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Volume 05, No.5 Pages 325 - 327

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

第6回(2000B期)利用研究課題の審査を終えて
Report of the Proposal Review Committee for the 2000B Term

村田 隆紀 MURATA Takatoshi

(財)高輝度光科学研究センター SPring-8利用研究課題選定委員会 主査、京都教育大学 教育学部 Department of Physics, Kyoto University of Education

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はじめに

 毎期の課題審査が終わるたびにこの記事を書いています。いつも同じようなことを並べているので、利用者の皆さんにとっては、あまり読む気のしないページかも知れません。しかし、課題選定委員会は、よりよい課題選定のあり方について常に議論を続け、少しずつですが、選定方法についての工夫を重ねています。このような小さな努力の積み重ねによって、SPring-8の課題審査のあり方が成熟していくのである、という信念を失わずに仕事を進めているつもりです。
 以下、今期(2000B)の課題審査についての簡単な報告をいたします。


今期の募集と審査

 2000B期は2000年10月の第9サイクルから2001年1月の第1サイクルまでの約4ヶ月間が利用期間で、利用できるシフト数は156シフトになります。当初は各期を暦年で区切る形で12月をこの期の終わりとすることにしていましたが、今年は長直線部にアンジュレータを入れるための工事が夏期に入っていることもあって、A期とB期の長さに極端な差ができることになってしまいました。これを避けるために、この期の終わりを1月末とするようにJASRIで工夫していただいたものです。
 課題募集は5月15日から6月17日まで行われました。ただし、特定利用については、審査の方法が異なるために、締切を6月9日としました。応募された課題の総数はこれまでの募集の中では最も多い582件でした。この中には成果専有課題6件と特定利用課題9件が含まれています。(特定利用については後述します。)一般課題は6月26日から7月3日の間に各分科会のメンバーによって科学技術的妥当性の審査が行われ、同時にBL担当者による実験の実施可能性とその実験を行う場合に必要と考えられる推奨ビームタイムの算出も行われました。その後7月9日と10日の2日間、分科会を開いて最終的な課題選定案の作成が行われ、施設側の安全審査を経て7月25日の課題選定委員会で380件(成果専有6件、特定利用3件を含む)が選定されました。この数も、これまでで最も多い課題数となっています。なお規則上は課題選定委員会の選定案を諮問委員会にかけて正式決定をすることになっています。しかし今回からは、諮問委員会が課題選定の仕事を課題選定委員会に委任することとなったため、課題選定委員会の選定結果を受けてJASRIが採択し、その結果を通知することができるようになりました。
 前回までの課題選定でいろいろな検討事項が出てきました。利用者懇談会、生命科学関係の研究者、またBL01B1のユーザーを対象にしたものなど、数々のアンケート調査が行われて、課題選定のあり方についての様々な意見がだされました。中でも6ヶ月ごとの課題募集が研究遂行のためにふさわしいものであるのか、短いビームタイムの配分によってビームライン担当者の負担過重になっている問題、蛋白の結晶が得られたときにできるだけ早く構造解析を行うための方策、などが主な事項でした。5月24日の課題選定委員会で、これらについて意見交換を行ったのですが、分野によっての意見の違いが大きく、方針を1つにまとめることはできませんでした。ただし、検討事項の中で当面改善できることは取り入れていくことにしました。まず、課題選定は従来通り6ヶ月とし、この期間で実験を効果的に実施できる課題を選定することを基本としました。そのために選定した課題に対しては、できる限り要求シフト数を満たすようにシフト配分することになりました。しかしこの方針をとれば、当然の事ながら課題の採択率は下がることになります。また、申請者のビームタイムの要求が過大でないならば、配分シフトと要求シフトの比、シフト充足率は逆に上がる事になります。実際に今期の採択結果は、これまでとはわずかながら差が出てきています。また、シフト配分については、ビームライン担当者が申請書を見て、実験を実施するのに必要と考えられる推奨シフト数を提示して、審査の際にそれを参考にするという方式も今回から取り入れました。さらに、生命科学分野では前回に引き続いて実験試料ができたときに素早く測定できることに対応できるよう、BL41XUに43シフトの留保シフトを確保しました。この43シフトを各サイクルに均等に配分し、緊急課題に準じた扱いで課題を募集することにしました。これについては別にアナウンスがありますので、見落としのないようにお願いいたします。
 これら以外にも、PFのP型課題に対応するような試料のチェックや実験の実施可能性を試すための短期間のビームタイムの確保などについても検討されましたが、今後の課題として残すこととしました。
 今回の申請の特徴についても触れておきます。課題選定結果の通知書類には、委員のコメントがつけられていますが、その中で、SPring-8で実験を行う必然性がない、というものが増えています。申請課題数が増加することによって、他の放射光施設とのすみわけも考えなければならないことになります。また、人気のある特定のビームラインへの申請の集中も、ますます顕著になっています。このことは、SPring-8の特徴を生かそうとする課題申請が多いことを意味しますので大変健全なことなのですが、この問題は、施設側でビームラインの増設、整備がなされる以外に解決策はありません。施設側でもこのことは十分に認識していて、最重要課題として取り組む努力を重ねていただいています。また、前述した課題採択率とシフト充足率の問題ですが、ESRFに比較すると、SPrng-8では前者は高く、後者はかなり低くなっています。つまりヨーロッパの場合には、優れた研究を厳選してその課題に対して十分なシフトを配分する、という方式が定着しているということです。日本でこのような方式が通用するか、という難しい問題もありますが、避けて通ることのできないことでもあります。


