Volume 05, No.3 Pages 151 - 152
所長室から
From the Director’s Office
(財)高輝度光科学研究センター 副理事長、放射光研究所長 JASRI Vice President, Director of JASRI Research Sector
2000Bのスケジュール
前号のこの欄で、今年の夏期長期運転停止期間中にBL19LXUに長尺挿入光源を設置することと、蓄積リングに4カ所の長直線部を設置する改造を行うことを紹介した。その際、今回の作業は蓄積リングの大幅改造であり、場合によっては2000Bで電子ビームの性能が現在の性能よりいくらか下がる可能性があることを述べた。しかし、その後の加速器グループによる精力的な検討の結果、ビーム光学的には現状と同じくHHLV(水平方向が高ベータ、垂直方向が低ベータ)モードによる運転が可能であることが判り、現在ではこの大改造でビームの質が悪くなることはないと判断している。また2000Bの運転スケジュールは、8月下旬にマシン運転を開始した後2週間かけてマシンの立ち上げ調整を行い、引き続いて第8サイクル(3週間)でマシン及びビームライン調整を行うことにしている。したがって通常のユーザータイムは10月の第1週からの第9サイクルから始まり、第12サイクルで終了する。その結果、2000Bにはユーザータイムとして156シフトが確保されることになる。なお、スケジュールの最終決定は夏期長期運転停止期間の作業予定を再度チェックして、2000Bの実験課題募集締め切り前に行うことにしている。
SPring-8 Advisory Council(SAC)とAPS-ESRFSPring-8ワークショップ
SACは3月14日から16日まで、外国人4名、日本人3名の委員が参加してSPring-8で開催された。委員長はG. Materlik教授(DESY)、副委員長は太田俊明教授(東大)である。初めに組織と運営、予算、施設の現状、共同利用状況などが報告され、その後研究のハイライトや研究計画が発表された。主な報告の後では質疑応答にかなりの時間をとったので、委員から多くの質疑と意見が出され、活発な討論が行われた。2日目には委員だけの検討時間もとり、また3日目の午前中にclosed sessionをとって、報告書の骨子が議論された。その概要は最後に委員長からSPring-8側にも説明されたが、4月末頃までにはrecommendationとしてまとめられる予定である。
会議の期間中にG. Materlik教授とはいろいろな問題について意見を交換する機会が多かった。その中で、SPring-8では多くのビームライン(BL)で課題採択率が70〜80%であるがシフト採択率が50%を切っていることが話題になった。研究の効率を高めて優れた成果を挙げるためには、必要なビームタイムはできるだけ確保できるような課題採択が望ましい。ビームラインによる違いを認めた上で、課題採択率を下げてシフト採択率を上げる採択法を検討する時期に来ているということで意見が一致した。
4月9日から12日までAPS-ESRF-SPring-8ワークショップがSPring-8普及棟で開催された。今回はAPSから13名、ESRFから12名、SPring-8からも30名が参加して、活発な意見交換が行われた。10日は全体会議で各施設の状況報告とハイライトの紹介、11日は2つに分かれて加速器、ビームライン、挿入光源、放射線安全、実験技術などが議論された。このワークショップは毎年3極の持ち回りで開催されており、共通の問題について情報交換や共同研究、研究協力を行うことにしている。今回は電子軌道の高安定化、加速器及びビームライン(光学素子を含む)の高熱負荷対策、ビームライン自動化と中性子遮蔽計算が取り上げられた。12日には加速器グループやBLグループ、安全グループなどが個別に会合を開いて討論を続行した。
