Volume 05, No.5 Pages 354 - 356
6. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第3回播磨国際フォーラムを終えて
After the 3rd Harima International Forum
第3回播磨国際フォーラムは本年7月31日から8月3日までの4日間、SPring-8放射光普及棟(播磨コンファレンス)および県立先端科学技術支援センター大ホール(一般講演会)で開催された。1998年12月の第1回(オーガナイザー吉森昭夫教授)、1999年11月の第2回(オーガナイザー藤吉好則教授)に次ぐもので、一般講演会は姫路工業大学理学部10周年記念講演会を兼ねた。
第3回播磨国際フォーラム
主 催 播磨国際フォーラム組織委員会
(財)高輝度光科学研究センター、理化学研究所、日本原子力研究所、
兵庫県、(財)ひょうご科学技術協会、兵庫県立姫路工業大学
実施期間 平成12年7月31日(月)〜8月3日(木)
開催場所 SPring-8普及棟(播磨コンファレンス)及び県立先端科学技術支援センター大講堂(一般講演会)
趣旨・目的
高輝度放射光による分光研究は物性物理の発展に大きな寄与をなしつつあるが、なかでも磁性研究に対する寄与は特筆すべきものである。放射光は磁性を担う電子の状態を、スピン状態と軌道状態の両面から詳細に研究することを可能にする。具体的には、高分解能スピン・角度分解光電子分光による磁性電子状態の直接観測、共鳴X線弾性散乱による電荷・軌道整列の直接観測、X線吸収の円偏光磁気二色性による軌道・スピン磁気モーメントの測定、磁気コンプトン散乱によるスピン偏極電子の運動量分布の測定、共鳴X線非弾性散乱による電子素励起の観測、などがその代表例で、いずれも磁性体の電子状態に対する重要な情報を提供する。本会議では、これらの研究を推進している世界の第一線の研究者が一堂に会し、研究の最前線と今後の展望について集中的な討論をおこなう。
会議概要
7月31日(月)一般講演会、レセプション
8月1日(火)播磨コンファレンス
8月2日(水)播磨コンファレンス
8月3日(木)播磨コンファレンス、SPring-8見学
一般講演会
講演1 「宇宙の構造を探る」 池内 了氏
講演2 「インターネット時代を拓くエレクトロニクス」 渡辺久恒氏
講演3 「物質科学のロマン」 金森順次郎氏
発表件数
播磨コンファレンス:
講演 22件(国外10件、国内12件)
ポスター 18件(国外1件、国内17件)
参加者数
播磨コンファレンス: 56名(国外12名、国内44名)
一般講演会 :約200名
播磨国際フォーラムは、「HARIMA」が光科学の世界的な情報発信基地となることを目指して兵庫県とSPring-8が主催する行事で、播磨コンファレンス(国際シンポジウム)と一般講演会から構成されている。今回は、その組織委員会(熊谷信昭委員長)および幹事会(菊田惺志幹事長)の要請により、筆者がオーガナイザーをつとめ、「放射光による磁性体の研究」を播磨コンファレンスの主題として開かれた。柿崎明人、坂井信彦、桜井吉晴、辛 埴、菅 滋正、藤森 淳、馬越健次、圓山 裕、水木純一郎の各氏に実行委員をお願いし、特に、圓山 裕氏には実行委員会幹事として事務全般の推進をしていただいた。また、圓山、桜井、水木、馬越(姫路工業大学理学部10周年記念行事担当)の各委員には現地委員として、会場関係や外国人参加者の世話などの諸任務をお願いした。
過去2回の播磨フォーラムは年に1回の開催であったが、本年からは年に2回の開催となり、予算も半減した。そこで、予算対策として、一般講演会は日本人講師のみとし同時通訳の経費を不要としたこと、XAFS-XIに引き続いて開催し両方に出席する参加者の旅費(渡航費)の節減をはかったこと、エクスカーションをなしにしたこと、一般講演会には姫工大から、また播磨コンファレンスには科研費からの部分援助を得たこと、などの配慮がなされた。
一般講演会(播磨コンファレンスの主題とは別)には、宇宙物理、情報通信技術、物質科学という、今注目されている分野の指導者である池内 了氏、渡辺久恒氏、金森順次郎氏を講師に迎えることができ、それぞれ感銘深い講演を拝聴した。参加者は約200名にのぼり、一般市民・学生にもわかりやすく、また専門家にも感銘を与える内容で、聴衆は最後まで熱心に講演に聴き入った。
高輝度放射光による分光研究は物性物理の発展に大きな寄与をなしつつあるが、なかでも磁性研究に対する寄与は特筆すべきものである。播磨コンファレンスの参加者はすべて招待参加者で、この分野の研究を推進している世界の第一線の研究者が一堂に会し、研究の最前線と今後の展望について集中的な討論をおこなった。実行委員から推薦された内外の研究者約50名のほとんど全員が招待を受諾して播磨コンファレンスに出席した。コンファレンスは口頭発表とポスター発表からなり、極めて充実した講演、ポスター、討論の連続となり、その成果は期待以上であった。以下にプログラムを示す。
Aug 1 (Tuesday)
Opening Address : A.Kotani (Tokyo)
Session 1 (Chair: J.Mizuki)
High Resolution Bulk-Sensitive Photoemission of Strongly Correlated Electron Systems : S.Suga (Osaka)
X-Ray Magnetic Resonant Reflectivity in Thin Films and Multilayers : D.Raoux (Grenoble)
Session 2 (Chair: A.Kakizaki)
Resonant Electron Spectroscopies : A Tool to Unravel XAS Profiles : C.Chandesris (Orsay)
Magnetic Circular Dichroism Study of Purely Interfacial Magnetic Moments with Magnetic Phase Transition in Co Nanoclusters on Au(111) :
