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Volume 06, No.1 Pages 49 - 50

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第4回SPring-8シンポジウムの印象
Non-user’s Impression of the 4th SPring-8 Symposium

坂田 修身 SAKATA Osami

(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Division

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 何者がこの文章を書いているかに、まず触れます。(このシンポジウム当時)高輝度光科学研究センターに4ヶ月いて、試用期間の身です。SPring-8放射光施設を使ったことはありません。また、SPring-8懇談会のことを知りません。SPring-8シンポジウムに初めて参加しました。アメリカ合衆国アルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Sourceにある、Northwestern大学、Dow Chemicals Co.、DuPont Co.の混成チーム(DND-CAT)からなるビームラインで最近まで働いていました。そこでは表面、界面の構造研究に必要な装置を準備しました。
 総会屋のいる株主総会、というレッテルをこのシンポジウムの印象に貼りました。そう感じさせた要素は、シンポジウム実行委員会の十分な準備によるゆきとどいて支障のない運営、参加者からの多くない質疑応答、低い出席率{共同利用実験責任者の出席率=1999Bと2000Aの責任者のうちの参加者数/実際の責任者総数(2個以上課題をだしても一人とカウント)=47/468=10%}、発表者のおきまりのという言葉から憶測した紋切型の項目、進行です。順番通りではないですが、発表の項目はビームライン(BL)の状況−稼動中、調整中、新規BLの現況−を説明し(会社の現在の全体像を与え)、利用者数の変化(会社の顧客数の伸び)、実験タイムの充足率(顧客の満足度)、運転時間や出版された論文数(経営収支)、運転計画や放射光研究所の組織変更(将来指針)などがありました。{( )内は会社 −たとえば生命保険相互会社−の、総会の結果のお知らせを想定した。}さらに、リングやフロントエンドの更新や加速器部門、企画調整の精鋭部隊による、高いエナジ、高いフラックスの光(新鮮なネタ)、信頼のおけるモノクロメータ、ミラーの装置、それを支えるBL部門(安心できる衛生的な道具)、スペシャルなBL担当者や周辺技術(腕のよい料理人)、そして新設BL(新規メニュー)と続きました。(レストランにもなぞらえました。)これらの情報を得たおかげで、SPring-8に来て間もないわたくしには効率的に研究所の全体像が掴めた、と信じています。以上に加えて、いい加減な例えができない、リサーチフロンティア、ポスターセッションではサイエンスの議論を見聞きしました。
 余談。その紋切型の項目、進行の様式とは別に、その発表内容は、現在のユーザーに第3世代の放射光の長所を生かした利用法を考えるヒント、最新情報を提供するだろう、と想像しました。この点において、このシンポジウムはとくに有益であると感じました。しかし、出席率10%では、その効果は疑わしいです。「施設者のもっている問題意識や今後の改善などについて、SPring-8利用者のご意見をきたんなくうかがえたら幸いである」[1]としたためた施設側の人間の意図とSPring-8利用者の意識の乖離の大きいことを、出席率10%は意味しているかもしれません。
 閑話休題。将来数年は利用者数が増加するように予想していると理解しました。そう予想する根拠が明確ではありませんでした。憶測した根拠は、稼動BL数の増加による利用者増です。この根拠にしても、稼動BL数の増加とともに、利用者数がこれまでおおよそ右上がりに推移しているからというならば、これからも当てはまるかという疑問を持ちました。アメリカの株式相場が長い年月の平均をとると過去右上がりだし、これからはInformation TechnologyやBiotechnologyもますます盛んになるだろうから右上がりの相場が続くという、素人の期待と同じではないかと、自問しました。つまり、利用者増の予想は結局のところ正しいかもしれませんが、将来を予測するための現状の分析と指針を聞き取れませんでした。(以下、暴言;予想が妥当な場合は、それが望ましいかどうかは、どこをポイントに考えたらよいかとも思いました。この話題については云々するrightsを、もちろん、持っていません。)
