Volume 06, No.2 Pages 108 - 112
3. その他のビームライン/OTHER BEAMLINES
R&DビームラインIII(BL38B1)の現状
Present Status of R&D Beamline III BL38B1
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Division
- Abstract
- The installation of the R&D beamline III (BL38B1) was started from November 2000. The X-ray source of BL38B1 is a bending magnet and mirror-focused monochromatic beam is useful for both XAFS and protein crystallography. A wide range of X-ray energy with the mirror angle of 0 to 3.2 mrad is available for many purposes such as XAFS experiment, optics and detector development, and design of new experimental technique. A CCD X-ray detector for protein crystallography have been installed. This beamline is open for SPring-8 staff and public users from 2001A.
1.はじめに
R&DビームラインⅢ(BL38B1)は偏向電磁石X線ビームラインの各種R&Dを目的として2000年秋からコミッショニングが始まっており、2001年度から本格的な運用が開始される。このビームラインでは利用者が増加している構造生物学分野のステーション機器の整備、共通化を行い、その利用効率に関するR&Dを行う。また多目的な用途に利用できるように設計されており、光学素子や検出器の評価、新しい実験技術の試みにも利用することが可能である。これまで行われた光学系の調整や検出器の評価、今後の予定などについて紹介する。
2.ビームライン調整
1)新しいビームライン制御系のテスト
BL38B1ではJASRIの古川行人氏とともに新しいビームライン制御系のテストを行っている。新しいシステムではユーザーのパソコンから光学機器の制御がより高速化されたことが確認されており、このシステムの実用化を目指してのテスト、ユーザーインターフェースの強化、改良等をBL38B1で行っており、一部のビームラインでも導入されつつある。
また、多くのビームラインでユーザーが汎用的に使用しているパルスモーターコントローラやカウンタなどの機器をVMEシステムで統一し、ビームライン間の機器の共通化に向けてのテストを行うことを計画している。
2)位置敏感型イオンチャンバー(PSIC)を用いた光学系の調整
JASRIの佐藤一道氏の協力を得て、位置敏感型イオンチャンバー(PSIC)を用いて、分光器の定位置出射をはじめとする光学系の調整を行った。PSIC(応用光研工業㈱位置敏感型イオンチャンバーS-2403)を2台用いて、実験ハッチ内での上下方向と左右方向のビーム位置をモニターした。PSICにはそれぞれプリアンプ(クリアパルス㈱8868A型2チャンネル高速I/V変換器)を取り付け、さらに佐藤氏によって試作されたBeam Position Calculatorにより、プリアンプのゲイン、オフセットの調整から、ビーム位置及び強度をモニターする事が可能である(Fig.1)。また、位置と強度の情報が電圧で出力されるので、ほぼリアルタイムでビーム位置の情報をパソコン等に取り込むことが可能である。BL38B1のビーム調整中に測定した結果を図に示す(Fig.2)。
Fig.1 Views of Position Sensitive Ionization Chambers with preamplifiers (left) and the Beam Position Calculator (right).
Fig.2 Results of beam position measurement with PSIC.
分光器の角度変更に伴う定位置出射の確認以外にもミラーの角度変更に伴うビーム高さの変化をモニターする等、BL38B1においてPSICの有用性を確認している。
3.蛋白質結晶解析関連
1)測定装置導入
2000年9月末までに、光学定盤(Huber社製)を搬入設置し、その上にシャッター・コリメータ・ゴニオ(横型)・検出器用ステージを設置した。そのドライバ制御については、ソフトウエア部分を含めて理学電機㈱製のものを使用している。
他に試料部観察用顕微鏡(ズーム機能付きOptem社製)・ビームストッパーが設置されている。ゴニオ部に結晶をマウントする際には、ビームストッパーをX・Zステージごと光学レールから取り外して、操作環境を広く出来る利点がある。クライオスタットは、リガク製冷却窒素ガス吹き付け装置を導入設置した。
検出器は、共用ビームラインBL40B2でも使用しているCCD X線検出器ADSC社Quantum 4R(Q4R)を導入し、上記検出器用ステージに搭載し、カメラ長変更についてはADSCコントローラより制御可能となっており、90mm〜450mmの範囲で使用可能である。加えて、CCD X線検出器高さを検出器ステージを上方に100mmまでの範囲で変更可能となっており、高分解能データ測定時に有効であると想定される。
Q4Rの詳細等は、利用者情報(2000年3月号, p104〜106)を参照願いたい。
以上の件は、理研播磨研・足立伸一氏が主として実施した。
実験ハッチ内斜め上流から覗いたコリメータ・結晶・窒素吹き付けノズル部・CCD X線検出器設置状況を示す(Fig.3)。
Fig. 3 Setup for protein crystal diffraction measurement.
