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Volume 06, No.2 Pages 86 - 87

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

−散乱・回折分科会−
– Scattering and Diffraction Division –

坂田 誠 SAKATA Makoto

名古屋大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya University

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 散乱・回折分科会の主査として課題審査を無事終えることが出来、ホッとしているところである。
 1年前も課題審査終了後、同じタイトルで文章を書いた。その時の文章を読み返すと、課題数が非常に多く審査員が悲鳴を上げていると書いていた。また、SPring-8の課題審査の特徴として課題の有効期限が半年間で、新規課題を奨励すると言うことから、短期集中的であることを述べた。この様な傾向は、今年も基本的には変化がなかったように思う。

 2000Aでは新設ビームラインが増えたことにより、申請書の総数も過去最高を記録した。2000Bはその反動か、若干落ち着きを見せたが、申請書の総数から判断するとSPring-8の需要は、まだまだ、非常に大きいと判断される。正確な統計上の数字は、毎回課題審査終了後に、SPring-8利用者情報誌に、詳細情報が掲載されるのでそちらを参照してほしい。いずれにせよ、SPring-8課題審査員は、相変わらず多くの申請書を短期間に読まなければならないので、簡潔明瞭に申請書を書いて下さるようにお願いしたい。

 昨年と比べて今年は幾つかの点で変化したように思う。

 第1は、特定利用課題がスタートし、課題審査がある意味では複線になったことである。現在のSPring-8のシステムでは、特定利用課題は、一般課題の審査が始まる前に、全ての要求シフト数を決定しておく必要がある。その為に、新規に応募してきた特定利用課題は、一般課題の審査直前に審査を行っている。全ての分科の主査は、特定利用課題に携わっており、主査にとっては一般課題の審査と合わせて、大変忙しい時期となる。課題審査においては、公平性・透明性を確保することは当然のことであるが、ある程度効率を考えることも必要である。日本には散乱・回折分野の実験が行える放射光施設としては、フォトン・ファクトリーとSPring-8があるが、これまでは、SPring-8のユーザーの多くは、フォトン・ファクトリーでの実験経験者であったように思う。それ故、ユーザーは知らず知らずの内に(あるいは、明確に意識して)フォトン・ファクトリーとSPring-8との制度の比較を行うようである。例えば、特定利用課題というのはフォトン・ファクトリーのS型課題に相当すると言うように、概念的に理解するには、この様な比較・類推は大変役に立つが、もし、両者の制度の優劣を論じるようなシミュレーションを心の中で行うようなことがあるならば、これは、あまり建設的では無いように思う。これまでの歴史的経過、施設を取り巻く環境など、色々な点で異なっており、一概に優劣は論じられない。当たり前のことではあるが、ユーザーはそれぞれの放射光の特徴を生かした、研究計画を立て、両施設を有効に利用するのが得策と個人的には考えている。SPring-8の課題採択の際には、第3世代放射光の必要性ということが、一つの判断材料になっている。

 第2は、ビームラインの特性を生かした課題選定をすることが意識されてきているように思う。この事は、ユーザーの方には非常に明確な形では見えないかもしれないが、選定委員会のレベルでは、多分に意識されるようになったのではないかと思っている。例えば,蛋白質結晶構造解析ビームラインにおいて、蛋白質結晶構造解析の迅速性を確保するために、良質な蛋白質結晶ができた時に、速やかに実験が実施できるように、留保タイムが認められるようになってきたのは、その表れであると考えている。散乱・回折分科では、具体的にビームラインの特性を生かした課題選定の制度改革までは至ってないが、シフト数の配分にはビームラインの特性が、以前よりも考慮されて来ているように思う。

 課題選定委員会は、課題審査に関する事柄全般に関心を持っており、SPring-8における課題審査方法の改善も、大変大きな関心を持っていると、課題選定委員の一人として認識している。個人的には、幾つかの共同利用施設の課題審査にも携わった事があり、SPring-8の課題審査方法と他の施設の課題審査方法との相違も理解しているつもりであるが、巨大な施設でユーザーのヴァラエティーも豊富なSPring-8において、どのような課題審査方法が適切であるのか、良く分からない。もし、良案をお持ちの方が居られるならば、是非、教えていただきたい。現在のように、半年間で区切って行く方法は、存外悪くないのかもしれないと思う。しかし、ビームラインの特徴が非常に異なるので、ビームラインの特性を生かした課題採択方法を検討する必要があるようには思う。いずれにせよ、制度改革は、SPring-8において最も単純な目標を実現することが根底にあり、研究の成果を上げ易くするために必要なのである。

 今回は、課題選定に関連した周辺の話題について、個人的な感想を述べて、「課題審査を終えて」と言う小論を終えることにする。



坂田 誠 SAKATA Makoto
名古屋大学大学院 工学研究科 応用物理学専攻
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Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794