T. Koide (Tsukuba)
Session 3 (Chair: S.Suga)
Element-Selective Spin Dynamics Based on XMCD Data Collection at ESRF : A.Fontaine (Grenoble)
XMCD Study of Metamagnetic Phase Transition in Mn-Carbide Perovskite : H.Maruyama (Okayama)
Magnetic Circular Dichroism of X-Ray Absorption and Emission Spectra at L-Edges of Rare-Earth Compounds : I.Harada (Okayama)
Session 4 (Chair: Y.Sakurai)
Magnetism and XPS of Transition-Metal Thin Films and Adsorbates on Graphite : J.C.Parlebas(Strasbourg)
Non-Grassmann Path Integral Theory for Photoemission Spectrum : K.Nasu (Tsukuba)
A New Challenge of Magnetic Compton-Profile Measurement at SPring-8 : N.Sakai (Ako)
Aug 2 (Wednesday)
Session 5 (Chair: N.Sakai)
Soft X-Ray Emission Spectroscopy on Transition Metal Compounds: Band Structure and Orbital Symmetry : S.Shin (Tokyo)
Resonant X-Ray Emission Spectroscopy and MCD :
C. F. Hague (Paris)
Poster Session (10:30 - 12:00)
Session 6 (Chair: S. Shin)
Magnetic Circular Dichroism of Gd 3d2p Emission in the Transverse Geometry : T.Iwazumi (Tsukuba)
Resonant Inelastic X-Ray Scattering :
C.C.Kao (Brookhaven)
Theory of Polarization-Dependence in Resonant X-Ray Emission Spectroscopy : A.Kotani (Tokyo)
Session 7 (Chair: K.Makoshi)
Surface Electronic Structure and Magnetism of Epitaxial Lanthanide-Metal Films : E.Weschke (Berlin)
Magnetic Properties of Transition Metal Thin Films : A Spin-Resolved Photoemission Study :
A.Kakizaki (Tsukuba)
Antiferromagnetic Domains Imaged by Photoemission Microscopy : U.Hillebrecht (Halle)
Conference Banquet
Aug 3 (Thursday)
Session 8 (Chair: A.Fujimori)
Orbital Ordering Studied by Resonant X-Ray Scattering : Y.Murakami (Tsukuba)
X-Ray Resonant Scattering, Orbital Ordering and Electron Correlation in V2O3 : C.R.Natoli (Frascati)
Session 9 (Chair: A.Kotani)
Superconductivity and Stripes in Highly Correlated Materials : N.L.Saini (Roma)
Photoemission Spectroscopy of Stripe Phase in High Tc Superconductors and One-Dimensional Metals :
A.Fujimori (Tokyo)
Closing Address : A.Kotani (Tokyo)
SPring-8 Tour
講演時間は40分(一部は30分)でその中に10分の討論時間を設けたが、討論は極めて活発で、討論時間を超過して質疑応答がなされた。参加者はすべてSPring-8の研究交流施設に宿泊し、文字通り寝食を共にし、朝から夜まで熱心な討論となごやかな友好に明け暮れた。休憩時間や会議後にSPring-8の見学がおこなわれ、夕食後は、研究交流施設のロビーでグラスを傾けながら歓談を楽しみ、またナイター設備のあるSPring-8のテニスコートでレクリエーションを楽しむ者もいた。殆どの参加者から、コンファレンスの内容の深さ、水準の高さに対して、充実感、満足感の表現を聞くことが出来たのは、オーガナイザーとして最高の喜びであった。会議の企画、運営に協力してくださった実行委員の方々、落合正晴氏、杉浦美紀彦氏をはじめとする兵庫県の方々、北嶋勇人氏、坂川琢磨氏をはじめとするSPring-8関係の方々、および姫工大、岡山大の方々に厚くお礼を申しあげたい。
SPring-8中央管理棟前にて
小谷 章雄 KOTANI Akio
東京大学 物性研究所
〒277-8581 千葉県柏市柏の葉5-1-5
TEL・FAX:0471-36-3260
e-mail:kotani@issp.u-tokyo.ac.jp