Volume 05, No.3 Pages 219 - 220
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第3回SPring-8利用技術に関するワークショップの報告(その1)
A Brief Report on the 3rd Technical Workshop for SPring-8 Utilization (Part-1)
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Division
- Abstract
- The Third Technical Workshop for SPring-8 Utilization have held Two-day workshop had started with the general greetings and introduction. Those issues regarding the thirty-meter undulator and storage ring operation in 2000B period have also stated. In the 'analytical science' session, major topics were minute fraction and extreme microanalysis with seeking how to beyond the limit(s). Utilization and observed results of experiments with high-temperature and high-pressure cell 'SPEED1500' were presented in the session of 'high pressure earth science. Beam line oriented presentations and discussions were performed regarding extract of the specificity of SPring-8 beam in the 'soft X-ray science,' session. 'Biological science' session had discussions on fundamental techniques how to use the beamline and results of experiments as a base of dynamic point of view. The workshop has closed successfully.
二十四節季の啓蟄のころ、西播磨の山の上で第3回SPring-8利用技術に関するワ−クショップが開催された。開催日と場所は、平成12年3月8と9日およびSPring-8中央管理棟講堂と蓄積リング棟A中央2階会議室であった。このワークショップは、第3世代放射光光源SPring-8が平成9年10月に供用開始されてから2年余りが経過して、多くの研究課題が実施されて来たことを受けて、研究に直結した利用技術について利用者と施設側スタッフが情報交換するために行われた。このワークショップの主催は、(財)高輝度光科学研究センターとSPring-8利用者懇談会で、会議のプログラムにつては、名古屋大学の坂田誠教授が概要を設定した。それは、SPring-8の利用技術が、研究分野によって広範にわたるので、第3回SPring-8利用技術に関するワークショップでは、高圧地球科学、軟X線、分析、生物に焦点を絞り、SPring-8の利用技術を向上させることであった。したがって、ワークショップは、各分野の共通セッションである全体会儀と四つの独立したセッションによって構成された。
「分析」のセッションでは、「X線分析の極限をめざして」と題して、微小部、極微量分析の極限をめざした利用技術に関する討議が行われた。このセッションは三つのサブセッションに整理されて行われた。ここでのプログラムは、最初のイントロダクションが「硬X線域での微小・微量分析の現状と新展開」(早川慎二郎氏・広大工)であった。続いて「蛍光X線分析の極限をめざして」というサブセッションで、「全反射配置を用いた蛍光X線法による微小液滴微量金属の検出」(桜井健次氏・金材研)、「高エネルギーX線励起蛍光X線分析」(寺田靖子氏・東理大ら)のプログラムで行われた。最後のサブセッションのプログラムは、「新技術とその展望」というテーマで、「X線位相子を用いた溶液表面偏光XAFS」(渡辺 巌氏・阪大理)、「蛍光X線ホログラフィー測定に要求される最適条件」(河合 潤氏・京大工ら)、「蛍光X線ホログラム測定の統計精度改善に関する工夫」(林 好一氏・京大)、「ウオルターミラーを用いた結像型蛍光X線顕微鏡」(渡辺紀生氏・筑波大ら)であった。
