Volume 05, No.2 Pages 130 - 133
6. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS
高校理科教師の体験研修
Hands-on Experience Workshop for High School Science Teachers
兵庫県高等学校教育研究会理化部会 兵庫県立姫路西高等学校 教諭 Hyogo High School Educational Research Department for Chemistry and Physics Hyogo Prefectural Himeji Nishi High School
はじめに
私たち理化部会は、兵庫県下の高等学校の物理と化学を教える教師の集まりです。この西播磨の地に世界最大の大型放射光施設が建設されるに当たり、当時、当部会の西播磨支部長 谷口勝昭先生(現会長・県立姫路西高等学校長)が「この最先端の施設を地元の先生にも還元できないか」と考えられ、平成10年度に飯泉常務理事のお世話で、西播磨の教師だけで研修会を持つことができました。そして、平成10年11月27日、SPring-8で18名の教師が研修を受け、最先端の施設での有意義な研修に参加者は大いに満足しました。この結果を受けて、今回(平成11年度)は、更にそれを発展拡大させ、全県下から希望者を募り、平成12年1月28日に研修会を計画し、案内を配布したところ、50名余りから参加の申し込みがあり、その中から、講座数の都合で23名だけが参加できることになりました。
日程
9:30 開講式・オリエンテーション
9:50 VTR上映 「見えなかった世界が見える」
10:10 講演 「放射光のしくみ」 原広報部長
11:20 施設見学(蓄積リング棟実験ホール)
12:00 昼食
12:45 研修
1班 イメージング技術
2班 結晶構造解析
3班 タンパク質結晶構造
4班 微量分析
15:30 全体会
16:30 記念撮影、閉会
研修
最初に「見えなかった世界が見える」というVTRを見て、大型放射光施設の原理や研究内容など概略を教えていただき、原広報部長より「放射光のしくみ」と題して講演をしていただきました。物理と化学の教師といっても放射光のしくみや施設について十分な知識を持っていなかったので、大変分かりやすい説明で、理解を深めることができました。その後、蓄積リング棟実験ホールでビームラインについての説明を受けましたが、実験ホール内には自転車が置いてあり、研究者が離れた場所にあるビームラインへ行くときに使用されると聞いてその規模の大きさに驚きました。また、実験中は放射線が出ているということでそれを遮蔽し防御するためのしくみが電子制御により確実に行われており厚い扉が安全に開閉されるのを見て、これなら安心して研修を受けられるなと思いました。
講演
午後の実験研修は5〜6名ずつ4班に分かれて行われました。
1班のイメージング技術では、梅谷啓二先生、岡田京子先生指導のもと、BL01B1のビームラインで15keVのX線を使用して、屈折コントラストにより葉、クモ、トンボの翅を観察しました。試料の位置合わせ、CCDまでの距離の変更など工夫を要する部分が多く、なかなか見られなかったトンボの翅が鮮明な像として精細に見られたときには参加者一同感動の声を上げました。
2班の結晶構造解析では、池田 直先生の指導で、BL02B1のビームラインを使って、結晶にX線を当てて得られる回折像をもとに結晶構造を推測する実験を体験しました。結晶構造は教科書で当たり前のように取り扱っている内容ですが、実際に体験することはあまりありませんでした。回折像から結晶構造を探る部分はコンピュータで自動化されてその原理の詳しいことまでは理解できませんでしたが、それに関連した、結晶構造をシミュレーションするコンピュータソフトウェアに触れることができ、高校でも利用できそうに思えました。
3班のタンパク質結晶構造では、三浦圭子先生の指導で、観察するためのタンパク質結晶の作成、放射光による測定、回折データの計算処理を行いました。操作の過程でタンパク質の結晶を一個すくうことをやりましたが、大変楽しめました。また、多くのX線回折データから電子密度分布を立体的に構築し、これに対応したアミノ酸データをはめこんでいき、コンピュータ画面上でチェックする作業もできました。タンパク質3次元構造データベースのホームページからのダウンロードの方法は、早速試せるものでした。
4班では、水牧仁一朗先生の指導で、BL39XUを使って、蛍光X線分析実験を行いました。K殻中の電子がエネルギーの不連続帯から連続帯へと打ち上げられ、その結果、空いた軌道に電子が落ちてくるときに放出される特性X線を測定することにより試料中の元素の測定・検出が行われることが分かりました。このときに必要とされる高輝度のX線がこの施設を用いれば利用でき、含有量の少ないものでも検出可能と聞いて、毒物カレー事件のヒ素特定に大きな成果を上げられたことを実感できました。この技術が、考古学の分野でも活躍すると聞いて、私たちがここでの経験を授業の中で話すことで、生徒の中にこれを利用する新しいアイデアを思いつくものが出てきてくれればよいと思いました。
