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Volume 05, No.4 Pages 262 - 265

3. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

X線CT法を用いた原始太陽系起源の隕石3次元構造の研究
A Research on Three-Dimensional Structures of Meteorites Originated from the Primordial Solar System by Using X-ray CT Method

土`山 明 TSUCHIYAMA Akira[1]、川畑 俊晴 KAWABATA Toshiharu[1]、上杉 健太朗 UESUGI Kentaro[2]、中野 司 NAKANO Tsukasa[3]

[1]大阪大学大学院 理学研究科 Graduate School of Science, Osaka University、[2]東京工業大学大学院 理工学研究科 Graduate School of Science and Technology, Tokyo Institute of Technology、[3]工業技術院地質調査所 地質情報センター Geological Survey of Japan

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1.はじめに
 ある隕石の教科書には「宇宙からのタイムカプセル」という副題が添えられている。このような46億年前の太陽系誕生の謎を秘めている隕石は、始原隕石と分化隕石とに分けられる。前者は地球などの惑星が形成される以前に原始太陽系で形成され、以後ほとんど変化を受けていないのに対して、後者は母天体の溶融などにより分化して形成されたものである。始原隕石は、分類上コンドライト隕石に対応している。この隕石は、コンドリュールと呼ばれる、主として珪酸塩からなる径1mm程度の球粒を特徴的に含むものである。コンドリュールは地球上の物質にはない特異なもので、その球状の外部形態およびガラスを含むなどの内部構造から、原始太陽系星雲での高温液滴の急冷物であると考えられている。
 このような太陽系初期の謎を解く鍵であるコンドリュールについて、これまで多くの研究がなされてきた。とくに、近年の機器分析の発展に伴い、その化学的な特徴(主要元素および、微量元素組成や同位体組成とその不均一性)に関する情報は質・量ともに多い。一方、物理的な特徴(形状、表面構造、内部構造、サイズ分布など)に関する情報は、化学的なものに比べて少なく、とくに3次元構造については、ほとんどわかっていないのが現状である。
 X線CT法は物質の内部構造を非破壊で観察でき、X線の線吸収係数(LAC:linear attenuation coefficient)の空間分布として、CT像(スライス像)が得られる。また連続的にスライス像を積み重ねることにより、3次元構造が得られる。SPring-8においては、Uesugi et al.[1]がマイクロX線CT装置(XTM:X-ray tomographic microscope)の開発に成功した。X線CT法に、放射光、とくにSPring-8を用いる利点としては、(1)ビームの高フラックス密度、(2)コリメートされたビームが挙げられる。(1)によりX線の単色化が容易となり、これによってX線CT特有の光線硬化アーチファクトをなくすことができ、また再構成によって得られたCT画像のコントラスト(CT値と呼びLACと対応する)の定量的な評価が可能となる。一方、(2)により、高空間分解能3次元像が容易となる。我々は、このXTMを用いてコンドリュールを撮影し、その3次元構造から新しい情報を得たので、ここに紹介する。

2.実験方法とその結果
 サンプルは、コンドライトの一種であるアエンデ隕石から取り出したコンドリュールを用いた。これまでに16個の撮影をおこない、予備的な解析を終えている。一部のサンプルはCT撮影後、薄片を作成し、光学顕微鏡やSEM観察および微小部の元素分析(EPMA分析)をおこなっている。
実験はSPring-8のBL20B2でおこなった。実験装置は、サンプルと回転ステージとビームモニターとからなる(Fig.1)。用いた単色X線のエネルギーは18〜25keVであり、透視像(300〜360プロジェクション)からCBP(convolution back projection)法を用いて再構成をおこない、スライス像を得た(Fig.2a,2c)。さらにこれらのスライス像約180〜280枚から、3次元構造を求めた(Fig.2b,2d)。このとき、透視像の撮影に1〜3時間、再構成に3〜10時間程度を要する。再構成画像は5.83µm×5.83µm×5.83µmサイズのvoxel(3次元での画素)からなる。 
 
 
 
Fig.1 Schematic illustration of XTM(X-ray tomographic microscope)system developed at SPring-8
Light source and monochrometer are not shown. 
 
