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Volume 05, No.4 Pages 277 - 284

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第6回ESRF−APS−SPring-8 3極ワークショップ開催報告
Report on the 6th ESRF-APS-SPring-8 Workshop

下村 理 SHIMOMURA Osamu[1]、宮原 義一 MIYAHARA Yoshikazu[2]、八木 直人 YAGI Naoto[2]、大熊 春夫 OHKUMA Haruo[2]、石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya[3]、原 徹 HARA Toru[3]、多田 順一郎 TADA Junichiro[4]、鈴木 昌世 SUZUKI Masayo[4]

[1]日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター Synchrotron Radiation Research Center, JAERI Kansai Research Establishment、[2](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 JASRI Research Sector、[3]理化学研究所・播磨研究所 RIKEN Harima Institute、[4](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 JASRI Research Sector

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1.はじめに(下村 理)
 標記ワークショップが4月9日から12日にかけてSPring-8で開催された。参加者は今年末で所長を退任するESRFのPetroff所長やアメリカでの中性子計画の中心人物にもなって多忙なAPSのMoncton所長も含めて、ESRFから11名、APSから13名、SPring-8からは30名以上、総勢60名以上の賑やかなワークショップとなった(表1参照)。このワークショップは3施設間での協力研究、共同研究を目的に1994年にESRFで開かれたのが第1回で、それ以降ほぼ毎年場所を持ち回りで開いてきている。今回のプログラムを表2に示す。ワークショップは9日の午後の施設見学から始まった。前回SPring-8で開いたときにはまだ、施設はできていなかったので、このワークショップとしては最初の見学である。2日目は施設のOverviewとScientific Highlightsについて各施設からの報告があった。3日目は二つのセッションに分かれ、session Ⅰではマシン、Insertion Device(ID)、Radiation Safetyまた、session Ⅱでは Beamlines、Experimental Initiativesについて講演と討論が行われた。 
 
表1 主な参加者のリスト(順不同) 
 
ESRF (11)
 Y.Petroff,C.Kunz,F.Comin,M.Wulff,P.Marion,A.Freund,
 J.M.Filhol,A.Ropert,J.Chavanne,J.C.Biasci,P.Berkvens
APS(13)
 D.Moncton,J.Galayda,T.Rauchas,G.Decker,K.Kim,
 D.Horan,G.Srajer,E.Gluskin,S.Sinha,D.Mills
 W.Lee,P.K.Job,G.Shenoy,
SPring-8(30+)
 H.Kamitsubo,S.Kikuta,N.Kumagai,T.Ueki,O.Shimomura,M.Hara,
 Y.Miyahara,H.Kitamura,T.Ishikawa,J.Tada,A.Ando,H.Ohkuma,
 Masayo Suzuki,Y.Asano,Y.Suzuki,N.Yagi,Y.Sakurai,M.Ishii,
 H.Aoyagi,T.Tanaka,S.Takahashi,Y.Tanaka,Y.Saito,Motohiro Suzuki,
 T.Hara,H.Ohno,F.Sakauchi,Y.Inoue,M.Iizumi,K.Joko,M.Yanokura, 
 
表2 プログラム 
 
Monday, April 10

Opening Address
 SPring-8  H.Kamitsubo

Overview I, II(9:00〜12:30)(Chair:H.Kamitsubo,Y.Petroff,D.Moncton)
 ESRF    :Y.Petroff(30),J.M.Filhol(30)
 APS      :D.Moncton(20),J.Galayda(20),T.Rauchas(20)
 SPring-8:H.Kamitsubo(60)

Highlights I, II(14:00〜17:30)(Chair:N.Yagi,C.Kunz,G.Shenoy)
 ESRF    :C.Kunz(30),F.Comin(30)
 APS      :G.Shenoy(30),S.Sinha(30)
 SPring-8:S.Kikuta(30),T.Ueki(30)

