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Volume 06, No.2 Pages 88 - 89

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

−XAFS分科会−
– XAFS Division –

野村 昌治 NOMURA Masaharu

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 Institute of Materials Structure Science High Energy Accelerator Research Organization

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 課題選定委員を二期務めさせて頂き、この間6回の課題審査に関与してきました。初期は申請者も委員も施設の状況に関する理解も浅く苦労することもありましたが、ビームライン担当者、利用業務部他関係各部のご尽力により一回毎に改善が見られ、ある程度確立してきたのではないかと思われます。私はPFに所属しているため、どうしても比較する事になってしまうことをお許し下さい。

 SPring-8での課題審査の特徴は欧米の放射光施設同様に半年分の課題を短期間に配分シフト数まで決めてしまうことでしょう。課題選定委員会後の事務処理も速く、申請から審査結果通知までの期間はPFと比較して1〜1.5ヶ月短縮されています。

 大雑把に審査の様子を紹介すると、まず、一申請当たり3人以上の委員が審査するよう割り当てを決めます。当然ながら、組織に含まれている委員はその申請については審査しません。各委員は評点とコメントを1週間以内に入力します。三人の評点が大きく異なることはそう多くはありませんが、異なった場合でも意見・感想は大きくは異ならず、暫く議論をすると収束して行きました。分科会では入力された評点を基にビームライン毎に配分可能なシフト数との関係を見ながらシフトを配分することになります。従って、定員まで合格とする学校と同様に申請時期やビームラインによって閾値は変わり、30%程度の課題しか採択できなかった時期がある反面80%以上の課題を採択する時期も出てきました。シフト数ベースで見ても同様です。半年毎のシフト数が異なっており、採択率の低かった次の応募の申請は少ないために生じてしまった様です。この周期を読めた人は得をしたかも知れません。ただ、半年毎のシフト数の平準化が進められていますので、今後はこういった現象も見られなくなるでしょう。

 XAFS関係のビームライン数が限られていることもあり、学問的内容と同時にSPring-8らしさを発揮出来そうな課題を優先的に採択する事となりました。即ちあるレベル以上の申請で、他の施設よりSPring-8で実験することが望ましいものを優先しました。民間企業については実質的に他の施設の門戸が開かれていないことも考慮しました。これらの点を考慮しながら課題選定委員会の分科会では毎回延べ十数時間程度議論を続けることとなりました。

 初期にはSPring-8の申請には「PFでは測定不能」、PFへの申請では「SPring-8では測定不能」と涙ぐましい努力をされている申請者もありました。また、実験ステーションの実状を把握出来ていない申請もありましたが、広報の効果か最近ではかなり正確に実状を把握してきたように感じられます。

 申請書を読んでいて気になった点、申請書の記入に当たって是非注意して欲しい点を簡単にまとめます。審査のキーポイントは利用者情報Vol. 5 No. 3(1999)p184にも書かれているように科学技術的妥当性、SPring-8の必要性と実験の技術的可能性にあります。従って、これらを明瞭に記す必要があります。多くのXAFS実験の場合は方法論的には特段の新奇性はないので、その試料についてXAFS実験をすることの科学技術的重要性を分かり易く記す必要があります。記入欄が限られており、容易ではないでしょうが、高速通信や環境保護の重要性のみが記されており、今回実験しようとする試料の重要性、新奇性が記されていない申請では高得点を得られないと考えて下さい。中には提案理由で記してあるのとは異なる試料が実験方法に記してある申請もありました。また、「高活性」、「特徴ある」等の形容詞よりも「従来は何%であったものが何%と高活性になった」等の半定量的な記述を心掛けて下さい。

 次に実験欄の記述ですが、可能な限り定量的、論理的な記述を心掛けて下さい。ビームタイムを確保するためでしょうが、試料数n 1×担体数n 2×温度点数n 3×圧力点数n 4と云った記述は好ましくありません。既に測定されたデータと照らして、何故これだけの試料を測定する必要があるのか明確にしないと、要求シフト数の根拠が不明確であるまたは試料数を絞るべきであると云うことで、シフト数が削減され勝ちです。また、試料の組成、濃度等の記述が無い場合も実験の技術的妥当性を判断することが出来ないため評価を下げる要因となります。

 削減されたシフト数は単に一律削減ではなく、ビームライン担当者の意見を参考にしながら「十分な準備をして、試料数を絞れば、この程度のシフト数で研究を一段落させられるであろう」と云うことを基準に判断しました。従って、実験計画が合理的で、良く検討されていれば高い割合で配分されたはずです。

 継続申請は頭痛の種でした。ビームタイムの都合から実験をする前に継続申請をされた例もありましたが、やはり今回の実験結果をある程度まで消化した上で、到達点と次回の実験内容を明確にする必要があります。次々と実験対象試料が変わる場合は新規申請とした方が良いでしょう。

 さて、SPring-8は世界に唯三カ所のX線を利用出来る第三世代放射光実験施設です。この建設、運転には第二世代の施設より遙かに大きな税金が投入されています。是非、SPring-8の特徴を生かした研究提案が多数なされることを期待します。




野村 昌治 NOMURA Masaharu
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1
TEL:0298-64-5659 FAX:0298-64-2801
e-mail:masaharu.nomura@kek.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794