特定利用研究の審査

 このことについては、本誌のVol.5 No.2(本年3月発行)に制度の検討についての経過報告をいたしました。その後数回の検討部会と課題選定委員会を経て、この制度に基づく課題募集をしました。特定分科会の委員は一般の分科会の主査の他に、外部から7人、施設側から3人の委員に加わっていただき、総勢16人で構成しました。特定利用分科会の主査は私が兼ねることとしました。6月9日に募集を締め切りましたが、応募は予想をはるかに上回る9件で、内訳は散乱回折分野で6件、生命科学、分光、実験技術の各分野で1件ずつでした。実験を希望するビームラインではBL39XUの希望が4件と多いことも特徴です。
 6月12日から15日の間に分科会委員による書類審査を行って評価した上、6月19日の午前中に9件の課題について申請者への面接を行いました。面接は2室に分かれて行い、30分の発表と20分の質疑応答を行いました。午後からは分科会を開いて、この中から3件を特定課題として選定候補を決定しました。
 採択された課題に対しては、使用するビームラインは決めますが、配分するシフト数はユーザータイムの10~20%を上限とするという制限があるため、各期ごとに個別に決めることになります。ビームタイムは研究の進捗状況にも依存することなので、はじめから一括してビームタイムを配分することはしませんでした。
 採択された課題については、本誌に掲載されています。この特定利用研究は、長期にわたってビームラインを利用するということから、一般課題と区別して、課題名、課題の概要、責任者名などを採択時に公表することにしています。また責任者には研究の進捗状況と中間的な成果報告も公開の場でしていただくこととしています。発表の場は、さしあたり年に1回開かれるSPring-8シンポジウムを考えています。また、課題終了後には、SPring-8年報への投稿を義務づけることとしました。


終わりに

 今期は特定利用制度の導入を中心として課題選定委員会の仕事も大幅に増大しました。このままではどこまで仕事が増えるのか予想もできません。特定利用は毎期に募集がありますので、その対応も容易なことではありません。高性能の光が得られる人気のあるビームラインを自分の研究のために長期に占有して使いたいというのは、研究者として当然の要望でしょうが、その要望をそのままで認められない境界条件があることも理解していただきたいところです。
 この利用者情報には、2001A期の課題募集が掲載されています。課題選定委員会のスケジュールも確定しています。次期は長直線アンジュレータの設置や新しいビームラインの供用開始などもあり、申請件数も今期以上に増加することが見込まれています。また、課題選定の方法についても、いろいろな検討事項に結論を出さなければなりません。
 ユーザーの皆さんの建設的なご意見は、今後の課題選定のあり方を考えていく上で極めて大切な事ですので、今後とも積極的なご意見を出してくださることを心から期待しています。



村田 隆紀 MURATA Takatoshi
京都教育大学 教育学部 物理学教室
〒612-8522 京都市伏見区深草藤森1
TEL:075-644-8256 FAX:075-645-1734
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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