Tuesday,April 11


Machine I,II (9:00〜12:30)(Chair:H.Ohkuma, J.M.Filhol,K.Kim)
 ESRF :
 Planned machine development:J.M.Filhol(30)
 Machine parameter measurements using 1000 turn BPM:A.Ropert(20)
 Planned testing of the ultimate performances of SR crotch absorbers]
 :J.C.BiaJ(15)
 APS:
 Status and plans for APS beam stabilization:G.Decker(30)
 RF systems:D.Horan(20)
 Fourth Generation Source a la SASE, Characteristics and Progress
 :K.Kim(25)
 SPring-8:
 Current status of SPring-8 machine:N.Kumagai(30)
 Current status of New SUBARU:A.Ando(20)

Beamlines I,II(9:00〜12:30)(Chair:T.Ishikawa,A.Freund,D.Mills)
 ESRF:
 Performances on the new high power front-end:J.C. Biasci(20)
 High heat-load optics:A.Freund(30)
 APS :
 Optics modeling:W.Lee(20)
 SPring-8:
 Beamlines and optics:T.Ishikawa(30)
 Front end for 25m ID:S.Takahashi(20)
 Beam monitor:H.Aoyagi(20)

Insertion Devices(14:00〜15:30)(Chair:T.Hara)
 ESRF:
 Recent development on insertion devices:J.Chavanne(20)
 APS:
 Developments of undulator lines for the 4th generation SR sources
 :E.Gluskin(20)
 SPring-8:
 Recent development on insertion devices:H.Kitamura(20)
 Construction of 25m ID:T.Tanaka(20)
 Radiation safety(16:00〜17:30)(Chair:J.Tada)
 ESRF:
 Safety issues:P.Berkvens(30)
 APS
 :Radiation physics:P.K.Job(30)
 SPring-8:
 Radiation physics:Y.Asano(30)

Experimental initiatives I, II(14:00〜17:30)(Chair:Masayo Suzuki,M.Wulff,S.Sinha)
 ESRF:
 Time-resolved experiments, streak camera:M. Wulff(30)
 APS:
 Optics - Looking Ahead to the Next Generation:D.Mills(30)
 Plans for the high magnetic field facility at the APS beamline
 :G.Srajer(20)
 SPring-8:
 Laser synchronization system:Y.Tanaka(20)
 X-ray modulation spectroscopy:Motohiro Suzuki(20)
 Site-selective XAFS:M.Ishii(20)
 Imaging at SPring-8:Y.Suzuki(20)
 Performance of soft x-ray beamlines:Y.Saito(20) 
 
 今回は既に各施設が順調に利用のモードに入っていることもあって、マシンではより安定な運転を目指す方向が議論されるとともに、Scientific HighlightsやExperiment Initiativesでの議論が、新たに設けられた放射線物理についてのセッションも含めて活発に行われた。また、測定モードの自動化についての提案があったことも新しいフェーズに入ったことを感じさせた。さらに、将来計画についての報告も行われたが、各施設の状況に応じてやや方向の異なる展開がみられた。各セッションの内容については座長からの報告を参照されたい。
 会議の最後にこのワークショップの今後についての議論が行われ、最初とフェーズは異なってきていることはあるものの、今までに果たしてきた役割は大きく、さらに継続していきたいと声が大きく、次回はESRFで2001年秋頃に行うことで意見が一致した。さらに、今後研究協力していく課題として表3に示すものが取り上げられ、その一部については4日目(12日)に早速議論が行われた。 
 
表3 今後の研究協力課題と担当者 
 
  
 
2.Overview(宮原 義一)

