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Volume 05, No.5 Pages 303 - 304

所長室から 常に最先端の実験手法/装置の開発を!
From the Director’s Office

上坪 宏道 KAMITSUBO Hiromichi

(財)高輝度光科学研究センター 副理事長、放射光研究所長 JASRI Vice President, Director of JASRI Research Sector

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 最近放射光利用研究に関連した二つの国際会議に出席した。7月末にSPring-8と日本放射光学会が共同して開催した第11回X線吸収微細構造国際会議(XAFS XI)と、8月下旬にベルリンで開かれた第7回放射光装置技術国際会議(SRI 2000)である。この二つの会議から共通して受けた印象は、放射光利用研究のめざましい発展ぶりであった。とくにX線領域の放射光利用研究では、次々に新しい実験技術や手法が開発され、研究対象も急激に拡大している。例えば、光源性能の著しい向上と光学系・計測系技術の進歩が相俟って、マイクロビームや偏光の利用が当たり前になり、また、高エネルギーX線による実験や高い波長・空間分解能の精密実験が行われるようになった。さらに、イメージング技術が進歩して画像データとして計測する手法が広がっている。この結果、実験手法が高度化し測定データの質がますます高くなって、実験から得られる情報は格段に豊富になり、広い科学技術分野で放射光を利用する研究が増加している。
 SRI 2000ではSPring-8から多くの成果が報告された。原研、理研、JASRIからの参加者やユーザーが報告したSPring-8に関わる研究開発の論文は、招待講演1(Summary Talkを含めて全体で20件)、口頭発表10(Hot Topicsを含めて全体で91件)であり、ポスター発表は84件(全体の18.6%強)にも上っている。ビームラインの建設が一段落した時期でもあり、SRI 2000はSPring-8の完成度を世界に示すまたとない機会になった。
 SRI 2000ではまた、ESRF、ALS、ELETTRA、MAX-Ⅱなど、既に長期間に亘って稼働している放射光施設から多くの研究成果が報告されていて、印象的であった。言うまでもなく、放射光を利用して優れた研究成果を上げるためには、新しい実験手法/技術の開拓や装置開発が不可欠である。その意味では、2003年に開かれる次回SRI国際会議でどれだけ多くの研究成果を発表できるかが、SPring-8が持つ先端的研究施設としての可能性を量る重要な目安になる。そのためにはどのような方策を採るべきか、私の考えを述べてみたい。
 SPring-8の建設に当たっては、利用者から提案された計画のうち、ビームライン検討委員会で審査・採択された提案・仕様に沿ったビームラインを建設してきた。挿入光源や基幹チャンネル、光学系は施設者側が建設を担当し、要素部品はできるだけ標準化して建設経費の合理化と建設期間の短縮を図ってきた。一方、実験ステーションは、SPring-8利用者懇談会の各サブグループが中心になり建設してきた。従って建設されたステーションは、できるだけ多数の研究者が利用できる標準的な仕様になっている場合が多い。加速器の試運転開始後わずか3年という短期間に40本近いビームラインを完成させ、年間延べ5千人を越すユーザーが研究に従事するようになったのは、このようなやり方が成功したことを示している。
 しかし問題も出ている。設計当時には第3世代放射光源の性能が十分認識されていなかったことや、限られたビームライン建設予算でできるだけ多くの実験を行えるようにしたため、共同利用開始後、幾つかのビームラインでステーションの増強が必要になっている。そこで私たちはビームライン高度化の予算を計上して、順次改善を図ってきた。今後ともこの方式でビームラインの充実/高度化を続けるためには、かなりの額の予算を経常的に確保しなければならない。ところが、建設終了後は運転・維持管理の経費に重点を置くという我が国の予算の仕組みや昨今の財政状況を考えると、その実現には相当の困難が予想される。去る8月17日に行われた科学技術庁長官と科学技術総括政務次官のSPring-8視察の際に、完成後の施設高度化がSPring-8のような先端的研究施設にとっていかに重要かを説明し、大臣から理解のあるコメントを頂いた。
 しかし予算の制約は厳しく、予算確保にはいっそうの努力が必要であるが、同時に総額の決まっている現行予算の合理的な執行も検討しなければならない。
 ところで、創造的科学技術立国を目指す国の方針で、今後は誰もやっていない独創的な研究を重視し、科研費のような競争的研究資金を充実させると聞いている。これまで重視されてきた大型の競争的研究資金だけでなく、若い研究者も対象にした比較的中型/小型の競争的研究資金も実現するという。このような時代には、SPring-8の利用研究にも、既存の測定装置に試料を取り付けて測るような研究だけではなく、新しい工夫を凝らした装置を付加して実験する研究が増加してくる。このような流れに対応して、SPring-8でも共通的な装置の高度化だけでなく、個性的な装置を付加することのできるフレキシブルな実験ステーションをつくることが必要になる。また、今後重視すべき研究である“新規性に富む萌芽的研究”では、何回かのトライアル実験が必要であり、失敗を重ねながら進む場合も多いと思われる。このような研究をSPring-8で推進するには、一般共同利用の中で、個別チームによる付加的な装置の開発・調整を含む実験ができるような仕組みを考えなければならない。
 これまで、一般共同利用の課題募集/選定に当たっては、安全性とともにSPring-8で実施可能かどうかも審査・選定の基準にしてきた。後者の基準は幅が広く、実験装置の開発まで認めると、殆どの提案が実施可能な課題の中に含まれてしまうことになり、極めて緩い基準になる。
 しかしこれまでは、SPring-8側からの予算的な支援は不可能で、しかも、できるだけ多くの研究者に利用してもらうことを優先したため、特別の場合を除いて、既存の装置で実施できるかという審査基準をとってきた。ところが今後は、SPring-8側からの予算的支援は難しいとしても、個別チームが独自の予算を得て計画する新しい装置の開発・調整をSPring-8で実施できるようにすることは必要であろう。
 これまでに特定利用研究制度がつくられて、比較的大型で目標が明確な研究を長期にわたって実施することが可能になった。しかし上に述べたような萌芽的研究は、特定利用研究制度には必ずしもなじまない場合が多い。むしろ、SPring-8のビームライン研究者・技術者が協力する可能性も含めて、新しい方策で推進することを考えるべきであろう。共同利用の枠内で、あるいはR&Dビームラインの利用方法において、“新規性に富む萌芽的研究”を推進する仕組みをぜひ実現したいと考えている。
 装置の開発や調整を行うだけでなく、ビームの性能を高度化する要求もユーザーから出てくるであろう。マイクロビームや偏光特性の高度化だけでなく、フェムト秒現象の測定ができるビームの時間特性の実現、精密な干渉実験ができるビーム特性の改善などが考えられる。加速器チームも協力するこのような技術開発は、SPring-8の持つ優れた性能を発揮させる重要な研究課題である。私はこのような野心的な技術開発は、ユーザーから出た学術的意義の高い研究計画に協力して進めるのが望ましいと考えている。
 定常的な利用研究フェーズに入ったSPring-8で、常に最先端の実験手法/技術の開発が行われるようにするのが、これからの私たちの課題である。2003年のSRI国際会議でも、世界の注目を浴びる研究成果が数多くSPring-8から報告されることを期待している。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794