことは明らかで、発表する側にとってはうれしい盛況ぶりであった。私個人は、遷移金属の化学状態と蛍光X線スペクトルのプロファイル形状に関するポスター発表を行ったのであるが、同様の測定を試みている方がさっそくいらっしゃって、スペクトルの起源などかなり突っ込んだ議論を交わしてくださった。このような良い機会を得ることができたことは、普段よく出席する材料系の会議とは違って、本シンポジウムが放射光の専門的会議であるからこそのメリットだと感じた。
 この日、これほどまでに人口密度が高くなっても、教室内の温度は低く、設けられた石油ストーブの周りにも人の輪ができたほどで、ポスター前の熱気とストーブからの熱線との勝負はもちろんポスター優勢であったろうが、寒さに震える人は少なくなかったようだ。冷気の洗礼を受けて温暖な瀬戸内のイメージはすっ飛んでしまったが、この日は全国的に大寒波に覆われていたのだそうである。そうして、やがて雪を降らせる雲が山陽地方を包み込んだのだった。

3.最終日
 前日の天気予報は、この日にかけてかなりの確率で雪が降ることを告げていた。宿をとっていた広島市内では、夜にはぼた雪も舞い始めた。大学は山の方にある。シンポジウムは無事に行われるのだろうか。翌朝、あたり一面の銀世界、と思いきや雪は積もっていなかった。輝かしい朝日が海から昇り、近くの山々の雪化粧を照らし出していた。しかし、これで安心することはできなかった。広島市内より東広島へ車で向かう道中、山方面から来たと思われる対向車の屋根には10cm以上の雪が積もっていた。大学周辺はアップダウンもそれなりにある。たどり着けなかったらどうしようか…。結果的には、道路上の雪も意外と早く融け去って事なきを得た。(ただ、我々の旅行中の雪との戦いはこれで終わりではなかったのだが。)
 さて、シンポジウムのほうであるが、オーラル会場にはたくさんの聴衆がいらっしゃって、雪の影響は微塵も感じられなかった。人類の生み出した光、放射光が雪なんぞに負けるわけがなかった。発表される方、それに対して質問される方の中には、ビームラインで拝見したことのあるお顔をいくつも見かけることができた。日常的に顔をよく合わせるような間柄であっても、会議のような場で改めて議論を交わすのも意義のあることなのだろう。それに比べて、私のような新参者にとっては見ること聞くこと新しくいろいろ勉強になることが多かった。普段、光が出てくるのを当然のように思って、それをただ使わせてもらっているだけであるが、光源系のことをもう少し意識することができるようになったし、ほとんど使ったことのない高エネルギー領域または低エネルギー領域での話は、私にとっては新鮮で、また、逆に使い慣れたシステムを改めて見直してみるきっかけとなった。多くの発表の中でも、新しい分析手法の発表などは、特に基本的原理に基づくアイデアによるようなものや、旧来の手法をうまくアレンジしたものにはたいへん感心し、刺激的であった。
 ところで、共同研究者のオーラル発表では液晶プロジェクタを使用した。動画を映し出せるという点がOHPとの最も大きな相違点であるが、シートという媒体に落とす必要がないので、手間が減って修正も容易、像は鮮明、シート代もカットできるというメリットがある。発表の際にシートを繰り出す煩わしさがないという点も大きい。会議によってはまだまだ認めてくれないところも多いが、この液晶プロジェクタを用意してもらえたことは大変有難かった。主催者側の柔軟な対応に感謝している。

4.おわりに
 今回、初めて参加したシンポジウムは、やはり初めての広島と合わせて新鮮な印象でした。経験が浅いゆえの弁なのですが、そうでなくても、ずっと新鮮に感じられるようなシンポジウムであってほしいと思います。具体的な研究発表の内容等にも触れませんでしたし、道中記のような、やや報告らしくない内容になってしまいましたが、参加されていない方々にも雰囲気が伝わればと思いました。


江場 宏美 EBA  Hiromi
文部科学省(旧:科学技術庁) 金属材料技術研究所
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
TEL:0298-59-2822 FAX:0298-59-2801
e-mail:hiromi@yuhgiri.nrim.go.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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