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Volume 05, No.5 Pages 350 - 351

6. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第11回XAFS国際会議に参加して(その1)
The Report on the 11th International Conference of XAFS (Part-1)

田中 庸裕 TANAKA Tsunehiro

京都大学大学院 工学研究科 Department of Molecular Engineering, Kyoto University

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 2000年7月26日(水)〜31日(月)にわたり兵庫県赤穂市のハーモニーホール(赤穂市文化会館)にて、今世紀最後の第11回X線吸収微細構造国際会議(XAFS-XI)が開催された。吉田京都大学名誉教授・上坪SPring-8所長が共同委員長(co-chair)であった。筆者は26日(水)の午前中から30日の昼まで参加させていただいた。結論から言えば、筆者が知っている範囲でこれまでのXAFS国際会議の中では大成功の部類に入るのではないだろうか。会議前のインターネットによる登録からスムーズで、26日当日の受付もほとんど混乱は起こらず、SPring-8の職員を始めとする関係者の方々の用意周到なことには頭が下がる思いであった。登録受付後のget together partyも予定より早く午後3時頃から始まり、盛況であった。受付後すぐにパーティに参加し、三々五々散っていくというスマートなもので、どこかで開催された時のように、パーティ開始1時間後には何もなくなる、というようなこともなく飲み物と食事を楽しめたようである。
 会場となったハーモニーホールは立派な建物でコンサート、オペラ、演劇に用いられる1000人規模の大ホールと300人規模の小ホールがある。これらをA、B会場として用い、加えて、100人くらい入ることのできる学習室をC会場として、基調講演以外の一般セッションを3会場でパラレルに開催した。ポスターセッションは大ホール入口付近の空間を利用して木〜土曜日の3日間、連日120あまりのポスタープレゼンテーションが行われた。通常、国際会議は最初の基調講演こそ満員であるが、その後人数が大幅に減じていくというのが一般的な傾向であるのだけれども、本会議に関しては、大幅な参加者減はなかった。ある参加者に指摘されたことであるが、(1)全ての発表会場および事務局が、一つの建物にコンパクトにまとまっており、会場間の移動が楽である、(2)トイレの数が多い、(3)常にコーヒーサービスがある、の3項目が成功のテクニカルな要因であったらしい。また、赤穂市自体にもXAFS-XIには随分力を注いでいただいた。会議場周辺の道路の歩道橋にはWELCOME TO XAFS-XIの横断幕が設置された。会議2日目(講演初日木曜日)の夕方には市長主催のwelcome receptionがあった。食事の前に獅子舞の披露、食後には勇壮な太鼓が響きわたった。本会議の成功は会議の科学的内容もさることながら、JASRIの全面的な協力と、赤穂市ならびに会議場周辺の方々の協力に拠ることが大であった。
 講演初日(会議2日目木曜日)は、A会場で開会式のあと、基調講演が2件続いた。最初の講演は、J.M.Thomas卿(英国、Sir Thomas Liptonとは関係ない、念のため)による「触媒」に関する講演であった。触媒の例として1990年代に登場したいわゆるメソポーラスな化合物であるMCM-41中に触媒活性成分である遷移金属イオンを導入した試料のキャラクタリゼーションについての一般的な講演であった。MCM-41は直径40Åくらいの酸化ケイ素からなるパイプが重なった構造をしたもので、低温で不活性ガス分子などを通すと液化/毛管凝縮こそ起こるが触媒反応の場としての直径40Åのパイプ内部はあたかも広い2次元シリカのようなものであり、そのパイプ中に導入した触媒活性イオン周辺の局所構造に関しては強い関心が持たれていた。Thomas卿は種々の金属イオンをMCM-41に導入しそのキャラクタリゼーションにXAFSを用いた例を報告された。XAFS分光学の新しい知見は得られはしないが、今や、「触媒化学」ではXAFSが常套的に利用される手段であることを知らしめる講演であったと思われる。2件目の基調講演はJ.J.Rehr教授の講演であったが、これ以降の基調講演は西畑さんの文章に譲らせていただく。筆者は、B会場責任者(吉田寿雄 副責任者)であったため、報告内容がB会場発表のものであることをご容赦願いたい。
