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Volume 05, No.5 Pages 340 - 343

4. その他のビームライン/OTHER BEAMLINES

生体超分子複合体構造解析ビームライン(BL44XU)の現状
Present Status of the Beamline for Macromolecule Assemblies (BL44XU)

中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi、山下 栄樹 YAMASHITA Eiki、月原 冨武 TSUKIHARA Tomitake

大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University

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1.はじめに
 生体超分子構造解析ビームライン(BL44XU)は、生体内の組織化された機能を理解するために、多様な機構で反応系を制御している生体超分子複合体の立体構造をX線結晶構造解析法により解明することを目的として、大阪大学蛋白質研究所が中心となって建設を進めてきた。本ビームラインは、学術振興会未来開拓事業、科学技術振興事業団および文部省補正予算より援助を受けて、平成8年度から建設を始め、平成11年秋から正式に利用を開始した。本稿では、ビームラインの現状とこれまでの成果について報告する。昨年6月までの建設状況については、SPring-8利用者情報1999年7月号[1]を参考にされたい。

2.ビームラインの概要
 BL44XUの光学系は、図1に示したとおりである。具体的には、SPring-8標準型のアンジュレータ(真空封止式)を光源としたアンジュレータ光を、光学ハッチ内に設置した回転傾斜型二結晶モノクロメータで単色化して実験ハッチに導入している。実験ハッチ内には水平集光型のロジウムコートミラーが設置してあり、高調波の除去と水平方向の集光を行うことができる。 
 
 
 
図1 ビームラインコンポーネントの概念図 
 
 試料位置でのビームサイズは、試料直前に置かれたダブルピンホール式のコリメータによって決められる。このコリメータは、種々のサンプルと実験に対応するために、0.5〜0.02mmまでの数種類の大きさのものを準備している。ビーム強度およびサンプルの大きさから、現在は0.07mmのものを利用することが多い。
 データ収集時には、サンプルは水平および垂直式の独立した2軸ゴニオメーターに取り付ける。検出器は、210×210mm2の有効面積を持つ3×3アレイ式CCD検出器(Oxford Instruments社 PX210)または、直径400mmの有効面積を持つイメージングプレート検出器(マックサイエンス社 DIP2040)のいずれかを利用することができる。これらの検出器は、簡単に(10分程度で)交換できるので、実験に合わせた検出器を利用することができる。一般的には、通常のタンパク質の回折強度データ収集にはPX210が、格子定数の大きな生体超分子複合体の高分解能の回折強度データ収集にはDIP2040が利用されるであろう。

3.ビームラインの現状

 本ビームラインは、平成11年の第6サイクルに最初の放射光を確認した後、平成11年10月までのコミッショニング期間を経て、平成11年11月1日より正式に運用を開始した。コミッショニングの期間中、二結晶分光器の調整、水平集光型ミラーの調整などを行った後、ゴニオメーターの調整およびイメージングプレート検出器(DIP2040)、CCD検出器(PX210)の立ち上げを行った。
 現在、通常は0.9Åの単色X線を用いて実験を行っているが、この時のサンプル位置でのビームサイズ(FWHM)およびPhoton Fluxはおおよそそれぞれ1.0mm(W)×0.7mm(H)、1013photons/secであり、ミラーにより、横方向のビームサイズを0.07mm程度まで集光することができる。この時、0.07mmのコリメータ後でのPhoton Fluxは1012photons/sec程度である。
 微小な生体超分子複合体結晶のデータ収集を精度良く行うためには、精度の高いゴニオメーターを利用する必要がある。本ビームラインには、水平式および垂直式の独立した2軸のゴニオメーターを設置してある。通常の実験では偏光因子の関係で水平式のゴニオメーターを利用するが、結晶を結晶化母液から取り出すことのできないウイルス結晶等のデータ収集には垂直式のゴニオメーターを利用することができる。水平式ゴニオメーターの場合、偏心の精度は数ミクロン以下であり、現時点での実験には十分に満足できる精度が得られている。
 また、低分解能の回折強度データを測定するために、0.8mmの大きさのダイレクトビームストッパーが、移動式のホルダーに取りつけられており、サンプル−ダイレクトビームストッパー距離を実験に応じて変えることができるようになっている(図2)。これにより波長0.9Åの単色X線を用いた場合に、おおよそ200Å分解能程度の回折点までを収集することが可能である。 
 
 
 
図2 独立2軸式ゴニオメーターと可動式ダイレクトビームストッパー 
 
 イメージングプレート検出器DIP2040(図3)は、この期間中の調整で順調に稼働するようになり、1時間あたり13フレーム以上のデータを定常的に収集可能となった。本装置の位置分解能は、通常のイメージングプレートと同程度であり、結晶−検出器間の距離を変えることにより、格子定数が1000Åを越えるサンプルのデータ収集が可能である。 
 