 各施設の全体報告については、ESRF、APS、SPring-8の順で行われた。SPring-8からの報告については省略するとして、ESRFとAPSからはそれぞれ以下のような紹介があった。
 ESRFの蓄積リングのビーム寿命は2/3 fill mode、 200mAで65時間である。エミッタンスは水平、垂直方向でそれぞれ3.8nmrad、10pmrad(結合度、0.25%)まで下がった。これにより輝度は平面型アンジュレータID23(L=5m、g=11mm)で10keVまで4×1021(通常単位)、真空封止型アンジュレータID11(L=1.6m、g=6mm)で60keVまで1019(通常単位)になった。永久磁石と電磁石を結合した楕円偏向ウィグラー(偏光切り替え10Hz)が設置された。バンチモード別では単バンチ(15mA)、16バンチ(90mA)、2/3 fill(200mA)がそれぞれ5、16、67%の割合で運転された。
 ビーム軌道の安定化では水平、垂直方向でともに0.01〜200Hzの帯域で1µmの安定度が得られた。垂直方向では16個のビーム位置モニターと補正磁石を用いてリング全体の軌道安定化を行っている。垂直方向では2台のIDについてだけ2個の位置モニターと4個の補正磁石を用いて局所的に補正している。いずれも4.4 kHz の高速負帰還をかけている。ユーザ用の運転では95%の稼働率であった。ビーム落ちは平均で32時間に一回の割合いであった。主な原因は高周波関係で、そのほか冷却水系、制御系等の誤作動がある。以前から問題であった高圧電源の変動(年に300〜400回)に対しては60〜70回ディーゼル発電機が作動して改善されている。冷却水には銅の微粒子が混入するという問題がおきている。また4極磁石や真空ゲージの接続ケーブルは放射線による劣化が進んだため交換している。今年度はユーザー用とマシン研究用の運転にそれぞれ5600、1400時間、維持用に1800時間が予定されている。マシンは7〜8週連続運転し、毎週1日のマシン実験がある。短パルスレーザ(85femtosec)やパルス磁場とX線を組み合わせた実験が進行している。産業界の利用も昨年度から急速に増加し、今年度は400シフトが予定されている。
 APSのビームラインは稼働中、立ち上げ中、建設中がそれぞれ29、5、4本である。昨年度ユーザー用の時間は5054時間で稼働率は94%、利用者数は1222名であった。今年度のマシン運転の時間配分はESRFとほぼ同じである。2週連続運転し、中日にマシン実験がある。蓄積リングでは建設当初から陽電子ビームを用いてきたが、電子ビームに切り替えた。ビーム落ちは1日平均で0.89回である。エミッタンスは現在8nmradで、近く3.5nmradに下げるラティスを検討している。ビーム電流100mA、バンチ数28、結合度1%でビーム寿命は20時間である。ビーム軌道安定度は0.4〜30Hzの帯域で水平、垂直方向でそれぞれ1.8µm、1.3µmである。160個の電子ビーム位置モニターと38個の補正磁石を用いて1.6kHzでリング全体の負帰還軌道補正をかけている。ビーム電流とともに電子ビーム位置モニターの位置がずれるという問題がある。X線ビーム位置モニターを用いた軌道補正の実験に成功した。このモニターの感度をあげるために、上流下流の偏向磁石からの放射光が混入しないようにアンジュレータの前後でビーム軌道を少し変えることを検討している。
 Top-up運転(連続入射)の実験として2分毎の入射を24時間継続し、ビーム電流が100mA ±0.15 mAに保持された。入射ビームの軌道振幅は水平方向で±2.5mmであったが、入射用パルス磁石のタイミングや波形の調整、補正磁石のプログラミングにより±0.8mmに抑制された。放射線レベルは通常入射とほとんど変わらないが、真空チェンバの口径5mmのアンジュレータのところが少し高く3mR/hrであった。この時アンジュレータが動作中であったかどうか不明。ビームラインのシャッターはこの場合だけでなく通常運転でもビーム入射時開けられている。
 入射用ライナックを用いて自己増殖型自由電子レーザ(SASE)の実験に成功した。電子ビームのエネルギー217MeV、レーザ波長530nmである。近い将来ライナックを増強してビームエネルギー700MeV、波長51nmのSASEを計画している。