 
 
Fig.2 Sliced CT and three-dimensional images of chondrules(a)CT image of a porphyritic chondrule(about 1.5 mm in diameter).(b)Three-dimensional image of the porphyritic chondrule.(c)CT image of a barred olivine chondrule(about 1.5 mm in diameter).(d)Three-dimensional image of the barred olivine chondrule. Substances with brighter contrast in the CT images correspond to higher X-ray absorption regions. Voids are seen as objects with dark contrast. Objects with bright contrast are(Fe,Ni)metal and FeS. Objects with intermediate contrast are silicates(olivine, pyroxene and glass). Ring artifacts are also seen. The three-dimensional images are rendered in color(blue and red are low and high X-ray absorption regions, respectively). 
 
 コンドリュールの外形は不完全なものや、複数のコンドリュールが接合した複合コンドリュールを除くと、扁平な球状(オブレート状)あるいはそれに近いものである(偏平率:0.70〜0.94)。表面には100〜数100µmサイズのクレータをもつものが多い。コンドリュールの外形が真球からややずれていることはよく知られていたことであるが、定量的に記載されたのは今回が初めてである。一方、コンドリュールの内部組織としては、(1)斑状の結晶がガラスあるいはメソスタシス(ガラスが再結晶して微細鉱物の集合体となったもの)中に存在する斑状組織、(2)2次元的には結晶方位を同じにした棒状のカンラン石(olivine:(Mg,Fe)2SiO4)結晶が平行に並びその間をガラスあるいはメソスタシスが埋める棒状カンラン石(barred olivine)組織、などが知られており、今回のCT像からは、14個は斑状(例、Fig.2a,2b)、2個が棒状カンラン石(例、Fig.2c,2d)であることがわかった。今回の研究により、棒状カンラン石の詳細な3次元構造が始めて明らかとなり、3次元的には平行なカンラン石の板状結晶の並びであることが確認できた。さらに興味深いのは、板状結晶の伸びの方向がオブレート状コンドリュールの短軸にほぼ垂直なことである(Fig.3)。またほとんどのコンドリュールには、内部に空隙(<0.001〜1 vol.%)が存在することがわかった(Fig.4)。このことは、空隙がコンドリュールの重要な構成要素のひとつであることを意味している。空隙の存在はこれまで指摘はされてきたが、隕石を切断する際の鉱物粒の脱落などと区別できなかったため、ほとんど重要視されてこなかった。 
 
 
 
Fig.3 Three-dimensional structure of the barred olivine chondrule of Figures 2c and 2d(rendered in color)
(a)Side view of the chondrule, which is in oblate shape.(b)Top view.(c)CT image along a line-a in the top view.(d)CT image along a line-b. Olivine crystal plates align in parallel inside of this chondrule. The orientation of the olivine plates is nearly normal to the minor axis of the oblate chondrule. Voids are also shown in(a)and(b). 
 
 
 
Fig.4 Three-dimensional structures of porphyritic
chondrules(Side and top views of oblate chondrules are shown.)(a)A chondrule observed by[2](about 2.5mm in diameter). Voids are almost concentrated along the minor axis.(b)A chondrule observed in this study(about 1.5mm in diameter). Some voids are concentrated in the minor axis. 
 
