ページトップへ戻る

Volume 05, No.5 Pages 336 - 339

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

構造生物学ビームラインII(BL40B2)の現状
Present Status of Structural Biology Beamline II (BL40B2) at SPring-8

三浦 圭子 MIURA Keiko、井上 勝晶 INOUE Katsuaki、河本 正秀 KAWAMOTO Masahide

(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Division

   
Abstract
Structual biology beamlineⅡ (BL40B2) was opened for public users of protein crystallography and small angle X-ray scattering experiment from Nov 1999. The X-ray source of BL40B2 is a bending magnet and mirror-focused monochromatic energy is altered from 7 keV to 18 keV. For protein crystallography, fixed-exit beam is useful to collect MAD experimental data. As a detector, a imaging plate system and a CCD camara for protein crystallography have been installed and its exchange system is also prepared. User-friendly software to change wavelength is installed. For advanced users of protein crystallography, a technical training course for MAD experiment was held at June 2000.
Download PDF (308.79 KB)


1.はじめに
 本ビームラインは、汎用小角散乱実験および蛋白質結晶解析実験を目的とする構造生物学ビームラインⅡとして立ち上げられた。蛋白質結晶解析共用ビームラインとして先に共用開始されており多くの課題採択ユーザーが利用しているBL41XU(構造生物学I)に続くビームラインとして、その早急な整備が期待されていた。小角散乱サブグループにとっては、初めての共用ビームライン建設として利用検討が期待されていた。
 
2.ビームラインの概要
(光学ハッチ)
 光学系コンポーネントの配置については、図1を参照してもらいたい。 
 
 
 
図1 ビームラインコンポーネントの配置図 
 
 偏向電磁石でフロントエンドから導入された放射光は、水冷式第一スリットで高さおよび幅のサイズを調整しモノクロメーターに入る。SPring-8標準二結晶モノクロメーターはシリコン(311)結晶を用いて調整するが、実験に使用するエネルギー領域の7〜18keVを考慮して、(111)面反射光をミラーで集光して実験ハッチへ導入する。冷却は、第一結晶はフィン式直接冷却とし、第二結晶は直接冷却式とする。ミラーは、石英を母材とするロジウム張り1m長のシリンダー式を用い、下振りに3.2mrad傾斜して反射光を実験ハッチに導入する。光源からミラーまでの距離は38015mmとなっている。Be窓直下にイオンチャンバーを常設し、X線強度モニターに利用している。 
 
(実験ハッチ)(図2)
 
 
 
図2 BL40B2の実験ハッチ 
 
 実験ハッチ内第3スリット下流Be窓直下にイオンチャンバーを常設し、X線強度モニターに利用している。実験架台上の汎用小角散乱実験用に導入した4象限スリットまでは、16mm径のビームパスを通しHeガス置換を行えるように準備した。上記スリットボックス内には、2次元イメージングプレート検出器(RIGAKU R-AXIS IV++)のコントローラと連動するソレノイド式シャッターおよびアッテネータを含む。実験架台上の蛋白質結晶解析用に導入したゴニオメーター部位置での定位置出射を目安として、モノクロメーターパラメーターの微調整を行う。X線検出器は、2次元検出器のイメージングプレートおよびCCDカメラを2種類用意する。イメージングプレートはダイナミックレンジが106と広範囲であること、CCDカメラは読み取りが3秒と短いことの特徴に応じて実験による選択を可能にする。
 実験架台の高さ、傾きなど光軸調整上必要なドライバー制御ソフトウエアはBL41XU担当者として同ビームラインの自動アライメントソフトウエア作成の実績のある河本によりLabVIEWソフトウエアで統一的に用意されている。 
 
3.ビームラインの現状 
 
(光学系コミッショニング)
 本ビームラインは1999年9月2日に前検査合格し、9月14日までに実施されたハッチのX線漏洩検査終了後、コミッショニングを開始した。二結晶モノクロメーターはシリコン(311)面で2結晶間の平行性を調整し、(111)面利用に傾斜配置に変更後2結晶間の平行性を微調整した。実験架台上の蛋白質結晶解析用に導入したゴニオメーター部位置における8keVから17keVの範囲での定位置出射を目安として、モノクロメーターパラメーターの微調整を行った。ミラーの高さ・傾斜角・光軸からのずれの微調整およびベント量は、ゴニオ部下流に設置したビームモニターを利用して、ビームプロファイルを逐次見ながら調整した。ミラーから集光点までの距離を16062mmとしてモニターした場合、例えば12keVで、フォーカスサイズは、縦・横それぞれ0.14mm×0.5mmであった。定位置出射を実現後、ビーム位置が下記の蛋白質結晶データセット測定中の24時間以内でもずれないことが確認された時点で、ユーザーPCより波長変更制御するコントローラも河本によりLabVIEWで作成された。(図3) 
 
 
 