3.Highlights(八木 直人)
 Scientific Highlightsのセッションでは、ESRF、APS、SPring-8の各施設から最近の利用研究のトピックスについて報告があった。発表者は、ESRFがC. KunzとF.Comin、APSがG.ShenoyとS.Sinha、SPring-8が菊田と植木であった。SPring-8はさておいて、ESRFとAPSから紹介のあった利用研究は次のようなものだった。
ESRF
○ 蜘蛛の糸の形成過程における構造変化を追いかけたmicrodiffraction実験
○ 剪断力下での脂質の格子形成の回折実験
○ X線スペックル実験
○ 液体リチウムのコンプトン散乱実験
○ ソーラースリットを使った液体の鉄の回折実験
○ 共鳴散乱の偏光解析による酸化バナジウムの軌道縮退の研究
○ タンパク質結晶構造解析ビームラインの利用の増大と自動測定法の開発
○ 心臓冠動脈造影の臨床研究とdiffraction-enhanced imaging
○ 化学触媒の表面構造の研究
○ フレネル回折像から位相画像を計算で求める方法
APS
○ CVD環境下におけるGaN(0001)の表面構造
○ 半導体集積回路のイメージング
○ 核共鳴散乱を用いた153GPa高圧下での鉄のフォノンの研究
○ 高エネルギー非弾性散乱によるベリリウムの価電子の形状因子測定
○ X線を用いたアストロラーベ(天体観測儀)の鑑定
○ タンパク質結晶構造解析ビームラインの利用の増大と高分解能構造解析
○ 狭い領域に閉じ込められた液体のX線散乱実験 
 
 両施設に共通することは、産業に役立つ放射光の利用法の研究が熱心に進められていることで、特にAPSでは顕著であった。施設を代表しての利用研究の紹介だということを差し引いても、放射光の利用法に変化の兆しが感じられた。一般の回折・散乱実験に加えて蛍光X線分析やマイクロトモグラフィーなどが代表的な手法として挙げられていたが、現状ではまだ各論がほとんどで、一般に広く産業利用に用いられるかどうかは今後の問題である。
 新しさという意味では、APSのSinhaが自身の研究として紹介した数ナノメートルのギャップに挟んだ液体のX線散乱実験は、技術的な難しさからもデータの質からも世界のトップを行くものだった。このような先端的な実験技術の開発と平行して、ESRFのタンパク結晶構造解析のようにビームラインの使い易さを追求する流れもあり、放射光の利用の拡大と大衆化の方向への変化も感じられた。第三世代放射光の「本格的な利用フェーズ」とは、このような流れを指すのであろう。
 