1班研修風景
2班研修風景
3班研修風景
4班研修風景
おわりに
今回の研修では研究者の方々が最先端の施設を利用して行われている実験を間近に見ることができました。高校現場では勿論この様な実験を導入することはできませんが、次の時代を担う高校生たちに私たちが見て、体験して、感動したことを伝えることで少しでも科学技術に興味を持つ生徒が増え、その中から今日お世話になった研究者の方たちと同じ道を歩む者が一人でも多く出てきてくれることを期待します。
飯泉常務理事、広報部の皆さんや、研究者の皆さんにはお忙しいところ大変お世話になりましたが、アンケートに見るように参加者は大変有意義に感じています。また、私たちがこの研修で得たことは日々の授業の中で必ず還元できるものと信じています。今後もこの様な機会が与えられることを願っております。
アンケート結果(感想は抜粋して掲載しています)
1.講義時間について
① ちょうどよい 15名
② 長い 0名
③ 短い 6名
・非常にわかりやすかった。
・大学の講義を聞いているような感じで、幅広く内容を知ることができてよかった。私自身が、忘れてしまっている用語などが多かったため、もっと勉強をしなくてはならないと感じた。
・全体の日程からやむを得ない時間設定であったと思いますが、もう少し時間をとってゆっくり説明して頂いたらよかったと思います。
・かなり幅広い説明をしていただき、全体のイメージを持つことができた。
・ビデオが簡潔にまとめられ、わかりやすかったと思います。
・地盤の伸び縮み、潮汐、またふつうのX線源ではボケてしまう話等、いろいろな話、ありがとうございました。高校生に伝えます。
2.見学時間について
① ちょうどよい 10名
② 長い 0名
③ 短い 11名
・もう少し色々な所も見学し、話を聞きたかった。
・はじめて、リングの中に入りました。思った以上に広く、研究しやすそうな設備だなと思いながら見学させていただきました。
3.実習時間について
① ちょうどよい 13名
② 長い 3名
③ 短い 5名
・大変熱心に、丁寧に教えていただいてありがとうございました。
・とてもわかりやすい説明でした。
・じっくりさせていただき、よかったのですが、もっとやりたいと思いました。
4.実習内容について
・屈折率の差の利用で資料からカメラを離すとくっきり見えることを体験できたのがよかった。
・コンピュータによる処理の概略だけでも見ることができ、授業で使うための具体的方法まで解説してもらい大変よかった。
・ほとんどがコンピュータによって解析が行われているので回折像から立体構造がどうつなげられていくかがよくわからなかったが、3Dで結晶構造が見られるのには驚いた。
・実験してみて、本当に良かったです。
・もっと時間をかけて行いたかった。他の分野(実習)も、ビデオだけでも過程を見せていただきたかった。
・元素の分析が簡単にできるようになったことに感動しました。
5.意見交換会の時間について
① ちょうどよい 18名
② 長い 1名
③ 短い 2名
・研究者の方も交えて、話が深められてよかった。
・ちょうど良かったと思います。
6.意見交換会の内容について
① 満足 8名
② やや満足 7名
③ ふつう 5名
④ やや不満 1名
⑤ 不満 0名
・他のグループの内容についても少し聞くことができたのはよかった。
・行わなかった実験については説明だけ聞いたのですが、なんとなく分かりました。素朴な疑問もあり、ホームページの紹介、ソフトウェアの紹介など、興味をもって聞くことができた。
・建設的な意見が多くあり、これからの学校での指導に生かしていきたいと考えています。
・よかったです。(他の人の意見を聞けたので)
・他班の報告や、各指導の方がうまくわかりやすく説明して下さってよかったです。
・ようやく概容がわかってきたところで、終了というのが、やや残念でした。またの機会を期待します。
・普段では聞けない研究者の立場からの意見なども聞くことができて良かったです。
・もっといろいろな事を聞きたかったが、対面になってしまって聞きにくいところがあった。研究者の方も入って、雑談会的になればと思います。
意見交換会
7.その他の意見
・この成果を生徒にフィードバックしたいと思います。
・先生をやっていると、最先端の研究にふれることが少ないので、本日は、非常にためになりました。今後、授業などでも話していきたいです。また、このような研修会があれば出席したいです。
・もっといろいろな所で実験したかったです。
・貴重な体験の機会を与えて下さり、有難うございました。
参加者
研修会参加者