図3 波長変更GUI 
 
(蛋白質結晶解析関連)
1)立ち上げ実験
 立ち上げ実験は1999年10月より実施され、先ず蛋白質結晶解析のデータ収集が可能な条件設定を検討するために、室温でキャピラリー封入リゾチーム結晶のX線回折データを収集しながら、コリメータの設計、ビームストッパの変更を行った。液体窒素冷却装置を用いた凍結結晶のX線回折データ収集に際しては、他の構造生物学ビームラインでは使用経験の無いリバースタイプゴニオメーターであることから、クライオループ部に結露が少ない条件を探す必要があり、窒素冷気吹き付けノズル位置の検討および実験ハッチ内のエアコン設定条件検討を実施した。
 MAD測定を目的として、重原子のX線吸収端測定システムの立ち上げを行った。蛍光X線検出器はAMP-TEKのPINダイオードを用い、MCAによる特性X線を確認した後、SCAにより特性X線部のピークチャンネルのみを取り込みX線吸収端スペクトル測定を実施できるように条件設定を行った。MCA以外の全ての操作はUserPCより実行可能となっている。
 5種類のテスト結晶を用いたX線回折データ測定を実施し、低温条件下でのデータ測定が精度良く実施可能であることが確認され、共用課題実験開始が可能であることが確認された。
 特にその中で、Se-Metを含む蛋白質結晶については、XAFS測定およびMAD用波長設定後の3波長分(peak, edge, remote)の連続測定が問題なく実施できたことから、波長変更ソフトウエアの動作も含めてMAD測定が容易に実験できることが確認出来た。
2)立ち上げ課題実験は1999年12月より実施され、特にMAD法を用いた未知構造蛋白質の迅速測定が可能であったことは、勝部により利用者情報 Vol.5, No.4(2000)p271〜274に記載されているので、参照されたい。
3)測定器など追加導入項目(図4) 
 
 
 
図4 CCDカメラ 
 
 ADSC CCD Quantum4Rが、2000年5月に導入された。検出器面積は188mm×188mmと、R-AXIS IV++(300mm×300mm)に比較すると狭くなっているが、読み取り速度が3秒と短いことから迅速測定が可能となる。本年5月以降は、CCD導入評価実験を5件実施した。今後の蛋白質結晶データ測定時の有効活用に期待したい。実験ハッチ内には、CCDとR-AXISを迅速に切り替えて、かつカメラアライメントの煩雑さを伴わないレール切り替え式システムを導入しその動作を確認している。現在一部ユーザーにも操作法を説明してきているが20分以内で切り替えられることになっている。必要に応じてこの切り替えシステムも有効活用していきたい。

(汎用小角散乱実験関連)
 汎用小角散乱実験装置の立ち上げは、1999年11月にBL41XU担当者である井上勝晶が協力して実施した。井上は、同分野の研究者であり特にデータ精度に影響するスリット調整に精通していることからサブグループと共同で光学系の条件検討および試験試料を用いた実験検討が実施された。その結果、低角の高い寄生散乱を有効に削除することを目的とした2連式4象限スリットの必要性が議論され、その追加導入を本年4月末に実施した。(図5参照) 
 
 
 
図5 BL40B2小角散乱装置設定 
 
 その評価結果については、別途サブグループからの報告にゆだねたい。

4.改良計画
(蛋白質結晶解析関連)

 ゴニオメーターはリバースタイプから、放射光の偏向および他の構造生物学ビームラインとの整合性も考慮して、横置きタイプに変更する。リバースタイプゴニオを用いた際の凍結結晶マウントおよび回収操作性の簡便さの代替として、90度のゴニオメーターヘッドアークの利用を推奨する。追加の低温装置としてHeクライオ装置を導入し、30K近傍での低温X線回折実験の可能性を広げる予定である。
 汎用小角散乱装置で導入した上記スリットに連動して、ビームパスをコリメータ直上流までつなげ、その間にHeガスを流すシステムに変更する。

5.研修会
 蛋白質結晶解析関連では、同ビームラインのシステムがユーザー各自によるMAD測定実施研修に適している状況に整備されていることから、本年6月6日より7日の3シフトのビームタイムを使用して中級者ユーザーを対象とした実習会を実施した。大学研究者2名、産業界関係3名の計5名の参加で行った。参加者の持込結晶試料を使ったデータ収集まで行うことを主眼として、Se-Met 2例、Zn 1例のXAFS測定を実習しながら、24時間でMAD用3データが収集できたことは、その前月に導入したCCDカメラによる迅速測定の利用価値も確認できたことになる。実施日までの期間が短かったにも関わらず、応募総数は19名と多数であったことから、今後も同様の研修会の必要性が認められた。

6.おわりに

 以上述べてきたように、本ビームラインは順調に立ち上げができ2000年1月のボーナスタイムより多数のユーザーによる共用課題実験が可能となった。これまでの過程で多くの方々のご協力によるものは確かです。特にビームラインの仕様確定および建設にご尽力頂いた多くのSPring-8利用系スタッフの皆様および理化学研究所構造生物関係の研究者の皆様に、この場を借りて感謝したいと思います。今後は当ビームラインの有効性の情報が広がり、課題実験希望者が増えることを期待したいと思います。 
 
三浦 圭子 MIURA  Keiko
(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-2752
e-mail:miurakk@spring8.or.jp


井上 勝晶 INOUE  Katsuaki
(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-2752
e-mail:katsuino@spring8.or.jp


河本 正秀 KAWAMOTO  Masahide

(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-2752
e-mail:kawamoto@spring8.or.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794