二日間に渡る会議は、全体会儀でのSPring-8利用者懇談会の会長である松井純爾姫路工業大学教授の挨拶から始まった。さらに放射光研究所の上坪宏道所長が続いた。30mアンジュレータ設置に伴う2000Bでのリングの運転が話題になった。SPring-8利用者懇談会行事の幹事として坂田教授が経過説明を行い、JASRI利用促進部門の植木龍夫部門長が現状報告を行った。そこでは、いつものように、ビームラインマップが示され現状において、リングの62ビンのうち41ビンが使用されようとしていて、そのうち25ビンからのビームが取り出されてビームラインの稼動に供されていて、16ビンがなんらかのかたちで使用されることが示された。新しく生まれかわる蓄積リングでは、ハードウエアとしての斬新さもあるが、運用面でもビームタイムの配分供給について新しい概念が具現化するようだった。それは、あるビームラインにおいて、条件が許せば、実験ビーム時間の20%を3年間にわたって使用できるものであると受け取られた。「じっくり」型の研究もできるかもしれない。興味のある方は、この冊子の情報欄を参考に、まずコンタクトされるとよいかもしれない。
「高圧地球科学」のセッションでは、SPring-8に設置された高温・高圧セルSPEED1500に関する利用技術を中心に行われた。ちなみに、この装置は、マルチアンビル型高圧発生装置と呼ばれ、高さは3m、総重量は約20tで、六方押しタイプの金型を持ち、正八面体圧力媒体を6方向から同時に加圧することによって、静水圧に近い圧力を試料内部に発生させることができ、最大荷重は1500t、圧力30GPa、温度2000℃までの条件で実験が可能らしい。セッションでは、8人の講演者が話題提供した。プログラムは、「β及びhydrous βの状態方程式」(井上徹矢氏・愛媛大)、「Mg2SiO4のポストスピネル転移の再決定」(桂 智男氏・岡山大)、「カンラン石Mg2SiO4のα-β相転移カイネティクス(久保友明氏・東北大)、「焼結ダイヤモンドアンビルによる鉄β相の探査」(伊藤英司氏・岡山大)、「焼結ダイヤモンドアンビルを用いたMgAl2O4の高温高圧相転移X線その場観察」(入舩徹男氏・愛媛大)、「高圧下における透輝石-ヒスイ輝石系融体の粘度」(鈴木昭夫氏・東北大)、「ZrO2の相関係とEOS」(大高 理氏・阪大)、「高温高圧下でのダイヤモンド生成のX線その場観察」(内海 渉氏・原研)であった。プログラムの最後は、JASRIの舟越賢一氏による総合討論であった。
初日の有益な講演と活発な討論で乾いた参加者の喉は、サイト内の特別食堂で行われた懇親会で潤された。
二日目にも、二つのセッションが並行して行われた。「生物」のセッションは、蛋白質結晶構造解析だけでなく生物のダイナミズムも念頭に置いたSPring-8の利用技術の基盤として行われた。このセッションでは、コメンテーターとして、山本雅貴氏、足立伸一氏、神谷信夫氏(理研播磨研)、山下栄樹氏(阪大蛋白研)、井上勝晶氏(JASRI)を迎え、討論のリードを山口 宏氏(関西学院)と鈴木淳巨氏(名大工)にお願いした。プログラムは、ビームラインについて、BL40B2(三浦圭子氏・JASRI)とBL41XU(河本正秀氏・JASRI)につて概説が行われた後、各専門家が話題提供した。プログラムは、「D−アミノ酸酸化酵素の反応機構の解明」(宮原郁子氏・大阪市大理)、アミダーゼにおける回折データ収集と処理結果から(秋田昌岳氏・名大工)、「放射光を用いたX線回折強度データの収集−異なるビームラインで収集したデータの比較を中心に」(土屋大輔氏・BERI)、「北大グループによるMAD法データ収集」(姚 閔氏・北大理)、「DNA複製開始タンパク質RepE54の結晶構造−BL41XUでのデータ測定」(小森博文・京大院理)であった。討論リーダーのひとり、鈴木氏には急なお願いをお引き受け頂きこのセッションをより実りあるものにしていただいたので感謝申し上げる。
並行して行われた「軟X線」のセッションでは、高エネルギー第3世代放射光光源における軟X線の利用技術について、ビームラインの特性に立脚した講演討論が行われた。それらのプログラムは、BL27SUから、「BL27SU(軟X線光化学)ビームラインの現状と○○○」(大橋治彦氏・JASRI)、「BL27SUにおける内殻励起ダイナミクス研究の現状と今後」(吉田啓晃氏・広大)、「BL27軟X線CVD実験ステーションの現状と電子材料プロセスの研究計画」(金島 岳氏・阪大)。続いて、BL25SUから「BL25SUビームラインの現状」(斎藤祐児氏・原研)、「軟X線光吸収のMCDとMCD顕微分光」(今田 真氏・阪大)、「高エネルギーかつ高分解能光電子分光によるバルク電子状態の研究」(関山 明・阪大)、「D0_3_型規則合金(Fe_1-x_T_x_)_3Alの軟X線分光と高分解能軟X線光電子分光の現状」(曽田一雄氏・名大)。最後に、BL23SUから「BL23SUの現状」(横谷明徳氏・原研)が報告された。
二日間のワークショップで行われた専門家集団に蓄積されている最新で独創的な技術情報の交換が、SPring-8を利用した研究の強力な推進に寄与することが期待される。この会議の開催では、私を含めて何人かが連絡調整に寄与したが、企画運営は、ユーザーオフィスの佐久間さんと企画の八木さんに全く依存していた。お二人とスタッフに感謝申し上げる。
森山 英明 MORIYAMA Hideaki
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-2752
e-mail:aki5@spring8.or.jp
略歴:1998年 JASRI着任、前職東京工業大学 生命理工学部助教授
研究テーマ:生物の許容度に対する分子的尺度の導入(材料は分化する生物、方法は放射光タンパク質X線結晶構造解析、まとめは情報生物学)
余暇:自然観察(最近は城の山の水たまりのお玉杓子の成長が楽しみ)