ビームライン自動化は今回初めて取り上げられた問題で、ESRFのY. Petroff所長がOverviewの中で提起した。彼によると、ESRFの蛋白質構造解析BLでは放射光実験に不慣れな研究グループが、短い時間に多くの蛋白質結晶の回折実験を行っている。しかもグループによっては1年に1、2回しか来ないことも多いので、BLに習熟するよりはbeamline scientistsに頼ることが多く、彼らの負担が大きくなっている。それを避けるためにビームラインと実験ステーションを自動化する試みが始まった。目標は、各実験グループが実験室でホルダーに多数の蛋白質結晶をセットして持参し、これをステーションの所定の場所に取り付ければ、ビームスポット位置や結晶の向きなどが自動的に最適化されデータがとれるBLを実現することである。
これとは別にSPring-8でも高度化計画の一環としてBL自動化が検討されている。これはSPring-8の高輝度性を最大限に利用するためにはX線マイクロビームの高度利用が不可欠で、そのために電子軌道を高安定化するとともにX線ビーム位置(できればX線エネルギーも含めて)のnon-destructive計測法を開発して、試料上のX線スポットを安定化する案である。今後多くのユーザーがSPring-8の性能をギリギリまで使って実験するためには、このような高度化が必要になるであろう。
ビームライン担当者の役割
ビームライン(BL)の建設は当初計画を大幅に上回って順調に進んでおり、共同利用に供せられるBLの数も着実に増加している。これとともに、最近一部のビームラインでBL担当者のオーバーワークが顕在化してきた。
ご存知のとおりSPring-8は法律によって規定された共同利用施設であり、この法律に基づいてJASRIが放射光利用研究促進機構に指定されている。それによるとJASRIの業務は、供用業務(共用施設を試験研究を行う者の共用に供することおよび専用施設を利用して試験研究を行う者に放射光の提供その他の便宜を供与すること)、支援業務(施設利用研究の実施に関して情報の提供及び相談その他の援助を行うこと)のほか、施設利用研究の促進に資する試験研究を行うことや原研・理研の委託を受けて共用施設の運転維持管理に当たることとなっている。さらに原研・理研の委託を受けてSPring-8全体の運転、維持・管理、高度化もJASRIが担当していて、必要な経費は全て国費でまかなわれている。
JASRIの業務をビームラインについて言えば、共同利用BL建設に参加するとともに、それらの整備、立ち上げ調整、利用者に対する共同利用の技術指導と相談および故障の対応と、将来の発展を目指した高度化が主なものである。また専用施設についても、光源やフロントエンド、光学系などの標準化部品、インターロック制御など蓄積リングに直接関わる部分か全BLに共通した部分に対する支援はJASRIの役割である。
JASRIではそのため全BLを横断的に担当する挿入光源、フロントエンド、光学系、真空およびインターロック・制御担当グループと、検出器を含む機器開発グループ、各共用BLに配置されるBL担当者を置いている。その任にあたる研究者、技術者及びテクニカルスタッフの経費は国からの予算に含まれている。したがってその総数が予算で決められているのは、他の国立研究機関と同じである。これまでにJASRIでは、各共同利用BLにBL担当者2名を当てるほか、BL2本に1名のテクニカルスタッフを配置することを目指して予算計画及び採用計画を進めてきた。残念なことに現在までに充足できたBL担当者は各BLに1名であるが、JASRIでは引き続いてBL担当者の増強に努力している。
なお、ここで注意して頂きたいことは、SPring-8は24時間連続運転で共同利用に供されているが、マシン運転要員とBL当番のみがシフト態勢で24時間勤務をしており、共用業務や支援業務は原則として通常勤務の業務として対応していることである。言い換えると、BL担当者のユーザー支援は緊急時を除いて通常の勤務時間内に行うことがJASRIの基本方針である。
このような現状の中で、一部のBLでBL担当者のオーバーワークが目立つようになった。その要因については幾つか考えられ単純には決められないが、理由の一つとして、実験チームの交代あるいはトラブルによるユーザーからの要請によって、夜間や休日に出勤を余儀なくされたことを上げること
なお対策としては、ユーザーに対する講習会の開催やBLを使い易くするとともにマニュアルの整備などを急ぐほか、BLによっては採択された課題の実験がその期で完結できるように、採択率を下げてでも十分なビームタイムを与えるような課題採択の仕組みにすることも検討するつもりである。