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Volume 06, No.2 Pages 121 - 122

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第14回日本放射光学会年会・放射光科学 合同シンポジウムの報告(その1)
Report of the Joint Symposium on the 14th Annual Meeting of Japan Synchrotron Radiation Society and Synchrotron Radiation Science (Part-1)

木村 真一 KIMURA Shin-ichi

神戸大学大学院 自然科学研究科 Graduate School of  Science and Technology, Kobe University

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 世紀の切り替わりの余韻がまだ残っていた1月12日〜14日の3日間、広島県東広島市の広島大学理学部で今回が第14回になる日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムが開催されました。このシンポジウムは、4つの共同利用施設(PF、UVSOR、物性研、SPring-8)の持ち回りで行われるという取り決めになっていたものですが、広島大学側のたっての希望により開催に至ったと聞いております。そのためかどうかは定かではありませんが、参加者に対してきわめて細かな配慮がなされていたという印象をもちました。実行委員の方をはじめ、シンポジウム全体の運営に携わった方々に感謝いたします。
 このシンポジウムが開かれた頃は、日本に第1級の寒波が押し寄せてきていたこともあり、全日程とも大変寒く感じられました。「広島は神戸よりは南だし、薄着でいいだろう…」と甘く見ていた私は、この3日間凍えるような思いをし、結局その後に風邪をひくことになるのでした。
 さて今回は、東京や大阪から遠く離れた広島で開催されるということもあり、当初、発表件数が少なくなると考えられておりましたが、実際には、2つの特別講演、4つの企画講演(講演数は14)、13の施設報告、70の口頭発表、261のポスター発表がありました。これらのうち、一般講演の合計は331と昨年の270からかなり増えて、史上最高の数になりました。これも日本での放射光科学の発展を表しているものと思います。また、今回初めて、学生会員を対象としたポスター賞・口頭発表者賞が設けられました。シンポジウム参加者全員に投票権が与えられたために一部に混乱があったようですが、学生会員のシンポジウム参加を促し、競争意識をもたせる意味でも、大変効果があったと思います。今後も続けていってもらいたいと思います。一方で、やはり広島は遠いからかそれとも日本が不況だからなのか、(はたまた、組織委員の努力が足りないのか)企業の特別展示は昨年の44件よりすこし減って41件でした。
 今回のシンポジウムは例年のように各共同利用施設の利用者懇談会から始まりました。今回は昨年と違って、初日は利用者懇談会のみで講演等はありませんでした。利用者懇談会は、昨年度と同じようにUVSOR利用者懇談会総会から始まり、各施設の総会が順番に行われました。2番目のSPring-8利用者懇談会総会は、ユーザーの数が多いためか(それとも、旅費のサポートがあるためか)、たいへん多くの参加者があり、活気があったように思います。
 実際のセッションは2日目の朝から始まりました。2日目と3日目のスケジュールは、2日目の15時30分以降の特別講演・総会・懇親会を除いてまったく同じで、非常にわかりやすいものでした。特に、企画講演が朝9時からスケジュールされ、参加者は否応もなく早起きを強制されました。それに加えて、会場から市街地までが離れており、いわゆる「陸の孤島」状態でしたので、全日を通して参加者は多かったようです。