 講演初日(木曜日)B会場では「触媒Ⅰ」のセッションがあった。触媒関連の研究はXAFSの応用であるために、Thomas卿の講演と同じく、特にとり挙げるべき新たなXAFS分光学における発見や装置開発といったものはなかった。R.Prins教授(依頼講演)はQEXAFSによるNiMo/Al2O3試料の硫化過程の観察について報告された。QEXAFSに関する事柄より、得られた結果の説明に終始しておられた。恐らくQEXAFSはESRFで波長分散型で測定されたいわゆるDEXAFSであると推察される。その他6件(依頼講演1件、一般講演5件)の講演があり、ポスターセッションの内容も併せて「触媒」の分野の明らかなtrendは、XANESスペクトルの利用である。とりわけ、触媒試料のXANESスペクトルをいくつかの既知サンプルのスペクトルの足しあわせ(線形結合)により再現するという解析法が多用され始めている。筆者はもともとXANESスペクトルを中心に触媒試料のXAFS解析を行ってきたので、さほど目新しい感じはしなかった。触媒試料は単一種からなるのではなく混合物であるという至極当たり前の見方からすれば、EXAFSスペクトルの解析を型通り行っていたのでは得られる情報はかなり限定されてしまうので、XANESを調べるほうが手っ取り早く正確な場合が多いのである。
 講演2日目(金曜日)は、午前中が「環境」セッション、午後が「円二色性」セッションであった。「環境」セッションは最初の依頼講演はD.E.Sayers教授によるものでさすがに聴衆の数は多かった。土中の深さ方向に対する銅、鉛などの存在分布をまず示された。深さ方向(数メートル)の分布に有意な差は見られないが、XAFSにより調べた結果、深さに対して金属イオン塩が酸化物から硫化物に変化することが示唆されるという結果であった。このようなSayers教授の講演や後に続く5件の講演では、環境問題の研究においてXAFSをどう使うかというのが一種のキーポイントになるものと思われるが、講演では、むしろ取り扱った系がどのように環境問題に関係するかということが興味を引いたようである。発表件数はさほど多くなかったが土の中のイオンの状態、地球生物学的問題、プルトニウムの分析、土中のヒ素の抽出など様々な「環境問題」が取り組まれている。午後からは「円二色性」セッションで、X(M)CDに関連した講演が6件続いた。筆者はXMCDに関して全くの門外漢であるのでコメントは控える。ただ、5番目のBaberschke教授の講演(演者がWendeから交替)の質疑応答は面白いものであった。議論が続き各議論の最後に教授は“This is the experimental result.”「なんといっても実験ではこんな結果が出ているんだ」と言い続けておられた。
 講演3日目(土曜日)午前、午後および講演4日目(日曜日)午前中は、材料物理Ⅰ、Ⅱ、Ⅲというセッションがあった。それぞれ、材料物理Ⅰは非晶質材料、材料物理Ⅱ・Ⅲは電子・磁性材料に関連する物質を扱った発表が中心であった。材料と一口にいっても様々なものがあり、測定法は多岐に亘っている。また、極限状態(高温・高圧・希薄・界面)の実験もあり全般的なコメントは困難である。さらに、紙数の制限もあるため、各講演内容は予稿集なりJSRの会議録をご覧ください。
 赤穂市での国際会議開催はある意味で海外からの参加者には良かったのではないだろうか。東京周辺・京阪神などの都市を訪ねるチャンスはいくらでもあるだろうが、こういった小都市はなかなか体験できるものではない。口の悪い人は、出掛ける所が無いから会議に集中できる、と言っていたが、これは日本人に限ってのことであろう。それでも幾つかの社寺や多数の島が浮かぶ瀬戸内海など、見どころはたくさんありました。
 最後に、このような素晴らしい会議に参加できて、関係諸氏にお礼を申し上げます。 
 
 
記念撮影



田中 庸裕 TANAKA Tsunehiro
京都大学大学院 工学研究科 分子工学専攻
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
TEL:075-753-5693 FAX:075-753-5925
e-mail:tanaka@dcc.moleng.kyoto-u.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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