4.Machine(大熊 春夫)
 MachineのセッションではESRFから3件、APSから3件、SPring-8から2件の発表があった。
 最初に、ESRFの加速器の責任者であるJ.M. Filholから“Planned machine development”と題した講演があった。ビーム室の縦方向の高さ8mm(チェンバ外形の高さ10mm)の挿入光源部真空チェンバに関する計画が述べられ、分布型NEGを有したAnte-chamber、あるいはLHCのためにCERNで開発されたビーム室内面にNEGの成分であるTi、Zr、Vをスパッタリングで蒸着したチェンバを考えているとの話があり、LHCタイプのものが有望で、年内に8mmチェンバのテストをしたいとの報告があった。また、200mA運転時に挿入光源のGapを11mmにする計画、更に蓄積電流200mAから300mAへの増強計画があり、高耐熱アブソーバの開発が重要であることが述べられた。また、ビームの安定性を増すために、全ての架台に水平方向の振動を抑制する機構を取り付け、8Hz付近の架台の主固有振動が低減出来たという話も紹介された。
 A.Ropertからは、“Machine parameter measurements using turn by turn BPM system”と題した講演があり、既存のBPMシステムにturn by turnで分解能1µm(rms)を目指した軌道測定が出来るシステムを付加し、それを用いたMachine parameterの測定が述べられた。振幅依存性チューンシフトについて、理論からの予想値と測定データから求めた値との比較、turn by turn BPMで求めたベータ関数の測定値と異なった方法による測定値との比較、運動量依存性チューンシフトの理論値との比較等が紹介された。SPring-8でも同様のシステムがあり、同様の測定がされているが、分解能は現状ではESRFの方が勝っているようである。
 ESRFの3人目はJ.C.Biasciで、“Planned testing of the ultimate performances of crotch absorbers”と題した講演であった。まず、現状の蓄積リングのクロッチアブソーバ、基幹チャンネルアブソーバ、スリット等についての解析結果が述べられ、ほとんどのものは蓄積電流の増強に対してまだ余裕があるが、いくつかのものについては再設計する必要もあることが示された。再設計の前に現状のアブソーバの限界を調べるために、基幹チャンネルにアブソーバを設置して挿入光源からの放射光を照射し、温度上昇や応力の測定を行うテスト計画が述べられた。
 APSの1人目は、G.Deckerによる“Status and plans for APS beam stabilization”と題した講演で、現状のビーム位置安定性はビームフィードバックを行うことにより、0.016〜30Hzの周波数範囲で垂直方向で1.8µm(rms)、水平方向で2.0µm(rms)が実現されていることが報告された。また、リングの軌道周長もRF周波数を変化させる事により補正しているとのことであった。
 D.HoranからはAPSのLinac、陽電子貯蔵リング、ブースターリング、蓄積リングについての“RF systems”の講演があった。まず、現状のRFシステムについてのかなり詳細な紹介があった。また、APSは現状では蓄積電流100mAで運転しているが、将来の150mAの運転に対応するために、RFパワーの増強を計画していることが述べられた。RFシステムの主トラブル原因が述べられた後に、各加速器のRFシステムの問題点とその改良についての話があり、将来計画としてテストスタンドの完成、パラレルクライストロンによる運転、FEL計画のためのLinacのRFシステムの性能向上等が挙げられていた。
 K.Kimは“Fourth generation source a la SASE、 characteristics and progress”と題して、FEL第4世代光源について、かなり基礎的なところから話を始めた。波長1オングストロームのSASEのためにはエネルギー10GeV以上、エミッタンス10pmrad、ピーク電流3000Aの電子ビームが必要であること、それを実現するためにRFフォトカソード電子銃、パルス圧縮器等を用いたLinac-Based SASEについての話があり、第4世代放射光施設のイメージ、またLCLS計画が語られた。最後に長波長領域でのSASEの検証実験が進められているDESYのTTF、米国内のVISAとAPSのLEUTLについての話があり、SASEは現実のものに成りつつあるという言葉で締めくくられた。
 SPring-8からの初めの講演は、N.Kumagaiからの“Current status of SPring-8 machine”と題したSPring-8蓄積リングの基本的な性能についての話であった。運転時間、ユーザーモードでのバンチフィリング、ビーム寿命、基本パラメーター、ビームの安定性等についての話があった。また、リングのオプティックスを昨年の秋にHybridからHHLVと呼ばれるものに変更し、運動量アクセプタンスが約3%となったことも述べられた。
 続いて、ニュースバルのA.Andoから“Current status of New SUBARU”と題した講演があり、New SUBARUのコミッショニング経過と現状について、真空度とビーム寿命の改善、ベータ関数、COD、運動量依存性チューンシフト、モーメンタムコンパクションファクターなどの基本パラメーターの測定についての話があった。
 全般的に3施設とも既存の蓄積リングの安定化、ビームの高性能化に関する話が多く、今まで蓄積してきた技術をより詳細に検討して、少しでも放射光源としての性能向上を目指そうという姿勢が感じられた。セッション以外の所での話題も、それらについての他の施設の情報を持って帰ろうという話が多かった。