 その予想がもっともかどうかをもし議論しようとすれば−収入、予算面の話を除いて−、次の2種類の情報の開示をお願いしたいと思いました。ユーザーが要望する実験時間が妥当かどうかの検討をほかの放射光施設の特徴とSPring-8の特色まで踏み込んで調査し(敵を知り)、必要最小限な可能な時間を検討すれば(己を知れば)、妥当な予測(百戦危うからず)かどうか論ずることが可能になるはずです。つまり、敵と自己に関する情報です。さらに、次の3点に関する方針です(聞き漏らした可能性もある)。分かりやすいようにもう一度レストランから類推すると、その3点とは良質なアウトプットの評価の方針;高品位な出版物の評価(クチコミで伝わる料理のうまさ)、SPring-8ならではのインパクトのある研究の生産方法−そもそもそんな方法があるのか?−に関する指針(人気のお店はマスコミが取り上げて宣伝してくれる)、良質なユーザーの発掘(顧客開拓の営業努力)の方針です。論文数があまり多くないという印象の残る報告があったことから、今後の利用者増という期待と相容れないと感じたのかもしれません。また、その出版物の質と数をどう評価するかという方針を把握できなかったことが、上記の予想に対する疑問を持つきっかけになったのかも知れません。分野の違いによって、その方針には異なる点もあると想像します。知る分野に照らして、一般論ではなく各論の妄言を許して下さい。たとえば、3番目の発掘が2番目の、ならではの研究を生み出すことと絡んで重要であると信じています。その発掘を研究所で取り組むのか、各BL担当者のアンテナのきき具合にまかせるのか、はたまた、そんな努力は不要と言い切るのかなどが、3番目の方針を議論する際の出発点となるでしょう。
 第9回、10回のAdvanced Photon Source (APS)のユーザーミーティングにも出席しました。この2個はテーマを掲げたワークショップという印象を持っています。ここでは、2000年の5月2〜4日(第10回)のワークショップのタイトルをつらねます。Introduction to the Advanced Photon Source, Biological Studies for the 21st Century, Probing Dynamics with X-rays, Innovations in Instrumentation at the APS, Recent Highlights and New Directions in Environmental Science, Microbeam Techniques and Applicationsが企画されました。それぞれ10個足らずの講演から成っていました。SPring-8シンポジウムの最後に菊田副所長が、このシンポジウムと合同シンポジウムとのすみわけについて話されていたことから推測して、このシンポジウムとAPSミーティングの内容を比較できるものではないと思いました。ところで、業者の展示がAPSミーティングは充実していたので、それのない今回のシンポジウムはさびしさを覚えました。(アメリカでの経験では、業者と対面する機会が日本の場合よりはるかに少なかったので、展示の場が苦情、文句、要望をいうのに重要でした。)
 会場などに関して要望があります。シンポジウムの会場を建設する際、劇場型;後ろにいくほど高くなる座席を設けてほしい。より光量の大きな、明るいオーバーヘッドプロジェクターを備えてほしい。懐中電灯で手元を照らさなくても、ノートをとれるほどの照明の下で、トランスペアレンシーの文字が十分見える環境を希望します。細かな話ですが、アブストラクト集は薄くするため、ページの両面を使うようにしてほしい。各ページの下にメモを書けるよう、例外なく5、6行分のスペースを下に、あるいは、左右にもう少しスペースを設けてほしい。ポスターの掲示時間をもう1時間増やして、3時間にお願いします(必死にキーワードを拾っていきましたが、1〜28番でタイムオーバーとなりました)。
 共同利用実験責任者の出席率は、利用業務部の佐久間明美さんに、シンポジウムの2日目の当日にお願いし、カウントしていただきました(数字は非公式なものです)。(余談;面識のない者からのこの突然の質問に対し、その日の20時に質問を確かめる電話が船曳篤子さんからあり、22時に佐久間さんから回答がありました。この方々の誠意と迅速なお仕事に驚くだけでなく、利用業務部全体の日ごろのハードな仕事の様子を想像しました。)

参考資料
[1]植木龍夫、SPring-8利用者情報Vol.5,No.3(2000)181〜183.


坂田 修身 SAKATA  Osami
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-2752
e-mail:o-sakata@spring8.or.jp
前職:Northwestern University, Materials Science and Engineering, Center for Catalysis and Surface Science and Institute for Environmental CatalysisにResearch Associateの身分で所属し、Argonne National Laboratory, Advanced Photon Source のDND-CATで働いた。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794