Volume 06, No.1 Pages 47 - 48
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第4回SPring-8シンポジウムに参加して
An Impression of the 4th SPring-8 Symposium
播磨路の野山もわずかに色づき始めた去る10月19、20日、標記のシンポジウムがSPring-8サイトに新しく建設された放射光普及棟で開催されました。最新情報と施設全体のことを効率よく吸収できる場として前回に引き続き参加しました。本シンポジウムも第4回になり方式も定着してきたようです。
概要を独断と偏見で報告する事にします。
松井利用懇会長の挨拶に続き、恒例により上坪所長の施設報告ではSPring-8の現在から近未来の話がありました。来年(2001年)には合計40本のビームラインによる実験が開始され、ユーザーの時間も本年(2000年)の3,400時間から来年(2001年)は4,300〜4,500時間に増やすとのことでようやく本格稼働の感がします。これらはユーザーにとっては大変な朗報であると同時に成果も期待されると思います。次に(30m)アンジュレータのビームライン、1kmの長尺ラインが建設されたことが報告されました。これらは世界に例のない試みだけに大いに注目しています。また予算要求中で確実ではないとのことですが、自由電子レーザー計画、水の窓領域の干渉性X線による実験など意欲的なプロジェクトを考えているとのことです。今後の展開が楽しみです。
また、産業利用コーディネーター制度が出来て、スタッフが強化され、講習会や新しくできる産業利用ビームラインを使っての研修会等を頻繁に開催して産業利用にも一層力を入れるとのことです。これまた、成果が期待されます。
放射光研究所の組織も限られたスタッフでより効率的な運用が出来るように複数のビームライン間で柔軟に対応できるようにするということです。以上、たいへん結構な話で心強く思いました。
さて、このシンポジウムの二週間程前、終了課題(稼働時からの)についての発表状況など、その後の状況を把握するためのアンケート調査(メール)を実施したところ回収率が40%だったとの事で驚きました。(再度、メールを出したところ若干増えたとのことですが…)この種の調査や研究発表届は全課題に対して一定期間の後、事務的に出してもらうようにすれば施設側のデーターベースも充実して結局はユーザーのためにもなるように思いました。
菊田先生の話は今後も先端的な施設であることをめざして、理研、原研、JASRIが共同してC.O.E.的研究(要素技術を主としたもの)を開始したとのことです。キーワードは極微小サイズ(△R)、極短時間(△T)、大きいK領域、超高分解能(エネルギー)、偏光、コヒーレンスだそうです。
植木先生の話は来年(2001年)はユーザータイムも大幅に増え大変だが要するにユーザータイムの“柔軟な運用”をめざすとのことでした。
以上が全体の報告で更にリング、光源、機器開発R&Dの報告と続き一日目が終わりました。
消化不良で全部の印象をここに書けませんが、検出器の話で印象に残ったのはピクセルアレイ検出器(Pixel Apparatus for the SLS:PILATUS)です。200µm×200µmのSi素子を2000×2000素子(面積40cm×40cm)に並べ、素子毎にカウンターに接続されているというものです。大変大がかりなものだと思いました。これはSLS(Swiss Light Source)が開発中で研究協力によって最新の技術が導入されるそうです。
X線マイクロビームの現状についてJASRIの鈴木芳生氏の報告がありました。積層型ゾーンプレート、電子線描画によるゾーンプレート、屈折レンズ、全反射Wolterミラーはいずれもサブミクロンの分解能が得られるようになってきているが現段階ではどれも一長一短があり優劣は決めがたいとのことでした。
積層型ゾーンプレートについて協力者の立場からこの機会に少し補足してみます。この仕事は我が国では最初、日本真空K.K.が加藤範夫先生(元名古屋大)の依頼を受けて製作していましたが、会社の都合で中止してしまった後を受けて平成2年頃から我々が研究を続けてきました。最初の頃は“scientific toy”を作っているように思われていましたし、自分でも半信半疑の状態でした。ちょうど10年になりますがSPring-8で鈴木さん達の多大の尽力により主として硬X線用の集光素子として実際に使ってもらえるようになり大変嬉しく思っています。今後は空間分解能を更に上げることが最も重要な課題でしょうか。
二日目は新設のビームライン4本の報告と具体的な成果“3課題”の報告がありました。後者については詳しくはResearch Frontiers(1998/1999)をご覧下さい。今後、多くの成果が期待されます。
新設ビームラインはいずれも特徴のあるものでした。例えば無機材質研究所のビームラインは初めて拝聴しましたが、一本のビームラインでエネルギー0.5〜60keVのアンジュレーター光と結晶分光を使って広範な材料の多様な超精密解析を行うというもので大変欲張った計画のように思いました。ご成功を期待します。
ポスターによる発表は稼働中の全てのビームラインについての現状報告と簡単な成果報告がなされていましたが、以前に比べてユーザーの参加者が少ないように思われました。
最後にシンポジウムのお世話をされた施設及び利用者懇談会の役員の方々に御礼申し上げます。
上條 長生 KAMIJO Nagao
関西医科大学 教養部 物理学教室
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