2)ソフトウエア整備
回折実験に必要なソフトウエアは、LabVIEWで製作されてJASRI共用ビームライン(BL40B2・BL41XU)で稼動しているものと、理研ビームライン(BL44B2)で稼動しているものを有効に導入した。波長変更およびウィザード形式の吸収端測定プログラムは、BL41XU担当者の河本正秀氏作成のものを活用し、ビームアライメントに関係する定盤X・Z軸スキャンプログラムは、BL44B2で使用されているものを導入した。全てOSはWindowsNTのユーザーPC上で操作する。同様のソフトウエア環境を整備することで、ビームラインによる使用環境の違いを最小限にすることも検討していく。
LinuxPCで動作するCCD X線検出器のコントローラで制御可能なものは、カメラ長・ゴニオ回転軸(Phi)・シャッターとなっているが、MADデータ連続収集用に設定波長に変更可能な機能についても検討している。
X線回折強度積分については、ソフトウエアHKL2000をADSC Q4R用に用意し、実験ハッチ前のLinuxPC(Pentium III 1000MHz,Red Hat 6.2(E))およびSGI O2(R12000, IRIX6.5)で、測定中でも計算処理出来るように整備した。同様の機能であるDPS-Mosflmも使用できる。
3)光学系調整
回折実験時前の光学調整時には、ビームモニター(Hamamatsu Dual Mode Cooled CCD Camera C4880を使用)をCCDカメラ長約150mm相当位置に設置して、ミラーの集光条件(θy, Y, θz)を最適化している。TCSLIT1, Vetical2㎜Horizontal 7㎜時、Si(111)反射面利用の波長1Åでは、反値幅縦150um, 横180umとなる。
4)試用データ測定
2000年10月末より、理研播磨研の約10グループによる評価データ測定を試みた。波長1.0000Åに設定したX線回折データ収集は、ビームの安定性により連日のグループ入れ替わりにも支障なく実施された。分子置換での構造解析結果も報告されており、良好な電子密度も確認されている。
オフセットしていない高分解能データ収集は、波長0.63Å(19.7keV)で実施し、データ処理も問題なく実施出来ることは確認した。
MAD(Multiple-wavelength anomalous diffraction)データ測定を目的とするXAFS測定も11月中旬(第11サイクル)より順次実施してきた。蛍光X線検出器としては、AMP-TEK社製XR-100CRを用い、MCA7700で特性X線を確認し、そのエネルギー部分だけをOrtec SCAで切り出す設定を行い、ウィザード形式のプログラムで吸収端測定を実行する。この操作環境は、現在のところBL40B2およびBL44B2でも同様であるので、いずれかのビームラインで習熟したものであれば容易に操作できるようになっている。Ni, Zn, Se, Pt,の吸収端測定を行ない、MADデータ測定も数例実施したので、その解析結果が待たれる。
測定データは、Linux PCにマウントしたRAID(SNX76000ELV-25000C)に保存しており、持ち帰りについては、ChatPCに設置したPC Cardbus PC Card(REX-CB32)経由でSCSI接続外付HDDにデータ転送保存することを推奨している。
5)研修会実施
JASRI主催で、共用ビームラインユーザーの活性化のための研修会として以下の内容で、BL38B1実験ハッチを使用して実施した。
1回目:2000年10月27日 生体高分子結晶構造解析 ソフトウエアー操作法
2回目:2001年1月31日 蛋白質凍結結晶作成および保存手順‐実習会
1回目は、研修会直前にQ4Rを設置作業のために来所していたADSC社Cristopher Nielsenを講師として、DPS-Mosflmの概要説明および操作方法を直接聞く機会を設ける形とした。大学関係者13名、企業関係者7名と参加者多数ではあったが、有効な情報交換の場となったと思われる。説明はセミナー室で実施したが、Q4Rの説明および講師によるDPS-Mosflm使用デモンストレーションは、BL38B1で実施した。この研修会では、参加者自身のデータを持って来て、解析相談を出来るように計算機も準備した。
2回目は、放射光利用実験には凍結結晶を良好に使用出来るようにすることが、蛋白質結晶X線解析の成功のために重要であることを考慮して、この分野で熟練した東大・中迫先生に講義および実習に協力してもらった。1回目同様に大学関係者16名、企業関係者7名と多数ではあったが、重要な注意点を織り交ぜて解りやすく説明があったことは、有効であった。自らサンプルを持ってきて実習することを希望した方が8名もいたことは、この研修内容への興味の深さを反映しているのではないかと思われ、今後の研修企画内容への貴重な情報になった。
また、当日は理学電機㈱澤野氏にも依頼して、冷却窒素吹き付け低温装置および新型のヘリウム吹き付け極低温装置の説明および見学会も実施した。
以下の写真は、1月31日ゴニオ部に凍結保存結晶をのせる操作の練習をしている参加者らを示す(Fig.4)。
Fig.4 View of training in mount of cryocrystal on goniometer.