5.Beamlines(石川 哲也)

 本セッションは3施設のOptics責任者である、Aneas Freund、Dennis Mills、石川哲也がチェアし、ESRFからJ.C.Biasci、A.Freund、APSからW. Lee、SPring-8からT.Ishikawa、S.Takahashi、H.Aoyagiの報告が行われた。
 ESRFは、現状の200mA運転を300mAに上げる計画が進行中であり、また真空封止型アンジュレータも導入されたことにより、フロントエンドの耐熱性の強化が必要になっている。J.C.Biasciの報告は、このために開発中の新型フロントエンドに関するものであり、290W/mrad2の放射パワーに対応するためのものである。ちなみに現状でのESRFフロントエンドは140W/mrad2の最大パワーに対応しており、SPring-8標準アンジュレータビームラインの1/3である。
 A.K.Freundは、ESRFのX-ray Opticsの最近の進展を、High Heat Load Optics、Mirrorの精度向上、マルチレイヤーに関して紹介した。High Heat Load Opticsでは、三施設が協力して進めた有限要素法による歪場を使って高木方程式を解く数値シュミレーションを、実際の実験結果と比較し熱歪のある結晶でのロッキングカーブプロファイルがシュミレーションで再現できたことが報告された。また、イオンビームフィギャリングを使って高精度ミラーを作成した例が報告され、ミラー光学系はX線のコヒーレンスを壊すという、今までの常識が常識で無くなりつつあることを実感させた。また、FELでのX線光学系についても議論された。
 W-K. Leeは、APSで開発された直接窒素冷却結晶の現状を報告するとともに、高木方程式の数値シュミレーションの現状報告を行い、この件に関して3研究所が一層の協力を進めることを提案した。
 T.Ishikawaは、SPring-8分光器の現状を報告するとともに、新しく建設された1000mビームライン及び建設中の30mアンジュレータビームラインの詳細を報告し、これらがインターナショナルにオープンなビームラインとして用いられることを紹介した。S.Takahashiは、SPring-8の30mアンジュレータビームラインでのフロントエンドに関する報告を行い、世界最高熱負荷への対処方法を示した。また、H.Aoyagiは、SPring-8でのX線ビームモニターの開発状況を紹介した。

6.Insertion Devices(IDs)(原 徹)
 ESRFにおける最近のID開発状況についてJ.Chavanneから紹介があった。現在11台のウィグラーセグメントと、51台のアンジュレータセグメントが設置されており、特徴的なIDとして、準周期アンジュレータや、電磁石と永久磁石を組み合わせたヘリカルアンジュレータがある。このヘリカルアンジュレータは、1Hzでの偏光方向の切り替えをユーザー実験で実現している。開発中のIDとして、2000年6月から製作を開始する4台の真空封止アンジュレータ(ギャップは0〜30mmまで可変で、架台高さを±5mmの範囲で調節可能)、APPLE-Ⅱタイプのヘリカルアンジュレータや3Tウィグラーの説明がなされた。またハイブリッドデバイス固有の、環境磁場によるエラーについての発表もあった。
 APSからはE.GluskinがDevelopments of undulator lines for the 4th generation SR sourcesについて話した。SASEを実現させるために要求される、ID磁場の精度について発表がなされた。SASEの例としてAPSとLCLSを挙げ、条件がより厳しくなるLCLSについて具体的な概算値が報告された。例えばID磁場のエラーが6×10−4だと出力が20%落ちてしまい、また許容値の1.3×10−4以下にエラーを抑え込むには、数十mのアンジュレータにおける温度差を0.1℃程度に安定させ、ギャップ精度を1.2µm以下にすることが必要となる。さらに高精度の磁場測定も不可欠である。
 SPring-8のID開発の現状がH.KitamuraからCurrent Status of Insertion Devices at SPring-8という題で報告された。これまでに、真空封止15台と真空外5台の計20台のIDがリングに設置済みで、この中にはリボルバー型IDなどの新しいタイプの挿入光源も含まれる。また、2000年夏に設置される25mIDの建設状況や、形状変換部などのコンポーネントの改良、真空封止ミニポールアンジュレータの開発状況なども報告された。
 また、SPring-8最初の長直線部用IDの建設について、T.TanakaがConstruction of 25-m Insersion Deviceと題して講演し、真空封止型を長尺IDに採用する利点や、磁場測定の方法、磁石の入れ替えと回転による磁場調整方法とその結果などが報告された。

