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Volume 06, No.2 Pages 91 - 92

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

−実験技術、方法等分科会−
– Method & Instrumentation Division –

宮原 恒昱 MIYAHARA Tsuneaki

東京都立大学大学院 理学研究科

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 第5分科会は他の分科と比べていくつかの特徴がありました。まず、第5分科会は実験技術・方法等に関する課題を対象としてきましたが、この「等」というのがくせものでした。すなわち、他の分科の審査対象としてそぐわないとみなされた申請がこの分科に含まれていたのです。アブレーション、リソグラフィ、顕微法結像技術を用いた研究テーマ、蛍光X線分析を用いたテーマなどにかかわる申請が含まれました。また実験技術・方法という本来の審査対象も分光技術、回折技術などを含めて非常に多岐にわたっていました。

 5名の審査員でこれらの広い分野をカバーするのは非常に大変でした。しかし、一人一人が事前に申請を読んで一応の評価を下す段階では、申請者の名をふせてそれとなく非公式に専門家に教えを請うこともあったように思います。このように、委員自身が専門家の意見を聞くことは、もちろん時間はとられるが重要な参考になるし、自然科学を対象としている限り、意見を聞いても単純にそれを鵜呑みにせず、自分なりに位置づけ直すことはできていたのではないでしょうか。ところが問題は自然科学から少し離れた場合でした。たとえば、考古学上の意義とか犯罪捜査上の意義などは、自然科学のセンスをもってしては如何ともしがたかったように思いました。

 もう一つの特徴は、関係するビームラインが非常に多岐にわたっていたことです。他の分科でも複数のビームラインを対象としていますが、多くの場合、特定の数本のビームラインに申請が集中していたように見えました。それに比べると、第5分科が対象とするビームラインは多様であり、特に立ち上げに関わる申請はほとんどすべてのビームラインがこの分科にくることが多かったように思います。

 以上のような第5分科の特徴をふまえて、この2年間を振り返ってみたいと思います。

 第一は審査の公平性に関わる問題です。そもそも私はその前の2年間もこの分科の主査を仰せつかっておりました。2年前には「ご苦労様」で無罪放免されると思っていたのですが、引き続きやらされてしまい、全体として4年続けたことになります。当時私は、審査の公平性を確保するためにも委員の定期的な交代が必要であることを申し上げました。それぞれの委員は極力公平に審査するように心がけてきたのは当然ですが、それでも理解の不十分さや先入観・誤解などから完全に公平であるとは言い切れません。これは特にこの課題選定委員会だけでなく、あらゆる学術的審査についても大なり小なり言えることだと思います。特にSPring-8やPFなどの共同利用を原則とした施設では、選定委員が定期的に交代することの重要性は今でも低下していないと思います。

 以上の対偶として、一旦結論がでたならばよほどのことがない限り、審査結果が尊重されることも重要かと思います。もちろんこの委員会の上部組織にクレームをつけることは、制度的・原理的にはそのようなチャネルがあってもよいでしょうが、例外的なものにとどめるべきであると考えます。審査結果は公平とは限らないがそれに従うということと、委員はなるべく短期に定期的に交代するということを、統一的に位置づけることが重要かと思います。

 第二は、申請書の記述の問題です。これは第5分科では特に必要かと思いますが、非専門家にもわかる書き方をしていただくことは重要です。そうでないと、5名の選定委員のうちたった一人しか理解できない場合が起こり得ます。その場合、ややもするとその一人の委員の意見が審査結果に強く反映することになりますが、これは好ましいことではありません。

 さらに甚だしい場合は、専門家ですらよく理解できない記述に出会うことがあります。これは統計的に見るとビームラインやステーションの立ち上げ課題にしばしば見られました。「立ち上げ課題だから無条件に通してほしい。」と主張しているように見えて、委員によってはあまり良い印象をもたない場合もあるようです。このような場合でも、分科全体としては、申請者や共同研究者の顔ぶれや実績を考えて、なるべく善意に解釈してきたと思います。本来ならば申請文のみから判断すべきところですが、立ち上げ課題については、単なる記述不十分という理由で不利にならないように扱ってきた経過があるように思います。逆にいえば、今後の同様の申請はもっとわかりやすく記述していただいて、申請文だけからもその重要性が委員に理解できるものであってほしいと思います。

 立ち上げ課題もそうですが、実験技術の場合には特に定量的に書いていただくことが非常に理解の助けになります。「非常に強力な」とか「微弱な」とか「高分解能な」などという表現はオーダーでもよいから定量的に記述していただけると大変わかりやすくなります。数字の絶対値を書けない場合には、何か別の標準と比較して相対的な数字を書いていただくだけでも役に立ちます。このことは2年前にも申し上げたところですが、目立って改善されてはいないように思います。

 これは、かって放射光科学が全体として飛ぶ鳥を落とす勢いであったころの名残かも知れません。そのころは定性的な記述でも理解された場合もあったでしょう。しかし現在では、放射光科学が他の分野と競争する場合には、定量的な説得力を持たなければならない時代に入ってきていると思います。ましてや放射光科学の内部でも競争的環境になりつつあるときは、より定量的な説明が求められるようになっているのではないでしょうか。

 最後に、審査の手順やシステムが今のままで良いかどうかについてコメントします。選定委員の立場からいえば半年に1回の審査はかなりの労力であり、1年に1回にしてほしいと思うことすらあります。しかし、審査システムは審査する側よりもされる側の都合を第一義的に考慮すべきと思います。現在もし、多くの利用者が半年に1回は申請の機会があってほしいと望むのであれば、審査システムのほうを改善するしかないでしょう。一つの方法として、委員会ではそれぞれの課題に点数をつけ(「課題評価点」とし採択か不採択かを決める)、さらに申請シフト数の妥当性についても点数をつけて(「シフト評価点」とする)それで終わりにし、実際のシフト配分は施設側にまかせるという手段があります。この場合、委員会はシフト配分は決めないがその目安または判断基準を与えるということになります。ただしこの場合でも、比較的すいているビームラインと混んでいるビームラインとでは、シフト評価点が同じでも配分では差がついてしまうという矛盾は依然として残ります。

 もう一つは継続課題の問題です。初めに配分されたシフト数が不十分な場合に継続課題として申請するのは良く理解できます。ところが申請シフト数に近い配分を受けていてもなおかつ前回申請と同程度のシフト数を継続課題として要求するとなると、多少違和感を覚えます。もし新たな課題や問題点が発見されたなら、原理的にはそれは新規の課題申請にすべきかと思います。

 特に最近は、課題の採択・不採択に関連して、採択課題にはなるべく希望シフト数に近いものを配分するように心がけているかと思います。このことは、裏を返せば、そのシフト数のなかで課題をこなすことを前提としているわけで、このような課題採択の方針をとるとすれば、大部分の申請は新規の申請とならなければならないと思います。もちろん、不測の事故やビームラインの不調などにより実際に継続が必要なこともあるでしょうから、継続課題の制度そのものは残しておいたほうが良いでしょう。しかし継続が3回も4回も続くとなると、ちょっと考えてしまいます。

 いろいろと申し上げましたが、今度こそ委員を辞めさせていただけるものと確信しております。次期の委員も大変でしょうが、無事にこのハードな任務を果たしていただけると期待しております。またこれまで一緒に議論していただいた他の委員の方にも深く御礼申し上げます。




宮原 恒昱 MIYAHARA Tsuneaki
東京都立大学大学院 理学研究科・物理学専攻
〒192-0397 東京都八王子市南大沢1-1
TEL:0426-77-2494 FAX:0426-77-2483
E-mail:miyahara@comp.metro-u.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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