 午前の前半には、医学利用と赤外放射光に関する企画講演とX線回折・散乱のオーラルセッションがありました。赤外放射光の企画講演は、長い放射光学会年会の歴史の中で最初のものでした。15年程前に世界最初の共同利用の赤外ビームラインがUVSORで誕生して以来、現在では世界中の放射光施設で15のビームラインが稼動中で、またいくつか建設や計画がされています。また、昨年の夏にベルリンで開催されたSRI2000国際会議では初めて赤外放射光のセッションが開催されるなど、現在世界的には静かなブームが起こっています。しかし、一方では日本ではあまり関心が高くないと思われていました。そのため、当初この企画講演の客の入りが疑問視されていましたが、蓋を開けてみるとまずまずの数の聴衆が集まり、この分野の関心の高さがうかがわれました。内容は、偏向電磁石からの赤外放射光利用全般の話(神戸大・木村)、偏向電磁石入口と出口の磁場の不連続性から発生するエッジ放射の原理と実際の測定例(広島大・スモリャコフ先生)、線形加速器からのコヒーレント放射光の原理と最近のマイクロバンチFELの話題(東北大・柴田先生)と、東京理科大の赤外FELの建設と利用研究計画の話(東京理科大・黒田先生)でした。特に、東京理科大の赤外FELは、使用目的を赤外域での光科学に限定したため、従来のFEL装置に比べてきわめてコンパクトで使いやすいものになっているという印象を受けました。今後、このような装置が各地の大学や研究機関に導入されるものと思われます。
 午前の後半は3つのオーラルセッション、午後はポスターセッションと一部時間を重ねて2つのオーラルセッションがありました。細かい話は省略しますが、今回は講演件数が史上最高だったために、企画講演とオーラルセッションをパラレルにした上に、ポスターセッションとオーラルセッションもパラレルになっていました。プログラム編成上の措置なのですが、ポスター発表の件数も両日とも130件あまりあったので、オーラルセッションを聞いた後にポスターを見に行くと、すべてを見て回るには時間が足りないと感じられました。次回は東大で行われるために、さらに講演件数が増えることが予想されます。そのため、プログラム編成に工夫が必要なのではないかと思われます。
 午後のポスターセッションの後には特別講演として、広島大学の谷口先生によるHiSORの現状と利用計画の話と東京大学の豊島先生によるカルシウムポンプのX線回折の話がありました。私は、その時間にはSPring-8赤外物性のSGミーティングを行っていたために講演は聴いておりませんでしたが、かなりの数の聴衆だったそうです。
 その後、放射光学会の総会と懇親会が開かれました。懇親会では、実行委員長の田村先生などの挨拶があった後、広島大学のお膝元である西条市が有名な日本酒の産地ということから、樽酒の鏡割りがあり、おいしいお酒がふるまわれました。
 最終日は、2日目の夜に降った雪のために、大学への道の上にも雪が解けずに残っており、3日間の中で最も寒い1日でした。その寒い中、朝からXFELとV2O3の電子状態に関するホットな内容の2つの企画講演とオーラルセッションがありました。それらのうち、XFELでは、第4世代の放射光源として期待できるSASEによるX線FELがいかに有用か、この分野になじみのない私にもよくわかる内容になっていました。内容は、建設中のアメリカ・スタンフォードのLCLSとドイツ・DASYのTESLA-FEL、計画中である原研の超伝導リニアックを使ったXFELの話(原研・羽島先生)、軟X線レーザーの開発者から見たXFELの話(東大・黒田先生)、構造生物学の立場から見たXFELの話(物構研・若槻先生)でした。内容はどれもすばらしいものでしたが、特に若槻先生には、フェムト秒XFELを使った蛋白質の構造解析のシミュレーションを、液晶プロジェクターを使った美しい動画で見せていただき、まったくの素人の私でもわかった気になるほどインパクトがありました。今後は、このような動画を使った発表も行われることになると思います。
 その後、2日目と同様にオーラルセッションやポスターセッションが時間を余すことなく行われ、翌日は月曜日ということもあって、終了後はいそいそと家路につきました。

 以上、偏ったレポートになってしまいましたが、このシンポジウムの雰囲気が伝われば幸いです。


木村 真一 KIMURA  Shin-ichi
神戸大学大学院 自然科学研究科 構造科学専攻
〒657-8501 神戸市灘区六甲台町1-1
TEL:078-803-5649 FAX:078-803-5649
e-mail:skimura@kobe-u.ac.jp
略歴:1991年東北大学大学院 理学研究科博士課程修了。その後学振特別研究員、神戸大助手、UVSOR助手を経て、1998年より神戸大学大学院 自然科学研究科助教授。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794