7.Radiation Safety(多田 順一郎)
 このセッションでは、ESRF、APS、SPring-8それぞれから一題ずつの発表があった。登録された演題名(Safety Issues、Radiation PhysicsおよびRadiation Physics)からは、どんな話が飛び出すか全く予測不可能で、座長にとってスリリングなセッションであった。
 ESRFのP. Berkvenは、“Safety Issues”と題した発表で、bubble detectorを用いた積分型検出器で蓄積リングからの漏洩中性子線をサーベイした結果(<2µSv/4hr)に基づく判断と、光学ハッチに鉛遮蔽を追加(6mm〜8mm ただし、IDビームラインの光学ハッチでは2cm)することにより、実験ホールをfree accessにすることが報告された。なお、フランスの法令が規定する公衆の被曝の年限度は、EC directiveに応じて、本年5月に5mSvから1mSvに引き下げられる。追加する遮蔽の厚さを決めるために実施した、TLD(with phantom)・電離箱およびAPSの鉛ガラスシンチレータを用いた制動輻射の線量とスペクトル分布の測定について報告があった。
 APSのP.K.Jobは、“Radiation Physics programs at the APS”と題した発表で、鉛ガラス・シンチレータとTLD(with phantom)を用いた制動輻射の測定について報告し、ガス制動輻射のパワーに対して、〜 10−8 W/mA・ntorrという実験式を示した。また、APSの1996年6月から1999年5月までの運転期間に、IDの表面の線量が〜107rad(105Gy)であったことから、IDの永久磁石の放射線損傷について、大強度線源を用いて実験を行い、放射線照射による磁力の減衰は〜0.998/500Mrad程度であるという結果を得たことが報告された。
 SPring-8のY.Asanoは、“Measurement of Gas Bremsstrahlung at the SPring-8 Insertion Device Beamline using PWO Scintillator”と題した発表で、タングステン酸鉛シンチレータの性能評価と、IDがhigh-βの場所にあるかlow-βの場所にあるかの違いが発生するガス制動輻射に及ぼす影響、および、ガス制動輻射による線量についての報告があった。タングステン酸鉛シンチレータが超高エネルギー光子成分を含むガス制動輻射のスペクトル測定に適した特性を有し、実測の結果と計算機シミュレーションによる評価ともよく一致していることが示された。通常のID直線部からのガス制動輻射の強度に対して〜26 nW/10−8 Pa/mAという評価が示された。また、測定に基づくガス制動輻射による実効線量率が、高βのIDでは〜16nSv/s/10−8 Pa/mA、低βのIDでは〜9nSv/s/10−8 Pa/mAと評価されることが報告された。