尚、この機会に多数の方に試用してもらうようにしたオフライン試料凍結装置一式は、BL38B1の試料準備室内に2001年1月初旬より設置したものであり、これはCOEプロジェクト「実時間蛋白質結晶解析法の開発」(三浦(JASRI)チームリーダー)の平成12年度計画で導入した。BL38B1のリング棟側室には同プロジェクトで準備している解析計算機器も設置しており、R&Dビームラインを活用した蛋白質結晶構造解析システムの効率化開発の一端を担っていきたい。詳細な内容はプロジェクト活動報告の際に行いたい。
これ以外に、JASRI勝部参与らを講師とするSPring-8構造生物産業応用研究会主催の研修会も2001年1月26日より29日にかけて実施され、製薬企業を中心とする計31名の参加者が集ってデータ収集実習・見学を行ったことも追加しておきたい。
今後もこのR&DビームラインBL38B1を活用した実習会を計画していく予定でもあるので、実施内容については上記実績を踏まえて逐次検討していきたいと思う。
4.検出器の評価・実験技術の試み
1)19素子半導体検出器(SSD)の調整
理研ビームラインより借用したOrtecの19素子SSDを用いてXAFS法への応用の最適化を行っている。まず真空悪化により分解能が劣化したSSDを再度真空引きし、分解能が向上したことを確認した。また、JASRIの宇留賀朋哉氏の協力を得て、数え落とし補正を行うことにより、1素子当たり数万cps以上の高計数率測定を行っている。19素子SSDを用いたXAFS測定はすでにBL10XUやBL01B1でも行われているが、この測定に用いるソフトウェアの改良や他の信号処理系のテストなどをBL38B1では今後行う予定である。19素子SSDを用いると、これまでは不可能だった低濃度の試料の測定が可能になる。低濃度の試料や、薄膜などの試料を持つ多くのユーザーのためにもSSDの整備は重要である。
2)シリコンドリフトチェンバー型検出器の評価
理研の石川哲也氏より借用したシリコンドリフトチェンバー型検出器(Ro¨ntec XFlash Detector)の評価をJASRIの西野吉則氏の協力を得て行った(Fig.5)。SSDに匹敵する分解能を有することを確認した(Fig.6)。今後は専用のアンプを用いるなどの信号処理の工夫により、計数率の評価を行っていく予定である。
Fig.5 Views of a Si drift chamber detector with the temperature controller (upper) and the installation at BL38B1 experimental hutch (lower).
Fig.6 Fluorescence x-ray spectrum for iron foil with silicon drift chamber detector by Ortec 673 spectroscopy amplifier (gain 100, shaping time 0.25µs). The spectrum is monitored by SEIKO EG&G MCA7700.
3)冷却水中に含まれる銅の全反射蛍光X線分析法による微量検出の試み
JASRIの高橋 直氏、佐野 睦氏らとともにフロントエンド冷却水中に含まれる微量の銅の検出を試みた。JASRIの宇留賀氏の協力により、シリコンウェハー上に試料を滴下し、乾かした後、全反射条件でX線を照射し、試料からの蛍光X線をSSDで検出する方法をBL38B1で行えるように整備することができた(Fig.7)。今後はこの方法を応用して、いくつかの試料を測定する予定である。
Fig. 7 Setup for total reflection fluorescence x-ray analysis of copper in water.
4)今後の計画
in-situ XAFSの試みを現在計画している。最近、PFでも精力的に行われるようになり、SPring-8でもユーザーからの要望が高まっている。反応性ガスの取り扱いなど、いくつかの問題点をクリアして、この方法をSPring-8でも行えるように現在計画されている。
分光器第一結晶の冷却機構と第二結晶のサジタルフォーカスのテストを行う予定である。これらの光学素子のテストにより、偏向電磁石ビームラインがSPring-8のX線をさらに有効に利用することができるようになる。
5.おわりに
本ビームラインは主に各種R&Dを目的として、様々なことが行えるように設計されている。また、内部スタッフのみならず、外部からのユーザーについても課題募集を行っている。今後、さらに多くの方々にこのビームラインを有効利用していただきたいと願う。
謝 辞
これまで紹介したように本ビームラインには多くのスタッフが関わっています。本文に紹介できなかったメンバーを含め、多くのスタッフの協力を得て、このビームラインは成り立っています。蛋白質結晶のX線回折実験のセットアップについては理化学研究所の足立伸一氏に全面的にご協力いただきました。光学系の調整及びXAFS測定実験のセットアップに関しましては、JASRI利用促進部門の宇留賀朋哉氏に適切なアドバイスを数多く頂きました。特に立ち上げのコミッショニングにおいてはJASRI利用促進部門の高井健吾氏に終始協力して頂きました。またJASRI利用促進部門の加藤和男氏にも共に協力していただきました。JASRI実験ステーション部門テクニカルスタッフの東山将弘氏、川瀬武彦氏にはビームラインの整備に協力して頂きました。この場を借りてご協力頂いた皆様に深く感謝いたします。
谷田 肇 TANIDA Hajime
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-2752
e-mail:tanida@spring8.or.jp
三浦 圭子 MIURA Keiko
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-2752
e-mail:miurakk@spring8.or.jp