3.高速回転していたコンドリュール
 今回の3次元撮影により、コンドリュールの外形としては、球が偏平したオブレート状のものが多いことがわかった。その原因としては、形成時に溶融状態にあったコンドリュール液滴が回転することにより扁平となった可能性が挙げられる。実際、我々のグループは先に工業用高分解能X線CT装置を用いて大きめの斑状コンドリュールの3次元撮影をおこない、CT法により初めてコンドリュール内の空隙を見い出し、これらの空隙がオブレート状コンドリュールの短軸に集中していることを見い出した[2](Fig.4a)。これは、遠心力により空隙が回転軸に集中したことを示唆し、コンドリュールが回転により偏平したという上記の仮定を支持している。今回の測定では、空隙が短軸にかなりよく集中するものは見出せなかったが、空隙は短軸に集中する傾向にある(Fig.4b)。完全に回転軸に集まらないのは、すでに存在していた斑晶や板状結晶が空隙の動きを止めていたためであろう。今後、空隙の3次元分布についての統計的な研究が必要であろう。
 一方、今回のCT撮影で得られた棒状カンラン石の3次元構造について、他の棒状カンラン石コンドリュールも同じ構造をもっているかどうかを、薄片(隕石試料を2次元的に薄くスライスしたもの)の光学顕微鏡観察により検証した。もしすべての棒状カンラン石コンドリュールはオブレート状の回転対称をもち、板状結晶が短軸に垂直であるならば、任意の切断面(薄片)でも短軸とカンラン石の棒の延びの方向とは垂直なはずである。様々なコンドライト隕石の薄片中の約40個の棒状カンラン石コンドリュールを観察した結果、90%は短軸とカンラン石の棒の延びとはほぼ垂直であり、一方残りの10%は逆の構造をもっていることがわかった。この棒状カンラン石の3次元構造、すなわち、もともと真球状だったコンドリュール球滴が扁平になったことの原因としては、(1)コンドリュール液滴の回転によることと、(2)板状結晶の成長によることが考えられる。カンラン石の棒の伸びが短軸とはほぼ平行である逆構造も存在することから、(2)は否定される。おそらく逆構造は、回転しつつエアロダイナミックな影響(高速で星雲ガス中を運動)を受けたものであろう。(1)の場合でも、その具体的な3次元構造形成のメカニズムとしては、回転による液体内部での元素分別と液滴表面での板状結晶の核形成との相互作用などが考えられるが、はっきりとしたメカニズムは現状では不明である。
 回転している微小液滴の形状は、遠心力と表面張力の釣り合いによる平衡形状を仮定すれば記述できる。Chandrasekhar[3]によると、平衡形状は次のようにΣというパラメーターのみによって決まる。 

Σ

ここで、ρは密度、αは液滴の赤道半径、Ωは角速度、γは表面張力である。Σによって偏平率は一意的に決まるので、偏平率と密度、サイズ、表面張力(玄武岩メルトの値を用いた)より、回転速度を推定することができる。今回のCTによる3次元的なコンドリュール外形からは、50〜500 rpsという高速でほとんどのコンドリュールが回転していたことになる。
 コンドリュール液滴が原始太陽系星雲の自由空間に存在していたとき、回転していない方が不自然である。しかしながら、今回推定したような回転速度は、かなり高速である。このような高速回転は、コンドリュールの成因論に大きな制約を与える。コンドリュールは原始太陽系星雲で固体前駆物質がなんらかのメカニズムで加熱されて作られたと考えられているが、そのメカニズムには諸説があり渾沌としているのが現状である。高速回転を説明できるメカニズムとしては、小天体の衝突や、ダストを衝撃波が通過するときのガス抵抗による加熱などが挙げられる。今後、回転速度と他の物理パラメータとの相関を調べることにより、メカニズムを限定できるのではないかと考える。 
 
謝 辞
 財団法人高輝度光科学研究センターの鈴木芳生博士、八木直人博士、梅谷啓司博士には、本研究で用いたX線CT装置の開発および撮影でお世話になりました。神戸大学の城野信一博士には、回転液滴の安定形状について議論していただきました。また、いくつかのサンプルは、岡山大学の坂口千恵さん、茨木大学の野口高明博士、大阪大学の松田准一博士より提供していただきました。ここに謝意を表します。

参考文献
[1]K.Uesugi,A.Tsuchiyama,T.Nakano,Y.Suzuki,N.Yagi,K.Umetani and Y.Kohmura:In Developments in X-ray Tomography II,ed.U.Bonse,Proc.SPIE,3772(1999)214-221.
[2]Kawabata,T.,Tsuchiyama,A.,and Kondo,M.:Antract.Meteorites,XXIV(1999)64-66.
[3]Chandrasekhar,S.:Proc.Roy.Soc.London,Ser.A,286(1965)1-26.


土`山 明 TSUCHIYAMA  Akira
大阪大学大学院 理学研究科
〒560-0043 豊中市待兼山町1-1
TEL:06-6850-5800 FAX:06-6850-5480
e-mail:akira@ess.sci.osaka-u.ac.jp

川畑 俊晴 KAWABATA  Toshiharu
大阪大学大学院 理学研究科
現在:NECソフト株式会社
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上杉 健太朗 UESUGI  Kentaro
東京工業大学大学院 理工学研究科
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TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-2752
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中野 司 NAKANO  Tsukasa
工業技術院地質調査所 地質情報センター
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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