8.Experimental Initiatives(鈴木 昌世)
 M.Wulff(ESRF)は、「ESRFに於けるピコ秒計画の現状と展望」というテーマで講演した。Laser&X-ray pump-probe実験、Julich chopper、optical micro-focusing spectrometer、jitter free streak camera等の手法・装置の説明に加えて、MbCO結晶中で解離・再結合するCOの挙動、MbCO Flight-Fdark差異、GaAsの瞬間加熱及び遷移過程、溶液中のヨードの光化学反応など、フェムト秒領域に於ける実験事例が報告された。D.Mills(APS)は「APSに於けるX線光学-現状と次世代」と題して講演を行った。光学系の高熱負荷問に関連してdirect cryo-cooled thick silicon monochromatorを、また高エネルギーX線に関連してbent Laue crystal monochromatorを紹介した。また、electroplating、sputtering等の手法との比較に於いて、focused ion beam(FIB)を用いて製作されたX-ray zone plateが議論された。さらに、次世代の放射光源としてFELの諸特性を想定した上で、その輝度・パルス幅を保存しつつ、集光、分岐、遅延を実現するX線素子が検討され、非線形X線光学、2光子吸収過程等も考察された。G.Srajer(APS)は「APSに於ける高磁場研究施設(NHMFL)の計画」と題する講演を行った。同計画は、低温・高磁場に於ける物性をAPSの高輝度・高単色なX線を用いて研究しようと志向するもので、CMR oxides、high Tc superconductor、exchange spring magnets、quasi-1D metallic conductors、Co/Ir-Co/Rh trilaters、magnetic transition in rare earth materialsなど豊富な研究対象が提示された。現在、高磁場発生用電磁石の概念設計が進行中であり、計画が順調に進展した場合、明年1月以降に、本格的な設計に移行すると述べた。
 Y.Tanaka(SPring-8)は「SPring-8に於けるレーザー同期システム」と題する講演を行い、BL29XUに設置されたRF master oscillatorと同期して稼働するmode-locked Ti:saphireレーザーシステムを紹介した。Motohiro Suzuki(SPring-8)は「硬X線領域に於ける変調スペクトルスコピー」と題して、helicity 変調を利用したX-ray magnetic circular dichroism(XMCD)、エネルギー変調を利用した高分解能XAFSを紹介した。M.Ishii(SPring-8)は「サイト選択的XAFS」と題する講演を行い、X線を用いて特定不純物準位にある電子を選択的に電離し、誘導される電気容量の変動を測定してXAFSスペクトルを得るという新しい手法を紹介した。Y.Suzuki(SPring-8)は、「SPring-8に於けるX線マイクロイメージング」と題して、Fresnel zone plateを用いたX-ray micro-beam/scanning microscopy及びimaging mciroscopy、refractive lensを用いたimaging mciroscopy、並びにmicro-tomographyに関する最近の成果を報告した。Y.Saito(SPring-8)は「軟X線ビームラインの性能」と題して、energy resolution、photon flux、circular polarization、 higher-order light contribution等の観点からBL23、25、27SUの各ビームラインを紹介すると共に、Ce compoundsに関するhigh-resolution bulk sensitive photoemissionの先端的成果を示した。 
 
下村 理 SHIMOMURA  Osamu
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2635 FAX:0791-58-2740
e-mail:simomura@spring8.or.jp


宮原 義一 MIYAHARA  Yoshikazu
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0872 FAX:0791-58-0850
e-mail:miyahara@spring8.or.jp


八木 直人 YAGI  Naoto
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 実験部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0831 FAX:0791-58-0830
e-mail:yagi@spring8.or.jp


大熊 春夫 OHKUMA  Haruo
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:ohkuma@spring8.or.jp


石川 哲也 ISHIKAWA  Tetsuya
理化学研究所 播磨研究所 X線干渉光学研究室
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2805 FAX:0791-58-2807
e-mail:ishikawa@spring8.or.jp


原 徹 HARA  Toru
理化学研究所 播磨研究所 X線超放射物理学研究室
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2809 FAX:0791-58-2807
e-mail:toru@spring8.or.jp


多田 順一郎 TADA  Junichiro
(財)高輝度光科学研究センター 安全管理室
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0874 FAX:0791-58-0932
e-mail:tada@spring8.or.jp


鈴木 昌世 SUZUKI  Masayo

(財)高輝度光科学研究センター ビームライン部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-1842 FAX:0791-58-0830
e-mail:msyszk@spring8.or.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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