 
 
図3 イメージングプレート検出器 DIP2040 
 
 実際に、2軸が600Åを越える格子定数を持つ結晶に関しては、3.5Å分解能以上の回折強度データを収集することに成功している。本検出器は、露光時間に比べて読み取りに時間がかかるという欠点を持っているが、格子定数の大きな生体超分子複合体の回折強度データ収集には不可欠な装置である。
 CCD検出器PX210(図4)は、当初、数多くのトラブルに悩まされた。現時点でも、まだ、ヘッダー情報と処理ソフトウェアとの互換性の問題などまだ解決しなければならないいくつかの問題点は残されているが、ほぼ満足できるだけの性能を発揮するようになっている(表1)。 
 
 
 
図4 CCD検出器 PX210 
 
表1 PX210で測定したニワトリ卵白リゾチームのデータ処理の結果 
 
 
 
 構造解析を成功させるためには、データ収集中にその実験のフィードバックをかけることは必須である。そのために、大容量RAIDシステムと回折強度データ処理のためのワークステーションを設置した。現在、Pentium Ⅲ(700MHz)ベースのLinux workstation4式と200GBのRAIDシステムが利用可能で、データ収集と平行してデータ処理やDDSおよびDTFへのバックアップを行うことができる(表2)。 
 
表2 データ処理システムの概要 
 
 
 
4.共同利用の現状
 本ビームラインは、全ビームタイムの内、20%をJASRIの共同利用実験に提供している他、40%を蛋白質研究所共同研究として全国の研究者からの共同利用実験を受け入れる体制を整えてきた。まず、平成11年5月の課題募集(試行)を行い、さらに平成12年1月の課題募集・課題採択を経て4月より共同利用実験を開始している。平成11年の課題募集(試行)に対して、82件の研究課題を採択し、平成12年の課題募集に対して51件の研究課題を採択した。これらの課題に対し、平成12年4月から6月までのビームタイムで11課題の共同利用実験が行われた。
 同様の課題募集は年1回1月初旬に行われる予定になっている。

5.今後の予定

 生体超分子結晶学のメインターゲットの1つにウイルス粒子の立体構造決定があげられる。本ビームラインでも、ウイルス結晶の回折強度データ収集を予定している。これらの試料の自然界への汚染を防ぐため、大型放射光施設バイオセイフティー委員会の審査を経た上で、現在、イネ萎縮ウイルスおよびタバコネクロシクウイルスの2つのウイルス結晶の回折強度データ収集を計画しており、ビームライン周りにP2レベルの安全設備を製作中である。これらの準備が整い次第、できれば今年中に順次、上記2種類のウイルス結晶の回折強度データ収集を行う予定である。SPring-8内で現在ウイルス結晶のデータ収集を行うことのできる設備を持つ所は、本ビームラインだけであり、独自の研究を進めていくことができると期待している。
 この他に今年中に高速ビームシャッターの導入が計画されている。格子定数の大きな超分子複合体の回折強度データを精度良く測定するためには部分反射を精度良く測定する必要があり、より高速なシャッターの開閉と試料回転軸の同期を必要としている。また、微小振動写真法によるデータ収集を行うためにも高速シャッターの導入は必須である。現在、ミリ秒以下の開閉速度を持つビームシャッターを作成中であり、夏のシャットダウン期間中に導入予定である。

6.終わりに
 本ビームラインは、阪大蛋白研のビームラインであるが、建設には、理研、原研、JASRIの多くの方々の支援によって作られました。また、立ち上げにあたっては、大阪大学工学部甲斐泰研究室および姫路工業大学吉川信也研究室の多くの方々の協力を得ています。この場をお借りして、深く感謝いたします。



参考文献
[1]山下栄樹、月原冨武:SPring-8利用者情報Vol.4,No.4(1999)28-30.

中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi
大阪大学 蛋白質研究所
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-2
TEL:06-6879-4313 FAX:06-6879-4313
e-mail:atsushi@protein.osaka-u.ac.jp


山下 栄樹 YAMASHITA Eiki

大阪大学 蛋白質研究所
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-2
TEL:06-6879-8605 FAX:06-6879-8606
e-mail:eiki@protein.osaka-u.ac.jp


月原 冨武 TSUKIHARA Tomitake
大阪大学 蛋白質研究所
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-2
TEL:06-6879-8604 FAX:06-6879-8606
e-mail:tsuki@protein.osaka-u.ac.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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